Be My Padawan 9 ― パダワン獲得作戦 ― 

 オビ=ワンはぼんやりと目を開けた。後頭部がひどくズキズキする。手をあてると痛みが走り、はれているのがわかった。掌にうっすらと血が滲んだ。見渡すと、天上の低い細長い部屋にいるのがわかった。ずらりと粗末な寝台が並んでいる。が、周りに人影はなかった。

 はっとしてベルトを探るとライトセーバーは無論、コムリンクも無くなっていた。
ついで、首を何か取り巻いているのに気付いた。かすかな電子音を響かせた金属の細い輪がはめられていた。

 起き上がると、再び鋭い痛みが襲う。オビ=ワンは背を丸めて息を吐いた。ゆっくりと呼吸しながら、心を静め、テンプルで学んだように痛みを受け入れるよう努めた。

 クワイ=ガンも言っていた。――痛みを身体に取り込むんだ。そしてフォースを呼寄せて癒しを施す――。しばらくそうしていると、痛みが引いていった。ゆっくり立ち上がると、高い小さな窓に寄って、外を覗き、眼に入った光景に息を呑んだ。

 外には、灰色の空の下にどこまでも濃い色をした大海原が続いていた。他には何も見えなかった。
「気が付いたか。新入り?」
突然、太い男の声がして、数名がどやどやと部屋の中に入ってきた。

 男たちは鉱夫だった。
オビ=ワンは彼らの話からここがオフワールドの海底鉱山だと知った。
男たちは雑多な人種で、ここに来た事情もさまざまだった。が、皆首にオビ=ワンと同じリングをはめていた。

「さからったり、逃げたりしたら、これが爆発して首が飛ぶってわけさ。契約の5年間が終わるまではな」
「僕は、契約したんじゃない。殴られて、知らない間につれてこられたんだ」
男たちは一斉に笑った。
「大方は皆似たようなもんだ。ここに来たからには言われたとおりやるしかない。最も5年働いて出ていった者は一人もいないがね」


 翌日からオビ=ワンは男たちと共に海底の地下鉱山で働いた。否も応も無い。朝起こされると粗末な食事を配られ、傷の痛みで食欲のない口に何とか押し込む。鉱夫用スーツを渡され、凶暴なインバット族の監視員に促されながら一列になって、海底にある坑道に降りた。

 きつい労働の合間に少しでも気を抜けば、冷酷な監視員の電撃棒が容赦なくおそった。その鉱夫ばかりでなく、辺りの者も打たれる。オビ=ワンはもうろうとする意識を必死に集中させて手足を動かした。

長い一日を終え、オビ=ワンはベッドで、何とかフォースを使って首の電子カラーの作動を無効にできないか試みた。が、傷が治らず、労働で消耗した体ではいくら力を振り絞っても無駄だった。

電子カラーの操作は、ここの監視員でなく本土で作動させると言う。カラーの爆破を防げさえすれば、何とかここから脱出する手立てを見つけられるかもしれない。未だかつて、脱出できたものはいないと聞いた。けれど、オビ=ワンはあきらめる気はなかった。いまは何の希望がなくても、決して希みは捨てない。僕はジェダイだ。いつ、どんなときでも。

 次の晩、いちるの望みを託してフォースでクワイ=ガンを感じられないかとやってみたが無駄に終わった。海底鉱山は本土から遠く、オビ=ワンの体力も落ちていた。クワイ=ガンは僕がいなくなったことを知っているだろうか。知ったとしても僕が海底鉱山にいることなどわからないだろう。助けを求めることもできない。

二人で共に戦ったことはほんの数日前なのに、ずいぶんと前のような気がする。誰に助けを求めることもできない今は、とにかく自力で生きのびなければならなかった。

 

 クワイ=ガンは農場で急遽手配してくれた高速の水上艇でオフワールドの海底鉱山へ向かっていた。いや、メーターが振り切れんばかりのぎりぎりのスピードで走らせていた。オビ=ワンが行方不明になってから数日たっている。

 海底鉱山の巨大なプラットホームは、ナビ座標の数値さえ合わせれば、他に何もない広い海原の中でも確実に乗物が運んでくれる。但し、どんなに急いでも半日はかかる。

クワイ=ガンは歯噛みする思いで日が暮れた海面に目をやった。
オビ=ワンにあの時ザナトスへの警告を告げていれば。せめて、不審な場所にはもう近づかないよう注意していれば。

 元弟子のザナトスは、目的の為にはいくらでも冷酷になれることを元の師のクワイ=ガンは覚えていた。

 私を苦しめる為だけに、何の罪も無いオビ=ワンを浚ったんだ。私のせいだ。
あの澄んだ瞳の少年が鉱山でどんな目に合わされているか、考えるだけで新たな怒りがこみあげそうになる。
怒りは、ジェダイには忌むべきものだ。

 クワイ=ガンは無理やりに怒りを鎮めようと試み、こんどの任務のことを考えた。ザナトスがオビ=ワンを浚って行ったのは、私への復讐もあるが、農場での不審な事を見つかりそうになったたせいもあるだろう。あれは何かこの星で企んでいる。そして他のことに目を向けさせ、私の注意をそらそうとしている。それはいったい――。

 それならば、少なくともオビ=ワンを生かしておくはずだ。一刻も早くあの子の無事な姿をみたい。この手で救い出したい。

 目の前には相変わらず暗い夜の海が続く。少なくともあと数時間、夜が明けるまで着くことはない。だが、クワイ=ガンは眠れそうもなかった。



 夜になると監視員の目も緩む。たいていの鉱夫たちは唯一の安らぎを求めて眠りにつくが、多少の息抜きを求めて、部屋から出て広い甲板に出ることが許されていた。甲板は風が強く酷く寒かったが、オビ=ワンは静かなところでフォースを集中させたかった。

 電子カラーを無効にさせようと試みた。振動音が弱くなり、もう少しで止むかと思った時、足音がした。監視員の声が響いた。
「そこで何をしてる」
振り絞ったフォースがとぎれ、オビ=ワンは力が抜けて床にうずくまった。
「立て!」
オビ=ワンはのろのろと立ち上がった。
「新入りだな。とっとと部屋へ戻れ」
電撃棒を振りたててどなる。

 オビ=ワンは足を引きずるようにして歩き出した。部屋へいく階段へ行こうとすると又もや声が飛ぶ。
「どこへ行く。お前の部屋はあっちだ」
オビ=ワンは立ち止まった。

 確かに方向を違えたようだ。短い階段の先には荷物を積んだ広いスペースがひろがっていた。向きを変えようとしたオビ=ワンの目にちらりと黒い箱が映った。

――あの箱は。
オビ=ワンは驚きを面に出さないように注意しながら振り向いた。
「慣れなくて、間違えたんだ」
監視員が怒鳴る。
「あっちだ。さっさと戻れ!」
監視員の前をゆっくりと通り過ぎながら、オビ=ワンはフォースを集中した。
 

 今の状態では充分なフォースを集められないが、インバットの単純な知能に賭けてみた。
「備品を点検したほうがいいんじゃないか?」
監視員は少年を見た。猛々しい顔が驚いたようにオビ=ワンを見る。
「――そう、だな。備品を点検したほうがいいかもしれない」
監視員は間の抜けた声で言うと、オビ=ワンに背を向けて歩き出した。

 オビ=ワンは音を立てずにそっと監視員の後から付いて行った。インバットの監視員は荷物の間に立ち、特に何も調べる風でもなくのろのろと荷物の間を行き来した。オビ=ワンは注意深く身を屈めて黒い箱に近づいた。やはり、農場と見た物と同じ形だった。OとCのマークが付いていた。

「おい、何かあったのか?」
ふいに、入口から声が飛んだ。もう一人のさらに身体の大きいインバットの監視員が入り口から中を覗き込んでいる。
「ああ、点検だ」
「点検?」
身体を揺らしながら入って来た大きいインバットは細い少年に目を止めた。

「何だ、お前は」
「慣れなくて、部屋を間違えた。今戻るところだ」
「お前、新入りだな」
大きいインバットはオビ=ワンをじろじろと眺めた。
「新入りのチビ。確かこの前、上からの指示が――」
「点検は終わった。お前、さっさと戻れ」
先の監視員が我に返ったような声で、どなった。
オビ=ワンは言われるまでもなく、身を翻して倉庫を出、部屋に戻った。
 


 次の日の朝、オビ=ワンは何か不思議な胸騒ぎを感じて目覚めた。部屋は明るんでいたが、起きるにはまだ早かった。

 何かある。それが良いことか悪いことかわからないが。オビ=ワン寝台で横たわったまま、しばしフォースを集中しようと努めた。が、それ以上のことは何も感じ取ることは出来なかった。眠っている周りに注意しながら起き上がり、そっと窓辺へ寄って外を見た。銀色に光る海原が見えた。おだやかな海、がその他には何も変わったことはない。

 突然、ガチャガチャと扉の鍵をはずす音がした。オビ=ワンが振り向くと、昨晩の二人の監視員がドアを開けて入って来た。大きいインバットは窓辺にいるオビ=ワンを見て、いやな顔でニタリと笑った。

「逃げようとしていたな。チビ」
オビ=ワンは驚いた顔で振り向き、監視員を見上げながら、手で電子カラーを示した。
「出来るわけ無い」
「そうだな。だが、お前はチビでも中々油断がならないから気をつけろと、上から言われてるんだ」
「誰からだって?」
「喧しい。とにかく、逃がさないでおけと言われた」
監視員はニタニタと笑っている。

「殺しはせずに、せいぜい痛めつけて逃げ出せないようにしろとな。外へ出ろ」
電撃棒をオビ=ワンに向けた。
監視員の大声に周りの鉱夫達も次々と目を覚まし、起き上がった。

「何だ。新入りが何をしたんだ?」
「逃げようとした」
「僕は何もしてない」
オビ=ワンは大声で主張した。
「嘘つきめ。さっさと出ろ」
「起き抜けでこの子が何もできるわけなかろう」
「黙れ」
「怪我も治ってない子供に何をするんだ」
「庇い立てするのか、お前らも同じ目にあいたいか」
監視員が居丈高にどなる。

 廻りでオビ=ワンとインバットを取り巻いていた鉱夫達に緊張が走る。
オビ=ワンは一瞬周りに視線を走らせ、一歩進み出た。
「外に出る」
「オビ=ワン!」
「大丈夫だ。どうやら、殺されるわけじゃなさそうだ」
「ものわかりのいいガキだ」
インバットがうれしそうに電撃棒でオビ=ワンをこづいた。
腕にさすような痛みが走った。
オビ=ワンは片手へそこを押さえ、逃げるように部屋の外へ出た。



続く
                                                           

  虐げられ追い詰められるオビ。マスター間に合うか!

TOPへ 8へ 10へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送