Be My Padawan 8 | ― パダワン獲得作戦 ― | ||
「宿舎も、ドームの中も、実験施設も、倉庫まで、行きそうな所は皆探しました。農場の外へ出たとも思えないのです。出入りはすべて警備員がチェックしてます」 「最近、オフワールドの者が出入りしていないか?」 クワイ=ガンの問いに農場の係りが驚いた声をあげる。 「オフワールド!?そういえば、無償で工具を提供してくれるといって運んできてますが」 「いつだ」 「それは――、警備に聞けばわかと思います。それが、オビ=ワンがいないことに関係があるのですか」 係りの声は困惑しきっていた。 「可能性はある。すぐに調べてくれ」 「わかりました」 ホームプラネット鉱産を通じてザナトスの行動をたずねると、ここから程近い郊外のオフワールドの鉱山に視察に行っていると告げられた。クワイ=ガンは日中の操業が終わるまで鉱山事務所の建物の近くで待った。夜になり、人影もなくなった。しかし、クワイ=ガンにはザナトスが近くにいることがわかった、おそらく向こうも同じ事を感じている。 やがて、建物の正面の扉が空いて、ローブを被った人影が出てきた。あたりはほとんど照明がなく、顔も見えない。が、クワイ=ガンはためらいもせず、行く手に進み出た。ザナトスは立ち止まり、目の前の背の高い男の顔を見た。その顔には驚いた様子は見られなかった。たとえ内心動揺していたとしても、ザナトスは自分が不利になるのを防ぐ為、巧みに平静を装うすべを身につけていた。 「お前がバンドメアで何を企んでいるかしらんが、私の任務はここを平和で豊かにする手助けをすることだ」 クワイ=ガンはゆっくりと言った。 「その為に、お前のプランを阻止することになっても」 「私を脅すつもりですか。クワイ=ガン?」 「やましい事がなければ、そう取ることはなかろう」 ザナトスは返事をせずに元の師をにらんだ。右手が無意識に腰のベルトに伸び、ローブにかくされたライトセーバーの柄に触れたのをクワイ=ガンは見逃さなかった。 ザナトスはクワイ=ガンの射すような視線を感じて言った。 「そう、これはテンプルにいるときから使っているものですよ」 「お前にそれを持つ資格はない」 「これの使い方はあなたに教えられたんですよ。クワイ=ガン。私が同年代で一番使えたのは努力したからなのに、何故手放す必要がありますか」 「それはジェダイでなければ持つ事を許されない。恥を知れ」 冷静を装っていた青年の白い頬にサッと赤みがさした。セーバーをベルトから外し柄を握った。 「……あいかわらず、厳しい事をおっしゃる。もっとも、あなたはいつも訓練には容赦がなかった。おかげて誰よりも強くなれましたがね」 ザナトスはセーバーの柄を手首で軽く回すようにしながら、それでも油断なくクワイ=ガンの顔をうかがっている。 「オフ=ワールドはお前のものか?」 クワイ=ガンは確信を突いた。 「会社のひとつぐらいお安いもんです。いくつかの惑星を手にすることに比べたらね」 「その野心を持った時にお前はジェダイたる資格を失った」 「ジェダイは自分の意志でテンプルを去ることができるはずでしたね」 クワイ=ガンは肯いた。 「テロスに行くまでの10年は、何をするにも常にあなたと一緒だった。信頼し合っていた……」 素っ気なかったザナトスの声音が変わる。クワイ=ガンを見る眼差しが和らぎ、ふと遠くを見る。師弟として過ごした年月は互いに忘れ去るには長く、あまりにも大き過ぎた。 「――私達はいい関係でしたね。クワイ=ガン。師弟よりもっと親密な――友人になった。あの時まではね」 「テロスに派遣したのはヨーダの考えだった」 「ヨーダ!」 それまでの懐かしさを呼び覚まそうとするような口調は一変し、青年が声を荒げた。 「あのもったいぶった小人が。自分は何でも見通してると思いこんでる。ヨーダだけじゃない。テンプルの誰も権力を手にすれば何が出来るかこれっぱっちも知っちゃいない!」 「ジェダイには不要なものだ。それを見抜けなかったのは私の失敗だった」 クワイ=ガンは低い声で搾り出すように言った。 「ハッ!」 ザナトスがいかにも愉快そうに声を出した。が、その口元が歪む。 「初めて聞きましたよ。偉大なるマスター・クワイ=ガン。あなたが間違いを認めるなんてね。だったら、何であの時、私が父の元へいくのを許してくれなかった?」 「お前がジェダイでなくなったら、ダークサイドへ落ちるか、犯罪者になる。私はそれを阻止せねばならなかった」 「ご立派な事だ」 「テロスを逃れた後、お前はその通りになった。私に復讐する機会を狙っていたようだが、ここでお前がしたことは見え透いていたな」 「お見通しですか。が、あなたのもち札はなんですか。私に比べるとね」 「この惑星を好きにはさせない」 「力を持った者が好きにできるのですよ」 ザナトスは青い目をぎらつかせ、ライトセーバーを起動させた。禍々しい赤い光が閃き、ザナトスの身体が高く宙に飛び、鋭い刃がクワイ=ガン目がけて振り落とされた。 唸りを発する二本のライトセーバーがぶつかって火花を散らした。互いの腕の衝撃を通じて相手の力がわかる。クワイ=ガンはザナトスの力量もフォースもかつてと少しも衰えていない、いやそれどころか増していることが感じられた。 師匠ゆずりの優雅ともいえるそれでいて容赦のない鋭い剣さばきで、ザナトスはかつての師に切りつけてくる。互いに手の打ちはわかっている。このまま防ぎ続けて相手を疲れさせると言うジェダイの常套手段は使えない。 クワイ=ガンはザナトスをとりまくフォースを感じた。が、それだけはテンプルで学んだかつてのものではなく、ダークサイドからパワーを集めたジェダイとは相容れない闇の力だった。 ――これまでだ。クワイ=ガン稲妻のような赤い光をかわし、後ろに飛びのいた。ザナトスが余裕ありげに口元を緩めた。次の瞬間、クワイ=ガンは猛然と反撃を開始した。緑のライトセーバーが唸りを上げて次々に繰り出される。今度はザナトスが守りにまわる番だった。口を引き結び、白い頬には赤みがさす。 重い刃を受け、青年の身体がよろめく。が、すぐにバランスを戻し、後ろに飛び退って体勢を立て直した。眼はクワイ=ガンを睨みながら荒い息をつく。 「お前の弱点はフットワークだったな」 クワイ=ガンはライトセーバーを構えたまま、ザナトスを見据えて冷然と言い切った。 ザナトスの顔が歪む。ライトセーバーを握った右手を下におろした。が、すぐに上に向き直ったその顔は再び自身に満ちた表情を取り戻していた。手を上げて黒いケープを後ろにはね上げた。左手に2本目のライトセーバが握られていた。 「あなたがパダワンにしたがっている子供はどこにいる。クワイ=ガン?」 クワイ=ガンの表情が凍りつく。見間違うはずもない。それはオビ=ワンのライトセーバーだった。虚をつかれたクワイ=ガンに、再びザナトスが2本のライトセーバーで切りつけた。 ザナトスの攻撃は巧妙だった。フェイントをかけ、方向を変える。飛び退ると見せかけて横に飛ぶ。が、クワイ=ガンにはその攻撃は余裕がないとわかった。ザナトスが跳躍して飛び込んできたとき、後ろに引くと見せかけて、右に身体をひねった。かわされてザナトスの身体が前かがみになる。その一瞬にクワイ=ガンは肘でザナトスの左手を打ち、緩んだ手からオビ=ワンのライトセーバーをもぎ取った。 次の瞬間、クワイ=ガンはザナトスに背をむけ全力でスピーダーに向け走り出した。戦いの最中に敵に背を向けたのは、クワイ=ガンの生涯でかつてなかったことだった。 その背にザナトスの声が響く。 「臆病者、マスター・クワイ=ガン。逃げられると思ってるのか」 「いずれ相手をしてやるさ」 クワイ=ガンも叫び返した。 「今だけだ!クワイ=ガン、今だけ……」 勝ち誇ったザナトスの笑い声は、次第にうつろになっていった。 クワイ=ガンはスピーダーを飛ばして農場に着いた。 連絡を受けた農場の係りが数名の警備員を伴なって現れた。 「最近、オフワールドの者が資材を運んできました。出入りの人数は同じでした」 「いつもこんな夜中にやってくるのか」 警備員達は落ち着かない様子になった。 「昼の仕事が終わってからくるんで遅くなると言ってました」 クワイ=ガンは鋭い眼でその表情をうかがいながら質問する。 「帰りに品物を持っていなかったか」 「そういえば何か取り替えたといって荷物を持っていきました」 「大きさは?」 「そんなに大きくなくて」 これくらい、と一人の警備員が曖昧に手を広げた。 「暗くてよく見えませんでした」 「オフワールドの者はどんな服装をしていた」 「黒いケープを着ていたので、よくわかりません」 「――その男は、君達に何か心づけをしてくれたんじゃないかね?」 警備員達の顔色が変わる。 「いや、夜中にくるんだから気と使っただろうと思ってね」 クワイ=ガンはさりげなくライトセーバーに手を掛けた。 「君達の仕事ぶりをとやかく言うつもりはない。が、テンプルから派遣された者が行方不明とあっては、どんな些細なことも見逃せないんだ」 「――か、かれらは荷物といってましたが、黒い袋に入った物は人間のような形でした」 「その他は」 「ケープの男が港に向かえと命令してました」 「港だって?」 「オフワールドのオフィスは港の近くにあります」 あのう、と一人の警備員がおずおずと話し出した。 「ケープの男が荷物に話し掛けているみたいに言ったんです。無事でいたら5年後に会おうって……」 「海底鉱山だ!」 農場の係員が大声を出した。 続く ザナトスはまだクワイ=ガンに未練が。――でもマスターの気持ちはすっかりオビに、生涯で初めて敵に背を向むけるほど執心。 |
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