Be My Padawan 10 ― パダワン獲得作戦 ― 
 
 明るくなったとはいえ、外の広々としたプラットフォームは早朝の冷気が立ち込めていた。走ると息が白い。オビ=ワンは追い立てられるように走った。

 広いプラットフォームは身を隠すような物もほとんどなかった。それでもオビ=ワンは本能に急かされ、何とか逃れようと端まで走った。インバットがいやな笑いを浮かべながら急ぐでもなく追って来る。端まで行けば後は海だ。どこにも逃げ場はない。

 オビ=ワンの近くまできたインバットが電撃棒を少年の足めがけて振り下ろした。オビ=ワンはとっさに身を屈め、脇へ跳躍して逃れた。インバットは次々と棒を振り下ろすが、其のたびにオビ=ワンは横へ、後ろへ、間一髪でかわした。インバットの顔にあせりが見え、次第に真剣味を帯びてくる。

やがて辛うじてかわしていたオビ=ワンは、徐々に縁まで追い詰められていった。
 

 明るくなった海面をクワイ=ガンの水上艇は限界速度いっぱいで走っていた。はじめは遠くに黒いシミのように見えた物が、近づくにつれ、海中にそびえ立つ巨大な建造物だとわかった。クワイ=ガンはスコープを取り上げてその建物の表面に目をやった。

 と、その時、広いプラットフォームの表面に動く数個の影が見えた。それがはっきりするにつれて、大きなインバットが小さい人間を棒で追いながら、端に追い詰めているとわかった。

もしや!クワイ=ガンの背に冷たいものが走る。急いで目を凝らす。顔ははっきり見えないが、姿形から紛れもなく、それは自分が探している少年、オビ=ワンだった。


 何とかかわしていたオビ=ワンは、ついに縁に立っていた。あと一歩下がれば、海中からはるか高くそびえたつ建物から投げ出され、奈落のような海原に転落していく。人間の身体は落下の速度で海面に叩きつけられ、まず命は無い。


 もし、オビ=ワンをこんな形で失うことになったら、巻き込んでしまった自分自身を決して許すことは出来ない!高倍率のスコープでオビ=ワン達の動きは見えるのに、水上艇はまだ着かない。クワイ=ガンは奥歯をかみ締めた。間に合ってくれ。
 

 オビ=ワンにはもう後は無かった。始めはただ痛めつけようと思っていたインバットも思わぬ少年の動きに、次第に本気に凶暴になっていた。

 殺さぬようにと言われていたことなど、とうに頭にはない。この生意気なガキを海へ放り出してやる。電撃棒を振り上げ、オビ=ワンの胸に狙いをつける。

 オビ=ワンは面を上げ、正面を見据えた。その顔に恐れは無い。覚悟を決めた決意が浮かんでいた。――最後までジェダイらしく――。そのとき、自分を呼ぶ声を聞いた。いや圧倒的なフォースの呼びかけを感じた。

 クワイ=ガンは、次第に近づいてくるプラットフォームの人影を凝視しながら、深く呼吸しこれまでにないほど己の精神を集中させ、フォースを呼寄せた。持てる力すべてを込め、オビ=ワンを呼ぶ。
オビ=ワン、私だ。お前を助けに来た!
 

 クワイ=ガン!少年の目が大きく見開かれ、頭をめぐらして空を見上げた。海上の彼方に小さな機体の姿が見えた。微かに響くエンジン音も耳に飛び込んできた。

 突然変化したオビ=ワンの様子に、インバットや遠くで様子を見ていた鉱夫達にも、それはわかった。
インバットは近づく者の正体はわからないが、少年を葬る邪魔が入ったと察知した。そうはさせない!海へ落とすか、身体を貫くか、どうでもこのガキを殺してやる。電撃棒を高く構え、オビ=ワン目がけて投げた。

 が、武器が胸を貫く前に、少年は床を蹴って跳躍し、空中に飛び出していた。
オビ=ワン、フォースを集めるんだ!クワイ=ガンの指示が頭に聞こえる。オビ=ワンは海面を見て落下しながら、これまでにない感覚、強いフォースが自分の回りを取り巻いているのを感じた。

 オビ=ワン!クワイ=ガンは強く念じてフォースで少年の名を呼んだ。私は、ここだ。
オビ=ワンの明るいブルーグレーの瞳が大きく見開かれた。
ついで、はるか下方にクワイ=ガンの姿を認めて顔が輝く。

 フォースを集めろ。クワイ=ガンは可能な限りのフォースをオビ=ワンに向けて注いだ。オビ=ワンは視線を逸らさずにクワイ=ガンを見ていた。


 オビ=ワンの細い身体がスローモーションのように落下してくる。
が、生身の身体は次第に加速がつき速さが増してくる。一瞬でもタイミングがずれれば、落ちてくる身体はすり抜けてしまう。

 必ず、お前を助ける。この腕で。クワイ=ガンは両手を伸ばし、待ち受けたオビ=ワンの身体をしっかりと胸に受け止めた。衝撃は互いのフォースの力によってずいぶんと和らげられた。

 オビ=ワンが縋るように大きな男の首に腕を回してしがみついた。クワイ=ガンも又オビ=ワンの背を両手で逃さないように抱きしめた。

「クワイ=ガン!クワイ=ガン!」
オビ=ワンは咽につかえたような声でやっとそれだけ言った。



 話している暇は無かった。クワイ=ガンはオビ=ワンの身体を注意を払いながら素早く脇へ降ろし、フォースも使って停止させていた機体のエンジンに手を掛けた。既に、甲板の縁から覗きこんでいたインバットはブラスターを構えていた。
「しっかりつかまれ!」

 クワイ=ガンは機体を急発進させた。オビ=ワンは反射的に身体を低くし、大きなクワイ=ガンの胴に両手を回してしがみ付いた。水上艇は轟音を響かせて飛び出した。巨大な海底鉱山の建造物は見る見る遠ざかっていった。

 振り返ること無く、全速力で走らせ、レーダーで近づく物体はないか暫く探る。追っ手はなかった。クワイ=ガンは徐々に速度を落とし、やがて出来るだけ揺れの少ない安定操行に移した。

 再度レーダーを確かめ、何の影も無い事を確かめ、初めてオビ=ワンを振り返った。
「怪我は無いか?」
オビ=ワンは唾を飲み込み、黙って頷いた。

 クワイ=ガンは両手で、オビ=ワンの全身の様子を慎重に探った。浚われた時の後頭部の傷はまだ治っていなかった。それ以外に大きな怪我や傷はなかったが、身体中に痣やかすり傷がある。
クワイ=ガンはオビ=ワンの首にはめられた電子カラーに触れ、眉をひそめた。
「これは、逃亡防止の爆弾だな」
オビ=ワンは肯いた。
「操作は、陸の本部でするそうです」

 それを聞いたクワイ=ガンがいっそう厳しい表情になった。両手で少年の細い首ごと電子カラーを包み込むようにし、意識を集中してフォースを送る。間も無く、絶えず微かに響いていた電子音と振動が止んだ。

「止まり、ました」
オビ=ワンが安堵の息を吐く。
「完全に止めたわけではない。ニュートラルにして、遠隔操作されても機能が働かないようにした。大丈夫とは思うが、はずすまで絶対安全とはいえない」

 クワイ=ガンは今度は片手をオビ=ワンの頭の傷に当てて癒しのフォースを施しながら、もう一方の手できつい労働でやつれた少年の頬をやさしく包み込んだ。
「少し痩せたな」
「どこも悪くないし、何か食べたらすぐ戻ります」

 少年は暖かい手のぬくもりを頬に感じ、くすぐったいのか、少し照れながら精いっぱい元気な声で応えた。
クワイ=ガンは機内の収納ボックスから飲料水のボトルと携帯用の食糧を取り出した。
「今はこれしかないが、もどったら何でも好きな物を食べさせてやろう」
オビ=ワンは嬉しそうに肯いた。



 陸地に着くには半日は掛かる。オビ=ワンは休むように言われ、助手席に身体を丸めて横になった。クワイ=ガンが自分のローブを取り上げ、オビ=ワンにかけた。ほっそりした少年の全身は大きなローブにすっぽりと包まれた。

 オビ=ワンは眠くはなかったが横になってそっと隣りの大きな男を見上げ、クワイ=ガンがこんな早朝に着いたのは、夜通し乗物を走らせてきっと寝ていないのだと気付いた。

「あなたも休まれたほうが……」
オビ=ワンはごく小さな声で呟いたが、クワイ=ガンは振り返ってオビ=ワンを見た。
「ああ、そうしよう。ありがとう、オビ=ワン。しばらくは自動運転で大丈夫だ」
その表情はさっきまでの険しさが薄れ、いくぶん穏やかになっていた。



 いつの間にか寝付いたオビ=ワンが目を醒ました時は、陽が高かった。顔をめぐらして辺りを見ると、運転席のシートを倒して背にもたれ、目を閉じているクワイ=ガンの姿があった。辺りの風景はあいかわらず島影も見えない海原が続いている。

 オビ=ワンはジェダイの大きなローブに包まれているのを感じて、ふとおかしさがこみ上げてきた。何て大きいんだろう。まるで、毛布だ。
「目が覚めたか?」
上から声がした。

 前もそうだったが、この人はどうして動かないのに僕の気配がわかるんだろう?
「あなたは起きてらしたんですか?」
「いや、少し眠った。気分はどうだ」
「ずっといいです」
オビ=ワンは声を張り上げようとしたが、その時、お腹が情けない音を立てた。

 とたんに恥ずかしそうにうつむく少年に、クワイ=ガンは笑いながら携帯食のビスケットを差し出した。
「あと数時間したら陸が見える。それまでこれでしのいでくれ」

オビ=ワンは黙ってビスケットをかじりながら、そっとクワイ=ガンの横顔を見上げた。海底鉱山から逃れた今、オビ=ワンはこの偉大なジェダイナイトに聞きたいことがあった。
「伺いたいことがあるのですが……」
クワイ=ガンは振り向いてオビ=ワンを見た。

「ザナトスのことか?」
オビ=ワンは頷いた。
「ザナトスは、以前私のパダワンだった」
「そう言っていました。あなたを恨んでいるとも。――何があったのですか?」

 クワイ=ガンは小さく息を吐き、片手を顎に掛けた。一瞬、過去を振り返るような眼差しが過ぎり、ついで口元が微かに歪められた。

「お前も、何故関係のない自分が巻添えを食ったか知りたいだろうな?」
オビ=ワンは一瞬ためらった後、クワイ=ガンの目を見て肯いた。
「私達はおおよそ10年の間、師弟だった。ザナトスはナイトになる寸前だった。トライアルを難なく合格し、最後の課題として故郷の惑星テロスに行った」
クワイ=ガンは静かに話し出した。



続く
                                                           

  クワイ=ガン、無事にオビ=ワンを救出!でも悪者?を倒したわけじゃなく、オビが飛び降りおりたんですね。

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