Be My Padawan 7 ― パダワン獲得作戦 ― 
 オビ=ワンは、クワイ=ガンに知らせた後もあの倉庫が気になっていた。様子を見るようにと言われ、次の日、昼間の農場ツァーを終えてまたあの倉庫へ行ってみた。すると、積荷が変わっていた。まえより少し減っていた。知らないうちに誰か出入りしているのだ。日中ドーム内は作業員がいるので人目につく。では、夜ひそかに運搬が行なわれていることになる。

 あくる日、オビ=ワンは夜の食事を終え部屋に戻った後、こっそりと宿舎を抜け出した。倉庫のドアがあった場所に近づき、フォースで中の様子を探るが何の気配もない。オビ=ワンは慎重にドアを開けて中に滑り込み、濃い色のローブを身体に巻きつけ、ローブを深く被って、奥の大きな積荷の影に身を潜めた。

 しばらくそうしていると、やがて物音もさせずにドアが開いた。黒い影が中に入ってくる。人影は中を伺い、黒い小さな箱の前で立ち止まった。
オビ=ワンは逸る鼓動を抑えながら、物影から黒い後姿をそっと見た。すると、その人物は振り返りもせずにはっきりした声でいった。

「そこにいるのはかわっている。顔をみせるんだ」
若い男の声だった。
オビ=ワンは飛び上がらんばかりに驚いたが、じっとしていた。
「隠れても無駄だ。目的は何だ?」
ごくりを唾を飲み込み、オビ=ワンは静かに立ち上がった。

 すると、黒いローブを着ていた若い男も振り返って少年を見た。
青年は子供が出てきたことに少し驚いたようだったが、すぐに口元を歪めて薄く笑った。
黒いローブを外すと、真直ぐな黒髪と青い瞳の端正な顔が表れた。
オビ=ワンもフードをよける。青年の肩ほどの身長の少年はブルーグレーの瞳で真直ぐに青年を見上げた。


 ザナトスは対峙しているオビ=ワンを上から下までまじまじと見た。
短い金褐色の髪の片側にたらされた編み下げ髪は、言うまでもなく、ジェダイテンプルで育ったことを物語る。
「ふう、ん。クワイ=ガンの新しいパダワンって君かい。おちびさん」
「僕はおちびさんじゃない。もうすぐ13だ。クワイ=ガンのパダワンじゃないし、オビ=ワン・ケノビという名前がある。それに、人に名を聞いたなら自分も名乗るものだろう」
「ああ、失礼。私はザナトス。――クワイ=ガンとは、昔の知りあいだ。パダワンじゃないなら何故いっしょに此処へ来た」
「クワイ=ガンは政府の要請で。僕はテンプルから農場に派遣されたんだ」
「じゃあ、テンプルの落ちこぼれか」
ザナトスが癖のない長い黒髪をかき上げながら、あざ笑うように言う。
ちらりと覗いた耳に金色のリングがゆれる

「マスター・ヨーダが僕が誰のパダワンになるか決めるように此処に寄越したんだ」
「どういうことだ」
「その、僕がどのナイトのパダワンになるか自分で決めるようにと」
「嘘だ!そんなこと気いたことがない」
「フォースに誓ってうそじゃない!」
ザナトスは目を細めてオビ=ワンを見た。
「クワイ=ガンもお前もパダワンにしたがっているのか?」
オビ=ワンは肯いた。

 ザナトスが口元を上げて少年を見返した。その青い目は異様な耀きを帯びてきた。
「では、忠告しとこう。君があの人のパダワンでないのは幸いだ。もし、弟子になったら君だって私と同じように裏切られて捨てられるからね」
今度はオビ=ワンが目を見開いてザナトスを見つめ返す。
「信じないのも無理はないがね。だが、テンプルで言われている事は皆嘘っぱちさ。あの人は私に嫉妬したんだ」
「嫉妬!?」
「私はナイトになる寸前だった。最後のテストに故郷テロスに行った。私の父はテロスの支配者で、反乱を鎮圧する助けを求めてきた。だがクワイ=ガンは私が父と一緒にテロスを支配して権力と富を手にするのが気に食わなかった」
「ジェダイなら当然だ」
「なるほどね。だが、クワイ=ガンは私がナイトをあきらめて父の元へ行きたいというのを許さなかった。そして、我々と戦い、私が手にするはずのものをすべて奪った」
オビ=ワンはこの男の周りに怒りと憎しみが渦巻くのを感じた。

「私は長い間厳しい修業に耐えた。あの人に認められ、信頼してくれるのが何より嬉しかった。はじめは、あの人もそれを喜んでくれた。だが、私がナイトになる力をつけると態度が変わった。よそよそしくなり、ヨーダに不安を伝えた。私は裏切られたと思った。彼はあの時、私のジェダイとしての力に嫉妬していたんだ」
「嫉妬も怒りもダークサイドへ繋がるものだ。それはむしろ、お前の事だ」
「ハッ、テンプルお得意の怒りはダークサイドへつながる、か」
ザナトスは青い目をぎらつかせてオビ=ワンを見た。

「そうさせたのはクワイ=ガンだ。あの人は私をナイトにすると約束していながら、最後には私を突き放した。私がすべてを捧げると頼んだにもかかわらず……。君には何の恨みもないんだがね。おちびさん」
言いながら、片手を挙げる仕草をした。

 突然、銃を構えた男達が二人を取り巻いた。
ザナトスが目配せすると、大きな男が後ろからオビ=ワンを捕えて両手を封じた。
「少し、楽しませてもらうよ。恨むなら、クワイ=ガンを恨んでくれ」
後頭部に鈍い痛みが走った。殴られたと思ったのを最後に、オビ=ワンは意識を失った。



 クワイ=ガンは坑道の視察を終えて地上に戻ってきた。復興した元の坑道よりもっと深い地下で見つかったイオナイトの採掘場も案内された。案内した管理者は、今大急ぎで、しかし極秘にイオナイトを採掘する準備していると顔を輝かせて話した。

 途中、倉庫の工具の脇で黒い小さな箱を見つけた。OとCを組合わせた金属の留め金が付いていた。リングと割れたリング。それはクワイ=ガンにザナトスを思い出させた。が、今直接顔を合わせて話すのが得策とは思えなかった。しかし相手の情報を得るのに手をこまねいてもいられない。

 オフワールドのオフィスに連絡すると、ザナトスは不在だった。オフワールドのオフィスは公邸のある首都バンドールから離れた港町にあった。オフワールドはこの惑星にいくつか鉱山があり、大規模な海底鉱山もあった。そこから採掘された物を運ぶのに、港のほうが都合がいいのか、オフィスもそこに構えていた。

 オフワールドのビルは何の飾り気もない箱型をしていた。わずかに正面に会社のロゴが掲げられている。
クワイ=ガンが中に入って行くと、大きなハット族の警備員が行く手をふさいだ。居丈高に何のようだと吼える。
「私はクワイ=ガン。ザナトスに会いたい」
「ザナトス様はいない。とっとと失せろ」
ハットはブラスターを持ち上げて脅した。
クワイ=ガンは落ち着いて片手を上げ軽くふった。ハットの顔を見ながらゆっくりと言う。
「では、私は彼のプライベートオフィスで待ったほうが良さそうだな」
「……お前は、彼のプライベートオフィスで待ったほうが良いだろう」
ハットは専用のリフトを示した。

 ザナトスのプライベートオフィスはそのフロア全体を占めていた。リフトを出るとがらんとした部屋が広がっていた。人の気配はない。テーブルといくつかの椅子。その奥に壁を背にした大きなデスク。その白っぽい艶のある壁は何か不自然だった。クワイ=ガンはオビ=ワンから聞いた事を思い出した。

 近寄ってフォースを集め手を触れると、壁は一瞬にして透明になり、内部に家具のある部屋、もう一つの真のプライベートオフィスが見えた。
ザナトスの故郷テロスは科学が発達した豊かな惑星だった。その発明をここに持ち込んだのだろう。いかにも用心深いザナトスらしい。

 壁に付いていたドアを開けて入ると壁は再び白に戻った。黒いデスクの上のデータパッドを操作し、オフワールドの概要を要求する。
会社の規模、役員、社歴。クワイ=ガンの知っているコルサントの事業家も役員に名を連ねている。が、いくら詳細に調べてもザナトスの名はどこにも見当たらなかった。

 帰り道、スピーダ―を運転しながらクワイ=ガンは考えを巡らした。はっきりとした証拠は何も得られなかった。が、何か釈然としない。
オフワールドコーポレーショングループはかなり前からある企業だが、こんなに規模が大きくなったのは最近だ。それに伴ない利益を上げる為に手段を選ばないという噂もたち始めた。役員は多くの惑星にちらばっているが、誰がオーナーかは伏せられていた。役員にはテロス出身者も何人かいた。

 ふいに、クワイ=ガンにある考えが閃いた。ザナトスがテロスを去ってからオフワールドに入ったとしたら。悪どい手で利益を上げ、自分はオーナーに納まりそれを隠す。グループは多くの惑星に情報網を持つ。自分の動向も探られていたとしたら。まれにコルサントのテンプルに戻ったことも。――すべてはザナトスにしくまれたことか。だが、確証はなかった。



 ヨーダのホログラムが目の前に現れた。
クワイ=ガンは公邸の一室でテンプルのヨーダに連絡を入れ、話していた。
「ザナトスが、バンドメアのオフワールド鉱山の代表として現れた」
これまでの経緯を話す。

「で、お前はどう考えているのじゃ」
「これまでのやり方を改め、資金も提供するというのは信用できない。これは他のメンバーも同じだ。ただ、あくまでそういうなら、正式な契約を結ぶと言う手もあるが、慎重にやる必要がある」
「そうじゃな」
「それに、オビ=ワンからの報告では、農場にオフワールドのマークがついた得体の知れない品が置かれていたそうだ。オフワールドは農場には関与していないはずだ」
「オビ=ワンは農場でどうしておるかの」
「元気そうだ。農場の視察をしながらあちこち動き回っているらしい」
「あれは好奇心が強い。新しいものには何でも興味を示す。それが、いかにも楽しそうにな。手元におかぬと止めても無駄じゃよ」

 クワイ=ガンは溜息をついた。
「わかっている」
「お前はどうして農場にやったのじゃ。まだパダワンにしておらんかったのか」
わかってるくせに、とクワイ=ガンは内心で毒づいた。
「農場にやるのはあなたが決めたことだ。それにザナトスが関与している鉱山より、あちらは危険がない」
ふーむとヨーダを耳をひくひくと動かした。
「オビ=ワンにはザナトスの事は話してないのか」
「必要ないだろう」
「だが、連絡してきたからにはお前の役に立ちたいと思っているのじゃろう。それなら何故きちんと教えてやらん」
「私とザナトスのことをあの子に教えて何になる。私にとっても、テンプルにとっても汚点に違いない事だ」

 ヨーダはゆっくりと首を振った。
「クワイ=ガン、師弟の絆は信頼のもとに築かれるものじゃ。真実を知らせねばならん。お前がオビ=ワンを真にパダワンに望むならの」
「ヨーダ」
「師弟なら互いに信頼し協力して解決するものじゃ。お前に今さらいうまでもなかろうがな」
ふいにヨーダの姿は消えた。
最後の言葉は痛烈な皮肉だった。

 クワイ=ガンは息を付いて椅子の背にもたれた。ザナトスと決別して以来、何年も一人で任務をこなしてきた。オビ=ワンはパダワンになることは承知しないが、船で出会って以来、クワイ=ガンに協力してきたし、指示にも従ってきた。それどころか、互いにフォースを通じ合える。

 ほんの数日前オビ=ワンの試合を見て、その純粋さに魅せられた。自分が長年ジェダイとして過ごす間に否応なく負ってきた痛みにも何にも、まだ染まらないまっさらな魂。いいかえれば純粋培養の世間知らずだが、出来ることなら自分が注意深く世の中の水に少しずつ染めてみたいと思った。分析すればそうだが、それは、直感だった。今に生きる空気を感じ取る自分の特性、リビングフォースがそれを告げていた。

 オビ=ワンにはパダワンにしてから、序々に知らせればいいと思ったし、危険な目にも合わせたくなかった。が、すでに客船に乗り込んだ時から命がけの戦いに巻き込まれてしまった。ザナトスとのことも、ヨーダの言うとおり知らせたほうがいいだろう。少なくとも警告は必要だ。

 通信機を取り上げてオビ=ワンを呼んだ。応答がない。今までは数分と待たずにあの打てば響くような声が返ってきていた。
「オビ=ワン?」
ふいに、何かすうっと暗い影に覆われたような不安が襲った。あの子に何か合った――。急いで農場に連絡を取る。農場の係りから困惑しきった声が聞こえてきた。
「今朝ほどから探しているのですが、姿が見えないのです」
「ザナトス……」
それは直感だった。だが、クワイ=ガンは確信していた。
 

続く
                                                           

  ザナトスとオビの出会い。あっさり拉致されるオビ。マスター気付くの遅すぎ。
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