Be My Padawan 6 ― パダワン獲得作戦 ― 

 爆発の衝撃で公邸の建物は揺れ、窓がカタカタと音を立てた。皆が窓から見たものは街一面をおおった黒煙。そして煙が晴れた後にはホームプラネット鉱産の坑道から立ち昇る煙と側にあった管理棟の建物が吹き飛ばされた無惨なありさまだった。

 「お前らの、オフワールドの仕業だ!!」
ホームプラネット鉱産の代表者はザナトスに詰め寄った。
「口ではうまいことを言っておきながら、爆発をおこすくらいたやすいはずだ」
ザナトスはいかにも不快だというように形の良い眉をひそめた。
「いわれのない言いがかりです」
「それより、救助のほうが先だ」
クワイ=ガンの言葉に、皆が一斉に部屋を飛び出した。


 クワイ=ガンも統治者自らも、手をかせる者は皆不眠不休で救助にあたった。被害は大きく、地下深くの坑道に立ち込めたガスによって大規模な爆発が起きたとわかった。原因は誰もが疑った人為的なものではなく、ガス警報機が故障した為と判明した。沈み込むホームプラネット鉱産のオフィスに、オフワールドから復興の為の資材や工具を提供するという申し出があった。

 ザナトスは、本当に会談で言ったとおりこれまでのやり方を改め支援する方針なのか。疑いを持ちつつも、ホームプラネット鉱産はその申し出を受け入れることにした。

 クワイ=ガンはこの申し入れに異を唱えることはしなかった。だが油断はならないと思っていた。ザナトスは常に巧妙だった。そうしてずっと人の目をくらましてきた。そして最後にすべてを自分の計画したとおりにし、最大の利益を手中に収めた。今回の申し出は罠だと思っていた。では本来の目的は何か。現在のバンドメアには大きな利益をあげる物は何もない。将来の干拓成功などとても信じられるものではない。 

 一つの考えがクワイ=ガンの頭を過ぎる。私を任務といっておびき出し、かつてのマスターへの恨みをこの惑星で晴らそうとしているのだろうか。が、その為に鉱山まで巻添えにするだろうか。いや、あれはおそらく貧しい惑星の行く末などどうでもいいと思っているだろう。が、この件にはまだわからないことが多い。


 爆発の救助活動が一段楽し、ようやく食事をしたり、休んだりできるようになった。公邸で鉱山のスタッフと休憩しながら、クワイ=ガンは爆発やザナトスのことを考えていた。結論の出ない考えに行き詰まった時、ふと、オビ=ワンのことを思った。

 あの少年を遠ざけてやはり良かった。無論一緒にいたら、オビ=ワンも自分と共に救助にあたっただろう。あの少年らしく一生懸命に汗をかきながら。が、坑道の地下で爆発の犠牲となった労働者の多くが無惨な遺体となって運び出された。その多くが死の恐怖と苦痛に歪んだ表情をしていた。

 自分はジェダイとして数え切れないほど人の死にかかわってきた。やむをえず己の手にかけた者もいる。オビ=ワンにはまだこんな光景を見せたくはない。すでにここへ来る旅の途中で予期せぬ戦いの犠牲者を見てきたとしても。
クワイ=ガンは通信機を手に取った。

 「オビ=ワンです」
すぐに歯切れの言い若々しい答えが帰ってきた。
「クワイ=ガンだ。今はどこにいる?」
「はい。東部農業センターのドームの中です。ここはすごく広くていろんな施設があって、まだ見学ツァーの最中です。――そちらはいかがですか?」
「そちらほど穏やかでなさそうだ。鉱山の爆発があった」
少年の息を呑むのがわかった。

 「あなたは無事ですか。被害は?」
「私は何ともない。救助を手伝ったが、ひと段落した。被害は大きいが復興の見通しはつきそうだ。オフワールドと惑星政府との会談は先送りになった」
「長引きそうですか?」
「今のところ見通しは立たない。こちらはともかく、お前はそこで自分の役目をはたせばいいだろう」
「――実を言うと、退屈です。あ、いえ農場は珍しい植物がたくさんあってとても素晴らしいのですが、案内してくれる人の説明がその、専門的というか僕にはよくわからなくて……」

クワイ=ガンは声を出さずに小さく笑った。
「植物はリビングフォースの訓練にはいいだろう。何かあったら連絡してくれ」
「わかりました。お気をつけて」
通信を終えたクワイ=ガンはオビ=ワンの声を聞き、にわかに涼やかな風が吹き、これまで先の見えない思いに沈んでいた気持ちが、すっかり払われたような気がした。


 一方、オビ=ワンはクワイ=ガンに漏らしてしまったように退屈していた。農場は巨大なドームに覆われていた。さまざまな植物が栽培され、初めて目にする珍しい物も多かった。しかし、オビ=ワンを案内してくれるガイドが何とも面白味の無い男だった。無愛想でぼそぼそとしかも理解出来ない交配や接木の話をえんえんと続ける。

 ガイドの男が急な呼び出しで管理センターに戻った時、オビ=ワンは本当にほっとした。後は適当に見学して夕方までに宿舎に戻ればよかった。

 行く先を決めずに歩き回り、果樹園のある一角に出た。いろいろな果樹の中でひときわ目につくものがあった。枝いっぱいに、熟した金色の実が重そうに枝しならせてたわわに実っていた。果実はつやつやと光って、オビ=ワンにはいかにも食べてくれといわんばかりに見えた。

 テンプルには精巧な人口の泉や林や庭など緑がたくさんあったが、本物の果物のなる樹は見たことがなかった。
すっごく、うまそうだ!育ち盛りの少年の胃がきゅっと鳴る。
オビ=ワンはさそわれるように樹の下に寄って、手を伸ばした。

 だが、さすがに少年の身長では枝に届かない。このぐらいの高さならジャンプすれば軽いけど、などとオビ=ワンが考えていると、後ろから声がした。
振り向くと、遠くで作業員らしい数人がこちらを向いて何か話し掛けている。

 まずい!オビ=ワンはとっさに身を翻し果樹の下から走った。
まだ、何もしていないのだから逃げなくてもよさそうなものだが、ジェダイの見習が果実を採ろうとしていたなんて報告されたら不名誉きわまりない。

 オビ=ワンが果樹園のずっと奥に走っていくと、高い囲いが見えた。すきまから干草のようなものが見える。あの中に隠れれば見つからない。身を屈めて思い切り跳躍し、自分の身長ほどもある囲いの中に飛び込んだ。

 柔らかい草の中に横向きに倒れこんだオビ=ワンは、沈みこんだ身体を起こそうとして、ひどい匂いに気付いた。それは干草やいろいろな有機物を混ぜて醗酵させている肥料だった。
息を止め、あわてて囲いに手を掛け、オビ=ワンはこんどはそこから飛び出した。あたりを見回すと、誰の人影もない。

 やれやれと服や髪についた肥料を払ったが、こびり付いたひどい匂いが鼻につく。
急いで宿舎に戻ろうとドームの縁の壁にそって歩き始めた。壁の柱には標識がついており、巨大ドーム内の方角や位置がわかるようになっていた。見上げると、一番奥を示していた。

 オビ=ワンが最短距離を考えながら回りをみわたすと、長く続く肥料の囲いの裏側が、他と違うやけに光沢のある白っぽい壁という事に気付いた。オビ=ワンは何か違和感を感じた。近寄って見ると、何の継ぎ目もないつるつるする材質で、手をあててみると、金属のようにひんやりとしていた。手を離すと、ほんの一瞬、さわっていたところが透明になった。

 驚き、こんどは慎重に掌を壁に滑らせる。すると、指先に継ぎ目のようなひっかかりを感じた。ドアかもしれない。息を吐き、意識を集中して静かにフォースを集める。

 ふいに広い壁一面が透明になった。梳けた壁から内部の様子が見え、オビ=ワンは息を呑んだ。手に掛かった部分はやはりドアになっていた。フォースを集めると音もなく開く。オビ=ワンが中に入ってドアを閉じると再び白い壁になった。

 内部は倉庫で積荷のような品物が並んでいた。箱には客船で見かけたオフワールドのマークが付いていた。ラベルを読むと爆発物、ドリル、起爆装置、坑道掘削機――、すべて鉱山で使用するものだった。だが、何故ここに保管されているのだろう。農場は外部資本のオフワールドとは無関係と聞いた。

 さらによく見て回ると、他より小さい黒い箱があった。ラベルはついていない。しかしリングと割れたリングを組合わせたマークの金属が留め金になっていた。オフワールドコーポレーションのOとCを意味するのだろうか?
――クワイ=ガンに知らせたほうがいい。オビ=ワンはそっとドアを閉め、倉庫を後にした。

 

 連絡を受けたクワイ=ガンはオビ=ワンに、オフワールドはこちらでよく調べようと言った。そのまま様子を見るように言って通信を終えた。リングを組合わせたマークの事を聞いてザナトスへの警戒を口に出しかけた、が止め、只、慎重に行動するようにと言ったのみだった。

 通信を終えたクワイ=ガンはホーム・プラネット鉱産に向かった。爆発後の復旧は大分進んでいた。オフィスに入ると、鉱産の代表者が目を輝かせてジェダイを向かえた。そばへ寄って来て声を落とした。
「復興が順調な意外にも、良い知らせがあります」
爆発が深い地層を吹き飛ばし、思いがけずイオナイトの鉱脈が発見されたという。イオナイトは銀河中で貴重な鉱物とされている。順調に採掘されれば、この鉱山、ひいては惑星全体に莫大な利益をもたらす。

 「それは、素晴らしい事だ」
クワイ=ガンは慎重に同意した。
「あなたも思っているように、これは関係者だけの極秘です。外部のもの、オフワールドに知られたら、あちらは資金に物を言わせて一挙に掘り尽しかねません」
「君達の腹積もりは?」
「復興と平行して、坑道の採掘ルートと輸出経路を固めてしまいます。そうすれば、オフワールドは手を出せません」
「期間は」
「あと数週間あれば」
「オフワールドとの正式な締結を先送りにすればいいわけか」
「そうなのですが、実は不思議なことに、あれ依頼、先方から何の連絡もないのです。こちらから機材提供の礼を述べても、ザナトスはずっとオフィスに不在とのことです」

 クワイ=ガンはオビ=ワンが農場で見たオフワールドの積荷のことを聞いてみた。
「――私は、西部農場で見ました。あのマークは確かオフワールドのものだ」
すると、ちょうど戻って来た管理者も他の地区の農場で同じ物を見たと応えた。
「最近無償で提供された資材と言っていたが」

 彼らの話から不審な様子はない。ただの資材かもしれない。オビ=ワンに連絡しようと思った時に、管理者から坑道へ案内しようと申し出られ、クワイ=ガンはオフィスを後にした。

後に、このことがクワイ=ガンを深く後悔させることになる――。



続く
                                                           

  オビと離れてちょっと寂しいマスター。

TOPへ 5へ 7へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送