Be My Padawan 5 ― パダワン獲得作戦 ― 

 オビ=ワンが目覚めた時、明るくなっていたがまだ起きるには早かった。隣りのベッドへ顔を向けると、クワイ=ガンの姿はなかった。部屋をみわたすと窓辺に背の高い男がたたずんでいるのが見えた。我知らずほっとしたが、何事か考え込んでいるような男の大きな姿は声をかけるのをためらわせた。

 もっとも、これまでもオビ=ワンから進んで声をかけたこともなかったし、クワイ=ガンも口数の多いほうではない。が、昨日ここへ着いたときにクワイ=ガンが一通のメッセージを受け取った時から、いっそう寡黙になった。公邸で二人一緒の客室に案内された際や食事の時も、必要なこと以外は口を開かなかった。

 意を決してオビ=ワンは何かあったのかと聞いてみると、知り合いからメッセージが届いた、とだけ答えた。それ以上は他人に踏み込めないものを感じて、オビ=ワンも聞かなかった。決してオビ=ワンを無視してるわけではないが、何か深く考えている様子にオビ=ワンも黙って過ごすしかなかった。もっともオビ=ワンにとっては、ここでクワイ=ガンがパダワンになるよう言い出さなくて少し安堵もしていた。客船の中で再度の申込みを断った時と状況は何もかわっていなかったから。


「起きて着替えた方がいいな」
突然、クワイ=ガンがこちらを振り向きもせずに言ったのでオビ=ワンは驚いた。身体を動かしもしないのに、どうして目覚めているのがわかったのだろう?けれど、オビ=ワンは返事をして身軽にベッドから下りた。


 朝食がすむと、クワイ=ガンはオビ=ワンを伴なって同じ公邸内のバンドメア統治者のオフィスに行った。統治者は小柄なミーリア人の中年の女性だった。彼女はジェダイに旅行中の災難をねぎらい、この惑星に来てくれた礼を言った。

 バンドメアは辺境の貧しい惑星だった。主な産業は地下資源で、所々に開発された鉱山があった。けれど、そのほとんどは惑星の外からの資本で運営されていた。当然利益もバンドメアにはほとんどもたらされない。

 惑星政府はあまり多くを望めない地下資源が尽きる前に、何とか惑星内の資本で作ったホームプラネット鉱産の利益で農業を起こして海を干拓し、荒野を緑に変えようと苦心していた。拠点となる農場をいくつか開き、そこでさまざまな作物を栽培しながら試作していた。

「オフワールドとの会談に平和の使者としてジェダイに立会いをお願いしたいのです。オフワールドグループは巨大で、しかも利益を上げる為にはかなり悪どいことをしていると思われます」
これは客船の中でハットがアーコナ人に何をしたか眼で見たジェダイもよく理解していた。
「でき得る限りの力をつくしましょう」
クワイ=ガンは優雅な動作で肯いた。
統治者は満足げに肯いたが、次いで不思議なことですが、と話し出した。
「私どもがジェダイテンプルに派遣の要請を送った直後に、あなたがここへいらして下さると返事が届いたのです」
記録の一覧を差し出した。
確かに要請の送信と返信の間はほとんどなかった。

「奇妙ですな。私はたまたまテンプルに戻っている時に任務を依頼されたのですが」
ジェダイの派遣は、通常早くても裏づけや調整に数日は要する。
「では、丁度タイミングが良かったのですね。あなたがいらして下さって、大変喜ばしいことです」
統治者は心からジェダイを歓迎しているようだった。

 会談の場所と時間を告げられ二人は退出した。
客室に戻る途中、それまで黙って何か思案している様子だったクワイ=ガンがさりげなく声を掛けた。
「オビ=ワン。私と一緒に会談に付いて来ないか?」
オビ=ワンは立ち止まり、遥かに背の高い、熟練のジェダイを見上げた。
「それはもちろん、平和の使者として立ち会えるのは名誉なことですが……」
ジェダイは戦士として厳しい訓練を積むが、本来の目的は銀河に平和をもたらす為に働くことにある。平和の使者として惑星間の代表者とさまざまな交渉や調停を行なうのも大きな役目だった。

オビ=ワンはためらいながら答えた。
「僕のここでの任務は農場の視察ですから――」
その先はいわずとも互いにわかる。クワイ=ガンのパダワンなら当然マスターに同行するが、オビ=ワンはそうではない。
クワイ=ガンは感情のうかがえない声で言った。
「そうか。では、お前が農場に行く手配を頼まねばならんな」

 オビ=ワンが部屋で荷物をまとめているとクワイ=ガンが農場行きの乗り物が手配できたと告げた。
「ありがとうございます。クワイ=ガン」
「お前は農場で、私はおそらくここでの仕事になると思うが、ひょっとすると又なにが起きるかわからない」
クワイ=ガンは淡々と言った。
「連絡を取ることにしよう」
平穏のはずだった客船の旅が、突然海賊に襲われたてからとんでもない危険の連続だった。
オビ=ワンはたのもしい思いでこっくりと肯いた。



 オビ=ワンが出発するのを見届けてクワイ=ガンは部屋に戻った。目を離すまいと思っていたオビ=ワンをもっと説得しようと思えば出来ただろうが、反面行かせてほうが良かったという気持ちもしていた。これから起こるかもしれない出来事を思えば、オビ=ワンの行く農場は平穏なはずだ。まして、先ほど今回のバンドメア派遣の妙ないきさつを聞いては。
あの短い手紙を受け取って以来、ザナトスのことが気に掛かっていた。

 ザナトスはクワイ=ガンの元弟子、パダワンだった。
惑星テロスを訪れた時クワイ=ガンが見出し、テンプルに連れて来た子供だった。ザナトスの父親は惑星の有力者で、息子がテンプルに行くことには同意したが、自分の後継者を手放すことを決して喜んだわけではなかった。ザナトスは幼心にも自分の出自を誇りにしていた。
同年代の子供達の中で抜きん出た才能を現わし、やがてクワイ=ガンはザナトスを自分のパダワンに選んだ。

 二人は長年師弟として過ごし、クワイ=ガンは熱心に弟子を指導し、弟子も又それに応えた。実際ザナトスは成長するにつれ、誰からも賞賛され、優秀なナイトになると期待された。フォースのみならず、ライトセーバーの腕も交渉事も優れていた。そして容貌も人目を引いた。長身の師には及ばないもののすらりとした肢体。ととのった顔立ち、漆黒の髪と輝く青い瞳。師弟はテンプルでも任務先でもヒューマノイドの中でひときわ目に付いた。

 そうして弟子がナイトになる時期にさしかかったころ、クワイ=ガンは今まで見過ごしていたことに気付いた。ザナトスは明らかに自分の出自と才能や容姿をちらつかせ、同輩を見下し、傲慢にふるまっていた。気付いた時クワイ=ガンは衝撃を受けたが、それよりもそれを巧みに隠してきた弟子の狡猾さにも舌を巻く思いだった。
自分は今まで弟子の何を見てきたのか。奉仕と清廉を第一にするジェダイはいくら技量に優れていても、クワイ=ガンにとってそれは見過ごしできない重大なことだった。

 ヨーダに相談すると、テンプル最長老の小さな賢者は告げた。
「ナイトになるトライアルの他に、二人で惑星テロスに行くが良い。そこでの任務を無事やり遂げたらザナトスはナイトになれるじゃろう」
トライアルを優秀な成績でパスした弟子とともに、クワイ=ガンはザナトスの父のいるテロスに向かった――。


 クワイ=ガンが時刻の少し前に会談の部屋に行くとすでにほとんどの主席者がそろっていた。
先ほど会った惑星の統治者、ホームプラネット鉱産の代表者、そして客船でともに海賊や魚竜と戦った鉱山の管理者。が、一方の代表オフワールドの代表者がまだ来ていなかった。そして、始まる時間を過ぎても姿を現わさない。

 オフワ―ルドは初めからこの会談に出るつもりなどなかったのではないか。誰もがそう疑い出した頃、突然、扉が開かれた。皆の眼がいっせいにそちらへ注がれる。

 そこに立っていたのは一人の若い男。長身に光沢のある黒いケープをまとい、その色と同じ漆黒の長い髪を横で分け、肩まで垂らしていた。鼻筋の通った端正な顔立ち、そして人眼を引く青い眼をしていた。

 すると、その青年は、遅れて登場することがいかに注目を浴びるかという効果を示すように、自分を見つめる人々に視線を回して眺め、次いでゆっくりと一礼して名乗った。
「このように重要な会談に遅れてしまったことを深くおわび申し上げます。イオン嵐で乗り物が遅れてしまいました。私はザナトス、オフワールドの代表として参りました」

 次いで青年はこぼれるような笑みを浮かべクワイ=ガンに声をかけた。
「お久しぶりです。クワイ=ガン。長いことお目にかかれませんでしたが、やっとお会いできました」
クワイ=ガンは内心の動揺を隠し、表情を変えずに元弟子を見た。数年ぶりに見るザナトスはいかにも懐かしそうな声音で挨拶した。他人がみたらまったく非の打ちどころのない青年に見えるだろう。だが、クワイ=ガンがあのテロスで自分達が戦った時、ザナトスが何をしたか決して忘れることは出来なかった。

 統治者がザナトスに席を示す。
「ジェダイとはお知り合いのようですね」
「はい。私は以前コルサントにいましたとき、大変お世話になっておりました」
「昨日、君からのメッセージを受け取った」
「あなたがテンプルから派遣されたと聞きまして、もしかしたら会えるかもと期待していました」

 ザナトスは言いながら片手で髪をかき上げた。その時、耳朶に金色の円い輪のイヤリングが下がっているのが見えた。クワイ=ガンの鋭い眼がそれを見、元弟子が元の師にそれを知らせる仕草の意を悟った。しかもザナトスはかき上げた手のひらをクワイ=ガンに一瞬むけた。右の掌の中央にちょうどリングの形の痣、火傷の痕がくっきりと残っていた。そしてそのリングは一箇所で割れた円環の形をしていた。


 クワイ=ガンは立会いとしての立場をわきまえ、必要以上に口をはさまず会談を見守っていた。元弟子が先ほど見せた、割れた金のイヤリングと掌の火傷の痕で、自分同様にザナトスも上辺の友好的な態度が見せかけだと知らしめた。茶番だ。が、オフワールドの代表としてこの会談に何をしに来たのか。狡猾なザナトスには会談さえも茶番ではないのか。

 そしてそれはオフワールドが鉱山の利益の10パーセントをこの惑星に寄付すると申し出たときにいっそう強くなった。

今までのオフワールドの、どんな汚い手を使っても利潤のみを追求するやり方を知っている者には、とうてい信じられる話ではなかった。一斉に不信の眼が青年に注がれる。

 ザナトスはそれを見こしていたというような余裕の表情で統治者に言う。
「私はバンドメアのオフワールドの代表者を引き受けるにあたって新たな方針を決めました。鉱山の利益を農場に還元してこの惑星を緑豊かにすることこそ、将来はバンドメアとともにオフワールドも栄えることができるのです」
「それはオフワールドがその方針でやってくださるなら、バンドメアにとってもありがたい――」
突然の轟音でその先は遮られた。



続く
                                                           

  ザナトス登場。原作では頬に火傷がありますが、やっぱ元彼女(?)は美形の方が面白いので、この話のザナトスのお顔は綺麗なままで。

TOPへ 4へ 6へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送