Be My Padawan 3 ― パダワン獲得作戦 ― 

 朝目覚めると、事態が変わっていた。
昨日、オビ=ワンは海に浮かぶ岩だらけの小島の岸に客船を不時着させた。夜の間に波にさわられた船は船首を上にして傾いていた。浸水の恐れもあるとして、船長は修理に携わる者以外は、朝食後島へ退去するよう要請した。

 だが島は大きな翼を持つどう猛な肉食の魚竜の住処となっていた。乗務員が夜のうちに調査し、岩場の洞窟に隠れるよう、島へ移る客達に告げていた。

 二人が食事をとっていると、昨晩のアーコナ人達がやってきた。ハット達は武器と栄養源を持っていち早く島に上陸してしまったと告げた。クワイ=ガンが窓から外を見ると、魚竜は次第に数を増し獲物を狙っていた。

「オビ=ワン、私はハットから栄養源を取り戻す。お前は――」
「僕も一緒に行きます」
「いや、乗客を守って洞窟に連れて行ってくれ」
「クワイ=ガン」
「ハット達は多くないし、私の傷もだいぶよくなった。それより、お前は魚竜を防いでくれ」
「……わかりました」
クワイ=ガンはしぶしぶ承知したオビ=ワンの肩に手を掛けて言う。
「きっと、栄養源を持って帰る」
「待っています。クワイ=ガン」
 見つめる二人の間に、一瞬何か目に見えないものが、過ぎった。言葉にすれば微かな空気の流れといったような。
クワイ=ガンはそれを感じた。オビ=ワンは不思議そうな顔をしている。だが、すぐにアーコナ人に声を掛けられ、そちらを振り向いた。


 陽は次第に高くなっていった。この惑星の一日の長さはわからないが、標準的な星と大差ないように思えた。

 クワイ=ガンはハット達を追って、岩場を登っていった。足場もない急な崖を慎重に登っていると、ときおり鋭いくちばしと爪の魚竜が襲いかかり、そのたびにライトセーバーで追い払わねばならなかった。上の方から時折、ブラスターの銃声が響く。先に行ったハット達も魚竜に狙われているのだろう。

 崖の頂上近くで岩の隙間を見つけた。この幅ではハットは入れないし、翼のある魚竜も当然近寄れない。クワイ=ガンは、体をひねって中へ滑り込んだ。わずかにさす光をたよりに慎重に上に進むと、遠くにこの洞窟の出口が見えて来た。

 様子を伺うが、物音はしない。頂上はやや扁平な岩場になっている。ハットの姿はなく、岩の窪みに隠すようにして、紐で結わえた包みがおいてあった。栄養源だ。しかし、これは罠に違いないとクワイ=ガンは思う。

 洞窟の出口手前で立ち止まり、静かにフォースを集める。包みに爆破物は仕掛けられてはいない。しかし、目に見えないが反対側の岩の陰にうごめく影、ハット達が潜んでいるのが感じられる。この包みを囮にして、姿を見せたら一斉に襲ってくる。クワイ=ガンは体を低くして岩陰に身を隠し機会を伺うことにした。



 オビ=ワンは武器を持った数名の乗務員と共に乗客を導いて洞窟に進んだ。途中何匹も魚竜が空から襲ってきたが、何とか撃退した。広く天井の低い洞窟の奥に人々を落ち着かせ、洞窟の入口の近くで外の様子を見ていた。洞窟の中は湿り、岩もぬるぬるしていた。栄養素を摂っていない上に、湿気が苦手なアーコナ人たちはほとんどがぐったりと横たわっていた。身を守る為ブラスターを渡されていたが、手に取る者もなかった。

 外を見ていたオビ=ワンは魚竜の数が増えているのに気付いた。低く飛びながら、中に入ってこようとしている。洞窟の中も安全ではない。オビ=ワンは慄然とした。

 クワイ=ガンが来るまでは、戦える者だけで守らなければならない。しかし、何が出来るというのだろう。魚竜の数は次第に増し、しわがれた声で鳴き交わしながら洞窟の前にぎっしりと集まってきていた。獲物の宝庫を見つけたとでも合図しているのだろうか。少しでも侵入を許したら片端から元気のないアーコナ人は餌食になってしまう。よしんば自分一人が洞窟の入口で戦ってもいつまで防げるだろう。オビ=ワンは限りなく自分の無力を感じた。

 「――自分ではどうしようもないと思ったとき、どうしたら良いのでしょうか?」
ヨーダに訪ねたことがある。
ジェダイは決してあきらめない。しかし危機的状況にあって持てる力すべてを出し切って限界と思ったときどうすればいいのか。

「フォースを使って他のジェダイを呼ぶのじゃ」
ヨーダは答えた。
「強い絆で結ばれておればきっと応えてくれる」
オビ=ワンはこれまで他のジェダイと強い絆を感じたことはなかった。が、今この惑星にいるジェダイはクワイ=ガンしかいない。他に方法はなかった。


 オビ=ワンは立ち上がって薄暗い洞窟を見渡した。力なく横たわるおおぜいのアーコナ人が目に入る。入口に目を転じると、中をうかがっている魚竜が前にも増してふえている。オビ=ワンは深く息を吸い、目を閉じてフォースを呼び覚まそうとした。が、自分はまだすぐにフォースをコントロールすることはできない。

 自分が出来ること、それは一心にクワイ=ガンに呼びかける事。クワイ=ガン、どうか助けてください。アーコナ人を助けてください。早くここに帰ってください。

 ――その祈りは、必死の呼びかけはクワイ=ガンに届いたかはオビ=ワンにはわからなかった。そして、次にオビ=ワンがしたことは、クワイ=ガンが戻るまでこの洞窟を守ることだった。

 オビ=ワンは頭をあげ口を結んで前方を真直ぐに見詰めた。ライトセーバーを握って立ち上がり背筋をしゃんとのばした。クワイ=ガンのような優れたナイトには及びもつかないが、僕だってジェダイなら最後まで戦う。そしてオビ=ワンは魚竜と戦う為、洞窟の入口に向かって足を踏み出した。



 クワイ=ガンはふと、誰かに呼ばれたような気がした。フォースを通して誰かが呼んでいる。クワイ=ガンも他のジェダイ同様、幼いときからジェダイテンプルで過ごしナイトになるべく訓練を積んで成長した。自分のマスター以外にヨーダにも師事した。ヨーダからはお前のフォースの特性はリビングフォース――身の回りの物や生き物を取り巻く想いを感じる力が強いと言われた。

 ヨーダのようなフォースの強い者は他のジェダイにフォースを通じて思念を送ったり読んだりもするが、たいていのジェダイは師弟や親友でもなければ、離れたところで互いのフォースを感じたり、まして思念を知ることなどできない。
クワイ=ガンさえ、前の弟子と決別して以来何年もこんなことはなかった。

 だが、クワイ=ガンにはわかった。自分のフォースが告げる直感。紛れもなくこれは、オビ=ワンだ。助けを求める必死の思いが伝わる。
洞窟で乗客を守っているはずなのに何があった。栄養源を取り戻すのを待つといったが、何か、あったのだ。それも危険が迫っている。
あの子のもとに行かねばならない。今すぐに。


 クワイ=ガンは腰のライトセーバーの柄に手をかけ、鋭い眼で外を凝視した。ハットは5人。が、隠れている方向は2個所。ブラスターの弾が飛んでくる方向もその2箇所。それさえ防げれば、栄養源を寄り戻せる。
身を低くしてライトセーバーを起動し、クワイ=ガンは洞窟から飛び出した。


 クワイ=ガンが飛び出した時、待ち受けたブラスターの弾丸が飛んできた。それをライトセーバーの刃で弾きながら岩のくぼみに飛び込み、置かれた包みを手にとった。一瞬ブラスターが止む。次には回りを囲んで一斉に撃ってくるはずだ、クワイ=ガンは片手に包みを持ち、ライトセーバーを構えた。がその時、頭上を黒い影がおおった。

 数匹の魚竜が上からクワイ=ガンを狙っているハットに襲いかかろうとしていた。ハット達は仰天し、ブラスターを上に向けてめちゃくちゃに撃ちはじめる。硬い鱗におおわれた巨大な魚竜には弾丸などたいした効目もなさそうに見えた。それでも魚竜は一旦上に舞い上がり、旋回して向きを変え再びこちらへ向かってこようとしている。

 クワイ=ガンにある考えが閃いた。これは危険な賭けだ。が、今はフォースを信じてやってみるしかない。クワイ=ガンは腰を低くし、少し後ろに下がった。次いで助走をつけて崖から身を躍らせた――。


 ジェダイがローブを翻して崖から飛び降りるのを見たハット達はあっけにとられた。この高さからではいかにジェダイとて助かるはずもない。ハット達は腹ばいで崖の縁により、落ちていった男を捜した。崖の下には姿が見えない。

 が、次の瞬間、ハット達が目にしたのは、興奮した鳴き声で翼をばかつかせながら飛んでいる一匹の巨大な魚竜の背にまたがって空を飛んでいるクワイ=ガンの姿だった。唖然とそれを見るハット達にこんどは容赦なく空から魚竜の群れが襲いかかった。


 クワイ=ガンが崖から飛び降りた時、一匹の魚竜が翼を広げてこちらへ向かって来るところだった。フォースを集中し、魚竜の背に飛び乗りた。ぬるぬるする皮膚から振り落とされないようにしっかりと腕で縋りついた。魚竜は仰天し、上から降ってきた邪魔者を振りほどこうと翼をばたつかせた。クワイ=ガンは必死につかまりながら持てる力を振り絞って魚竜の思念に呼びかけた。
「私を崖の下の洞窟まで連れていってくれ。さあ、急いで!」
オビ=ワン、今行く。クワイ=ガンは心で叫んだ。



 オビ=ワンは洞窟の入口から少し外へ出て、集まった魚竜の群れをながめた。何十、いや何百といる。その泣き声は耳をつんざくばかりだった。オビ=ワンの後ろにいる数名の武器を持った乗客や乗務員もブラスターを構え、おそるおそる立っている。

 今まで何年も訓練してきたとはいえ、凶暴な生き物と戦うのは初めてだった。しかも防ぐのではだめだ。この先へ進ませない為、致命傷を与えるか、殺すしかない。この自分よりはるかに大きいどう猛なおびただしい数の魚竜を。それはとても不可能だ。

 だが、自分はまだ少なくともジェダイだ。ナイトにはなれないとしても。最後まで洞窟を守って戦って死ぬのだ。恐れは感じなかった。ライトセーバーを構えると、呼び起こさずともフォースが自分を取り巻いているのを感じる。あの、海賊に襲われた宇宙船を操縦した時のように。

 ふいに、心に呼びかけるもの、を感じた。今行くと、それは告げていた。クワイ=ガン!
オビ=ワンはとっさに後ろを振り向いて叫んだ。
「クワイ=ガンが、ジェダイがもうすぐ来ます。それまで僕とここを守ってください」

 味方は驚きながらも、オビ=ワンの断固とした言葉に励まされ、顔に生気が甦った。互いに目を見交わしながら、肯く。オビ=ワンはそれを認めると、再び前を向き、洞窟に入り込もうとしている魚竜を見るや、高く跳躍してライトセーバーを振り下ろした。



 クワイ=ガンは集中力を途切れさせずに魚竜をコントロールしようとしていた。ようやく下の洞窟に向かって滑降しはじめた魚竜の背に馬乗りになって身を起こし、オビ=ワンの居場所を探ろうと試みた。フォースで呼び合えるなら、場所も感じられるかもしれない。

 しかし仲間の異常な鳴き声を聞きつけて集まったおびただしい魚竜が同じ方向を目指しているのに気付いた。洞窟の前に黒山のように魚竜がひしめいている。あの洞窟にアーコナ人たちがいて魚竜が中に入ろうとしているのだと見当がつく。

 そして、うるさい魚竜の鳴き声に混じってブラスターの音、時折煌めく青い光、紛れもなくライトセーバーの輝き。オビ=ワンが魚竜を防ぐため戦っていた。


 オビ=ワンは魚竜がどれほどいるか、自分がどれほど倒したかなど何も考えていなかった。ただ、洞窟の中にいる人々やアーコナ人を守るために戦っていた。自分のふるうライトセーバーの切れ味がどれほど魚竜にきくかなど考えもしなかった。

 が、気付くと侵入を防ぐだけでなく、動けなくなった何匹かの魚竜が何時の間にか折り重なっていることに気付いた。その為、少し動いて場所を変えねばならなかった。邪魔だ。だが、それは魚竜にとっても襲ってくるには邪魔になっていた。ひょっとして――。

 その時、巨大な魚竜がこちらを目指し、滑るように低く飛んできた。とっさに身を屈めたが、魚竜は襲おうとはせず、そのまま向きを変えて舞い上がっていった。

 オビ=ワンは顔を上げ、去っていった魚竜を見送った。小さく息を吐きライトセーバーを構えなおそうとした時、ふいにフォースの流れを感じた。
眼をあげると、長身のクワイ=ガンが立っていた。



続く
                                                           

  オビ、一人でもけなげに頑張ってます。今回は二人とも離れて奮闘中。任務外でもジェダイの役目はハードです。

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