Be My Padawan 2 ― パダワン獲得作戦 ― 

 惑星バンドメアへ向かう大型の輸送客船は大勢の乗客でごったがえしていた。クワイ=ガンは乗船して間も無く、乗客の大半がバンドメアの対立する二つの鉱山会社、惑星外大手企業のオフワールドと、バンドメア内資本のホームプラネット鉱産へ向かう労働者という事を知った。船内でもはっきりと船室が分けられ、労働者を監督する凶暴なハット族がうろついている。

 乗務員に聞いてみると、オビ=ワンは確かに乗り込んでいたが、出発から何時間もたっているのに自分の客室に入っていなかった。幼い時からテンプルで過ごし、初めて一人で大型客船にのったオビ=ワンが迷ったことは充分考えられる。それにしても遅い、と思ったところへ、乗務員があたふたとやってきて、それらしい少年がハット族に乱暴されて医務室に運び込まれたと告げた。

 オビ=ワンは大きなひんやりした手が額に当てられるのを感じ、眼が覚めた。おぼろな視界に見覚えのある大きな姿が移った。
「僕は夢を見てるんでしょうか。クワイ=ガン……」
「いや、確かに私だ。だが、傷に障る。まだあまりしゃべらないほうがいい」
オビ=ワンは微かに肯いた。
「傷がもとで熱が出ている。私が抑えたが、怪我は軽くない。乗船早々酷い目にあったな」
クワイ=ガンはなぐさめるようにオビ=ワンに笑顔を向けた。
少年は昨日からこの偉大なジェダイの厳しい表情しか記憶になかったので、その穏やかな表情に驚いた。

「どうしてあなたがここに」
小さな声で聞く。
「元老院から依頼された任務でバンドメアに行くところだ。君も私のパダワンになっていたら、やはりこの船に乗っていた。だが、一人でいて怪我などさせなかった」
「部屋を探していたら、急に訳もわからず捕まってしまいました」
「初めて一人でこんな客船に乗ったんだろう。テンプルも何も教えず放り出したんだな」
「いいえ、僕の不注意です。それに任務に向かう途中の、――関係のないあなたにまで世話を掛けて、申し訳ありません」

 クワイ=ガンの片眉があがる。遠まわしに今からでも自分のパダワンになるよう誘ってみたが、オビ=ワンは即座に否定した。
「わかった。だが、具合の良くない君を見るのは同じジェダイとして当然だ」
クワイ=ガンが感情を出さない声で言うと、オビ=ワンはすまなそうな顔ではい、と肯いた。
 

 クワイ=ガンの施したヒーリングと自身の治癒能力でオビ=ワンの身体は間も無く回復し、医務室から自分の客室に移った。その後オビ=ワンは労働者の中の同じ年頃のアーコナ人の少年と仲良くなったようで、いつも一緒の姿を見かけた。食堂などで会うと礼儀正しく挨拶するが、それ以上クワイ=ガンに打ち解けることもない。

 オビ=ワンは手強いとクワイ=ガンは感じ初めていた。しかし焦ることは無い。それにジェダイは決して諦めることはしない。機会を待つのだ。

 機会は思いがけない形で現れた。クワイ=ガンは道連れになったホームプラネット鉱産の管理者とラウンジのバーで飲んでいた。オビ=ワンはラウンジの向こう側に友人といた。楽しそうに語らう屈託ない笑顔を見て、クワイ=ガンはそれが自分に向けられたらと思った。

 その時、突然強い衝撃が起こり、船が大きく揺れた。グラスは床に落ちて砕け、船中に高い警報音が鳴り響いた。
クワイ=ガンは素早く窓によって外を見る。
「海賊だ」
窓の外を凝視し、手はライトセーバーの柄を握っていた。


 ラウンジを飛び出してメイン通路を操縦室のあるブリッジに向かう。後からオビ=ワンや数名が追ってきた。ブリッジ手前の通路の交差地点で爆発音やブラスターの打ち合う音が響いている。船の出入り口の方向だ。海賊が扉を破壊しようとして、乗組員と戦っているのだろう。

「オビ=ワン」
名を呼んだ。
「私は船に乗り移る海賊を阻止する。お前はブリッジで破損状態を確認するんだ。もし、乗組員が操縦できない状態なら、お前が操縦して、この空間から脱出して海賊船を振り切るんだ」
「あなたの側で戦います!」
とっさに返った応えは、又もクワイ=ガンの言葉に反するものだった。

 緊張した表情でブルーの瞳を真っすぐにあげ見つめてくる。一瞬、側にいる事を許そうと思ったが、すぐに打ち消した。海賊は誰彼構わず容赦なく殺戮する。テンプルで厳しいトレーニングを積んでいても、実戦経験なくては身を守る事さえ危ぶまれる。今の状況では自分がかばってやることもできまい。
「よく聞け」
オビ=ワンの肩をつかんだ。

「海賊はすぐに船にのりこんでくる。船がこのままではいずれ皆やられるだけだ。とにかく海賊船から船を離してどこでもいいから脱出させるんだ。今は私の判断にしたがうんだ。いいな」
テンプルで宇宙船の操縦を学んだとはいえ、オビ=ワンがいきなりこんな大型船を動かせるかわからない、がやるしかないのだ。
 鋭く見つめ返され、オビ=ワンは緊張のせいかやや青ざめた顔で肯いた。
「あなたの言うことに従います」
そう言うと、身を翻してブリッジに駆け出して行った。その後ろ姿の首筋が細く、とても幼く見えて、側を離したくないと思った。が、クワイ=ガンはその思いを打ち消して銃声の響く方向に急いだ。

 

 数時間の後、大型船の医務室は大勢の負傷者の呻き声で満ちていた。医療ドロイドがせわしなく間を飛び回っている。クワイ=ガンは海賊との戦闘で肩に負傷していた。皮膚を大きく裂かれ、血肉と骨さえ覗く。通常のヒューマノイドなら相当の重症だ。

 側に立つオビ=ワンは、固い表情のまま目を凝らしてクワイ=ガンが痛そうな様子も見せずに医療ドロイドの治療を受けているのを見守っていた。オビ=ワンは軽い火傷や擦り傷、打撲を負っていたが、自分から、治療を受けるほどではないと言った。

 しかし、今こうして船が無事でいられるのはこの少年の働きが大きかったとクワイ=ガンは思う。あの後、自分と数少ない味方で海賊の侵入を防いでいる間、オビ=ワンは負傷した操縦士に代わって操縦管を握り、敵の小型攻撃機を砲撃して何機か撃墜させた。その後、海賊船の追撃を振り切って空域を脱出し、ある惑星に不時着させたのだった。

「指示通り、よくやってくれた」
治療の済んだクワイ=ガンがオビ=ワンに向き直った。労わるような声にオビ=ワンの表情が和らいだ。
「とにかく、あなたの言われたとおりにしようと、無我夢中でした。正直自分でも不思議なのです。ただ――」
「ただ?」
「これまでは、フォースを呼び起こそうとしても思い通りにならないことが多かったのですが、操縦しているときは、できたのです」
「何を考えていた?」
「船を、助けたい。海賊から逃れたい、それだけでした」
「恐れとか怒りは感じなかったか」
「いいえ、フォースに導かれるまま行動しました」
「それでいい」
クワイ=ガンは顔には出さなかったが改めてこの少年の資質に驚いていた。

「お前は、思っていた以上に教えがいがありそうだな」
「クワイ=ガン、僕は――」
オビ=ワンの戸惑った声は、急な足音と声で遮られた。
  

「ジェダイ、どうか助けてください」
オビ=ワンの友人の少年と数名の鉱山労働者が息を切らして走ってきた。
「私達の種族の必須栄養源をハット族が奪ってしまったのです!」

 船に乗っていた対立する二つの鉱山会社、外部資本のオフワールドと惑星資本のホームプラネット鉱産、少年達のアーコナ族はおとなしい人種で、海賊の襲撃には客室から出なかったので被害はなかった。オフワールド側はハット族が中心となり海賊と戦ったので被害を出した。そこでハット族がアーコナ族の必須栄養源の包みを奪い、会社を変わるように脅迫してきたという。

「オフワールドは悪評の高い企業です。利益のためには手段を選ばないやつらです。労働者の待遇も酷いと聞いています。でも私達は食事の他にあの必須栄養源を摂らないと生きて行けないのです。どうか、取り戻してください」
「必須栄養源はどうやって補充しているのだ」
「培養して増やしています。でも、根こそぎ取られたので、補充もできません」
「それがなくて何日もつ」
「1日も欠かせませんが、2、3日とらないと動けなくなって、やがて死んでしまいます」
「脅迫の手段だから命は大丈夫だ。明日、ハットと交渉しよう」
「ありがとうございます。明日、ですか」
「まだ船内も混乱している。それに私も思うように体を動かせない」

 アーコナ族はクワイ=ガンの顔色と、血が滲んだ裂けた衣装を見て、ようやくジェダイが命がけで海賊を防いだことに気付いた。
大いに恐縮し、礼を言ってすごすごと引き返して言った。

 オビ=ワンは友人を励まして見送ったが、姿がみえなくなるとクワイ=ガンを振り向いた。
頬を高潮させて唇を引き結び、目には決意が浮かんでいる。
「クワイ=ガン、皆が寝静まったら僕はあいつらのところへ行って栄養源を取り戻してきます。力づくでも」
手をライトセーバーに掛けて言う。

「私は明日交渉すると約束した」
「話して聞く相手じゃない。僕は目が合っただけで殴られたんだ。あいつらを懲らしめるのが正義ではないですか」
「落ち着け。こちらから剣を構えていってどうする。間違いなく流血沙汰だ。それに、お前が夜中にこっそり襲うというのもだめだ。向うだって当然警戒している。それに栄養源を確かに取り戻せる確信もない」
「だからといってこのままでは」

 クワイ=ガンは厳しい目でオビ=ワンを見つめ、言い切った。
「お前は正義の為だといったが、むしろ怒りを感じ、我を忘れている」
一瞬、オビ=ワンの顔が呆けたようになって、次いで体の力が抜けた。
「――そうかも、しれません」
クワイ=ガンは口調を和らげ諭すように言う。
「体は疲れているのに、気が立っている。今は休んで、明日考えよう。そのほうが良い方法がきっと見つかる」
「はい……」
宥めるように腕を掴まれ、オビ=ワンは俯き加減で答えた。

 クワイ=ガンの口元に微かに笑みが浮かんだ。ぶっつけ本番で大型船を扱うほどの働きをみせるかと思えば、友人の窮地に過激な正義を主張する青臭さ。この少年はまだ危なっかしい、目を離せない。前のパダワンの時は最初もこんなことがあっただろうかと、ふと思った。

 いや、あれは子供の時から落ち着いていて、そつがなかった。物分りもよかった。はらはらさせられることなど、めったになかった。大抵の事は安心して見ていられた。だがプライドが高く、自信過剰な様子が垣間見えた。最後までそれは変わらず、遂には致命的な過ちに至った――。

「クワイ=ガン、部屋までお送りします」
オビ=ワンの声に我に返った。黙って考えこんでいる様子を少年は不安そうに見上げている。
「おっしゃる通り、今晩は良く寝て明日に備えます」
信用していないのかとその目が問うている。
「ああ、我々は休息が必要だ」
「あんなに酷い怪我、それに、あなたは体中に傷跡がありました」
「痛みを身体に取り込むんだ。そしてフォースを呼寄せて癒しを施す。うまくいけば、たいていの傷は間も無く塞がる」
オビ=ワンが感嘆したように目を見張る。
「痛みを恐れることはない。フォースを手の内にした者なら」
「はい」
クワイ=ガンの客室の前まで来ていた。オビ=ワンは挨拶をして離れていった。


続く
                                                           

 いっこうになびかないオビに、クワイ=ガンも長期戦を覚悟……。

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