Be My Padawan 1 ― パダワン獲得作戦 ― 

 銀河中に紛争の解決や平和の使節としてジェダイを派遣するジェダイ騎士団、その本拠地惑星コルサントのジェダイテンプルでは将来のナイトを目指す子供達も日々訓練に励んでいる。
その日ライトセーバーの訓練をしていた子供達は、ジェダイの最長老、マスターヨーダの側に見慣れない長身の男が立っているのを見た。

 年の頃は30代半ば位でヒューマノイドでは目に付く長身。引き締まった体躯。亜麻色の長い髪をかき上げて 後ろで止め、肩より長くたらしている。口髭と短いあご鬚をたくわえ、秀でた額の下の濃い青い眼から発する眼光は鋭い。
「クワイ=ガン・ジンだ」
一人が男の名を囁くと、その知らせは瞬く間に部屋中に広がり、緊張が走った。
クワイ=ガン・ジン。ここ数年まれにしかテンプルに姿を見せない男は、卓越したライトセーバーの使い手で、数々の困難な任務を成功させた凄腕のジェダイナイトとして、子供達の間では半ば伝説化して語られていた。

 ジェダイの教育制度は、マンツーマンの徒弟制度。幼児から基礎訓練を受けた子供達は、10歳から13歳未満の間にマスターと呼ばれるジェダイナイトの弟子になる。パダワンと呼ばれる弟子は、ジェダイ見習として一人前のナイトになるまでのおよそ十年を、常にマスターに同行してジェダイとしての訓練を積む。パダワンになるには、マスターが自分が指導したいと思う子供を選ぶ事になっている。

 クワイ=ガンには現在パダワンがいない。もし、目に止まったら彼のパダワンに慣れるかもしれない。
1対1の試合形式の訓練は、いつになく熱を帯びてきた。


 クワイ=ガンは軽く腕を組んで子供達の様子を見ていた。ヨーダからいいかげん新しいパダワンを取れと言われているが、そのつもりは無かった。だから、テンプルにいる時は、形だけパダワン候補者を見ることにしていた。 ヨーダは時折子供達に合図したり注意を与えたりしていたが、クワイ=ガンはじっと眺めているだけだった。

 何組もの試合が済み、最後の組になった。ヨーダが名を呼ぶ。
「オビ=ワン・ケノービとブルック・チェン前へ」
呼ばれた少年達は礼儀正しく挨拶し、開始合図で対戦を始めた。

 体つきから二人とも最年長の十二歳だろう。オビ=ワンと呼ばれた少年は濃い金褐色の髪に明るいブルーグレーの瞳。ブルックという少年は白い髪に水色の瞳をしていた。先の子供達に比べると二人とも剣の構えもしっかりしているし、動きも速い。だが、見ているとブルックが攻撃を仕掛け、オビ=ワンは受けに回っている。それでもオビ=ワンはよくかわし、なかなか決着がつかない。

 そのうち勝ちを焦ったか、ブルックが飛び上がり様、ライトセーバーの先端で禁止されている顔面を狙った。オビ=ワンがとっさにかわし、身体がよろめく。ブルックは構えなおし、尚も優位に立つ余裕でばかにした表情でオビ=ワンを挑発した。

 その時、その視線を受け止めたオビ=ワンからフォースが立ち昇り、一瞬青い光がはじけた。眺めるだけだったクワイ=ガンの片眉が上がる。

 攻守は逆転した。オビ=ワンの動きは打って変わって攻撃的に、且つ素早くなり、ブルックはやっとかわすだけになった。
 ブルックが後退した隙を見逃さず、今度はオビ=ワンの身体が空中に飛ぶ。両手に高く掲げたライトセーバは一瞬でブルックの頬をかすめ、肩に振り落とされた。衝撃を受け、ブルックの身体が音を立てて床に倒れた。
「それまで」
ヨーダの声が飛ぶ。
練習用にパワーを落としたライトセーバーで深く傷つくことはない。立ち上がったブルックとオビ=ワンはヨーダに向かって礼をし、練習場から退出していった。


 オビ=ワンは更衣室で着替えていた。シャワーを浴びているうち先ほどの試合の高揚は収まっていた。着替えを終え、脱いだ服をランドリーボックスに入れる。ふと、人の気配を感じて振り向いた。
長身のジェダイが腕を組んで扉によりかかっていた。

「中々いい試合だった」
「ありがとうございます。マスター、ジン」
少年は礼儀正しく礼を述べた。
「だが、いささか攻撃的すぎるな。怒りのフォースを感じた」
「その、夢中でわからなくなるのです。後で言われて反省するんですが、直せなくて」
「いや、フォースのコントロールが未熟な若いうちはよくあることだ。適切な指導を受ければ、良い方向に伸びる」
「そうなれるでしょうか」
少年は目を輝かせ、クワイ=ガンを見上げた。

「ああ、私が指導してもよい」
「本当ですか」
「いつもと言うわけには行かないが、いっしょにいれば任務の合間に出来る」
クワイ=ガンの言う意味を悟り、オビ=ワンの表情が変わる。
「間も無くテンプルを出る。君を連れて行きたい」
「僕は――」
困惑した表情でクワイ=ガンから目をそらした。

 それをみてクワイ=ガンがいぶかしむ。が、次の言葉は熟練のジェダイを久々に驚かせるのに充分だった。
「あなたのような偉大なジェダイのパダワンになど、僕のような取るに足りない者がなれるはずがありません。むしろ、他の者のほうが――」

 眉を上げたクワイ=ガンが低い声で遮った。
「オビ=ワン、君は承諾できないというのかな」
「マスター・ジン。僕はあなたにふさわしくありません」
少年は必死の目でクワイ=ガンを見上げる。
追い詰められた動物のようだ。
クワイ=ガンは黙って背を向け、大股で更衣室を出て行った。



「どういうことです。マスター、ヨーダ!」
「何がじゃ」
クワイ=ガンはとぼけるな、という言葉を飲み込んで続ける。
「私に何十人もの子供の試合を見せたのは、あの中からパダワンを選ばせるつもりだったはずだ」
「そうじゃ。お前はわし達の進めにも耳を貸さず、何年もパダワンを取らないからな」
「では、何故申し込んだのに向こうが承知しない?」

 小柄なジェダイマスターは大きな目をじっと大きな男に向けた。
「オビ=ワンにふられたか」
「交際を申し込んだわけではない」
クワイ=ガンはじろりと偉大なマスターを見た。
「マスターが申し込んでるのにパダワンになるのを断るなど、聞いたことが無い!」
「あの子はちと訳があってな。まあ、掛けるが良い」


「オビ=ワンは間も無く13歳になる」
椅子に掛けたクワイ=ガンに語り始めた。
「剣も強いし、学科も優秀なあの子が何故今まで誰のパダワンにもならんと思う」
言われれば、確かにそうだ。礼儀正しく賢そうな顔立ち。意志の強そうな瞳。見かけは大人しいが試合の時発したフォースは充分強かった。
クワイ=ガンのいぶかしげな顔にヨーダは愉快そうに続けた。

「パダワンにしたいジェダイが多すぎるのじゃ」
「!」
「実は10になる前から何人もわしに言ってきたナイトがおって、未だ早いと思いオビ=ワンには言わなかった。もう少し基礎を勉強させたいと思ってな」
「あなたが邪魔、いや止めていたのか」
「12になった時、オビ=ワンに言ってみた」
「あの子は何と」
「真底おどろいておったわ」
ヨーダはフォッフォッと笑う。
「友人は次々とパダワンになるのに、自分が誰からも申し込まれないのは、自分が未熟だからと思い込んでおった」
クワイ=ガンはそれで、オビ=ワンがとったいかにも自信なさそうな態度に思い当たった。
「あなたのせいですな」
「それでわしも誰のパダワンになるかと聞いた」
「では何故」
オビ=ワンは好きなジェダイのパダワンになれたのに、未だ決っていない。

 「あれがいうには、自分から選ぶ事などとてもできない。が、フォースを通じ合えるジェダイがいたら、その人のパダワンになりたい、とな」
「それは、尤もなことだが」
フォースが通じ合うとはジェダイ同士の特別な絆を意味する。ごく近しい親友や、師弟の間で感じるものだ。離れていても互いに相手の状態を感じることができる。

 「しかしそれは、始めからすべての師弟にあるとは限らない。むしろ師弟になってから育まれる場合が多い」
「わしもそう言った。試に希望するジェダイ達に一度離れた場所からフォースで呼びかけてもらったが、オビ=ワンは誰のフォースも感じ取れなかった」
「では、どうするつもりだ。私が呼びかけてみてあの子が感じたらパダワンに出来るのか」

 ふーむとヨーダがクワイ=ガンを見る。
「お前はあきらめんのか」
「あなたが余計な、いや慎重になったので、オビ=ワンは間も無く13になる。このままだったらどうなる。あの子はあれだけの素質を持ちながら、ナイトになる道を閉ざされてしまうのか」
「オビ=ワンは明日惑星バンドメアへ発つ事になっておる。農場を視察してくるよう言っておいた。その間、よく考える時間を与えた」
「誰のパダワンになるか選べというわけか」
ヨーダが肯いた。
「オビ=ワンが決められなかったらどうする」
「そのまま、農場に置く」
「ヨーダ!」
「つもりはない。わしがあれのマスターを決める」
「なるほど、あなたが決めたマスターならオビ=ワンも納得するでしょうな」
「そういうわけじゃ」
 

 クワイ=ガンは顎に手を当てしばし思案した。オビ=ワンの事情はわかったが、ヨーダの意図が掴めない。はたして、自分をあの子に近づけたいのか遠ざけたいのか。

 ここ数年、たまにテンプルにいてもオビ=ワンの姿を見かけなかった。だが、名前だけは聞いていた。その名を出したナイトを数名思い出した。あの中にオビ=ワンをパダワンに希望するジェダイがいる。確かに彼らなら、実績もあり評価も高いナイト達だ。オビ=ワンのいい指導者になるだろう。
それに引き換え、ヨーダは自分にはオビ=ワンを会わせることもなく、素知らぬふりをしていた。


「マスター、ヨーダ」
クワイ=ガンが立ち上がった。
「わかりました。明日早いのでこれで失礼します」
ヨーダが口の中でフォースが共に――と決まり文句を言うのを遮った。
「私は明日任務でバンドメアへ行くことになっている。知ってましたか?」
「いや」
「あなたの思惑はともかく、オビ=ワンさえ承知すれば、私のパダワンにしても異存はないでしょうな」
ヨーダは返事をせずに可笑しそうに含み笑いをした。
クワイ=ガンにはフォースを通じて、お手並み拝見、と聞こえた。
長身を屈め、わざとらしいほど丁寧に礼をして退出した。


続く
                                                           

  始まってしまいました……。しょっぱなからマスターはオビにふられております。これが書きたいばっかりに無謀にも初ロングストーリにチャレンジ。だ、だいじょうぶだろうか(汗)

前書き 戻る 2へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送