The Slip Trip 2 | −落っこちたら君がいて − |
耳をすませた二人の若いジェダイの耳に入ってきたのは、荒い息づかいと悩ましい喘ぎ声だった。 「!!」 「お楽しみの真最中みたいだな」 「あ……、そ、そう、みたい、かな」 「誰かわかるか?」 真っ赤になったベンを見て、クワイ=ガンはにやにやした。 「名前、呼んでた?」 「いや、ダーリンとか。ハニーとか言ってるぞ」 「――えと、じゃ。この部屋はもう聞かなくてもいいね」 「待て、時々名前も、さっきはジェネラルとか。あ、ダニーって誰だ?」 「ジェネラルとダニー……」 その間もスピーカーからは低い呻き声、感極まって漏れる熱い吐息までも聞こえてくる。 「おい、これ相手は男じゃないか!?」 「男同士……」 「軍隊じゃ珍しいことでもないそうだが」 「そう、だね」 オビ=ワンは赤くなった頬のまま、猛烈な勢いでデータパッドを操作し始めた。 クワイ=ガンが何事かと眺めていると、数分後に二人の人物の画像とプロフィールが現れた。 「北の強行派のジェネラルと技術部将校のダニエル・ベリー少佐」 クワイ=ガンが口笛を吹いた。 「ジェネラルはなかなか渋いおやじだな。ダニーも男前だ。この二人が出来てたってわけか」 オビ=ワンは眉間に皺を刻んで二人の画像を睨むように見ている。 「おい」 「え、何?」 「拒否反応でも起こしたか、男同士に?」 オビ=ワンは頭を振った。 「そんなじゃない。ちょっと戦略的な結びつきを考えてた」 オビ=ワンはデータパッドから視線を移した。 「……そういうクワイ=ガンはどう?」 「好奇心で遊んだことはあるが、やっぱり可愛娘ちゃんがいいな」 「ジェダイの女性?」 「まあ大人で遊び慣れたナイトとは割り切って付き合えるが、同年代は最悪だ」 「最悪って?」 「あいつらは俺を小間使いぐらいにしか思ってない」 クワイ=ガンと同年代の女性マスター達の顔を思い浮かべ、ベンは忍び笑いをこらえた。 「何だその顔、それよりお前はどうなんだ」 「僕は――」 「まあ、さっきの態度を見れば想像つく」 「修業中の身だし」 「マスターの目を盗んで遊ぶスリルが良かったんだぞ」 「寛大な師だったんだね。――多分、お見通し」 「なんか言ったか?」 「いや、それに僕だって経験がないわけじゃない」 「本当か?」 「こう見えても――」 その時、一段高い嬌声とくぐもったうめきが聞こえ、その後、静かになった。 「ワンラウンド終了、か。男同士だとわかってもどうもおかしな気分になるな」 クワイ=ガンはベンの目をちらりと見た。 「いや、いくらお前が男前だからって俺はその気はないから安心してくれ」 「――今は任務中だよ」 「そうだな。ところでこいつらが出来てると戦略的にどうなんだ?」 ベンはあからさまなクワイ=ガンの物言いにちょっと顔をしかめ、息をついた。 「普段ジェネラルの身近にいるのは直属の部隊長達なんだが、ダニーに命じれば好きにドロイド軍や遠隔兵器を使える」 「お前や俺を襲ったのも――」 ベンは肯いた。 「ジェダイが交渉に乗り出したら邪魔なだけだからね」 「ジェネラルはいつ南を攻めるつもりだ?」 そのとき、静かだったスピーカーから声が聞こえてきた。 「――明日から忙しくなります」 「頼むぞ、お前の腕にかかっているからな」 「任せてください、準備は万全です。明後日にはすべて完了します」 「お前は素晴らしい、ダニー・マイラブ」 「ジェネラル……」 再び言葉が途切れ、乱れた息づかいの後、静寂が訪れた。 クワイ=ガンとベンは顔を見合わせた。 二人はいつの間にか、互いへの言葉づかいが変っていた。 「何を企んでる、南への奇襲か?」 「――いや、おそらくクーデター」 「クーデター!?」 「南への攻撃なら首都に軍隊を集中させないし、V―Iの支援もまだ取り付けてない。クーデターで一挙に政権を握り、ふいをついて南を攻めるつもりだ。空軍だけは境界線付近に駐留させて軍備を強化してる」 「なるほど。で、どうする?」 「阻止する」 「あっさり言うな」 「ジェダイの使命は平和を守ることだろ?」 「ご立派!作戦は?」 「ジェネラルとダニーを切り離す」 「人の恋路を邪魔するのか?」 「平和の為だからね」 ベンは表情を変えずに言った。 それから二人で具体的な計画を練り始めた。ベンは計画の最中もマスターと連絡を試みたが、徒労に終わった。 「宇宙船からなら繋がるかもな」 「……今は、多分無理かもしれない」 「まあ、マスターがいなくてもベンなら大丈夫だな」 ベンはちょっと複雑な顔をした。 「マスター・トニックってどんな人なんだ?」 「どんなって――」 「テンプルに寄り付かない変わり者らしいが、お前を見る限りでは立派はマスターらしいな。ヒューマノイドなんだろ、歳は?」 「50代。でも年齢なんて全然感じさせなくて、ライトセーバーの腕は掛け値なく凄い。リビングフォースが強く、ジェダイとして確固とした信念があり、評議会に逆らう事もたびたび」 「大物だな」 「長髪で、短いあご髭を蓄えてる。背が高く、ちょうど君くらい」 「ライトセーバーが凄く、頑固で、俺ぐらいの背丈で長髪に髭。熊のようなマスターか?」 それを聞いてオビ=ワンは目を見張り、次の瞬間弾けるように笑いだした。 「違う違う、身のこなしは流れるように優雅。常に毅然として、どんな王族高官にもひけをとらない。意外に芸術や文化にも造詣が深い。かと思えば、世情や裏世界にも通じているし、マインドトリックもうまい。交渉事も得意だけど、型にはまった事より、予想外の展開で本領を発揮する」 「面白そうなマスターだな」 ベンはにっこりする。 「それに、聞いてるとお前にとっては完璧らしいな」 「あー、でも身の回りとか割合無頓着だし、突然何か仕出かしてくれるし、拾い物癖があるんだ」 「拾い物癖?」 オビ=ワンはじっとクワイ=ガンの目を見た。 「小石とか、動物とか、いろいろ。こっちに後始末が回ってくることもたびたび」 若干、そういった拾い物に見に覚えがないでもないクワイ=ガンは複雑な心境になった。 『っていうか、大好きなマスターの愚痴を俺にこぼしてるんじゃないか?』 又しても、クワイ=ガンの心中を察したようにベンは顔を赤らめた。 ここにきて、クワイ=ガンは確信した。絶対おかしい!シールドを下ろしてるのに、初対面のジェダイにこれほど読まれるはずがない。 「ベン、俺達は――」 急にデータパッドが電子音を立てた。 「マスターから通信だ!」 モニターには、判別できない記号の羅列が並んでいた。 「暗号通信だ」 解読の操作をしながらベンは、言った。 「――交渉は成功。直ちに帰還。V-V到着予定は30時間後」 「吉報だな」 二人が短い眠りについたのは明け方近くだった。 早朝、二人は手順を確認し、別行動を開始した。オビ=ワンは技術部へ忍び込み、ダニーを弱い薬品で急な体調不良にさせ、部下にマインドトリックを用いて、ダニーが発信するはずだった緊急招集をすべて特別休暇通達にすり替え、兵士の一時帰宅を許可した。クーデターに加担する部下達も決行日は知らされていなかった為、クーデター前の温情と信じ込んだ。 クワイ=ガンは堂々と司令部のジェネラルを尋ね、ジェダイパダワンからSOSを受信したと言って捜索を依頼した。クワイ=ガンと、軍がしぶしぶ協力に応じて出してくれた特殊部隊が発信場所を辿ると、バトルドロイドの倉庫だった。そこにクーデターで首相官邸を襲う計画のドロイドを隠していたなど、特殊部隊は知る由も無い。 オートセットされているドロイドが、ジェダイと武器を装備した部隊につぎつぎと襲い掛かってくる。クワイ=ガンはにやりとして、ライトセーバーを構えた。 「こいつは暴れがいがありそうだ」 数十機はあったドロイドも、豪快なクワイ=ガンのライトセーバーと、特殊部隊のハイパワーウェアポンで破壊されていく。が、それなりに時間はかかる。半分ほども片付けたかと思ったころ、クワイ=ガンは近づくフォースを感じた。強く揺るぎの無い、清冽といえるほどのフォース。それが戦いにのぞみ一層鮮烈さを増して近づいてくる。 「おまたせ、クワイ=ガン」 高い場所からひらりと飛び降りたベンは既に青く輝くライトセーバーを起動させ、クワイ=ガンと背中合わせに立った。 「おう、そっちの用事は済んだのか?」 絶え間ない銃弾を弾きながら、クワイ=ガンが声を掛けた。 「完了」 「もっとゆっくりしても良かったのに」 ベンは高く跳躍して、迫ってきたドロイドを上から叩き壊し、身軽に着地した。 「君にだけ楽しい思いさせるのもしゃくだしね」 ブレイドを跳ねさせ、ベンは輝くような笑みを見せた。 言葉にしなくても、二人は互いの動きがわかった。一方が前に出れば、片方が後方で背を守り、左右に飛べば、反対方向で構える。共に戦うのは初めてなのに、何度も訓練したかのように、二人の息は見事に合っていた。 クワイ=ガンはベンの剣さばきを見て心中舌を巻いた。体格が違うので、自然とクワイ=ガンの動きとは違うが、ベンが身体の身軽さを利用した素早さと緩急自在は動きは無駄がない。あれは実戦を積み、場数を踏んで鍛え上げられたものだ。 「爆破するぞ!」 兵の怒鳴り声と同時に轟音が響く。 クワイ=ガンは咄嗟に身を伏せた。 爆風が収まり視界が晴れてきた。クワイ=ガンはゆっくりと身を起こす。と、身体の下から不満げなうなり声がした。 「重い」 「ああ、すまない。怪我は無いか?」 「ない。大体なんで僕をかばうんだ」 クワイ=ガンの大きな胸の下でうつ伏せになっていたベンがむくりと身を起こした。 「あ、つい。俺のほうがデカイからな」 「いくら小さくたってこっちが年上なのに」 ベンは服の土を払いながらぶつぶつ言った。 「マスターはいつまでたっても――」 「お前のマスターもそうなのか?」 「あ……」 ベンは、又もクワイ=ガンにはわからない不思議な表情を浮かべて背の高いナイトを見上げた。 「――ああ。クワイ=ガン、血が出てる」 すっと手を伸ばして、ベンはクワイ=ガンの額を指で拭った。 「かすり傷だ。すぐ止まる」 「バクタチップを」 「いや、いい」 でも、と伸ばされた手をとっさにクワイ=ガンは握った。ベンはそのまま、振り払いもせず、戸惑ったようにクワイ=ガンを見上げている。 クワイ=ガンは、陽光の下で煌く、澄んだ湖水色の瞳を見つめた。この謎の多いパダワンは何を考えているんだ? 続く 1へ 2へ |
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