The Slip Trip 3 | −落っこちたら君がいて − |
兵士が走り寄って来た。 「ジェダイ殿お怪我はありませんか。ドロイドはすべて操作不能になりました」 「隊長、ご苦労さまでした」 「では引き上げますが、どうぞご一緒に」 「軍のほうはどうなってる、ベン?」 ベンは通信機を出してなにやら話していたが、むき直ってクワイ=ガンに囁いた。 「警察はジェネラルを逮捕した。ここに来る前、クーデター計画の証拠を政府に突きつけてきた」 「予定通りだな」 「さて、次は南北政府の和解調停だ、行こう」 急遽再開された調停は、共に和解に前向きな首相同士の話し合いで深夜まで及んだが、無事調停され、ジェダイの任務は終了した。ベンのマスターは間に合わなかったが、惑星V―T政府のみならず、裏世界にまでV−Vには干渉しないという約束を取り付け、数時間後には弟子の待つ場所に戻れると知らせてきた。 政府が用意してくれた宿舎に泊まったクワイ=ガンは、翌日現れたベンをみて眉を上げた。 「寝なかったのか?」 「いや全然というわけじゃない。シャワーを使ったからさっぱりしたしね」 クワイ=ガンも寝たのは数時間程度だが、ベンはうっすらと目の下に隅が出来ていた。 夕べ、当然同室と思っていたのだが、ベンが出来れば個室と職員に頼んだのだ。 前の日のように、盗聴の仕事?をしながら親しく話したのが嘘のようにそっけない。そして食事の後は其々の宇宙船で出立することになっていた。 クワイ=ガンは当然、ベンの師、マスター・トニックと逢うつもりでいた。 が、食事の後、ベンが顔色をうかがうように切り出した。 「マスターとも話したんだが、君は僕より早目に発ったほうがいいと思う」 「どうしてだ?」 「宇宙船の飛行記録を調べたんだ。その、君がここに近づいた時と同じ条件になるよう計算してみた。この通りにセットすれば、元に戻れる可能性がある」 「何を言ってる?」 「――多分、僕と君は、いや君は……」 「俺がマスター・トニックに逢うのがまずいのか?」 「時間軸がずれている、と思う」 「は?」 「僕は××××××年生まれなんだ。そしてマスターと君は同年代」 「そんなこと信じられると思うか?」 ベンは黙って一枚のカードを取り出して見せた。 それはジェダイの正式なIDカードだった。 「本名はオビ=ワン・ケノービか……」 確かに生年月日はクワイ=ガンより30年以上も後だ。 「――じゃあ、いったい今はいつなんだ?」 「銀河標準歴××××××年」 「俺は、未来へ来ちまったのか?」 「多分、君の話だと要注意地域を通ったとき、時空の裂け目を潜ったと思う」 「……あの時」 確かに不思議な体験をした。――が、いきなりとっぴな話をされても、どうにも腑に落ちないクワイ=ガンは顔をしかめた。 「俺が受信した信号はお前からじゃないのか?」 「――僕の発信が多分時空の裂け目を通り抜けたんだろうな」 「俺のコードだぞ。なんでお前が知ってる」 「マスターとクワイ=ガンは同年代でコードが一部重なるし、旧型の宇宙船のソフトの認識度では同じと読み取ったんじゃないかな」 それから、オビ=ワンはすまなそうに続けた。 「こちらが呼んだから来るはめになってすまない。クワイ=ガンがここを通ったのは偶然だけど」 「――俺を、はめてるんじゃないだろうな」 「納得できないのはわかる」 ちらとオビ=ワンは上目遣いに見る。 「けど、僕達が今まで会わなかったのはそのせいだ。僕もずっとテンプルで育ったし、パダワンになっても任務意外はテンプルで暮らしてる」 クワイ=ガンは呆然と椅子の背にもたれかかった。 信じられないが、ベンの、いやオビ=ワンの言う事は筋が通っている。 「それが本当だとしたら、俺は元に戻れるのか?」 「来た時とまったく同じに辿れば、裂け目が在るかも知れない」 「なかったら?」 「それは、わからない」 でも、とオビ=ワンは確信のある笑顔を見せた。 「きっと大丈夫。マスターの名に掛けて」 「お前の拾い物癖のマスターなんか当てになるのか、大体、本名はなんだ?」 「戻った時差し支えたら困るからナイショ」 「お前な」 その時、オビ=ワンの通信機が鳴った。 「イエス、オビ=ワンです、マスター」 会話するオビ=ワンの表情が見る見る変化した。 「予想外だったんです。ええ、あとで詳しく」 頬を上気させ、嬉しくてたまらない様子は、眩しくさえうつる。 クワイ=ガンはちくりと胸にくるものがあった。 自分と元の師の関係と比べて、あんなに師との会話が嬉しかったことがあるか? いやそれより、あれほど冷静で頭も切れ腕も立つジェダイが、30も歳上の年寄りに近いおっさんに小娘のように目を輝かせ頬を赤くするのはなぜだ? いくら親密だって卒業すれば只の元師だろ、俺のほうがずっと若くて体力もある。 ここまで考えて、クワイ=ガンは我に返り、ぶんぶんと頭を振った。 「そう伝えます。では後で、マスター」 オビ=ワンは通信を終え、クワイ=ガンに向き直った。 「マスターからあなたに宜しくとのことです、クワイ=ガン」 そして、何がおかしいのか小さく笑った。 「俺はお前のマスターに逢うわけにはいかないんだな」 「やっぱり、まずいでしょうね」 「オビ=ワン、言葉づかいが変ってるな」 「え?」 「俺はお前のマスターじゃない。友達みたいなもんだろ」 そうですね、と言いかけ、気付いてなおした。 「そうだね」 数時間後、二人はクワイ=ガンの乗ってきた宇宙船のコックピットにいた。 オビ=ワンは興味深そうに計器類や装備を見ている。 「お前のとはやはり違うのか?」 「外観はそう変らないけど、内部はけっこう変化してると思う。実習で以前の機体にも乗ったことがあるから」 「そうか」 「飛行記録と逆に航路をセットして、計算した位置の座標に合わせてみて」 クワイ=ガンは言うとおりにキーを叩いた。 「OK、出発時間まであと30分」 「さよなら、クワイ=ガン。いろいろありがとう。とても助かった」 「こちらこそ。もう、逢えないんだな、オビ=ワン」 「20歳の君にはね」 「あと20年ジェダイで頑張れば、お前に逢えるか?」 オビ=ワンは、また、あの何ともいえない表情を浮かべた。 「――多分」 「このまま扉を閉めて出発すれば、お前が俺の時代に行く事になるな」 「クワイ=ガン!」 「冗談だ。そしたらお前のマスターが取り返しに来そうだし、俺に勝ち目なさそうだしな」 「弱気なんだな」 「俺達は逢って3日目だ。お前とマスターは?」 「9年かな。弟子してもらうのが遅かったから。その後もいろいろあったし――」 「すごく信頼しあってるんだな」 「今はね」 「じゃ、もう降りたほうがいい、オビ=ワン」 「うん、あのクワイ=ガン」 「何だ?」 「頼みがあるんだけど、元の時代に戻ったら今度のこと忘れるようにしてくれないかな」 「――お前の記憶も消せっていうのか?」 オビ=ワンはすまなそうに肯いた。 「差し支えがあるのか?」 オビ=ワンはクワイ=ガンの目を見つめ、無言で再び肯いた。口に出さずとも、その瞳は明確な意志を告げている。 クワイ=ガンはひとつ息を付いた。 「……わかった」 「ありがとう、クワイ=ガン」 「記憶操作の暗示を掛けるのは、自分でしたほうがいいな」 「僕はまだ未熟だし、君は得意だと思う」 「お前は頼み上手だな」 クワイ=ガンは目の前で揺れているオビ=ワンの金色のブレイドを手に取り、口元に運んでそっと口づけた。 「クワイ=ガン……」 「お前の姿が見えなくなったら暗示をかける」 「ありがとう」 オビ=ワンはふっと微笑み、操縦席に座ったクワイ=ガンの肩に手をかけ、顔を近づけた。 「これはお礼」 柔らかな唇が己の唇に触れるのを感じ、クワイ=ガンはとっさに目を閉じた。オビ=ワンの温かい唇はそのままクワイ=ガンの男らしい唇に留まり、誘うように薄く開かれている。 クワイ=ガンは腕を伸ばし、両手でオビ=ワンを下からすくう様に強く抱きしめた。 オビ=ワンが思わず小さな吐息を漏らす、それが合図のように、クワイ=ガンはオビ=ワンの口を開かせ、深く激しく、互いに貪るような口づけになった。 離陸の時間を告げるブザーが鳴った。モニター表示は5分前を告げている。 二人はゆっくりと互いの身体に回していた腕を解いた。 「……経験があるって言うのは、まんざら嘘でもなかったんだな」 感じやすい耳朶をくすぐるように囁かれ、オビ=ワンは吐息を漏らす。 「クワイ=ガンほどじゃないと思うけど」 「また、どこかで逢えるなオビ=ワン、覚えていなくても」 「きっと……」 不思議な湖水色の瞳を上げたオビ=ワンが泣き笑いのような顔で肯く。 「行け」 オビ=ワンは、最後にクワイ=ガンの深青の目を真っ直ぐに見、鮮やかに微笑んだ。 『ありがとう、クワイ=ガン』 そうして背を向け、風のようにコックピットを出て行った。クワイ=ガンは動かなかった。 オビ=ワンのフォースが離れていくのがわかる。クワイ=ガンは扉を閉めるボタンを押した。 1分前の表示が出た。 『さよなら、オビ=ワン』 操縦桿を握ったクワイ=ガンの目の前のモニターに、近づいてくるスピーダーが見えた。遠くてはっきりしないが、ちらと背が高く長髪らしき人物が見えた。あれがオビ=ワンのマスターか。 初対面のはずなのに、自分達の間にあった不思議なボンドのことをオビ=ワンに尋ねそこねた。が、いつか会えるなら、そのボンドは又感じるはずだ。自分の数十年後など想像できないが、未来にオビ=ワンが現れるならジェダイも悪くない。 モニターのカウントがゼロを示した。ジェダイナイト、クワイ=ガンの乗った宇宙船は音を立て、離陸していった。 空を見上げ、飛び去る宇宙船を目で追うオビ=ワンの背後から声がした。 「あれがその男か?」 「そうです」 「私も逢ってみたかったな」 「思いがけない事で私を戸惑わせるのは一人で充分です、マスター」 「オビ=ワン」 目尻を指先で拭い、オビ=ワンはくるりと振り向いた。 紛れもなく、長身のオビ=ワンのマスターが立っていた。 「ご苦労だったな、パダワン」 「お帰りなさい、マスター」 弟子は輝くような笑みでクワイ=ガンを迎えた。 End オビにしては複雑だったと思いますが、知らぬは若クワイばかりなり、という結末でした。クワイ=ガン同士を合わせるのは、まずいっしょ、やっぱりねえ。私も見たかったですが(笑) |
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