The Behind of the Moon2 ― 君を捜して ―
 
 翌日、お見舞いの箱を空けたオビ=ワンは歓声をあげた。
「うわっ、すっごい!!こんなにたくさん」
「普段ならおまえはこの倍くらいぺろりと平らげるさ」
「本当?」
「ああ」
オビ=ワンはそれでもちらと疑し気にクワイ=ガンを見上げ、礼を言ってタルトをとり上げた。
「クワイ=ガンはどれがいい?」
「ありがとう、でも私は甘い物は得意じゃないんだ」
「そうだった!」
「オビ=ワン?」
「そんな気がしたんだ。それに僕が甘いもん好きっていうのも確かそう」

 いくつかを胃の中に納めたオビ=ワンはドロイドの煎れた茶を飲んで一息つき、優しい眼差しで見守る年かさの男を見上げて、ふいに言った。
「今日鏡をみて思ったんだけど」
「何かな?」
「ドクターが僕は20歳っていうんだけど本当?」
「本当だ」
「クワイ=ガンはいくつ?」
「30ほどは上かな」

 オビ=ワンは数回瞬きして澄んだ蒼い瞳でクワイ=ガンを見つめた。
「若くみえるよ。背高いしかっこいいし、白髪はあるけど」
「それはどうも」
クワイ=ガンが苦笑する。
「僕は20?もう大人って、何か変な気がする」
「今はいくらか精神年齢が若くなってるんだ」
「じゃあ、治ったら大人になる」
「そうだな」
クワイ=ガンは可笑しさを隠し切れなかった。
「お前はいつも童顔を気にしていたからな」
「ええー!?」

 声を抑えて笑いながら、昨日と違うオビ=ワンの姿に声を掛ける。
「――ブレイドは自分で編んだのか?」
ああ、とオビ=ワンが後ろにはねていた長い編み下げを前に引いた。
「シャワーの後、何とかしようと弄っていたら、自然にこう編んでいたんだ。変かな?」
いや、とクワイ=ガンは懐から飾り紐をとりだした。クワイ=ガンが預っているオビ=ワンの荷物から出してきたものだった。
「長い間その髪型だから、手が覚えているんだろう。これで先を結ぶといい」
クワイ=ガンは椅子をたち、小さなテーブルの反対側の掛けていたオビ=ワンに近寄った。
息をつめ、さりげなく手を伸ばして、オビ=ワンのブレイドの先を手に取った。

 ほどけば腰にまで流れる濃い金褐色の髪。いつもクワイ=ガンが口づけた己だけのパダワンの証。クワイ=ガンは両手で飾り紐を丁寧に巻いて留めた。紐の端にはごく小さな青い輝石が施されていた。クワイ=ガンが弟子の瞳にあった色を選び、数年前オビ=ワンの誕生日に贈ったものだった。

「ありがとう」
結び終えて身体を離したクワイ=ガンに、オビ=ワンは礼を言う。
「クワイ=ガンの手はすごく大きいのに、ずいぶん器用だね」
「そうか」
「爪が丸くて短くて、なんだか意外な感じ」
オビ=ワンはクワイ=ガンの掌に自分の開いた手をあてがった。
「ほら、こんなに違う!すごく大きい」
楽しそうに声をあげる。
「僕も大人になったらこのくらい大きくなれるかな?」

 その質問にクワイ=ガンは困ったような、妙な表情をうかべた。
一瞬、オビ=ワンはその訳がわからなかったようだが、あ、と小さく声を出した。
「――もう、僕は伸びないの?」
「まだ、わからないさ」
クワイ=ガンは慰めるように優しく言った。
「だが、大きくてもきゅうくつなだけで、あまり良いことはないぞ」
オビ=ワンは声をあげて笑った。


 翌日は庭の散策を許された。
中庭は小さな池や噴水があり、ルートに添って彩りよく歌壇が続き、ところどころに木陰やベンチが設けられている。
「きれいだね」
「ああ」
「僕たちが住んでるコルサントってどんなところ?」
「惑星中が都市だが、私達の住いの中には人口の庭や泉がある」
「大きいの?」
「建物全体に人がおおぜい住んでいる。学校もありお前はそこで学んでいるんだ」
「学生?なんだかあまりしっくりこない」
「学生と言っても講義ばかりじゃない。身体を使う訓練も多い」
「それじゃ、身体にいろんな傷跡があるのは、訓練のせい?」
「そうだ」
「ハードなんだね」
「おまえはけっこう優秀なんだぞ」
「本当?」
「私とも訓練することがある。普段はそう誉めはしないが、筋が良いし、優秀だ」
オビ=ワンは心底嬉しそうに笑った。


「オビ=ワンの回復具合は?」
「順調ですよ。おおむね予想通りです」
「あまり思い出してるようには見えないが」
医師はモニターのデータを示した。
「最初よりずっと、脳波や身体データが正常に近づいてきています。この記憶障害の特徴なんですが、次第に思い出すというより、ある時期に達すると一気に思い出すという患者が多いのです」
「そういうものなのか?」
「オビ=ワンの精神はかなり安定してきているし、精神年齢もすこしずつ上がってきていますから、もうすぐです」
「明日、テンプルのヒーラーが到着すると連絡があった」
「彼とよく話し合ってみましょう」


「クワイ=ガン?」
庭のベンチにいたオビ=ワンは姿を見かけて手をあげた。
大またで近寄る年かさの男に親しげに笑いかける。
「今日は遅かったんだね」
「ああ、明日テンプルからのヒーラーが着くと連絡があったんだ」
「ヒーラー?」
オビ=ワンはクワイ=ガンを見上げながら金褐色の睫毛を数回瞬かせた。
「僕を治しに来てくれるのかな?」
「そうだ」
「よかったね、クワイ=ガン」
「そうだな」
クワイ=ガンはベンチのオビ=ワンの側に腰を掛けた。

「身体が悪いわけじゃないのに、記憶が戻らない為ここに足止めされてるみたいで、悪いような気がしてた」
「私はそんなふうに思ったことはなかった」
「クワイ=ガンは僕にとても親切にしてくれたから」
「私達は――、当然のことだ。オビ=ワン」
「でも、僕はすごくうれしかった」
「……日頃の私が、あまり親切でなさそうにも聞こえる」
「クワイ=ガン?」
「冗談だ」
クワイ=ガンは軽く手を振ったが、少しばかり真顔になった。
「考えたら、実際はそうだったかもしれん」
「え?」
「――以前はいろいろあったし、分かり合えるようになったのはお前が大人に近くなってからだ」
「そうなの?」
「ああ、今のお前がみているのは私の一面にすぎん」
「でもあなたは――」

 オビ=ワンは手を伸ばしてクワイ=ガンの手を握った。
「以前はともかく、今は僕をとても心配してくれていることがわかる」
澄んだ暖かいフォースがオビ=ワンから立ち昇り、二人を取り巻いていた。

続く

 
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