The Behind of the Moon1 ― 君を捜して ―
 
「オビ=ワンが記憶を喪った、だと?」
通信用モニターの向こうで、褐色の肌の精悍な評議員の眉が寄り、口調が変わった。

「いや、使われた自白剤は治療法も薬もわかっているから、心配はない。一時的なもので、個人差はあるが数日から半月程度で回復するとのことだ。しかし、任務は済んだが、それまでこちらで治療する必要がある」
「了解した。こちらからもヒーラーを送ったほうがよかろうな」
「そうしてもらえればありがたい」

 メイスとの通信を終え、クワイ=ガンは立ち上がった。
師弟はある惑星で拉致された重要人物の救出に向ったが、助ける直前、内通していた政敵の手下に密告されてしまった。それでもオビ=ワンはなんとか人質を助け出したが、自分は捕えられてしまった。クワイ=ガンが駆けつけ時は、自白剤を投与され意識不明となっていた。

 病院の専門医から面会の前に話があると言われていた。
「オビ=ワンの意識は戻りましたが、やはり、記憶がありません。様子を見て薬を投与しています。効いてくれば次第に記憶が戻ると思います。今は、とにかく本人に不安を与えないようにしなければなりません」
「会えるだろうか?」
「実は、ある程度記憶が戻るまで、知り合いには会わせない様にしています。無理に戻させようとすると、かえって混乱して良くないのです」

 豊富豊富な医師は、厳しい表情ながら丁重に接してくる、圧倒的な存在感を漂わせたジェダイを見上げた。
「ですが、ジェダイは特別な力があることは私も聞いた事があります。患者に安心を与えるように接していただけるならよろしいでしょう。実は、オビ=ワンの意識は子供ぐらいになっているのです」


 クワイ=ガンはオビ=ワンの病室に入った。
明るい清潔な個室で、窓からはよく手入れされた病院の庭が見えた。
オビ=ワンはクリーム色の寝巻きを着て、ベッドに上半身を起こし、カップで何かを飲んでいた。側には看護用のドロイドが控えている。

 オビ=ワンは1日バクタに入ったおかげで、捕えられた時の傷や打ち身はほとんど治っていた。顔色も健康とはいえないが、だいぶ戻っていた。解かれたブレイドは、長すぎて邪魔だとでも思われたか、おそらく世話にあたった者の手で幾重にか巻かれ、うなじのあたりでまとめて細紐で留められていた。

 入ってきたクワイ=ガンを振り向いたオビ=ワンの表情には見慣れた親しげな風は微塵もみられず、開かれたその薄い灰色の大きな瞳は見知らぬ人を見る怪訝な色をしていた。

 不安や警戒が浮かんでないのがせめてもの救いだった。クワイ=ガンに弟子を救えなかった悔いが湧き上がり、己を激しく責めさいんだ。

「具合はどうかな……オビ=ワン」
クワイ=ガンは表情には心中をださずに、努めて穏やかに口を開いた。
「痛くはないけど、ちょっとぼんやりしてる……」
クワイ=ガンは僅かにオビ=ワンのフォースを感じたが、それはまだ弱く、とらえどころがなかった。

「ドクターが僕をよく知っている人がくるっていったけど、あなたがそう?」
「ああ、私はクワイ=ガンだ」
「僕はあの、オビ=ワンっていうの?」
「そうだとも」
「名前も何もわからないんだ。ドクターはちゃんと思い出せるから心配ないっていうんだけど」
「君は事故にあって、一時的に記憶がないんだ。私がついているし、安心していい」
クワイ=ガンを見上げるオビ=ワンの青灰色の瞳に安堵の色が広がる。
「クワイ=ガンはあの、僕の家族?」
「血のつながりはないが、家族に近い。家に帰れば、おまえの友人もたくさんいる」
それを聞いたオビ=ワンは少し笑みを浮かべた。

 おそらくは10歳ぐらいの子供の意識に戻っているオビ=ワンの、普段でも童顔のその笑顔が、寄る辺ない子供がようやく縋るものを見つけたように感じられ、クワイ=ガンの心を揺さぶる。

 クワイ=ガンはベッド脇の椅子に掛け、そっとオビ=ワンの肩に手をのせた。
「数日で記憶は戻るそうだから、それまで無理をしないで、ゆっくりすればいい。何か、欲しい物とかはあるかな?」
「今はないけど、ありがとう。クワイ=ガン」
年かさの男の好意に無心で礼を言った少年に、クワイ=ガンは胸を突かれる思いがした。
オビ=ワンを弟子にした頃の思い出が甦る。いや、弟子にするまでの忘れるはずもない数々の出来事を。

 
 ジェダイは礼節を重んじ、年長者には敬意を払う。特に師と修行中の弟子の間は絶対的だ。パダワン候補として初めてテンプルで話をしたときも、その後、フォースに導かれてバンドメアへ旅した時も、オビ=ワンは常にクワイ=ガンに畏敬をもって接してきた。後のないオビ=ワンが何度も弟子にして欲しいと懇願してきたときも、いつもオビ=ワンからはそれが感じられた。漸く念願叶って正式の弟子になってからもオビ=ワンの態度は変わらなかった。

 親しみやすさというよりは、尊敬と恐れ、オビ=ワンには自信と自己嫌悪が同居し、その不安定さがどういうわけか師と二人きりの時に限って現れた。寡黙なクワイ=ガンの弟子を見る視線やささいな仕草に、容赦ない評価がこめられているような気がして、オビ=ワンはいつもクワイ=ガンに気を使っていた。

 クワイ=ガンはそれが新米パダワンのあるべき姿と思っていたし、まれにオビ=ワンが友達といる姿をみかけ、歳相応に無邪気で屈託のない態度や笑顔を見せていても、ずいぶん幼げに見えるという印象をもった程度だった。

 あの頃のオビ=ワンは、やっと弟子にしてくれたクワイ=ガンの一挙手一投足に神経を尖らし、神経を張り詰めていたのだと、今にして思う。

 別離と、クワイ=ガンの元弟子でダークサイドに落ちたザナトスとの一連の戦いを終え、二人の絆が戻った時には、オビ=ワンは気の短さを克服し、忍耐を身につけていた。クワイ=ガンの気づかないうちに、いや弟子を手離していた時に、オビ=ワンは辛い経験から自身で学び、再びクワイ=ガンの側に帰ってきたときには、もうとうに子供の時期を脱していた。

 
 面会時間は限られていた。
あせることはないのだ、とクワイ=ガンは自分に言い聞かせた。
子供らしくなっている意外はオビ=ワンは正常だ。記憶はないが、普通に自分と接している。不安はあるが、医者は記憶が戻ると明言していた。

「明日は何かお見舞いを持ってこよう。おまえは甘い物が好きだからな」
オビ=ワンの顔が輝く。
「クワイ=ガンは僕をよくわかってるんだね」
自分に向けられた真に嬉しそうな笑顔に、愛しさがこみあげる。が、それは相反する疼くような後悔をもクワイ=ガンにもたらした。
自分は弟子にしたときのオビ=ワンの歳相応の子供らしさを見逃してしまったのだ。しかも故意に。



続く


 ユアンファンの方のサイトで見かけた少年ユアン。髪も短くてもうかっわいいのなんの!13歳のオビはあんなだったんでしょうねv
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