Long Goodbye 3       
 
 惑星ナブーの女王アミダラは、通商連合によって封鎖されたナブーの窮状を訴えにコルサントにやってきた。が、共和国元老院は何ら効果的な手段を見い出せず、無駄な議論ばかり続いていた。ジェダイの任務は継続中で、今後の展開はまだ予測がつかない、師弟はいわばテンプルで待機中だった。

 恋人になったときからの決め事で任務中は師弟に徹してきた。今は自分達の住まいにいても任務中なので、二人きりでも師弟の関係をくずさなかった。
むしろオビ=ワンはホッとしていた。ベッドを共にしてフォースを開放すれば、いまだ克服できない心中の恐れをクワイ=ガンに悟られてしまう。

 クワイ=ガンが元老院の動きに会わせてカウンシルと協議を続ける中、オビ=ワンは普段より長時間、瞑想と身体のトレーニングに打ち込んだ。くたくたになるほど身体を酷使すれば夢もみず余計は事も考えずに眠れる。

 クワイ=ガンは、弟子が自分なりにそういった方法をとっていることを察し、黙って見ていた。

そんな日が何日か過ぎた頃、ヨーダからクワイ=ガンに連絡があった。


「何がおきているかわかっておるのか?おぬし達にの」
開口一番問い掛けられた言葉に、クワイ=ガンは瞑想室の戸口に立ったまま、肯いた。
「予想はしていた、ただ――」
クワイ=ガンはヨーダと向かい合うように瞑想用のクッションに腰を降ろし脚を組んだ。
「オビ=ワンの動揺が大きい。シールドを固く下ろして、私に知られまいと必死に押さえ込んでいる」
「何をじゃ?」
「卒業することではない。強い恐れを抱えていて、それがあの子供に会って――」
クワイ=ガンは眉を寄せ、顎で手をさすった。
「宇宙にバランスをもたらす者か」
「そうです、ヨーダ。あの子は選ばれし者です」
「おぬしのフォースがそう告げておるのじゃろう、それはよい」
「あなたほどの人が否定されるのですか?」
「否定も肯定もせぬ、今の段階ではわからぬ」
「せめてチャンスは与えられるべきでしょう。誰も引き受けないなら私が導く」
「おぬしは今の弟子を卒業させねばならん」
「わかっています。オビ=ワンは充分その資格がある」
「が、最後まで何がおきるかわからんじゃろう。前の弟子のようにの」
「……」
「おぬしはフォースに従って結果のみを見ようとする。が、それに至る過程をおろそかにすれば、結果すら変ってこよう」
「ヨーダ、私は決してそんなことは!」
「オビ=ワンの心を開いてのちトライアルに望ませねばならん」
「……わかりました」
苦いものを飲み込んだようなクワイ=ガンの表情を大きな目を見張ってのぞいたヨーダは突然笑い出した。いかにも愉快そうに高笑いするヨーダに、クワイ=ガンは不審そうにいよいよ憮然と眉を寄せる。
「おぬしはいつまでたっても変らんの」
「ヨーダ……?」
「オビ=ワンとの絆がこれまでのどの誰とも違うのはわかるはずじゃ。おぬしはそれに慣れて、黙っていてもあれがわかってくれると思っておったのじゃろう」
「……」
「図星じゃの」
ヨーダはますますおかしそうに顔を綻ばせた。
「おぬし達、始めは一筋縄ではいかんかったが、今もそうとはの」
「私に何をしろといわれる?」
「師弟になった当時を覚えているか?」
ヨーダの問いかけにさらにクワイ=ガンの眉が寄った。
「初心に、返るがよかろう」


 ヨーダとの話を終え住まいに戻ったクワイ=ガンに、アミダラ女王がナブーへ帰還すると連絡があった。命がけでナブーを脱出し、不時着した砂漠の惑星でも多大な危険を冒してコルサントへたどり着いたのに、女王はあっさりと数日で戻るという。


「議長や議員が引きとめたが、女王の決心は固い。むしろ彼女から元老院を見限ったようだ。ここでのうのうと待つよりは、自ら戦うと言ってのけたそうだ」
クワイ=ガンは再び評議会室を訪れていた。
「為政者として見上げた心がけだが、このままでは戻っても勝算はない」
「手を引くか?」
クワイ=ガンはメイスをみて苦笑を浮かべた。
「カウンシルが反対したら、天邪鬼な私がかえって女王を擁護するとでも思ったか」
「通商連合のナブー侵略を許せば共和国の民主主義の脅威となる」
「――このままでは無理だが、女王は考えがありそうだ」
「ほお」
「いずれにしろ、私とオビ=ワンは女王に同行する」
「わかった」

ローブを翻して出て行くジェダイマスターに、メイスは軽く手を挙げた。
「フォースが共にあらんことを。ああ、クワイ=ガン、あの子供はゲストエリアで預かっているんだったな」
そうだ、と長身の男は振り返り、一瞬、思案気に眉を寄せた。
「――いや、連れて行こう」
「何だって!」


 女王一向とジェダイを乗せた宇宙船はあわただしくコルサントを飛び立ち、ナブーに向っていた。
オビ=ワンは師が出発直前にアナキンを連れて行くと告げたとき、とっさに反対を唱えずにはいられなかった。

「子供には危険すぎます!」
「お前は見てないだろうが、あれは普通の子供じゃない。大丈夫だ」
それほど気に入ったんですか、と口に出しそうになるのをオビ=ワンはぐっとこらえた。
「まだ、何の訓練も受けてないでしょう」
それに、とオビ=ワンは挑むようにクワイ=ガンを見上げた。
「あの子はジェダイになるには、大きくなり過ぎています」
「今、その話はおいておこう」
「はい……」
いくら言っても無駄なことはわかっている。クワイ=ガンがこうと決めたらオビ=ワンはそれを受け入れるしかないことも。


 プラットフォームにぽつんと小さな金髪の少年が立っている。
クワイ=ガンは側に寄り、笑顔を浮かべて子供の目の高さに合わせようと膝をかがめた。
その師の姿を見、オビ=ワンは無言で背中を向け宇宙船に乗り込んだ。

 コルサントで念入りに修繕された女王専用機は順調にナブーは向っていた。
オビ=ワンは忙しく立ち動き、これからの任務に集中しようとしていた。
クワイ=ガンはいつも通り、口数少なく弟子を見守っているだけだった。

ワープを抜け、ナブーが近づいてきた。オビ=ワンは窓のある通路で外を見ていた。

 クワイ=ガンのフォースが近づいてくる。オビ=ワンは振り向かなかった。
「お前の一番の望みはなんだ?」
何の前置きもなく、背後のやや高い位置から低い声がゆっくりと問い掛けてきた。
「ジェダイであること。いずれ、立派なジェダイになることです」

 弟子は静かに振り向き、師の目を見上げた。
「マスターが誇れるような」
「そうだな、お前はきっとそうなれる」
「マスター……」
「間もなく一人立ちしてその一歩が始まる」
「――はい」
「不安か?」
「まだ、わかりません。マスターはどうでしたか?」
「ふむ」
クワイ=ガンは、一瞬遠くを思い出す目になった。
「ずいぶん前のことだが――晴々としたな」
「はぁ……!?」
「多少心細くもあったが、これからは何でも自分で決められる思った」
「そんなもんですか」
ヨーダの直弟子で、高名なジェダイであるマスタードゥークーとクワイ=ガンの関係は、うすうす感じてはいたが、自分達とはずいぶん様子が違っていたようだ。
「むしろ大変だったのは、弟子をもってからだ」
「――私にはずい分先の話です」
「他人事ではないぞ。お前もすぐそうなる」
クワイ=ガンは笑って、オビ=ワンの金褐色の短い髪を手でくしゃりとなでた。

「私の望みは何だと思う、パダワン?」
とたんに、いったん緩んだオビ=ワンの表情が再び固くなった。
「あの子を、弟子にして訓練する事ですか?」
いや、とクワイ=ガンは首を振った。
「アナキンをジェダイにするべきとは思うが、私でなくとも構わない。私が真に望んでいるのは――」

クワイ=ガンはオビ=ワンの目を見て、言い聞かせるように言った。
「自分を受け継ぐものを育てることだ」
「マスター……」
「お前が望みをかなえてくれた。これでいつ消えてもいい」
「何て事をおっしゃるんですかっ!」
打って変わったオビ=ワンの口調にクワイ=ガンは目を見張った。
「ものの例えだ。私はもう若くない、引退とか老後を考えてもおかしくないだろう?」
「あなたは、あなたはそんなことふさわしくありません。らしくないこと言わないでください」
「そう言ってくれるのはうれしいが――」
「年齢なんか感じさせないし、体力だって私と変らないし」
「わかったから、そうむきになるな」
「だって」
クワイ=ガンはふっと笑った。
「師に育てられ、弟子を育てた。アナキンは私が見つけた以上、未来を開いてやらねばならんが――お前がこれほど成長してくれたのだから、思いを残す事はない」
「マスター」
「穏やかな老後、ベッドで迎える平穏な死など望まない。私がそうなったら、先にいった者たちに散々文句を言われそうだ」

「その時側にいてくれたなら、お前に看取って欲しい、オビ=ワン」
「クワイ=ガン」
「どんな最期であろうとも」
「……イエス、マスター」



続く

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