Long Goodbye 4       
 
 クワイ=ガンは今までの会話などおよそなかったような穏やかな笑顔で、オビ=ワンの肩に手を乗せた。
「マスター……?」
クワイ=ガンは手を伸ばし、オビ=ワンの長いブレイドを持ち上げ、顔を傾ける。
一瞬、金色の髪の毛先がクワイ=ガンの唇に触れ、すぐに戻された。

 その瞬間、オビ=ワンの脳裏に自分達が師弟の絆を結んだ日の事、クワイ=ガンがオビ=ワンを弟子にした瞬間がまざまざと甦った。


「お前をパダワンとして受け入れるのを名誉に思う、オビ=ワン・ケノービ」

 あの時感じたのは、想像していた誇らしさではなく、フォースが自分達の周りを取り巻いていた事だ。それはクワイ=ガンとオビ=ワンのフォースが溶け合いひとつになった、決して他にないこの宇宙で只ひとつのフォース。

「お受けします、マスター、クワィ=ガン・ジン」

 互いにあの日が甦ったのを感じた。いや、正確には二人はまったく同じ想い思考を共有していることがボンドを通じて伝わってきた。

 互いの湖水色の瞳を深い海の瞳を見ているのは、クワイ=ガンであると同時にオビ=ワンだった。時間の長さなど便宜上区切ったものに過ぎない、師弟が出会ってから今日までのことがすべてが一度に溢れ出し、水の流れのように取り巻いていた。


「そろそろ着くな」
「はい」

 クワイ=ガンの手が静かにオビ=ワンの肩を離れていく。クワイ=ガンがオビ=ワンのブレイドに口づけたのは、現実だったのだろうか?が、身体に深く染み入ったフォースの余韻に満たされたオビ=ワンにはどちらでもかまわなかった。


 わかっていたのだ。生あるものすべてが形を変えるように、師弟の関係も卒業があることを。そしてクワイ=ガンとの別れがあることを。師弟の関係を解消したのちも、変らずにいて欲しいと願う執着。それはオビ=ワンにとって、その執着がクワイ=ガンの死のイメージと結びついて、動き出してしまった歯車を止めようとあがいていた事も。

クワイ=ガンはそれを知らせてくれた。最期を看取ってくれと言った。弟子は師の死を受け止め、乗り越えられると信じているのだ。

そうして今わかった何よりも大事な事。言葉も空間も、時間さえ超えた自分達の絆はフォースのある限り、決して変らない。


 師が跡を継ぐ者といってくれた自分は全力をつくして任務を果たし、トライアルにのぞもう。クワイ=ガンがアナキンを選ばれしものと信じるなら、きっとカウンシルも認めてくれる。その時は陰ながら力になれたらいい。

オビ=ワンは女王の下へ向うクワイ=ガンの後を追って歩みを速めた。



 ナブーの湖のほとりで、オビ=ワンは礼儀を重んじるジェダイパダワンらしく、きちんと言葉にしてマスターに謝罪した。
「私はマスターに逆らうべきではありませんでした――」
クワイ=ガンは少しも驚かないばかりか、わざわざ言葉にした弟子の生真面目さを面白がっているようだった。
「お前は私をこえる立派なジェダイになるぞ」
うれしそうに、笑顔で肩を抱いてくれた。かるく抱かれたクワイ=ガンの大きな身体から、慣れ親しんだ温もりがオビ=ワンに伝わってきた。

それが、二人きりで言葉をかわした最後になった。


 クワイ=ガンを火葬で送ったのち、オビ=ワンはグランドマスター・ヨーダの前に、膝を折っていた。師を死なせたシスを打ち倒した功績により、オビ=ワンをナイトに昇格させると告げられたのだ。オビ=ワンは慎んで受け、アナキン・スカイウォーカーを新たに自分の弟子にしたいと願い出た。

 さすがにヨーダもしぶったが、オビ=ワンの決意が固いと知り、しまいにはあきらめたのか、揃って頑固な師弟だと言って許してくれた。オビ=ワンにとっては、クワイ=ガンの跡を継ぐ自分への何よりのはなむけだった。


「あの男は、逝ってしまったの、オビ=ワン」
「はい」
「最後まで驚かせおって」
オビ=ワンは黙って微笑んだ。
「あれは未練がましいやつでの」
「は?」
「ぐずぐずとお主を手放さなかったと思えば、あっさり拾い物を押し付けて逝きおった」
「マスター・ヨーダ!」
「フォースに還ってもおとなしくしてるかあやしいものじゃ」
ずいぶんな言い草だが、殺しても死にそうもない、などと憎まれ口をたたかれたクワイ=ガンなら妙に納得できそうな気もする。

ふと、オビ=ワンは齢800才に近いというヨーダに聞いてみたくなった。
「フォースに還ったジェダイをたくさんご存知でしょうね?」
「そうじゃのう――」
ヨーダはギマースティックに両手を掛け、瞼を伏せ、遠い昔を思い出すかのようにゆっくりと口を開いた。
「わしは、どのジェダイも遠くへ旅に出てるような気がしておる」
「……わかるような気がします」
オビ=ワンも若いながら、これまで何人もの仲間も失ってきた。
「いつかひょっこり還ってくるかもしれんの」
「ヨーダ……?」
「そう、おもわんかの、オビ=ワン」

大きな瞳がオビ=ワンの心中まで見通すように向けられている。
「ええ」
オビ=ワンは肯いた。自分もいずれフォースに還る。その時にクワイ=ガンに再会できると信じているオビ=ワンに迷いはない。
「私もそう思います」

それまでは、長い別れが待っているだけだ。



END


 



【 おまけ 】
※ 砂漠新婚バージョンです。せっかくシリアスで終わったのに、ぶちこわしてんじゃん!と思われる方は避けていただいたほうがよろしいかと……

そんな二人もいいじゃない。むしろへたれなマスターが好き、という方はどうぞ。
                     ↓





























































You and I   いつもあなたと



 タトゥイーンの砂漠暮らしのある日、幽体のクワイ=ガンとオビ=ワンの話が、いつしかオビ=ワンのナイト昇任式の思い出になった。

「マスターの代りに、ヨーダがブレイドを切ってくださったんです」
『そうだったな』
「ではあの、やっぱりあの時、居て下さったんですか?」
『まあな』
「切り落とされる瞬間、マスターのフォースを感じたんです。誰にもいわなかったけど、マスターが来てくれたに違いないと信じてました」
『……おそらく、ヨーダとカウンシルメンバーあたりは察していたと思うぞ』
「ああ、フィースの勝れたジェダイマスター方はあなたを感じられたんですね。私はまだ未熟で残念でした」
『いや、おまえがあれ以上わからなくてむしろ良かったかも知れん』
「何故です?」
『あいつら、いち早く私を感じて、余計なことしでかさないよう、お前の周りにシールドを張ったんだ。私はやっとあの瞬間だけお前に近づけた』
ということは、オビ=ワンの知らないうちに、静かなフォースの戦いが繰り広げられていたというのか?
「――でも、ヨーダはそんなこと一度も」
『ふむ、いつまでもお前のまわりにいないでさっさと成仏、もといフォースの訓練にいってこいと追い払われたからな』
オビ=ワンは唖然として、青く輝くフォース体のクワイ=ガンを眺めた。

 自分があれほどマスターに先立たれる恐れに苦しみ、やっと乗り越えたのに、この人は黙って側にいたのか?
「スートーカーしてたんですね?」
『人聞きが悪い、私はお前とアニーが心配で』
「だったら、ヨーダを通じてでも、知らせてくれればよかったんです」
『そのうち一定以内に近づくなと釘さされて、あきらめて仕方なく訓練に向ったんだ』
「つまり、邪魔されなければ側にいたと」
『多分』
オビ=ワンはがっくりとうな垂れた。
「……しばらく、一人にしてください」
青い影は、かき消すようにオビ=ワンの視界から消えた。


 数日後、
『オビ=ワン……?』
おそるおそる、日課に励むオビ=ワンの前に姿を現したクワイ=ガンは、いつもと変らぬ穏やかな表情をみて胸をなでおろした。
「こんにちは、マスター」
ちょっと照れくさそうに見あげる青い瞳は、昔と変らず美しい。

「先日は失礼しました」
『いや、私もこれまで黙っていたからな』
「あれから考えたんですが、マスターがこっそりストーカーしてたのは――」
『おい』
「むしろ私を思っていてくれたのだから、喜ぶべきじゃないかと思い直したんです」
『良いほうにとってくれるのか。お前、前向きになったな』
「師匠はシスに殺され、弟子はダークサイドに落ち、家も仲間も失って一人で生きてるんです。前向でなきゃやってやれません」
『……たしかに』
「それでですね。いつまでも引きこもっているよりは、ルークを見守りながら、少しずつ外に出ようと思うんです」
『近所付き合いでも始めるのか?』
「――前から聞いてたんですけど、有志や残ったジェダイと連絡して反乱軍をサポートしようと思います」
『では私もいっしょに――』
「あなたは私にしか姿が見えないし、独り言ばかりいう変人と思われるのも困りますから、ルークの見守りと家の留守番お願いしますね」
『……』
「そんな眉下げてもだめです。黙ってついてきても解りますから、無駄ですよ」


 オビ=ワンが出かけた後、クワイ=ガンは隠遁したヨーダを尋ねた。
「仕事を口実に、今までさんざん好きかってに家を空けてた亭主が定年になり、さあこれから苦労掛けた妻と水いらずで楽しもうと言うようなもんじゃな。じゃが、妻は亭主の留守を一人で乗り切ったので力もついたし、自分の交遊関係もある。反対したり、余計に干渉すれば、離婚を突きつけられかねんぞ」
愚痴を零すクワイ=ガンをヨーダはこういって諭した。


お終い

 書き終えて思ったこと。親の反対を押し切って結婚した娘が案の定苦労し、亭主には先立たれ義理の子まで押し付けられてしまう。育てた義理の子に裏切られ、傷心の娘のところへ死んだはずの亭主がひょっこり帰ってくる。廻りは構うなと言っても、娘の愛は変らないので、本人達が愛しあってるならと、仕方なく親も許してとにかく最後はハッピーエンド。−−そうか、私は親の気分なんだ(笑)
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