The Touch 2         
  
 「ヨーダ!」
オビ=ワンは目の前の懐かしい姿をみて声を上げた。
それはクワイ=ガンとおなじように、青く透けている。

「どうされたんですか!あなたの身体は?」
『心配いらん。死んではおらんぞ』
『ヨーダの身体は、今はダコバで寝ているような状態だ』
『一時的に身体から抜けて、ちょっとお前の様子をみにきたんじゃ』

オビ=ワンは大きく息を吐き出した。
「そうでしたか。訓練で可能になったんですね。狭いところですがようこそ」
『元気そうじゃの。若返ったようにみえるぞ』
ヨーダはちいさな身体をちょこんとテーブルにのせ座った。

「そんなことはないと思いますが、ダコバはいかがですか?」
『ここと反対じゃ。湿気が多く、水辺と霧』
『ヨーダの家の天上の低さは、どうにも耐えられんな』
『いまさら、ぶつかる心配はないはずじゃぞ』
『その代わり、素通りした頭は天井を突き抜けますよ』
やりとりを聞いていたオビ=ワンは、クワイ=ガンの苦い表情に、必死に笑いをこらえた。

『お前もダコバへ行けばわかる』
「では、すぐにでも訓練をしたいですね」
『難しくはない。が、いつも使うというわけにはいかない』

 生存している身体から一時的にフォース体だけを離す方法、霊体離脱という。マスター級のジェダイなら困難ではない。フォースの霊体は時空間を瞬時に超えられる。しかし、危険も多い。その間、残された身体はまったくの無防備となってしまう。又、霊体が遠くへ行き過ぎて戻れなくなることや、途中で強いフォースや念に囚われ抜け出せなくなる危険もある。

『何回か試しての。今日はクワイ=ガンにエスコートされて遠くまできてみたわ』
『ちゃんと言ったらどうです。おぶってもらったと』
「おぶった。そんなことが出来るんですか?」
『重さがあるわけではないが、離れないために。帰りは手をつなぎますか?』
『ウーキーにも負けないお前の身体なら、おんぶかだっこがいいのぅ』
オビ=ワンはこんどこそ吹きだした。


『ルークはどうしておるかの』
「元気でたくましく育ってますよ。会いにこられたのでは」
『ふむ、あまり長居はできんのじゃ。この次にしよう』
クワイ=ガンが静かに立ち上がり、ヨーダに腕を差し伸べた。
『帰りはだっこじゃぞ』

 クワイ=ガンは僅かに苦笑しながら小さな子供を抱くように――実際、ヨーダの身体は子供並だが――偉大なジェダイを抱き上げた。
ヨーダは軽く笑い声をあげながら、3本の長い指で長身の男の衣につかまり、オビ=ワンに顔を向けた。

『ではまたの、オビ=ワン』
「ええ、ヨーダ。あなたの家を訪ねるのが楽しみです」
小柄なジェダイは高い笑い声をあげ、その余韻は二人の姿が消えても残っていた。


 二日後の晩、クワイ=ガンが姿を見せた。
「お帰りなさい、クワイ=ガン。ところで、ダコバはよほど遠かったんですか」
『あの後、ヨーダの身体の様子を見ていたんでな』
「何かあったんですか?」
『いや、だが離脱の後は、霊体が身体にもどって目覚めた後、疲労が残る。平常になるまで見守っていた』
「そうなんですか…」
『訓練が進めば加減もわかるし、疲労も軽くなるとは思うが、リスクもある。お前もよく承知しておいてほしい』
「イエス、マスター」


次の日から、二人は新たな訓練を始めた。

オビ=ワンは寝るときと同じようにベッドに横たわり目を閉じた。
『では、始めよう』
側に立つクワイ=ガンの低い声がする。
『イエス、マスター』
寝姿で瞑想するのはめったにないことだが、霊体が離れた身体を最も安定に保つにはその姿が最適と言う。
オビ=ワンはフォースを呼びさまし、いつものようにその流れに意識をゆだねた。

 ややあって、押さえた声がした。
『身体を動かさずに、意識に命じるんだ。そのまま、ゆっくりと身体を起こせ』
クワイ=ガンが見守るオビ=ワンの姿から、淡い光をまとった青く透き通る影が現れた。
『立てるか』
青い影は縦に動き、クワイ=ガンよりやや低い高さで立ち上がった。

『よろしい。静かに目を開けて』
オビ=ワンの目に映ったのはいつものクワイ=ガンと室内。クワイ=ガンが目線である方を示した。
『!……』
そこには横たわるオビ=ワン自身がいた。


『さて、今お前の霊体は身体から離れた』
『自分で自分をみるのは、なんとも不思議です』
『始めは、誰もそうだ。動いてみるか』
『ええと、歩くんですか』
『いや望めばいい。例えば、家の外に出てみるか』

 いわれて意識にのせた瞬間、オビ=ワンの青い影は戸外にあった。
側にはクワイ=ガン。
『こういうことだ』

 オビ=ワンは淡い明りがもれる小さな住いを振り返った。あの中に自分の身体が寝ているのはひどく奇妙な気がした。

 ゆっくりと辺りを見わたす。見え方や光景も生身で見ている時と何ら変わりないように思える。オビ=ワンは向かいの小高い岩山を見上げた。何度か上に登ってみた事がある。

――あそこに行ってみようか。その途端、オビ=ワンは岩山に立っていた。見わたすと黒い稜線の連なりが、闇の中でかすかにうかがえる。
クワイ=ガンもすぐ側に立っていた。

『なるほど』
『歩く必要はないんだ。意志が身体を運んでくれる』
『見える範囲ではまさに一瞬ですね。では遠くへ行きたい時は――あ…?わっ!』
『オビ=ワン!』

 オビ=ワンは宙に浮いていた。足が地面に付いていない。霊体でもさすがに地に足が付く感覚はわかる。今は足元になにもない。はるか下に平らな荒野が広がっている。

『高度なら数百といったところか』
オビ=ワンは推定してみる。
『この景観なら目標地点はどの方向かな――』
『考える前にとっさに飛び出すのは悪い癖だ。パダワン』
『ああ――。すみません、マスター』
口を結んだクワイ=ガンの表情を見上げて、オビ=ワンはすまなさそうに謝った。
二人はともに虚空に立っている。

『ルークのところだろう』
オビ=ワンは肯いた。
『さすがに、一瞬では無理でしたね。けっこう離れてますから』
『いや、農場はもう見えるはずだ』
『どこですか?』
『こちらだ』
クワイ=ガンはオビ=ワンの肩に手をかけて向きを変えた。

『白っぽい地面にいくつか建物があるのがわかるだろう』
『――ええ』
突然、オビ=ワンは肩におかれた手の感触を感じてクワイ=ガンを見上げた。

『肩にさわってるんですね?』
『ああ、重いか』
『いえ、でもわかります』
『霊体同士なら、触れ合うことはできる』
『そうですか。あ、それでヨーダを連れてこられたんですね』
『おんぶや抱っこする必要はまったくないんだがな』
オビ=ワンは小さく笑う。

『ヨーダは子供の頃から知っているので、テンプルでは近寄りがたい存在だったんですがね』
『テンプルも評議会もない今は、グランドマスターの威厳など必要ないさ』
『そうですね。うれしそうに抱っこされてる様子は、何だか可愛いかったですよ』
クワイ=ガンは苦笑しながら、手で下方を指し示した。

『あれが、ラーズの農場だろう。降りるか』
オビ=ワンは肯いた。



続く


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