The Touch 1         
  
 タトィウーンの二つの太陽のまず一つが地平線から昇り、一条の光を投げかける。オビ=ワンは目覚め、静かに起き上がった。身づくろいをしてから、まずささやかな住いの周りを見て回る。その後、質素な食事をとる。

その頃には二つ目の太陽が顔を出し、昇るにつれ、強烈な日差しがこの惑星の乾いた荒野を染めていく。

 食事を終えるころ、オビ=ワンが外に面した白い柱の間に目をやると、いつものようにクワイ=ガンの青白く透ける、フォースと化した姿があった。

「おはようございます。クワイ=ガン」
「おはよう。オビ=ワン」
笑顔で迎えられ、クワイ=ガンは小さなテーブルごしにオビ=ワンと向かい合って腰掛けた。

『今朝、サーチ・フィ=エックが、惑星スピカγでフォースに迎えられた』
それは、生き残って銀河中に身を潜めているジェダイの一人が死んだ事を意味する。
自身も肉体の死をむかえフォースの一部と化したクワイ=ガンは、フォースの強いジェダイが亡くなると、それを感知することができた。

 そのジェダイはオビ=ワンも知っていた。長く前線で戦っていた勇敢なエイリアンで、大戦前はテンプルで何回か顔を合わせていた。

『スピカγはスピカの衛星だが、帝国軍はスピカγをジェダイごと破壊した』
「衛星を丸ごと!?帝国軍はそんなことまで」
『ミサイルを雨のように打ち込んだ。手段を選ばぬやり方だ』

 オビ=ワンは息を吸い込み、吐き出した。
「指揮をしたのは――」
『シス卿、ダースベイダー。今や皇帝の第一の側近だ』
「アナキン……」
『ダークサイドに墜ちる前はな』

「このタトゥイ―ンも、ヨーダのダコバも、もしナブーもアナキンの子供がいると知れたら、惑星ごと破壊されるかもしれませんね」
『それはない』
「どうしてですか?」
『ダコバは人の住める環境ではないし、こことナブーはアナキンとパドメの身内がいる。ベイダーは思い出したくないし、近寄る気もしないはずだ』
そうですか、と呟いてオビ=ワンは立ち上がった。


 日課にしている、少しばかりの家事やジェダイのフィジカルトレーニングの間、望めばクワイ=ガンはオビ=ワンの側にいた。話し相手になったり、熟練のマスター・オビ=ワンのトレーニングに口をはさんだりもする。

 寄り添ってさまざまなことを話し合い、日が沈むと、クワイ=ガンに導かれてフォースのトレーニングをする。
全てを失い、未来へのかすかな希望だけを胸に秘めてやってきた厳しい環境の惑星タトゥイ―ンで、オビ=ワンはまったく思いがけない満ち足りた日々を送ることになった。

 マスター・クワイ=ガンのパダワンとして過ごした10数年、そして恋人となった数年間は、忙しくも満ち足りていた。あの頃と今ではあまりにも環境が違いすぎて比較など出来ないが、やっと穏やかに暮せる今の生活と以前の大きな違いは、クワイ=ガンが生身でなくフォースの霊体となったことだった。

 フォースを通じて会話も意思の疎通もできるが、姿が見えてもさわろうとすれば、手は霊体をすり抜けてしまう。オビ=ワンはそれが特に不満というわけでもない。
たまにクワイ=ガンが触れてくることがある。もちろん、感触はないが、指先や唇に込められたフォースに温もりを感じるような気がする。


 クワイ=ガンを失ってから、オビ=ワンは誰とも肉体関係を持たなかった。アナキンの指導や任務で忙しく、機会が少なかったせいもあるが、つまりはそんな気がおきなかったのだ。まして、色恋沙汰や自分の事にはまったく疎い。

「マスターは鈍すぎます!僕が追い払わなかったら、とっくにこまされてますよ」
「パダワン、どこでそんな品のない言葉を覚えた!?」
「男性は脚力で撃退するでしょうけど、あなたのことだから女性の涙とかで捕まりそうですからね」
「そんなことはない!」
「この前の押しの強い令嬢はどうでした。僕が気をきかして緊急呼び出しをしなかったら――」
「……貸しに加えてくれ」
「いくつ目でしたっけ?」
師よりその手のことはるかに気が回ったアナキンによくからかわれ、時には助けられた。

 クワイ=ガンの恋人として過ごした間、はじめは導かれるまま、そうして慣れるにつれ自分から求める喜びを知った。クワイ=ガンはまったく申し分なくオビ=ワンを染め上げ、官能に目覚めさせた。あんなふうに身も心も許し、すべてを分かち合う相手は生涯ただひとり、オビ=ワンは心に決めていた。


『もの足りなくはないか?』
ある晩、訓練を終えてとりとめのない話をしている時、ふとクワイ=ガンが訊ねた。
「それは実体を感じられたらこの上なくうれしいですが――。ひょっとして、トレーニングが進んだら出来るようになります?」
『――肉体で触れ合うとは異なるが、できなくもない。それは、別の次元のトレーニングを積まねばならない』
「では、私のトレーニングがもっと進んだらできますか?」
『おそらくは、リスクを伴なうかもしれんのだ』
「わたしがリスクを気にすると思います?」
『これまでより、さらに時間がかかるだろう』
「辛抱は得意ですよ」

 オビ=ワンは冗談めかして言ったのだが、答えがかえるまでは、間があった。
フォースの霊体のクワイ=ガンは生前と変わらないように見えるが、しいていえば、深い感情を現すことがほとんどない。
ジェダイの死も悲しむよりは淡々とフォースに迎えられと話すし、思慮深くはあるが、悩んだり、いらだったり、激高したりということはまずなかった。

 そのクワイ=ガンが眉をひそめ、しばし思案したすえ、答えた。
『ヨーダと話し合ってみよう』
「マスター・ヨーダは元気ですか?私より訓練がすすんでいるのでしょう」
『ああ、こちらが師のはずなのに、お前にばかりかまけてないで、こっちにも顔を出せと文句を言われた。あいかわらず、口はたっしゃだな』
「それは、すまないことをしました」
オビ=ワンは笑いながら応えた。
「姿が見えるようです。ヨーダはまだまだ長生きしそうですね」


 数日後、クワイ=ガンは夜半になっても姿を見せなかった。
オビ=ワンはクワイ=ガンの時間と空間の概念を聞いていた。基本的には時間も空間もなく、生きている者の側にくるときは、その時間にあわせるが、移動に時間がかかることはほとんどない。もちろん、睡眠も空腹もない。眠りの代わりにフォースの中で保っている己の意識を手放しさえすればいいのだと。クワイ=ガンはオビ=ワンの眠っている時間をヨーダと会うのに当てると言っていた。

 今さら、何かあったはずもないし、あちらの訓練が長引いているか、もしや、又ジェダイが死んだのを感じたのかも知れない。

――帰りの遅い家族を待っているみたいだな――。オビ=ワンはそう思った自分がおかしくて思わずくすりとした。いつの間にか、クワイ=ガンと一緒に暮らしてるような気になっていた。

いずれ、クワイ=ガンがくる。オビ=ワンは窓から見える闇夜を眺めながら、いつものように瞑想を始めた。

『オビ=ワン』
目を閉じたままのオビ=ワンの意識にクワイ=ガンのフォースを通じた声が聞こえる。
「ああ、クワイ=ガン」
『タトゥイ―ン時間では少し遅くなったかな』
「そうでもありません。あなたが来る事はわかっていますから」
『ほう、なかなかいい家じゃな』

 ふいに、覚えのある声音が聞こえてきた。
オビ=ワンはあわてて瞑想をとき、目を開けた。
『ひさしぶりじゃな。オビ=ワン』
はるか遠くの惑星ダコバにいるはずの小柄な姿が、クワイ=ガンの隣りに立っていた。



続く


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