Be My Padawan 15 ― パダワン獲得作戦 ― 
 
 オビ=ワンは公邸の一室でクワイ=ガンがテンプルのヨーダとの通信を終えるのを待っていた。クワイ=ガンは何も言わなかったが、やはり自分が二人の会話を聞くのは遠慮したほうがいいと思ったからだ。 

 一部始終、――ザナトスの事も含めて報告しているはずだ。
やがてクワイ=ガンが扉を開けてオビ=ワンを呼んだ。

 目の前のヨーダのホログラムがオビ=ワンに話し掛けた。
「ご苦労じゃったな。オビ=ワン」
「はいっ、マスター・ヨーダ」
「農場の視察はあまりできなかったようだが、お前達の働きで爆発を防げたのは良かったの」
「ありがとうございます」
クワイ=ガンはヨーダと話す少年を見ていたが、静かに部屋を出、音もさせずに扉を閉めて出て行った。



 クワイ=ガンが自分達が使っていた客室で荷物をまとめていると、オビ=ワンが入ってきた。
「もう済んだのか?」
「はい」
「ここでの任務は終了した。間もなく空港に送ってもらうことになっている。お前も荷造りしたほうがいいだろう」
はい、とオビ=ワンは返事して荷物を手に取った。が、すこしばかりの品物はすぐにバックに納まった。

 オビ=ワンは、今、この場所でクワイ=ガンがパダワンになるよう申し込むと思った。以前から申し込んでくれていたナイト達のことを憚って、クワイ=ガンの申込みを何度も断った。でも、ようやく決心がついた。僕はこの人について行きたい。

 先ほどの通信でヨーダはオビ=ワンにマスターを決めたかと聞いた。オビ=ワンはしっかりと肯いた。ヨーダは誰とは聞かなかった。一言、それは良かったと言っただけだった。


「では、行こうか。コルサント行きの客船はあと数時間で出発だ」
はい、とオビ=ワンは肯く。
「お前はそれに乗り、――私は次の任務地へ小型の宇宙船で向かう」
え、とオビ=ワンの視線がクワイ=ガンの顔を見上げる。
今、この人は何と言ったのだろう。 

 オビ=ワンの大きな瞳は、明らかにクワイ=ガンの言ったことが理解できない、と告げていた。
クワイ=ガンは口元をわずかに歪め少年に話し掛けた。
「オビ=ワン、マスター・ヨーダとは何を話した?」
「僕がマスターを決めたかと聞かれました」
「お前は」
「はい、と言ったら、良かったなと言われました。あとは何もおっしゃいませんでした」
「そうか……」
クワイ=ガン小さく息をついた。



「私はお前をパダワンにしたいと思っていたが、考えが変わったとヨーダに言った」
「……僕があなたに迷惑をかけたので、もう、弟子にする気がなくなったんですか」
少年の声が消え入りそうになる。

「違う!オビ=ワン、お前のせいではない。私のせいなんだ」
「あなたの……」
「今度のことでお前は本当に酷い目にあった。元はといえば、私とザナトスとの関りから起こった事だ。そしてあの男はまた逃走した。これからも私は決着がつくまであれを追うことになる」
「そんなにあの人を」

 クワイ=ガンは頭を振った。
「いや、今私が思っているのは、ザナトスをこのままにしておいては、又どこかで罪を重ねるということだ。それも多くの生命やどこかの惑星ごと脅かしかねない」

 これまでは、とクワイ=ガンは続ける。
「出来ればザナトスに会いたくはなかった。会えばどうしても私の過ちを突きつけられる。だが、再びあれに会って過去に埋めてきた過ちを自分で認めることが出来た。オビ=ワン、ジェダイでも過ちを犯すことはある。お前もそれを見ただろう」
オビ=ワンが肯く。

「これからは任務の間にザナトスを探すことになるが、ジェダイとして重大な犯罪者を見逃せないということだ。が、敵はおそろしく狡猾だ。向うが私を殺すかも知れない」

 クワイ=ガンはオビ=ワンの眼を見て続けた。
「危険とわかっていて道連れにはできない。私は一人で行く。これから先も決してパダワンをとることはない」
それは、明確な宣言だった。
オビ=ワンは自分の足元がにわかに崩れて行くように感じられた。



 空港に向かう乗り物の中でオビ=ワンは無言だった。クワイ=ガンの決心が固いことはわかっていた。それでも、やっと何日もかけて自分が決めた事が一瞬にして覆ったことがまだ信じられない思いだった。クワイ=ガンが自分の為を思ってテンプルに帰るようにしてくれたとしても。

 コルサント行きの大型客船は既に乗船が始まっていた。ぞろぞろと乗客がタラップを登っていく。クワイ=ガンは機械的に手足を動かしているような少年を乗船ゲートまで連れて行った。

「オビ=ワン」
呼ばれてぼんやりとクワイ=ガンを見上げる。長身の男は宥めるように少年に話し掛けた。

「考えてみれば、最初からパダワンにするには無理があったようだ。私はめったにテンプルに戻らないし、辺境の惑星の任務が多い。それも、たいてい危険な仕事ばかりだ。
 お前をパダワンにしたがっているマスターの見当はつくが、皆実績のある、評議会の信頼も篤いナイトだ。あの中の誰が師になっても、お前のいいマスターになるだろう。――パダワンでもないお前をあんな危険に合わせた私などよりずっといい」

「……あなたは僕をパダワンと呼びました」
「あの時は、お前がわたしの為に死のうとしたからだ」
「その前はあなたが僕の命を救ってくれました」
「そうだな。お前を無事テンプルに戻せて私もホッとしている」
この人の考えはもう変えられない――。オビ=ワンは唇をかんだ。

 クワイ=ガンは青ざめたオビ=ワンの顔を見ていたが、大きな手でオビ=ワンの顎を包みそっと上向かせた。深い海色の瞳がオビ=ワンを見つめ、優しく言った。

「私のせいだとはわかっているが、そんな顔をされると尾を引きそうだ。これきり会えないわけじゃない。そのうちテンプルにも帰る。できたらほんの少しでも笑ってくれないか」

 クワイ=ガンの頼みにオビ=ワンは無理に笑い顔を作ろうとしたが、かえって引きつったような笑顔になっただけだった。
今度会うことはあっても僕はあなたのパダワンじゃない――。
眼の縁に熱いものが込み上げてくる。あわてて横を向いた。

 元気でな、とクワイ=ガンが小声で言い、優しくオビ=ワンの短い前髪をなでた。次いで、ほんの一瞬、クワイ=ガンの唇が少年の額に触れた。オビ=ワンにはそれが別れのしるしに思えた。
 ――これが最後。オビ=ワンはこんどこそ顔を見られたくなくて、袖口で顔をぬぐってタラップの方向を向いた。

 オビ=ワンは客船に乗り込むまで後ろを振り返らなかった。クワイ=ガンはその少年の細い背中が船の中に消えるのを下で見送っていた。オビ=ワンは中に乗り込むと、自分の客室には行かずにロビーに急いだ。窓から見下ろすと、長身の男がまだ立ったまま客船を見ていた。が、やがて客の乗船が済むと背を向け、向うに見える小型宇宙船の方向へ歩み去って行った。


 間もなく離陸のアナウンスがあった。――ご着席のまま、お待ちください――。
オビ=ワンはいきなり立ち上がり、荷物をつかんで扉めがけて走った。
「――僕は、僕は違うんです。コルサントには行かないんです。間違えたんです!!」

 乗務員があわてて制止しようとする。
手を向けて、閉じようとする大きな扉にありったけのフォースを注いだ。扉の動きが鈍くなる。
「降ろして下さい」
いうなり扉の隙間から身を乗り出した少年に乗務員の悲鳴が上がる。
「あぶない!」

 すでに、タラップは機体から外されていた。オビ=ワンの身体は地上数メートルの空間に投げ出された。とっさに背を丸め、足元にフォースを集める。オビ=ワンは大した衝撃もなく地上に飛び降りた。

 駆け寄ってくる空港の職員に怪我はないこと、船を間違えたことを何とか説明しながら、オビ=ワンは心の中で名を呼んだ。

クワイ=ガン!クワイ=ガン!僕はあなたといっしょにいたい。

 あたりを見回し、クワイ=ガンが去って行った方向に駆け出した。
全力で走って行くと、今しも小型の宇宙船が飛び立とうとしているところだった。

「待って!!」
今度はオビ=ワンは大声で叫んだ。が、その声も届かず、宇宙船はエンジン音を響かせてそのまま飛び立って行ってしまった。

 ――間に合わなかった。
オビ=ワンは膝を折り、地面にくず折れた。
クワイ=ガンは一人で行ってしまった。オビ=ワンの顔が絶望に歪む。もう、涙も出なかった。



続く
                                                           

  せっかくオビがなびいたと思ったら、こんどはクワイ=ガンがザナトスの脅し(?)でオビをあきらめるか。いや、単に私の趣味でちょっとばかりひっぱりま〜す。


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