Be My Padawan 14 | ― パダワン獲得作戦 ― | ||
クワイ=ガンは衝撃に眼を見張ってオビ=ワンを見つめた。 「それではお前の命が無い!」 「この惑星の、大勢の人の命がかかってるんです」 オビ=ワンはやや蒼ざめた顔で、クワイ=ガンに壁から離れるよう手で示した。 「できるだけ、下がってください」 「だめだ!パダワン。お前にそんなことはさせられない。命令だ。止めるんだ」 「いいえ、他に方法がないんです」 少年は切羽詰った声で、しかし断固として言い切った。 「大勢の人の命が失われるんです。それだけは阻止してください。さあ、下がって」 「お前一人を犠牲にできると思うか。私がさせない!」 「いいえ、あなただって、僕の立場なら同じ事をするはずです」 クワイ=ガンは目の前の少年から青い鮮烈なフォースがさざ波のように広がるのを感じた。オビ=ワンは恐れてはいない。むしろ、恐れているのは私のほうだ。 クワイ=ガンに再び恐れと絶望が湧き上がった。 「だめだ。絶対に!」 クワイ=ガンは思わず側によって、両手でオビ=ワンの肩をつかんだ。 「お前には未来がある。私は許さない!」 オビ=ワンはクワイ=ガンの口調に激しさに驚き、眼を見張った。がついで微かに首を振った。 「逆らうことになっても、僕はやります。あなたと戦っても」 クワイ=ガンは不意をつかれ、少年の肩に置いた手の力を緩めた。その僅かの隙にオビ=ワンはすばやく身体を離し、壁に寄ろうと試みた。 クワイ=ガンはそれを阻止しようと、咄嗟に体が後を追う。 壁に背中をつけたオビ=ワンは叫ぶ。 「下がってください」 既に手は発信機にかかっている。 長身のクワイ=ガンは、オビ=ワンの身体を壁に追い詰めるような姿勢で壁に両手をついた。 目の前にOとCの文字盤のパネルがあった。 ザナトス――、クワイ=ガンは心で叫んだ。葬りたかった過去。そしてオビ=ワンと生きたかった未来。その過去に殺されるのか。オビ=ワンも巻添えにして。 「待ってくれ。パダワン。他に何か方法があるはずだ……」 クワイ=ガンの低い声は命令でなく、ほとんど懇願だった。 過去と未来、切り離せなかった過去と続く未来、繋がっている。リングのように、切り離せない――。 クワイ=ガンに突然、いな妻のような衝撃が走った。割れたリング。オフワールド。もしかしたら。 「オビ=ワン。力を貸してくれ」 クワイ=ガンは緊張を隠し、努めて平静にオビ=ワンに言った。 「あのCの文字が、割れたリングと想像して、繋がった姿を想像するんだ」 オビ=ワンは急に変化したクワイ=ガンの態度に驚きながらも、頷いた。 クワイ=ガンは息を整え、心を静めてフォースが全身に充ちるのを待った。オビ=ワンからもフォースが立ち昇るのを感じる。文字盤を見つめながらCに、―割れたリング―に意識を集中した。割れた環が再び完全になる姿を心に描いた。 過去と未来は繋がっている。これこそ正しい姿だった。切れる事無く繋がった時間の流れ。 ザナトスは過去、オビ=ワンは未来。そして現在、それがひとつになる。これこそがあるべき姿。 分かれていた両端が僅かづつ延び、ゆっくりと動き出して、完全な円環になった。 眼に見えなかった扉が現れ、音も無く滑って開いた。 「言っただろう。他の方法があると」 クワイ=ガンは、茫然と開いた扉を見ているオビ=ワンの肩に手を掛けて言った。 オビ=ワンは、まだ緊張が残る青白い顔でクワイ=ガンを見上げにこっと微笑んだ。クワイ=ガンもやさしい眼差しでそれに応える。が、これで危険が去ったわけではなかった。 「急ごう」 「爆弾はあっちです」 二人を閉じ込めていた前後の壁は、同時に両方とも開いていた。 走って黒い箱の前にたどりついたクワイ=ガンの背にオビ=ワンの声が届く。 「農場と海底鉱山で見た物と同じ形です」 クワイ=ガンはライトセーバーを起動させるや、目にも止まらないほどの素早さで、しかも正確に黒い箱の錠の部分を切り落とした。 「ザナトスは、嘘をつかなかった。これに関しては」 箱から現れた物を目にした、クワイ=ガンは苦い口調で言った。それは銀河系でもっとも破壊力があるとされているイオン爆弾だった。 「この大きさなら、鉱山どころか、国一つくらい破壊できる」 「タイマーはあと、3分!」 オビ=ワンがかすれた声で言った。 「解除できますか?」 「できる」 すでにクワイ=ガンの両手は装置に伸びている。 「が、時間が足りない。せめてあと5分あれば」 「フォースでタイマーを無効には」 「この爆弾では逆効果だ。むしろフォースが誘発するだろう」 フォースが効かない!オビ=ワンは唇を噛み、黙った。 クワイ=ガンも無言で作業に集中する。間に合わなければ、一瞬で自分達も含めて、膨大な死者がでる。ザナトスの欲望と復讐の犠牲となるのだ。 オビ=ワンは食い入るようにクワイ=ガンの手元を見つめていたが、頭の中では、さまざまな考えが浮かんでいた。フォースが使えない。ならば何か、時間を引き延ばすものは。イオン爆弾。タイマー。無効――。 突然、オビ=ワンにある考えが閃いた。あわてて、チュニックのポケットを探る。あった! オビ=ワンは注意深くクワイ=ガンの側に寄って、手に握った苔色の小石を差し出した。 「イオナイトの原石です。機械の動きを無効にする特性があります。クワイ=ガン、ひょっとしたら」 クワイ=ガンはわずかに顔をオビ=ワンに向け、小石を見て眼を見張った。 オビ=ワンは小石を親指と人差し指でつまんで、ゆっくりとタイマーに近づけた。 残された時間はすでに1分を切っている。すると、規則正しく秒数を刻んでいたタイマーの表示が、こころもち遅くなった、と見るや、次第に目に見えて鈍り、ついには40秒で止まった。 「これは一体、お前はどうして――」 「海底鉱山は、微量ですがイオナイトが出るんです。でも、とても深くて命がけの場所でした。警報機がイオナイトで働かなくなるんです。そこに行かされた時、もしやカラーを無効にできるかと思って拾ったんです。――カラーの操作は本土なので、無駄でしたけど」 「今や大いに役立ってくれたようだな」 クワイ=ガンは安堵の息を吐き、額に浮かんだ汗をぬぐった。 「解除するのに充分な時間を稼いでくれた」 「お役に立ててよかったです」 オビ=ワンは少しはにかんだように言った。 再び、作業を始めたクワイ=ガンはそんな少年の様子に心の中で笑った。 何とか危機は脱した。まだやるべき事はあるが、この任務が終わったら、オビ=ワンに充分礼をしよう。マスターがパダワンに礼をする事はあまり聞かないが。いや、パダワンにするのはその後にするか。 そんな思考を片すみに置きながらも、経験豊かなジェダイは無事、爆弾の起爆装置を解除した。危険が去ると、クワイ=ガンはタイマー装置を調べ出した。 「この設定はおそらく、他の爆弾と連動している」 「ではここが爆破していたら」 オビ=ワンはごくりと息を呑んだ。 そうだ、とクワイ=ガンは肯いた。 「他の場所でも大爆発を引き起こし、バンドメアは壊滅的な打撃を受けただろう」 「――本当に良かった。そうならなくて」 「お前のおかげだ」 「え?」 オビ=ワンは驚いて言った。 「爆発を止めたのはあなたです」 「お前がイオナイトを持っていたからだ」 「偶然です。それに、閉じ込められたのを脱出できたのは、あなたのおかげです」 「私達は互いに助け合ってきたわけだ」 「僕は手伝えただけで満足です」 「お前らしいな」 クワイ=ガンはこの少年の無欲と謙虚さと思い出した。 「その話はあとでよくするとして、爆弾の事を皆に知らせねばならんな。ザナトスのしたことも」 立ち上がってクワイ=ガンは出口を目指し歩き出した。オビ=ワンもあとに続いた。 数時間後、二人は残務処理、爆弾の回収や鉱山の管理者達との話し合い、を追え公邸に戻って来た。ザナトスはとうにこの惑星から逃げ出しており、オフワールドのオフィスや海底鉱山も閉鎖されていた。 バンドメアの統治者はジェダイに心からの感謝とお礼を述べた。 「イオナイトが発見され、悪事を働いたオフワールドも去った。この星の未来は本当に明るくなりました。皆あなた方のおかげです。ジェダイ」 二人は公邸の部屋に戻った。 「これで私の任務は終了した。テンプルに報告をせねばあらんが、その前に」 クワイ=ガンは振り向いて、オビ=ワンの眼を見つめた。 「お前と話し合わねばならんことがある」 「クワイ=ガン、僕は――」 その時、ノックがし、公邸の職員が入って来た。 「マスター、クワイ=ガン殿に宇宙船から緊急の連絡が入りました」 男は小さなチップをクワイ=ガンに渡した。 「ホロプロジェクター用のメモリーだな」 セットすると、予想通り――、ザナトスだった。 黒い髪、青い瞳の白皙の青年の姿が浮かび上がり、カメラに向かってであろうが、クワイ=ガンに話し出す。 「私はもう地上にはいないが、爆破の時刻になっても星の表面に何も変化がないということは、悪運強く生き伸びたわけだ。こんな貧しい惑星なぞ、ちょっとばかりイオナイトをいただけば、破壊しても惜しくないがね。 まったく思うとおりにいかない人だ、クワイ=ガン。今度合う時は、いや、あんたは私を追うつもりだろうが、こっちから追い詰めてやる。でも一思いに殺したりはしない。あんたの一番苦しむ方法でやってやる。 あんたの弱点はあのチビだろう。あれを浚って、痛めつけるか、嬲り者にするか。あんたの怒り狂う様が目に見えるようだ。ジェダイに怒りは禁物、ダークサイドにつながる、か。ハッ。これは愉快だ。偉大なるマスター、クワイ=ガン。せいぜい楽しみにしていてくれ」 高笑いを残し、映像は途切れた。 続く 力を合わせて無事生還。任務も終了して一件落着、とはいかないようで……。 |
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