The Fair Ladies 3   

「テオ……」
クワイ=ガンのすぐ横のジョアンも向こうから見えるはずだし、性能の良いマイクは小声も拾って聞こえたのだろう。
その瞬間、伯爵の表情が一変した。

「ジョアン!ジョアンなんだな?!」
伯爵の叫びがスピーカーを通してコックピットに響いた。
「――生きて、生きていたのね!」
「そうだ、今は13世ティードル伯爵だ。お前は前と変わらずに美しい」
「何故今まで……」
「お前たちを無事に迎えるまでは、何としても私の過去を隠さねばならなかった」
「あの時、私たちの為にあなたは死んだとばかり思って……」
「そう自分でも生きていたのが不思議だった」
「ああ、テオ、あなた――」
感極まったのか、ジョアンはその場にくずおれそうになる。

「お母様!」
クワイ=ガンはその身体を支え、注意深く操縦席に座らせた。
「ジョアン!」
モニターの伯爵もジョアンの様子に心配げに身を乗り出す。
「――大丈夫、です」
ジョアンは頭を上げ、覗き込む娘の手をとって囁いた。
「お父様よ、ベス」
「お父様!?」
「おどろかせてすまない。逢えたら真っ先に言うつもりだった。私がジョアンの夫でお前の父親だ。――だが、確かお前たちは姿を変えてくるはず」

 そこで3人は家族以外のジェダイの存在を思い出し、改めて挨拶の後、ようやく落ち着いてこれまでのことを語りだした。


 ジェダイとゲストを乗せた宇宙船は順調にコルサントへ向っていた。時間の観念が無くなる宇宙旅行はたいてい到着地の時間に合わせる。そしてコルサントまではあと半日。

 ゲストの女性達は船室で休んでおり、ひとつきりの船室を提供した師弟はコックピットの操縦席をリクライニングにして仮眠をとっていた。 

「マスター」
「うん?」
「リビングで休んでください。充分とは言えませんが、その椅子よりはましじゃありませんか?」
弟子は、先ほどからきゅうくつそうにときどきシートの上で姿勢を変えるクワイ=ガンを気遣った。
「――いや、ありがたいが眠くはない。コルサント時間では真夜中に動き回るのも悪いと思ってな」
オビ=ワンはくすりと笑った。

「何だ?」
「私だけなら気にしないのに、ご婦人方に気を使ってるんですね」
「まあな」
「あれだけ綺麗な方ですからね。最も亡くなったはずの最愛のご主人と再会されるのだから他は目に入らないでしょうね」
オビ=ワンも眠そうでないとわかったのか、クワイ=ガンはフラットにしていた椅子の背を起こした。
「報告書にでもとりかかるか。今度のことは任務外だから一切オフレコだ」
オビ=ワンも肯いて同じく椅子に座りなおす。
「はい。それにしても、思いがけなかったですね、初めから終いまで。やっぱりマスターが引き受けただけの事はあります」
「どういうことだ、パダワン?」
「今回はトラブルじゃないですけど、平穏無事だったことなんかめったにないじゃないですか」
「……お前、人をなんだと思ってるんだ」
「それはもう尊敬する偉大なジェダイマスターと、わっ!?」

 ふいに手を引かれ、オビ=ワンはクワイ=ガンの上に倒れこんだ。
「離してください、マスターッ?」
長い両手で胴をがっしり固定され、オビ=ワンは不自然に上に乗ったまま手足をバタつかせた。
「妬いたのか?それとも相愛の夫婦に当てられたか?」
「そんなことっ!」
「素直じゃないな」

 クワイ=ガンは低く笑って胴を掴んでいた手をずらし、オビ=ワンの顔を向けさせて頬に唇を寄せた。
「マスター……」
そのまま、薄く開かれた弟子の唇をとらえ、優しく唇を重ねた。
空を泳いでいたオビ=ワンの手が、クワイ=ガンの胸元を掴み、もう片方の手は背に回された
「うっ、ん……」
顔を上げた時、オビ=ワンの口から甘い吐息がもれた。
「――続きは、テンプルに戻ってからだ」
クワイ=ガンは弟子のブレイドに唇を寄せ、囁いた。


 コルサントに近づいたとき、ジョアンとベスは改めてジェダイに心からの感謝を述べた後、船室に入っていった。再び姿を表わしたときには、宇宙船に乗り込んだときと同じ犬の姿に戻っていた。
 宇宙船は予定通りコルサント宇宙港の特別グラウンドに着陸した。着く前からホームで出迎えている伯爵の姿が見えた。
 
「着きました」
オビ=ワンの合図に、クワイ=ガンは操縦席の隣りに腰を落とし行儀よく座っている犬達を促した。
「さあ伯爵が待ちかねているだろう」

 ジョアンとベスは立ち上がり、顔を上げて背の高いジェダイを見あげ、くぅんと鼻を鳴らした。クワイ=ガンが膝を付き、身を屈めて犬達の背を撫でると、二匹は両側から首を伸ばし、キスするように舌をだしてクワイ=ガンの頬を舐めた。

「お逢いできて光栄でした。麗しの貴婦人方」
犬は優しく微笑んだ、ように見えた。
オビ=ワンも膝を折ると、同じく2匹がその頬にキスをする。
「どうかお元気で、お幸せに」
と、一旦顔を離したベスが長い鼻先を伸ばし、ぺろりとオビ=ワンの口を舐めた。
「!?」
そしてすぐに身を翻し、ベスはジョアンの後に続いて軽快な足取りで出て行った。

 師弟が外へ出てみると、伯爵は両脇にしっかりと犬の姿の妻と娘を抱えていた。
惑星ガリアで瀕死の重傷を負った後遺症が今も残るというが、もう決して離さないばかりしっかり抱き寄せ、犬達もしがみつくように胸に顔を寄せている。

師弟は伯爵の丁寧な礼に応えた後、再び船に乗り込んでテンプルへの帰路に着いた。


 その夜、オビ=ワンが濡れた髪を拭きながらリビングへ入ると、先にバスを使ったクワイ=ガンが通信用のモニターを見ていた。
「伯爵一家から改めて礼が届いている」
見ると、人間の姿に戻ったジョアンとベスが、髪を結い上げ、華やかなドレス姿で微笑むホロが添えてあった。

「落ち着いたら是非訪ねて欲しいそうだ」
「マスターが行かれるならお供しますが――」
「お前はベスに逢いたいんじゃないのか?」
「あれほどの美女に逢えるのは嬉しいですが、けど未だに信じきれないんです。ヒューマノイドが完璧に犬になれるなんて」
「あの惑星では昔は魔法使いがいると言われていたからな。今では非科学的と否定されているが、事実は作り話より奇なり、だなパダワン」
「でも彼女たちの秘密を知る私たちが親しくするのは控えたほうがよくないですか?コルサントの上流社会で暮らすなら」
「そうかもしれんな」
クワイ=ガンはまだ湿り気が残る、オビ=ワンの解けた長い髪の先を指ですくった。

「――お前が弟子になりたての頃は犬に似てると思ったものだが」
「は!?どこが似てました?」
「容姿というより雰囲気や仕草だな。いつも後ろを着いてくる飛び跳ねるみたいな歩き方、ちょっと注意するとうなだれる様子、食事する嬉しそうな姿――」
「――そんな風に思われてたんですか」
「まったく可愛かった、あの頃は」
「……」
オビ=ワンは黙って師の顔をみていたが、タオルを椅子の背に掛け、ソファでくつろぐクワイ=ガンの横に膝を付いて顔を覗き込んだ。

「で、マスターは私をどんなふうに育てようと思ってらしたんですか?」
「そうだな」
クワイ=ガンは両腕を伸ばし、ひきしまった弟子の身体をゆっくりと膝の上に引き上げた。
「たっぷり運動させて充分食事させれば、今にたくましくなってくれると思っていた」
「犬なら種類でどれだけ大きくなるかわかるけど――」
オビ=ワンはくすくす笑ってクワイ=ガンの首に腕を回した
「けどあなたの弟子だってまだまだ背も伸びて大きくなるかもしれません。期待してください、マスター」
「お前がそういうならな」

 膝の上の弟子の背に腕を回して引き寄せると、清々しい体臭とさわやかなシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「だが今日はこの前の続きをしないか、パダワン?」
「そうですね、マスター」
オビ=ワンが首を伸ばして、ぺろりとクワイ=ガンの口許を舐めた。
すると、お返しとばかりクワイ=ガンはオビ=ワンの背をソファのクッションに押し付け、湯上りのしっとりと匂いたつ若い肌に唇を落とした。



End

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