The Fair Ladies 2 | |||
クワイ=ガンが駆けつけると、弟子は船室の前で背をドアに持たせかけ呆然と立っていた。 「――どうした?」 扉に両手を付き、クワイ=ガンはその腕の中にオビ=ワンを挟み、見開かれたオビ=ワンの大きな青い瞳を上から覗き込んで宥めるよう低く聞いた。 オビ=ワンは師と眼を合わせ、長い睫毛を忙しなく瞬きした。若々しい頬が赤く染まっている。 「……すみません、マスター。もう、大丈夫です」 息を付き、オビ=ワンは照れくさそうに笑った。 「人が中にいるんです、二人。長い髪の多分女性で、その、服を着ないでベッドに入ってます」 「――それはけっこうな眺めだな。顔は見たか?」 「一瞬。きれいな人でした」 「私は弟子に内証でそんな女性を乗せた覚えはないぞ」 「わ、わたしだってありませんっ!」 「では、どこかに隠れていたんだな」 「と思います」 「ふうむ、考えにくいことだが。とにかく――」 「大丈夫ですか、マスター?」 「何がだ?言葉が通じればいいが、話をしてみよう」 「開けるんですか?」 すると、中で小さな話し声がする。そして扉の反対側から、柔らかな優しい声が語りかけてきた。 「――少しお待ちになっていただけますか?仕度がすみましたらこちらから出てまいります」 師弟は無言で待ち、フォースで扉の向うの気配をうかがう。危険は感じられないが、ジェダイの習いで腰のライトセーバーの柄に手を掛けていた。 するとスッと扉が開き、オビ=ワンより背丈が低いがすらりとした二人の女性が姿を表わした。 オビ=ワンはとっさに視線をそらし、そっと眼を上げた。しかし、すでに女性達は衣服を着けており、胸の中で安堵した。その弟子の様子がクワイ=ガンにはわかったようでボンドをを通じて面白がっている気配が伝わってきた。 二人は良く似ていたが、年齢差はあるようだった。年上のほうは輝く金髪がふさふさと波打って腰の下まで垂れていた。面長で彫りの深い顔立ち、驚くほど色が白い。優美な弧を描く眉に、通った鼻筋。薄く形のいい唇。そしてアーモンド型の大きな緑色の瞳。辺りを払うほどの威厳と気品。物腰は優雅で、まさしく絵に描いたような貴婦人。 もう一人は、やや背が高く、髪は濃い金髪で背の中ほどの丈。瞳の色は金色に近い。気品は変らないが動きは軽快だった。 二人とも、光の具合で色の見え方が変化する不思議な色の、ごく薄い布を巻きつけたような衣類を纏っていた。裾は床より少し上ぐらいで、のぞいている素足は裸足だった。そして小さな金のメダルが付いたペンダント以外は、何の装飾品も身に着けていなかった。 「驚かせてしまったようで申し訳なく思います」 差し出された年上の女性の手をとって、クワイ=ガンは恭しく口付けた。 「お目にかかれて光栄のいたりです。もしや間違いでなければレディ・ジョアンであらせられますか?」 女性の柳眉があがり、目が見開かれた。 「私をご存知でいらっしゃるのですか?」 「話に聞いた面影通りです。我々はあなた方を保護する立場です。どうぞ安心なさってください」 それを聞いたジョアンの表情が緩み、並み居る者を虜にしたという輝くばかりの美しい笑みを見せた。 「私達をコルサントまで送っていただけますか?マスター・ジェダイ」 「――話をうかがえますかな、レディ、ジョアン。クワイ=ガンと呼んでください」 貴婦人は頭を軽くめぐらして優雅に微笑んだ。 「私もジョアンと。こちらは私の娘、ベスと申します」 「こちらは弟子のオビ=ワン・ケノービ」 師に続いて、オビ=ワンも緊張しながら同じように挨拶する。 「あちらで茶でもいかがですか?」 皆がリビングに向おうとした時、オビ=ワンはふと気付いて部屋の中を覗き込んだ。 「オビ=ワン?」 「犬達は見当たりません、マスター」 ジョアンとベスは眼を見交わして肯いた。 「心配には及びません。説明申し上げます」 「ええ、オビ=ワン。そこにはもういないわ」 オビ=ワンと同年代と思えるベスは快活に答えた。その身のこなしはいかにも優雅な母親とは異なり、鍛えたスポーツマンをうかがわせた。 「一番疑問に思われたことからお話したほうがよろしいでしょうね」 狭いリビングで4人はテーブルを囲んだ。オビ=ワンが入れた茶を美味そうに一口のんで、ジョアンは口を開いた。 「私達は今まで隠れていたわけではありませんし、犬達が何処かへ行ってしまったわけでもありません」 「というと」 「あの犬達は私達なのです」 半信半疑でよもやとは思ったが、明確に口に出して、しかも品の良い美女に落ち着き払って言われ、さすがのクワイ=ガンも一瞬言葉を失う。 「ジェダイでも信じられませんか?」 ベスが金色の瞳をきらめかせ可笑しそうに聞いてくる。 「姿を変えられるエイリアンや、それに近い能力の有るヒューマノイドも知ってはいますが、これほど見事な変身は正直初めてお目にかかります。しかも、王家の血筋の方とは」 「ええガリア王族はこの能力を代々密かに伝えて参りました。通常なら決して変身した姿を見せることはありませんが、今回は致し方なかったのです」 「コルサントへ行く為にですか?」 「何度か住まいを変えましたが、先日ティードル伯爵が私達を探し当て、迎えたいと言ってきたのです」 「伯爵なら安全に保護してくれるでしょうな」 「亡くなった父の遠縁にあたる方で、子供の時に一度だけお会いした時があります。長い間探していてくれたらしいのです。」 ジョアンは視線をベスに向けた。 「迷ったのですが、伯爵が娘の将来を気に掛けてくださったので、決心しました。一生人目を避けて暮らすよりはと」 「自由なコルサントでは仕事を見つけて自立するつもりです」 ベスは意志の強さを瞳にみなぎらせて言い切った。 「けっこうな心がけだ。ところで変身は伯爵から進められたのですか?」 「ええ、女性二人では危険だからと。確かな宇宙船がみつかれば乗る直前に変身することにしたんです。私はともかく、この娘は慣れないので長時間は無理なのです」 ベスは残念そうに少し肩をすくめた。 「練習したけど、3日が限度。そもそも変身できるのに気付いたのが12の時だったし」 「私もまさか娘にこの能力が授かっているとは思いませんでした。王族でも血が濃くなければできませんから。けれど夫は元々同族の血筋でしたから」 「――あなたのご主人は?」 「紛争の時、私達を守ってくれた士官で、脱出する手助けをしてくれました。亡命を進められたのですが、どうしてもガリアを離れがたくて。ひっそり暮らすうちに愛しあう様になって、結婚してベスが生まれました。けれど間もなく――」 「お母様……」 「発見され、逃れる途中、彼は囮になって私達を安全に逃がしてくれました。それきり、行方不明に……」 「これは、辛いことを思い出させてすまない」 「いえ、決して長い間ではありませんでしたが、私たちは愛しあっていましたから、娘を生まれたことが大きな喜びです」 「まことに」 「お母様はお父様の事を話し出すといつも惚気になってしまうの」 「ベス!」 「悲しい思い出がいつしか、どんなに優しかったか男らしかったとか、ジェダイだってあきれると思うわ」 「まあ、私はそんな」 「良い思い出は何にも勝る宝です」 いくぶんうろたえて恥らう貴婦人を気遣い、真面目くさってクワイ=ガンが肯く。オビ=ワンは可笑しかったがここで笑うわけにもいかず、堪えようと眼をそらすとベスと目が合った。二人は眼を合わせしばし我慢したが、ついに同時に吹き出した。 「オビ=ワン!」 「すみません、マスター」 謝って同じようにベスをみると、彼女も可笑しそうに屈託なく笑っている。 「そういえば、具合はベス?」 「もう大丈夫、人の姿に戻ったから。飛行が予定通りだったら犬のままでいられたのに」 ベスは思いついたように、顔を廻らせてまとっている薄い服に視線を走らせた。 「これは編込んで首輪にしておいたものなの。さっきほどいたばかり」 「え!ああ――」 「驚かせてお詫びいたしますわ。犬が荷物を持つわけにはいきませんでしょう」 「文字通り、身一つでいらしたのですな」 「ええ、伯爵の好意はありがたいのですが、コルサントでは過去は忘れて普通の市民になりたいと思います。只のジョアンとベスです」 その後の食事にオビ=ワンは腕を振るう、とは残念ながらいかなかったが、限られた食材を出来るだけ工夫して食事を整え、例のワインも出した。 女性達は感嘆の声を上げ、見惚れるほど優雅なテーブルマナーでそれでもしっかりと料理を平らげた。ジェダイの料理の腕を誉めそやすので、クワイ=ガンは苦笑してすべてのジェダイが料理をするわけでなく、己の弟子が珍しいのだと説明した。 皆が満足して食後のお茶を楽しんでいる時、定時連絡のためコックピットに向ったオビ=ワンが戻ってクワイ=ガンに告げた。 「伯爵が?」 「はい執事でなく、伯爵じかに話したいそうです。遅れを心配して様子を聞きたいようです」 「それはかまわないが――」 クワイ=ガンは表情をうかがうようにジョアンを見た。 ジョアンは目を合わせて肯く。 「誰にも私達の姿を見せないはずでしたから、ジェダイに見られたと知れば心配なさるでしょう」 「わかりました」 「コルサント到着前には、変身します」 「オビ=ワン、ここのモニターをコックピットの通信用モニターと繋いでくれ」 「イエス、マスター」 「お二人はこちらで見るといい」 クワイ=ガンは立ち上がり、オビ=ワンも後に続いた。 「ジェダイマスター、クワイ=ガン・ジンです」 「エドモンド・テオ・ティードル伯爵です。このたびは感謝申し上げます、マスター、ジン」 ジョアンの父親と同年代と思っていたので、クワイ=ガンはモニターに現れた自分より年下に見える男の容姿に一瞬眉を上げた。 髪も瞳もダークブラウン。同色のローブをまとっている。椅子に掛けているので背丈はわからないが肩幅は広く、立派な体格をうかがわせた。名門出身をうかがわせる落ち着いた物腰で、男らしい引き締まった顔立ちだが、心労の為か眉間に皺を寄せ、口調も心配げで急わしなく話しかけてきた。 「正確には13世ティードル伯爵です。先代に子がおりませんので、遠縁にあたる私が6年前に跡を継ぎました」 「そうでしたか。では犬達の保護はあなたが申し出られたのかな?」 「彼女達、いえ犬の事は先代も気に掛けていましたが、私の代になってから本格的に捜し始めたのです」 「ガリア王家に縁の犬だから?」 「大変貴重なのです。それで今は元気にしていますか?」 「ご心配なく。今は寝ているが良好です。あと二日でコルサントに着くと保障します」 「ありがたい……」 頼りがいのある風貌のジェダイに請け負われ、伯爵は息を吐き出した。長い指で前髪をかき上げると、頭部からこめかみにかけて薄赤く傷跡が見えた。 「見つかった時、すぐにも駆けつけたかったが、長い旅行は医師に止められました。食欲はありますか、その――ドッグフードは食べ慣れていないようなので」 「ご心配なく。ドッグフードでなく手作りの食事を残さず食べています」 オビ=ワンの答えに伯爵は表情を緩めた。 「ジェダイでなければ託せないと思ったのですが、安心しました」 その時、コックピットの扉をせわしなく叩く音がした。 オビ=ワンが扉によって開けるとジョアンが立っていた。が、初めて見る何かに憑かれたように一点を見つめる美女の大きな瞳にオビ=ワンは何事かと目を見張る。優雅で常に落ち着いていた貴婦人の面差しが消し飛んでいた。 ジョアンはオビ=ワンに眼もくれず前を見詰め、目的のものが視界に入るとまっすぐ頭を上げコックピットを進んだ。そして、操縦席のクワイ=ガンの横に立って通信中のモニターに映っている男を凝視した。 母親に続いて室内に入ってきたベスも、何事かとジョアンの異様な姿に驚くジェダイに途方にくれた瞳を向けた。その表情を見れば、ベスもまた母親の変化の訳を知らないのだとわかる。 と、モニターの中の伯爵を見つめているジョアンから呟きが漏れた。 続く |
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