Afresh 4    ※AU(クワイ=ガン生存&オビはナイト昇進

 それだけ言ってクワイ=ガンが去っていった後、オビ=ワンは呆然と立ち尽くしていた。我に返って椅子に掛けようとし、また腰を浮かし、こんどは狭い室内をうろうろ歩き回った。

 プロポーズ、プロポーズだって!?
私は女性じゃないぞ。それにジェダイは結婚しない。いったいあの人は何を考えてるんだっ?いや突然何かしでかしてくれるのは今に始まったことじゃないけど、今更プロポーズなんて。
愛してるって、それはこっちだって愛してる。前と同じにベッドを共にしたいならはっきりそう言ってくれれば、私だって。

 ここまで自問自答してオビ=ワンははっと気付いた。

師弟のとき恋人だった事はこだわらない、今後は元師弟として接したいと自分はクワイ=ガンに告げたのだ。
仕方がないと思った。アナキンに隠して逢うのも気が進まないし、なにより時間がなかった。しばらくは任務に専念したかった。

 ああもう、とオビ=ワンはナイトになって伸ばし始め、肩に届くほどになった金褐色の髪をかきむしった。

クワイ=ガンを愛している。今までも、そしてこれからもずっと。他なんか目に入らない事がわからないのだろうか、あの人は。人のこと鈍感だって言っておきながら向うのほうがよほど鈍感。

ノーと言えば、クワイ=ガンのプライドは今後いっさい元弟子以上の扱いを許さないだろうし、イエスといえば、きっとすぐ寝ることになる。つまりはそれが目当ての関係になるんだろうか。私の求めているのは、それだけではないはずだ。


いくら考えても、すぐに答えなど出そうになかった。


 通信機がなった。オビ=ワンはちょっとためらってオンにする。
「――オビ=ワンです」
「ハイ! ナイト・ケノービ」
「シーリー、テンプルかい?」
「還ったばかり。食事でもどう?」
「もちろん、いつがいい?」


 オビ=ワンが帰還してから数日が過ぎた。
ナイトとなってからも技量を高める訓練や講義、ミーティングの合間に、友人に逢ったり、シティに出て品物を揃えたりした。クワイ=ガンとはあの後部屋を訪ねたが終始アナキンも一緒だった。クワイ=ガンには二人きりになりたそうな素振りも返事を促す雰囲気も見られなかった。とりあえずオビ=ワンはホッとしたが、返事の時間が延びただけとわかっていた。


 オビ=ワンはアーカイブにいた。次の任務が内定したが、出発はだいぶ先だった。ある惑星の複雑な民族紛争で、入念な準備が必要だった。交渉事に優れたマスター・アディ・ガリアとの共同任務が予定されていた。

「次の任務は惑星ピレネーか?」
声を聞くまでもなく圧倒的なフォースがクワイ=ガンが近づいたことを告げる。顔を上げると、すぐ元師の視線はオビ=ワンの見ているモニターに注がれた。

「そうです。出発はまだ先ですが」
「隣の星系の事件でそこを調べたことがあったな?」
「もとはピレネーの難民がゲリラ化して起したものでしたから」
「その時集めたデータは今も手許にある。使えばいい」
「ありがとうございます。今晩の夕食は出かけますが――」
クワイ=ガンの表情からは何も伺えない。が、オビ=ワンはすぐ続けた。
「遅くならないうちに戻ってきます。その後お邪魔していいですか?」
「用意しておこう」

 二人きりで話せる機会でさえ、クワイ=ガンはあの事については何も言わなかった。
このまま返事をしなければどうなるのだろう?

逃げるようなまねはしたくなかったし、何より不誠実だ。けれどまだ自分の気持ちは決まらない。
オビ=ワンは密かに吐息を漏らした。


 その晩、土産の菓子の小箱を持ったオビ=ワンがクワイ=ガンの住まいを訪れた時、アナキンは課題と格闘していた。
済んだら食べてもいいと笑って、オビ=ワンは弟弟子の手元を覗き込んだ。
「公式は合ってるじゃないか。当てはめる数を見直してごらん」
「うん……」


「アナキンはほとんどテンプル育ちの子供に追いつきましたね」
アナキンの部屋を出て、オビ=ワンはリビングのテーブルの椅子に座った。
クワイ=ガンはデータパッドを見ていた。
「好きな科目はな。苦手はとんとだめだ」
「得意なもので自信が付けば、他もやる気がでますよ」
「お前がずっとテンプルいればすぐそうなりそうだな」
「そうもいかないでしょう。次の任務が決まってるし」
オビ=ワンはさらりと受け流し、データパッドに視線を移した。
「――ああこれですね。発端になった国境の線引き」
二人は言葉すくなに資料に集中し、それはアナキンが終わったと駆け込んでくるまで続いた。

 今日はひとつだけと師に言われ、迷って選んだケーキを嬉しそうに平らげた後、あっという間にシャワーを済ませてアナキンは再びオビ=ワンの隣に陣取っていたが、二人が低い声で任務の検討を続けるのを聞いているうち、欠伸をし出した。寝る時間とクワイ=ガンに言われ目をこすりながら自室に引っ込んでいった。

「寝つきの良さはたいしたもんだ。ああもう寝たな」
「寝起きはいまひとつでしたね」

「――次の出発は決まらないのか?」
「アディが元老院と協議中はテンプルを離れられないんです」
「ふむ」


「今はこれだけ整理しとけばいいだろう」
「そうですね、助かりました、マスター?」
「うん?」
データパッドを閉じるクワイ=ガンの手に視線を落したまま、オビ=ワンは言った。

「返事をしなければいけないと思っています。けれど」
「お前の気持ちが揺れているのはわかっている」
「すみません。自分のことが決められないなんて情けない話です」
「いろいろ考えるも無理はない」
その後落ちた沈黙が続くのに耐えられず、オビ=ワンは顔をあげクワイ=ガンを見た。

 クワイ=ガンは答えを促すでもなく、ただ静かにオビ=ワンを見つめている。その穏やかな目が一瞬可笑しそうに笑った、とするりとオビ=ワンの頭に元師の思念が入り込んできた。
『お前は鈍いから』
「あ?」
『考えてもみなかったのか?』
「いったい何のことですっ!?」
オビ=ワンはつい声を上げた。
が次の瞬間、閃くようにある事が浮かんだ。
「……まさか――」
『これだけはっきり通じるのが消えかけたトレーニングボンドの残りだと思っていたのか?』
胸の奥で微かにざわめいていたものがほのかな明かりとなって、立ち昇ってきた気がした。
大きく目を見開いて見つめ返してくる元弟子にクワイ=ガンは肯いた。

『私の気持ちは変わらない。今までもこれからも。お前がもう私に元の師以上のものを求めなくても、この気持ちは同じだ』
ふいに胸の奥から暖かいものが溢れる出るのが感じられた。
これほど単純で明らかな事が今までわからなかったのが不思議だった。

 クワイ=ガンが何よりも美しいと思うオビ=ワンの湖水色の瞳が大きく開かれ、強い光と意志をあらわすそれが、口に出すまでもなくすべてを物語っていた。

『私も愛しています。クワイ=ガン、永久に』
『愛している、私の心のすべてを捧げよう、オビ=ワン』
見つめ合ったまま、オビ=ワンは体中を満たすフォースの流れの暖かい心地よさに身をゆだねた。
『これがソウルボンドだ』
『ああ――』
『前から芽生えていたのに、はっきり自覚できなかったんだ』
『そんな、いったいいつ……?』

まだ完全には納得できない面持ちのオビ=ワンを見つめて、クワイ=ガンは静かにその手をとって口許に運んだ。
「ナブーで倒れた私をお前が引きとどめた時」
「……正直、覚えていないんです」
「長い間フォースを漂っていたが、いつもお前を感じていた。そのことは、いずれ話そう」
クワイ=ガンはこのうえなく恭しくソウルボンドで結ばれた青年の手の甲に口付けた。


 オビ=ワンは満ち足りたフォースに包まれ、睫毛を瞬かせて呆然とクワイ=ガンを見ていたが、ある疑問が涌いて出た。
「――あの時、昼をご馳走してもらった日ですが、急にボンドが途切れたのは?」
「お前が呼んだのはすぐわかった。ただしトレーニングボンドだったので、お前がソウルボンドに気付いてないと思った」
「ということは、わざと離したんですか?」
「そうだ」
「だったら何故すぐ教えてくれなかったんです?」
「――お前のことだ。ボンドがあるから恋人にならねばならないと思い込むか、変に意固地になってボンドがあっても身体は全然別だと言い出すか、極端に振れそうな気がした」
「う……」
図星だった。


「オビ=ワン」
「……」
「互いが自覚して始めてソウルボンドは育っていくんだ。急ぐことも焦ることもない、ゆっくり育てていけばいい。強固になれば、時間も空間も生死さえも引き離せない絆にできる」
「イエス、マスター。すみません、まだ実感がわかなくて」
二人はソファに並んで腰掛けていた。肩や腕は軽く触れ合っていたが、抱き合わずに互いの目を見ていた。

「私は残された命でお前とソウルボンドを築く幸運に恵まれた。二人の時間を大切にしたい。身体で愛を確かめあうのは素晴らしいが、共にそう望んだときにしたい。一方に負担がかかったり我慢したりしたくない。心が繋がっているだけで充分だ。私達はもう対等の大人同士だ」
「ええ、クワイ=ガン」

 聞こえてくる言葉はオビ=ワンの内心そのものだった。トレーニングボンドを結ぶとはまったく同じ思いを持てるのだろうか。自分はとうとう理想の絆を手に入れたのだ。
言葉も出ず、オビ=ワンはただ恋人の表情を見つめている。
だが、即座にその思いは破れた。

「もう遅い。戻ったらどうだ?」
「あ――」
オビ=ワンは反射的に腰を浮かしかけたが、戻した。
クワイ=ガンと自分はともに頑固で、相手を思いやっても表し方が違うことはままある。それに気づかないうちは、対立したこともあった。
こんな時に恋人に帰れというクワイ=ガンの真意は――

鈍かったオビ=ワンの脳は再び回り始め、自分がとるべき態度をはじき出した。恥じらいやためらいは今は不要。結論がでればジェダイらしく行動に移すのみ。


「――以前のあなたとは思えない言葉ですね」
「そうか?」
「機会があるのに我慢したことなんてありました?それとも私のほうがあなたにお構いなくすごく積極的だったんでしょうか?」
オビ=ワンはことさら無邪気な表情で見上げた。

「お前」
恋人の意を悟ったクワイ=ガンの表情が優しい笑顔になる。
オビ=ワンは誘うような笑みを浮かべてクワイ=ガンの首に両手を回した。嫣然と微笑んだ上目遣いの湖水色の瞳が煌く。
「私は要求の多い恋人かもしれませんよ」
「では確かめてみよう」
「これから?」
長い手でしっかりと抱き寄せられ、オビ=ワンは瞼を伏せ、懐かしい香りを胸いっぱい吸い込んだ。

 堅く抱き合った互いの身体の熱が次第に上がってくる。仰け反った首筋にクワイ=ガンの長い髪が、鼻が、唇が押し当てられ、震えがオビ=ワンの背筋を駆け抜けた。身体の中心から熱いものが勃ち上がっ昇ってくる。それはクワイ=ガンも同じだとはっきりわかる。

ばら色の耳朶を口で弄びながら、クワイ=ガンは元の弟子に囁いた。
「チャンスは決して逃がすなと教えられなかったか?」
「もちろん」
オビ=ワンはくすぐったそうに身をよじり、くすくす笑いながら降りてくる熱い唇に応えた。
「私はいつも師からそう言われてましたよ」



End

  この続きはいつか裏で――え〜、チャレンジしたいと思います(汗)
3へ
TOP戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送