Afresh 3    ※AU(クワイ=ガン生存&オビはナイト昇進

 クワイ=ガンがオビ=ワンを連れて行ったのはコルサントのシティでも有数のホテルだった。そこのレストランは定評があり、オビ=ワンも元師や友人と何度か来たことがあった。
「よく当日に席がとれましたね」
「二人だからな」
「任務中ここのランチバイキングの夢をみましたよ」
料理を山盛りにしたプレートを目の前に並べ、オビ=ワンは嬉しそうにナプキンを広げた。
「帰る早々申し分ないランチです」
元弟子の輝くような笑顔は少年だったころと変わらず、30近いはずの年齢などまるで感じさせない。
おまえは、とクワイ=ガンは青年の旺盛なたべっぷりに目を細めた。
「すきっぱらで飯にありついた時は、何を食べてもこの上ないご馳走という顔をする」
「実際そうですから」
クワイ=ガンがゆっくりフォークを口に運んでいる間に、オビ=ワンは皿の料理をだいぶ片付け、山盛りのパンが積まれたバスケットに手を伸ばした。
「お粥さえそうだった」
「……そんなこともありましたっけ」
「だいぶ前だ」
どれにするか迷ってるふうに一瞬手を止めたオビ=ワンは、すぐにちぎったロールパンにたっぷりベリージャムを塗りつけた。


 二人は師弟だったときと同じように、陽気な会話を交えてなごやかに食事を楽しんだ。
「さすがに満腹です」
デザートは別腹と豪語するオビ=ワンが数種類のスィーツを食べ終え、満足気にコーヒーカップを置いた。
「ごちそうさまでした、マスター。――さて、何か話があるなら今のうちですよ」
元弟子の悪戯っぽい表情におや、とクワイ=ガンも可笑しそうに片眉を上げる。
「私が食べ物でお前を懐柔するつもりだと」
「私を一番ご存知なのはあなたですから」
「今ならたいていのことは聴いてくれそうか?」
「ええ、私たちは話し合うことがあるはずです。やむを得ず先送りになっていた――」
口許は笑みを浮かべていたが、オビ=ワンの大きな瞳は真剣だった。
「そうだな、ここでもいいが。いや、テンプルに戻って部屋にいこう」


 テンプルに戻った時、クワイ=ガンはオビ=ワンの住まいに行きたいと言い出した。
「元弟子がどんな部屋にいるか知りたいのは当然だろう」
「何もありませんよ」
「もてなしなんて期待しちゃいないさ」


「――確かに何もないな」
「ええ、客用の椅子があるのが救いです」
オビ=ワンは笑って元師に椅子をすすめた。
「今更だが、お前が出る時無理に持たせるべきだった。せめて使っていた物だけでも」
「お心遣い感謝しますが、ほとんどいないのでどっちみち使いません」
「そうか……」
クワイ=ガンは懐から何か取り出し、テーブルに置いた。
「受け取ってくれ。これはお前のものだ」
「何です?」
オビ=ワンは眉を寄せて手に取る。それは小さなカード型メモリーだった。
「ファースト・ギャラクシー・バンクのこれは――」
クワイ=ガンは黙って頷いた。

 そこは、共和国でももっとも由緒と信用のある銀行だった。師弟の時、クワイ=ガンとオビ=ワンは任務上やむを得ず必要になった時の為に口座を持っていた。ジェダイは私有財産を認めないので、もちろん秘密のいわば裏金だった。けれど、辺境や裏世界の実情を知るクワイ=ガンはある種の任務はそれなりの資金が必要と、少しずつ蓄えておいたのだ。

 オビ=ワンが成長して充分マスターのサポートが出来るようなった時、師は弟子にその存在を伝え必要な時は離れていても使えるよう、パスワードも教えた。

 ある潜入操作で証券会社に入った時、オビ=ワンはプロ並みの知識を見に着け、任務中周りを信用させるため売買し、任務が成功した時にはまとまった利益をあげていた。
そういったこともあって、最新設備を備えた新品の宇宙船とはいかないが、ちょっとした中古なら買えるほどのけっこうな総額になっていた。

「新たな口座を作って金額も折半した。あとはここにアクセスして新しいパスワードを作れば、お前だけの口座になる」
「マ――」
口を開きかけたオビ=ワンをジェダイマスターは目で制した。
「断るなよ。何なら好きに処分してもいい。が、これの意味はお前もわかってるはずだ」
「――わかりました。ありがたく頂きます」
「当分おおらかな気分でいられるぞ。今度は私にごちそうしてくれ」
「そうですね。ええと普通なんというんでしたっけ、こういう古典的な習慣を」
オビ=ワンはカードをベルトのポーチにしまった。
「餞別、はなむけ、持参金――」
「ふむ」
「それとも、手切れ金」
「オビ=ワン……!?」
「失言でした。忘れてください」
オビ=ワンは唇をかんで俯いた。
「いいや」
クワイ=ガンは元弟子を見つめ言い聞かせるようにはっきりと口に出した。
「私たちは話し合わねばならないことがあったな」
「……」
クワイ=ガンは静かに立ちあがった。


 何をするのかと見ると、クワイ=ガンはそのまま前で手を組み目を閉じた。オビ=ワンは元師がフォースでこの住まいの周辺を探り、他から気づかれないよう強力なシールドを施しているとわかった。

 さて、と目を開け、クワイ=ガンは深い青の瞳をオビ=ワンに向けた。
「瞑想の姿勢をとろう」
オビ=ワンは瞑想用のラグを1枚しかもっていなかった。それをクワイ=ガンに提供し、自分はベッドの足元のを持ってきた。
二人はラグを強いて向かい合って床に座り瞑想のポーズをとった。

「目を閉じたままよりは、私はお前の瞳をみたい」
クワイ=ガンが目を合わせて囁いたので、オビ=ワンはその意を悟り肯いた。


 オビ=ワンは瞼を閉じ、フォースを呼び起こした。すでに周りと狭い室内にクワイ=ガンの強いフォースが満ちていることがわかる。

 師弟の時、住まいで共に瞑想するときいつもそうであったように、フォースが溶け合って水や風の様に二人を取り巻いてさざめくのをはっきりと感じた。オビ=ワンは内面を知られないよう堅く張り巡らしていたシールドを弱めた。とそれを待っていたようにクワイ=ガンの思念が入り込んできた。
『用意ができたようだな』
『ええ、マスター』
オビ=ワンは静かに瞼を開いた。


『私はお前を自分の手で卒業させられなかった』
『あの時は仕方ありませんでした』
『そればかりは死の入り口から引き戻してくれた』
『卒業前にかってに逝かれたら困ります』
『改めて感謝している』
『――正直、あの時のことはよく覚えてないんです。倒れたあなたを起してそれから、気づいたら回りに人がいて、あなたは生きていると』
『フォースを使い果たしたんだろう』
『おそらく。しばらく歩くのもやっとでした』
『時間はかかったが、こうして元に戻れた』
『すぐにヨーダやヒーラーが駆けつけてくださったおかげです』
『そうしてお前はシスを倒したことが認められナイトになった』
『思いがけませんでした』
『実力だ。お前はとうに準備が出来ていた』
『まあ、あの前評議会でいきなり卒業させると言われたときから覚悟はしてました』
『オビ=ワン』
『未熟で頑固で』
『そうだ。そして私の力の及ぶ限りすべてを教えた。バンドメアで弟子にした時の誓いを今果たそう』
『はい。マスター、クワイ=ガン・ジン』
『卒業おめでとう。マイパダワン、オビ=ワン・ケノービ。フォースがいつもお前とあるように』
互いの瞳の中に自分の姿が映り、見詰め合う二人にもう自分も相手もなくひとつになったような気がした。
『あの小さな少年が立派になって、私が育てたナイトと誇れるようになってくれた』
『わたしの誇りは貴方に導かれてこうなれたことです、マスター』

 オビ=ワンの大きな湖水色の瞳が潤んでいる。
クワイ=ガンは腰を浮かし、片膝をついて手を伸ばした。両の手でオビ=ワンの頬を包み込み、上を向かせる。オビ=ワンの唇が微笑みを形作って深青の瞳をみつめた。
暖かい唇がそっとオビ=ワンの目許の涙を吸う。そして瞼をふせた元弟子の秀でた白い額に静かに自分の額を重ねた。



 ポンッと軽い音がして栓が飛び、白い泡が湧き上がってくる。
オビ=ワンはその繊細な泡が溢れる寸前持った瓶を傾け、素早いしぐさで二つのグラスに薄紅色の液体を注いだ。
「どうぞ」
クワイ=ガンは礼をいってグラスを持ち上げた。
「おめでとうナイト・ケノービ」
「ありがとうございます。マスター・ジン」
二人は笑みを交わして軽くグラスを触れ合わせる。

「いいシャンパンだな」
「冷えすぎかもしれません、入れっ放しだったから。頂きものです」
オビ=ワンはいかにも晴ればれした表情で美味そうにグラスを飲み干した。
すぐに空のグラスに2杯目を注ぐ。
「つまみが何もないんです。明日あたりいろいろ揃えにいきます」
「今回はしばらくテンプルにいられそうだな」
「そう聞いてます」
「急ぐことはないのだが――」
「何でしょう」
「その、私達のボンドのことだ」
「時間はかかるかもしれませんが、自然消滅するんじゃないんですか?」
「トレーニングボンドは、普通そうだろうな」
「私は始めてだからわかりませんが、あなたの経験からどうでした?」
「予想外の消滅もあったから参考にはならんな」
クワイ=ガンの前の弟子は師を裏切ったので、それまでのボンドは自ら断ち切ったのだろう。
「ああ……」
「これまでのことはいい。アナキンとのボンドは時間につれて堅くなるだろうから心配ない」
「だったら何が?」
「オビ=ワン」
クワイ=ガンが珍しくいらだつような声で名を呼んだ。はぐらかしたりとぼけたり出来る事ではないとはっきり表情が告げている。

「ああ、そうですね。私たちは師弟の時、何年か、その――恋人みたいなもんでしたから」
オビ=ワンは勤めて平静を装って応えた。
「引っ掛ってはいました。けれど、今ちゃんと卒業させていただきましたから、正直こだわりが無くなりました」
「何だって?」
「実際、任務が忙しくてほとんど逢えないし、あなたは新しい弟子と暮らしてるし、無理しなくてもテンプルにいるときは元師弟として、アナキンも一緒に普通に逢えばいい」

 クワイ=ガンは眉を寄せ、じっとオビ=ワンの表情をみていたが、ぽつりと言った。
「誰か、好きな者がいるのか?男でも女でも」
「いいえ!そんなことより、新米ですから任務で手一杯なんです」
これは真実だった。
「そうだろうな。お前の気持ちはわかった」

「申し訳ありません。けれど、得がたい素晴らしい経験をさせていただきました、マスター」
「謝ることはない、お前はもう弟子ではない。私と対等のジェダイだ」
「そうかも知れませんが、あなたはいつまでの私の師だったことは変わりません」

 ひそめられたクワイ=ガンの眉が戻り、ゆっくり口角があがる。
「お前は変わらないな」
「は?」
「頑固で生真面目で、そして鈍感だ」
「――改めてそう言われると、傷つきますね」
「時間が必要かと思ったが、その調子ではいつまでたってもわからんだろうから」
「今更なんだっていうんですか!」
「そういうところも全部含めて愛している」
「え、えぇ!?」


「返事は、後で聞かせてもらおう」
「返事って、クワイ=ガン」
「プロポーズだ」
「!?」



続く

 
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