Chameleon 3

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「……いささか悪趣味だな」
苦虫を噛み潰したジェダイマスターの目に前にいるのは、彼の弟子に良く似た一人の男。
軽やかな仕草、問い掛ける時のやや高めのトーン。眉のひそめ具合。上目遣いさえちょっと目には己の弟子と間違えそうだ。

「マスターがそうおっしゃてくださるなら、私の扮装も上々ということですね?残念ながらお会いしたことがないので、ホロとデータを参考にしました」
「ゲッティ、わかったから私の弟子に化けるのだけはよせ」
金褐色の短髪の頭を振って男はちょっと肩をすくめる。
「マスターが強いてと言われるなら」
「今回の任務は元々君の計画に全面協力するつもりだ。そこまでする必要はない。何がおかしい?」
くすくす笑いながら、男は上目遣いにクワイ=ガンを見上げる。
「さすがのあなたも弟子には弱いんですね」
「ゲッティ!」
「扮装でモデルがいる場合は内面もなりきるものなんですよ。私が実際のオビ=ワンだったら絶対――」
 眉をひそめたままのクワイ=ガンと楽しそうなゲッティの会話は、部屋に入ってきた声に遮られた。

「マスター、それぐらいになさったらいかがですか?」
「会心の出来だと思うがどうかな、ティーノ?クワイ=ガンの表情からしても」
「そうですね、背格好はそっくりですし、声も上手に造ってます。でも、金髪碧眼のイズラ人はまずいでしょう」
「これで髪と目を変える」
「あまり似合うとは思いませんね。それより、こちらのデータにあるこの青年のほうがよろしいと思います」
「ふむ」
青年を装っていたゲッティの仕草と声音が戻り、ブランが差し出したデータパッドを覗き込んだ。

 結局、ゲッティはオビ=ワンとはまったく違った黒髪の青年に扮することになった。
心中安堵をもらすクワイ=ガンにブランが囁いた。

「申し訳ありません、マスター・ジン」
「いや、ゲッティもどうせ本気ではなかっただろう」
「あなたに会うと大人げなくなるんです」
「元はといえば、昔、体格のハンデを気にしていたゲッティに変装を進めたせいもある。共同任務の潜入捜査の変装があまりに見事で、任務後テンプルに戻っても気づかれなかった」
「それ以来ですか?」
「ゲッティは研究を重ね、変装して潜入するのが得意になった。練習と称して、私も付き合ってテンプルでちょっと悪戯したこともあるが――」

 クワイ=ガンが、見知らぬ美女を部屋に連れこんだと噂になってタールには剣突喰わされ、アディやクリーに責められ、メイスには誤解され、ちょっと皆をからかうつもりが思わぬ騒ぎになったことさえあった。
「想像がつきます」
己の師を知っているジェダイマスター、ティーノ・ブランは愉快そうに顔を綻ばせた。


『どうだ?クワイ=ガン』
部屋にこもっていたゲッティが、服装はそのままで黒髪のなかなか見目良い青年になって二人の前に現れた。
「なかなかいいですよ、マスター。マスター・ジンと背格好もつり合いますしね」
「わかった、これでいこう。さっきので髪や目を変えるよりは不自然じゃないな」
「純朴な好青年といったところだな、ゲッティ」
ゲッティは軽く咽を抑え、クワイ=ガンが仰天する言葉を発した。
「父さん」
「!?……」

「――あなた方、親子役は始めてですか?」
「そうだ。オヤジの隠し子なんで、父と呼ぶ事なく育ったんだ」
「純朴な好青年は親を困らせたりしないはずだな、ゲッティ」
「もちろん、せいぜい父親を尊敬する良い息子になる」
「けっこう」
ティーノは笑いを噛み殺している。

「黒髪に黒い瞳もなかなか魅力的だ。王女にも気に入られるだろうな、わが息子は」
「そちらは王妃の説得を頼む」
「最善をつくす。ああゲッティ」
「何、父さん?」
「オビ=ワンそっくりだったが、目の色だけは、君でも無理だな」
「一度会えば完璧につくってみせる」
「あの変わりやすい瞳は私だって何色かわからん」
「クワイ=ガン、お前……」
クワイ=ガンはゲッティの肩に手を置いて笑みを浮かべ、その先は無用とばかり指先に力をこめて友人を見下ろした。


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その夜、オビ=ワンは見当違いの仕返し?につき合わされ、ベッドの中でさんざん師に虐められた。

「……まったく――」
手指の先にかすかな痺れと余韻を残し、オビ=ワンはうっすらと目を開けた。まだ力の入らない頭をもたげようとすると、肩を抱かれ、引き寄せられていつものようにクワイ=ガンの肩を枕に寄り添った。もう一方の手で汗で張り付いた短い前髪をかき上げられ、額に軽く唇が降りてきた。クワイ=ガンの長い毛先が顔や首に触れ、ややくすぐったい。

「オビ=ワン」
「はい?」
「――ゲッティは私達の仲を察したようだ」
「え?!」
「誰かになりきると信じられないほどカンが働くんだ。だが心配はいらん、余計な事をいうやつじゃない」
「そうですか」
「ゲッティとティーノも似たようなもんだ。プラトニックかも知れんが」
「マスター……」
「似たもの師弟だな」
オビ=ワンは思わず溜息をつく。クワイ=ガンは笑いながら、再びその口を塞いだ。


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「マスター・ケノービ!」
「マスター・ブラン、久しぶり!」

 テンプルのプラットフォームで友人を迎えたオビ=ワンは手を差し伸べて駆け寄った。
ティーノも腕を開いて駆け寄り、二人は笑顔で抱き合った。

「何年ぶりかな。髭もようやく板についてきたね、オビ=ワン」
「君こそ私より若くみえるな、ティーノ。立ち話もなんだ。それに君は疲れてるだろう。よければ後で又」
「そうだな、晩にでも部屋へ訪ねてもいいか、オビ=ワン?」
「待っている」

 
 その晩、約束通り訪ねてきた友人にオビ=ワンは丁寧に淹れた茶を進めた。ティーノは香り高い茶を一口飲み、満足そうに椅子に身体を沈めた。
「うまい。本当にテンプルに戻ってきたと実感するよ」
「それは良かった。私は君のお世辞に慣れていないから有頂天になりそうだ」
「マスター・ジンから弟子の淹れる茶はうまいと聞かされたな」
「マスターが、いつの話?」
「共同任務の時だ。惑星イズラの食事はまあまあだが水がまずかった」
「ああ、10年以上も前の話だ」
「君はまだパダワンだったな――」
ティーノが遠くを見る眼差しになる。

「私のマスターもクワイ=ガンもフォースに還り、私達双方の弟子も卒業させた。戦争開始以来、君とスカイウォカーの活躍は遠くにいても耳に入ってくる」
「今はプレアデス星系へ赴いている。君の元弟子は?」
「――ある処に潜入して軍事機密を捜査している。評議員の君にはお見通しだろう?」
「今日は戦況の話題はよそうと思っていたんだ、ティーノ」
「同感」
「もう一杯どうだ?」
「いただこう」

 注がれたカップを見つめ、ティーノはぽつりと言った。
「マスターが死んで間もなく3年になる」
「マスター・ゲッティは偉大なジェダイだった。心からお悔やみを言わせてもらう。任務を終えた後、怪我が元で亡くなったと君が知らせてきたんだったな」
「そう、連絡を受けて駆けつけた時は手遅れだったが、意識ははっきりしていて静かに逝った。本望だろうな」
「……それは良かった」
「何と言うか、私のマスターはとらえどころがなくて人を食ったところがあったから、最後までそうだった」
「ああ――」
「亡くなる間際に言うには、同年代のジェダイの生き残りは少ないから、先にフォースへ還った者に逢うのが楽しみだ。クワイ=ガンは後を弟子におしつけ勝手にさっさと逝ったから、逢ったら文句のひとつも言ってやると」
「マスター・ゲッティなら本当にやってくれそうだ」
「そうだな、クワイ=ガンに言えるのはあの人ぐらいだろう」
二人は目を見交わし、身体を震わして笑った。

 クワイ=ガンもゲッティもジェダイを全うし、弟子に看取られて死んだ。ある意味悔いの無い最期だったろう。時間がたったからこそオビ=ワンもそう思えるようになった。育てた弟子に若くして先立たれることが心底辛いと思うのは、自分が弟子を持って始めてわかることだ。それはティーノも同様。


「――ビ、ワン?」
「あ、すまない」
知らずに想いにふけっていたオビ=ワンはあわてて友人の顔を見た。
「いや、それでゲッティから君への言付けというか、私へ託された事がある」
「え?」
「もちろん君が承知したらだ」
「ティーノ?」
真面目な顔で覗き込んできた友人を、オビ=ワンも青緑の瞳を見開いて見返した。


 ティーノは準備に30分ほどかかると言っていた。オビ=ワンは腰かけてままクロノメーターを見つめた。そろそろ時間だ。洗面所に籠もったティーノを待って、オビ=ワンはその扉に背を向けて座っていた。

 申し出を承知したくせに、私は何を動揺してるんだ?待っている時間がこんなにも長く思えたことはめったにない。瞑想しようとしても集中できない。

 ふいに、あまりにも見知った、今では懐かしいフォースを感じた。が、強くはない。あの豊かなリビングフォースの片鱗といえる程度だが、それでもオビ=ワンは彼のフォースを感じとった。
扉を開閉する音、かすかな衣擦れ。
オビ=ワンは立ち上がり、ゆっくりと振り向いた。



続く

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