The Bridal Rose 2

 「どういうことですか?」
「公式には発表されていないが、今日の式は代理が来る。そうして正式な婚姻契約が結ばれる」
「花婿は自分の惑星を出ずに、花嫁だけが行くんですか?」
「契約ではっきりすると思うが、花嫁が実際にプロスに行くのは数年後、もう少し成長してからだろう」
「そんなことがあるんですか。じゃあ、今は婚約だけにして後で式をあげてもいいのでは?」
「婚約だと状況が変れば破棄もある。結婚だと、仮に王が亡くなった場合、彼女がアドリアにいようと女王として王位を継ぐ」
「結局、婚姻を承知した時にプロスはアドリアの干渉を受け入れたということですか」
クワイ=ガンは肯いた。
「平和的な合併のようなものだ。アドリアは表立ってプロスを迫害はせん」
「平和的には違いないですが――」
「白い結婚、ともいうな」
「え?」
「こういった結婚で、共に暮らさず肉体関係のない夫婦のことだ」
「彼女は白いドレスが似合って、まるで触れてはいけない花のようでした……」
それきり口をつぐんだ若い弟子の肩に、クワイ=ガンは静かに手をおいた。


 クワイ=ガンの言ったとおり、厳粛に行われた式場に花婿のプロスの国王は姿を見せなかった。花嫁は花びらのようなドレスの上に、オビ=ワン達と同じように銀糸で家紋の刺しゅうを施し、縁に真珠をちりばめた長いマントを引き、真珠の宝冠をいただいて現れた。花嫁一人が立つ祭壇の横に、立体ホロで青い衣装の花婿の画像が映し出された。

 オビ=ワンの位置から花婿の表情は見えなかったが、体格は良く、並んだ花嫁はいよいよほっそりと華奢に思えた。誓いの言葉の後、花婿代理のプロスの特使が花嫁に指輪をはめ、司祭の祝福で式は終了した。
毅然と頭を挙げ、堂々と一人で退場していく花嫁を見たクワイ=ガンは、弟子に囁いた。
「お前の言うとおりだな」

 ほどなくして、婚姻契約により、花嫁がプロスへ赴くのは5年後と発表された。だが、これよりアドリアの王女マルグリットは正式にプロスの女王と呼ばれることになる。クワイ=ガンもこの契約の立会人の一人として、型通りに儀式用の羽ペンで署名を求められた。オビ=ワンはそれを見ながら、駆け引きや契約で成り立つ惑星間の政治に、生身の人間を縛りつけることに疑問を覚えずにはいられなかった。

ジェダイは役目を終え、その日のうちに惑星アドリアを後にした。


 あれから20数年、オビ=ワンはクワイ=ガンを失った後、一人前のジェダイになり、大戦の勃発と共にアナキンと宇宙を飛び回って戦いに明け暮れ、二人は最も有名なジェダイとして広く知られるようになった。あの運命の時、ジェダイ騎士団はダークサイドに墜ちたアナキンによって滅ばされ、オビ=ワンは身を隠さねばならなかった。

 パルマの女王もまた波乱の運命を辿った。短い結婚生活で王が病死すると、女王を認めないパルマ王族の陰謀、暗殺の危機、アドリアの干渉下での軟禁生活。敵国のスパイとののしられながらも女王は必死に反乱軍を説得し、プロス人の総督をおくアドリアの一州とすることで平和的な併合にこぎつけた。


 一度きりの忘れがたい出会いを、長い年月を経て互いに思い起こした。
オビ=ワンもフードをとった。
「マルゴと呼んでください」
「――私はベンと」
「惑星アドリアから、アウターリムのある惑星へ行く途中です。船の故障で寄ったここであなたを見かけるなんて――」
「ご主人が亡くなられて実家のアドリアへ戻られたと聞きました」
「ええ、気楽な未亡人。名目だけはプロスの最後の女王」
「惑星プロスはアドリアに合併されたのでしたね?」
マルゴは皮肉っぽく口許をあげた。
「当初の予定通り。私の結婚もそのためでしたもの」
「ご主人とは――」
「いい人でしたけれど、心労で命を縮めました。今はアドリアが同じ目にあっています」
「……それは」
「アドリアの元老院は帝国に屈しました。ヴェイダー卿が圧倒的な軍隊を率いて乗りこんできたのです。長年自治を保ってきたアドリアはじまって依頼の屈辱です。」
「……」
「私は誇り高きアドリアの王女、そしてプロスの女王として占領同然の地で生活するのに耐えられません。アウターリムで静かに暮らすことにし、侍女に身をやつして旅行中でした」
そこまで一語一語はっきりと宣言するように行っていたマルゴは急に声を落とした。

「――というのは表向きで、役目があります」
「役目?」
「――あなたと同じ、反乱軍のサポート」
青い瞳は強い光をはなって真っ直ぐにオビ=ワンを見る。目をそらしはしなかったが、オビ=ワンは視線を落とし、呟いた。
「……私には何の力もありません」
「ベン」
「砂漠の変人とか魔法使いとか言われています」
マルゴがおかしそうに眉を上げる。
「そのように見えますわね」

 苦笑し、静かに立ち上がろうとしたオビ=ワンにマルゴは囁いた。
「オルデランの姫君はお健やかにお育ちのようですわ」
「マダム!?」
「アドリアの情報網は定評がありますのよ。あなたがテンプルにいない間に何が起こったかを私どもは知っています。――知った時には手遅れでしたが。それに、アミダラ議員が出産で亡くなったことも」
「それは――」
「彼女がひた隠しにしたのは相手がジェダイだからで、さらに彼を失った傷心で亡くなったと。あれほどの女性が痛ましいことです」
「……」
「――あなた、なの?」
オビ=ワンは首を振った。
「いいえ、それに彼女は数年前に密かに結婚していましたが、私は知らなかったのです」
「……あなたは彼女と子供の父親を救えなかったことでご自分を責めて――」
マルゴの呟きは目の前の男の様子を見た途端、途切れた。

 オビ=ワンはただじっと彫像のように座っていた。身動きもせず、息さえしていないようだった。湖水色の瞳は開いていても何も目に入らず、はるか虚空を見ていた。

 やがて、気を取り直したオビ=ワンと短い会話ののち、マルゴは立ち上がった。
「お会いできてうれしゅうございました」
「こちらこそ」
「いずれ、あなたのお力を借りる時がくるでしょう。帝国は決して安泰ではありません」
「私は――」
「それまで、どうかお元気で」
マルゴは手を差し出し、オビ=ワンの目を見た。
「あなたも」
オビ=ワンは小さな手を握り返した。
「あなたはご自分のなすべき事を心得ておられる」
「アドリアの王女ですから」
マルゴは微かに目を細め、鮮やかに微笑んだ。



 その夜、荒野の住まいに戻ったオビ=ワンは青く輝くフォース姿のクワイ=ガンと交信していた。
『なるほど、あのときの可憐な花嫁がしたたかな闘士というわけだ』
「死別、陰謀、長い軟禁生活、プロスとアドリアの間に立ってかなりの苦境を乗り越えてきた方ですから」
『20年だ。お前だって人のことは言えんぞ』
「まあ、多分に誰かのおかげもあると思います」
『――お前の元の師と、弟子のおかげとでもいうのか』
「心当たりがおありのようですね。それに私の弟子はあなたに託されたんでしたね」
青く輝くクワイ=ガンは、かつてと同じように少し眉尻を下げ、僅かに口許を上げた。
『パダワンだった頃は、まだお前の舌もそれほど鋭くなかったはずだが――』
「あなたが私に心配をかけなければ、でしょう」
『オビ=ワン』
「それはともかく、帝国がどうしても手に入れたかったアドリアに強行にでたのが裏目に出たようです」
『力だけでは及ばないものもある』
「決して勝ち目のない戦はしない。あの交渉術はジェダイも多いに学ぶところがありました。さらに、したたかで銀河中にもらさず情報網を持つ」
『彼女と連絡をとるつもりか?』
「今はここを離れられませんが、将来はわかりません」

 オビ=ワンはふと微笑んだ。
「アドリアの情報網は驚くべきものですね。マルゴが別れ際に言ったんです」
『何を?』
「テンプルが攻められた状況や、私がその時不在だったことを実によく知っていました。彼女は何の権限もない名目だけの女王だったことを残念がっていました。議員だったら決してやすやすと帝国を設立させはしなかったと」
『ほう』
「これから先、決して後悔したくない。その為アドリアの元老院を説得し、反乱軍の支援に身を投じる決心をしたそうです」
『見上げた女性だ』
「反乱軍にとっては心強い味方です。まさか今になってここで出会うとは」
『彼女もお前の生存を知って喜んだ。何年たってもよく覚えていたもんだな』
「私も良く覚えています、あの時の印象は強烈でしたから。咲き初めたつぼみのような花嫁でした」
『そうだな、私の覚えている限り、お前も花婿のような装束だった』
「あれは借り物で、たしか親族ようだったと思います」
『よく似合っていた。白い花のように初々しかった』
淡々とした口調ながらクワイ=ガンにそんなことを言われ、オビ=ワンは少し照れた。

「まだ若かったですから――。それに、あなただって、たしか同じような白い衣装だったでしょう。お似合いでしたよ、貴族のようでした」
『お前はさかんに彼女に同情していたから考え付かなかったようだが』
「何をですか?」
『ジェダイは結婚しないし、特別な格好をすることもないが、お前があんまり良く似合っていたから夢見た、というところか』
『クワイ=ガン……』
『私達も婚礼するような感慨にひたっていたんだ』
「――あの時、そんなことを考えていたんですか?」
「まだ恋人になって間もないころだったろう。お前は慣れていなかったから」
「……マスター」
『さっさとアドリアを立って、船で愛し合ったときは初夜に近い気分で――』
「!!!!!」

 オビ=ワンは椅子を倒して席を立った。頬に血が上るのを感じ、自分でも何と叫んでいいかわからず、ただぱくぱくと口を開いた。
『――とても可愛いくて――』
フォースを通してクワイ=ガンの意識が聞こえたが、その姿はオビ=ワンの視界から消えていた。


End

 旧作の、お茶目で品のいいアレック・ベンさんが好きです。このSSではまだユアン・ベンですね。マスターは相変わらずだし(笑) ユアンは40代になってもきっとワッカイから、オビもいつまでも可愛いはずですよ。

スピンオフの「The Last of the Jedi」読んでないのですが、聞いた話では(笑) 残ったジェダイ達などで反乱軍を組織するような展開とか。オビも関与してるらしいので、20年間、暇だったわけでもなさそうです。
1へ
戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送