Occationally − 恋人達のバレンタイン − | ※AU設定 マスター生存&ナイト・オビ=ワン |
ほぼ定時に仕事を終え、滞在している宿舎の部屋に近づいた時、オビ=ワンは、それ、を感じた。この距離から感じられるのは、自分だからこそ。明らかに抑えているが、数年まえまで常に身近にあったフォースに紛れも無かった。 ジェダイナイト・オビ=ワンは、現在、単身である惑星に派遣されていた。 多くの惑星にシェアを持つ巨大企業の研究所に、コルサントからきた専門職員として身分を隠して潜入操作中だった。社員用の宿舎のセキュリティは万全で、入室は身体特徴データ認証になっている。いくら巧者のジェダイとて、簡単に入れるはずはない、のだが。 扉を開けると、リビングの椅子に、ごく自然な様子で腰掛けたクワイ=ガンがデータパッドに向っていた。 「おかえり、オビ=ワン。案外早かったな」 「マスター……」 あたりまえのように声をかけられ、オビ=ワンは久しぶりに逢う元の師に寄ってハグと頬に優しい口づけを受ける。温かいフォース、肌にふれる長い髪、ちょっとくすぐったい髭の感触。顔を離し、互いの瞳を見つめ合って微笑む。が、オビ=ワンの口から出たのは再会を喜ぶ言葉ではなかった。 「何の用でいらしたんです。連絡なしということは、極秘か緊急ですか?」 「思い立って元の弟子に逢いたくなった、とか思わないのか?」 「いくらあなただって、そんなことで私の任務の邪魔はしないでしょう。何があったんです?今すぐここを出ろといわれても驚きませんよ」 師弟だった時、成人したオビ=ワンと恋人になってから、弟子が一人前のナイトになった今でも、プライベートで二人の関係は続いている。が、長年身近にいたオビ=ワンはクワイ=ガンを知り尽くしていた。親子ほど歳の違う元の弟子の言葉に、ジェダイマスターは少し眉尻を下げた。 「――いや、任務に関することだが、座って話すくらいの時間はある」 「それは、けっこうですね」 オビ=ワンはリビングの一角の簡易キッチンスペースで、茶を煎れ始めた。 「元老院議員の暗殺をはかった一味を追って、この隣りの星系まで来た」 組織の壊滅は成功したが、調べるうちに特殊な薬品や毒物をこの研究所から密かに入手しているらしいと言う。 「どうやら、あなたと私の任務は密接な繋がりがありますね。私の任務は、惑星政府の産業局からで、内部告発で発覚した、裏の組織から送り込まれている人物を見つけて欲しいというものです」 「どれぐらい進んでる?」 「告発内容は本物でした。容疑者はもう少し調べて絞り込もうと思ってたんですが、あなたの情報に関連することがあるかもしれません」 「最新の情報だ」 クワイ=ガンはデータパッドを開いてオビ=ワンに見せた。 「この惑星から今日の真夜中に発信されたメールだ。ジェダイとは疑っていないが、コルサントから監査がはいってるので、済むまでは動けない、とある」 「発信者を特定できれば、動かぬ証拠になりますね」 オビ=ワンはモニターをしばし凝視し、それから自分のデータパットを開けて操作を始めた。 「私に許可されてるアクセス権限でどこまでわかるかやってみます」 物音のしない室内に、かすかな電子音と、ときおり軽いキーボードの音がする。二人のジェダイは無言でモニターを目で追っていた。 やがて、はじき出されたIDコードに、オビ=ワンが詰めていた息を吐きだした。 「出ました」 「わかったのか?」 「実際に使用した端末を確認する必要がありますが、ほぼ特定できました。それも複数」 「知ってる者か?」 「一人は見当をつけていた人物、もう一人ははっきりしませんが、私のいる部署内です」 「ふむ」 クワイ=ガンはオビ=ワンが見慣れた仕草で顎をさすった。 「幸いジェダイとは知れていないので、明朝、確認したら身柄を拘束しましょう」 「今晩中にすることは?」 「へたに動くとかえって不審をもたれます。おとなしくしてましょう」 「わかった。今晩はここでやっかいになるぞ」 「それはかまいませんが、マスター」 「なんだ?」 「ここのセキュリティは万全のはずですよ。どうやって入ったか私にも方法を伝授していただけませんか?」 「自分で考えろ」 「マスター……」 「お前はもう一人前のナイトなんだからな」 「わかりました……」 オビ=ワンは溜め息をついた。 「この部屋は一人用ですからせまくても我慢してくださいね。ベットは一応セミダブルです。シャワーと洗面所はそちら、食事は――」 「そういえば腹が減ったな。急にここまで来ることになったから、今日は何も食べてない」 オビ=ワンはがっくりと頭を垂れた。 「では、何かすぐ食べられるものを買ってきましょう」 「すまんな、なんでもいいぞ。あれは食べ物じゃないのか?」 クワイ=ガンは帰宅したときオビ=ワンが下げていた包みを指した。 「――お菓子です。食事にはなりません。それに甘いです」 「歳のせいか、たまに甘いものを食べたくなる」 「……それは一日何もたべてないんだから、口に入るならなんでもいいんでは」 「何かいったか、オビ=ワン?」 「いえ、いただき物ですが、よければ食べててください」 オビ=ワンは包みをテーブルに乗せ、仕事中に着ているこの惑星の標準的な服装に上着をひっかけ、部屋を出て行った。 後に残されたクワイ=ガンは包みを開け、中身を出してみる。それは、いずれも可愛らしくラッピングされたいくつかの小箱だった。片眉を上げ、クワイ=ガンはそのひとつを開けてみる。中には綺麗に並んだとりどりのチョコレート。ここにきてさすがにジェダイ・マスターも思い当たった。今日はバレンタインデーだった。 この惑星もどうやらコルサントと同じ状況らしい。オビ=ワンが弟子の頃は、毎年、照れながらも弟子がいろいろと趣向をこらしてくれたのを思い出した。 たまたま短期間ながら潜入操作しているところでも、オビ=ワンはチョコレートを贈られてくるとは。確かに、若くて見目もよくてエリートという役回りなら無理もないか――。クワイ=ガンは丸いチョコトリュフを指でつまみ、口にいれる。ほろ苦いビターの味が口に広がった。 「お待たせしました」 オビ=ワンが両手に買い物袋を下げて帰ってきた。 「近くにうまいテイクアウトの店があるんですよ。パスタとサラダ、それにミックスサンドとピザ」 「――けっこうな量だな。食べきれるか?」 「だってお腹すいてるんでしょう、マスター、大丈夫ですよ。残りは私が食べますから」 「お前、食べ盛りは終わってないのか……」 オビ=ワンは、軽く肩をすくめた。 「これは私の個性の一部と思ってもらえません?それに、任務中は周りの人に合わせてます、必要以上に目立つことはしません」 オビ=ワンは話しながら、キッチンから取り皿やフォークなどを出している。 料理を並べていたクワイ=ガンは綺麗に包装された箱に気づいた。大きさはちょうど小さめのケーキ丸ごと収まるくらい。 「この箱はなんだ?」 「今、貰いました」 「誰から?」 「隣りの部署の女性です。帰って来た時、下のエントランスで」 「バレンタインだからか?」 「この会社の女性はサービス精神が旺盛みたいです」 オビ=ワンはちょっと口許をあげ気の毒そうな笑みをもらす。 「私の出張は今月限りということになってるから、お返しも期待できないのに」 「どんな娘だ?」 「ジュディ・レン。ヒューマノイドの女性。23歳、首都出身、犯罪歴及び賞罰なし、専門学校を卒業して3年まえに入社、家族は両親と弟、趣味は菓子つくりと映画鑑賞――」 「データじゃなくて、容姿とか性格は?」 「――多分、普通でしょう」 「お前……」 「顔立ちスタイルも特に目立った点はないし、髪と目は茶色、えー口数は多くないです。挨拶ぐらいしかしたことないし、これを渡されて驚きました」 「礼は言ってきたんだろうな」 「ちゃんと言いましたよ。すぐに走って行ってしまいました」 「恥ずかしがり屋か、彼女に男を見る目がないわけじゃないが、相手がお前ではな。いずれ、お前よりずっといいボーイフレンドが出来るだろう」 オビ=ワンはそれを聞いて、物問いたげな目でクワイ=ガンを見た。 「――そう願いたいです。今回は潜入捜査とはいえ、任務中に必要以上に女性と仲良くなったり、プライベートに関わることもないでしょう」 「そうだな。後で開けてみたらどうだ?」 「任務中にバレンタインデーがきたのは偶然で、あ……」 「なんだ?」 「ひょっとして、今年あなたに何もしなかったからおもしろくないんですか?」 「オビ=ワン」 「なわけないですよね。互いに任務中だし、あなたは甘いもの好きじゃないし」 「ああ。さて、食べよう」 「はい」 オビ=ワンはまだ何かひっかかっているようだが、フォークを取り上げた。 クワイ=ガンは普通の、オビ=ワンは旺盛な食欲を見せ、料理はほとんど胃に収まった。 「ごちそうさまでした。マスター、もうよろしいんですか?」 「充分だ」 後片付けするオビ=ワンにクワイ=ガンはあの箱をさした。 「デザートは食べないのか?」 「そうですね。せっかくですから」 「私は一口でいいぞ」 「わかってます……」 オビ=ワンは苦笑し、華やかなワインカラーのリボンを解く。 蓋をあけると、丸いケーキが現れた。飾りはほとんどなく、表面にチョコレートがコーティングされたシンプルなデザイン、表面にSt. Valentine's Day とLOVEの文字が型抜きと思しき白いパウダーで描かれていた。 「――良かった」 「何がだ?」 「菓子つくりが好きだけあって、ちゃんと食べられそうです。この日のだけのにわか作りとかじゃない」 「どういうことだ?」 「手作り品は要注意なんです。歯が立たないほど硬いチョコとか。枕ほどの大きさのとか貰って閉口したことがありましたからね」 「パダワンのころか?」 「ええ、さすがにマスターには見せられませんでした」 「貰うほうにも悩みがあるのか、ぜいたくだな」 含み笑いするクワイ=ガンを軽く睨んで、オビ=ワンはケーキにナイフをいれた。まず、ごく小さく切ったひときれの皿を向い側に置き、自分には大きめに切り分けた。その断面に目をやる。 「スポンジもちゃんと膨らんでます」 オビ=ワンは一口味わって嬉しそうに言う。 「中に挟んであるのはチョコ入り生クリームに洋酒漬けのミックスドライフルーツ。甘さも控えめで美味しいです」 「お前の作るものには及ばんがな」 「どうでしょう。味見なさってください」 クワイ=ガンは表面からフォークで少しすくい口にいれた。 味わい、微かに眉をひそめ、飲みこんだ。 「どうですか?」 クワイ=ガンは答えず、さらにもう一口、今度は中のスポンジと挟んであるものを慎重にすくい、口に運んで、時間をかけて味わっている。 さらに、もう一度、表面の白い飾り文字とチョコレートの部分をすくって舌先で何か確かめるようにしている。 「マスター……?」 「この味はなんだ、オビ=ワン?」 続く |
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