Long Goodbye 1 | ||
「私が鍛えます」 金色の髪の少年の肩に手を置き、クワイ=ガンが居並ぶ評議員達の前で言い切ったのを耳にしたとき、オビ=ワンは衝撃に蒼い瞳をいっぱいに見開いた。 『No! 』 知らずに、開いた口から声にならない叫びをあげる。 『いけません、マスター!それだけはどうしても』 「おぬしには既に弟子がおる」 「マスターが同時に二人の弟子を持つことは許されん」 ヨーダとメイスがクワイ=ガンの言葉を否定する。と、間髪を入れずに返ったクワイ=ガンの返事は又もオビ=ワンの希望を打ち砕くものだった。 「オビ=ワンはもう卒業です」 型破りなジェダイマスターの一方的な宣言に評議員は又も拒否を繰り返す。 「それは、評議会が決める事だ」 オビ=ワンは立ち尽くしたまま、クワイ=ガンを見ていた。 既にクワイ=ガンは後戻り出来ない域へ踏み出した。止めることが叶わないこともわかっていた。だが、なんとかしてオビ=ワンはその歯車を止め、出来る事なら戻したかった。 師が名を呼ぶ。 オビ=ワンは反射的に足を運び、クワイ=ガンの横に並んだ。 師を取り巻くフォースは有無をいわさぬ厳しさと決意が込められている。そして、堅く心を閉ざしていた。 「オビ=ワンにはすべてを教えました。私が教えることはもうありません」 一方的な決別が告げられる。 もし、こんな状況でなければ、オビ=ワンは誇らしい思いで待ちわびたこの言葉を聴いたかも知れなかった。 オビ=ワンは素早く呼吸をし、自分がこの場で言える唯一の言葉を発した。 「準備はできています」 評議会はクワイ=ガンの主張を認めず、保留にした。任務中でもあり、さすがのクワイ=ガンもジェダイオーダーの前例をことごとく覆す事をこれ以上主張し続けるのは諦めざるを得なかった。 それともう一つ、クワイ=ガンが評議会の保留を受け入れたのは、オビ=ワンのこともあった。絶望と恐れ!自分が選ばれし者と信じた子供を連れ帰り、弟子にすると言ったときのオビ=ワンから感じた感情、はクワイ=ガンにはおよそ想像できないものだった。不可解といってもいい。 師弟となって十数年、互いの行動や感情など、およそ見当がつく。 オビ=ワンは慎重で、選ばれし者・アナキンについても、ジェダイテンプルの常識にてらして修業を始めるには成長しすぎと懸念していた。が、師がアナキンの将来に賭け、責任を持つなら、クワイ=ガン自ら弟子にすることも、予想はできたはずだし、オビ=ワンはアナキンのことがなくても、弟子を卒業し一人前のナイトになる技量は充分だった。それは評議会も認めていた。 実際、ここ数年オビ=ワンは単独任務もこなし、手際もナイトと遜色ない。師弟には困難や危険な任務があてられ、ナイトのチームより二人の達成率は高く、仕事ぶりも際立っていた。クワイ=ガンが故意に優れた弟子を手放さないのでは、という噂を聞いたヨーダは笑って答えた。 「フォースが決めるのじゃよ。新たなナイトが誕生する時はの」 評議会の前で既に準備ができていると言ったオビ=ワンの決意はためらいがなかった。が、シールドで心を閉ざしていたオビ=ワンから、衝撃のあまり一瞬漏れた、負の感情、絶望と恐れ!ジェダイが最も避けるべき想いを愛弟子から感じたクワイ=ガンはそれを無視したまま、先に進む事は出来なかった。まして、よりすぐりのフォースを持つ評議員達もおそらくオビ=ワンの恐れを読み取ったに違いない。 アナキンの事。ナブーの紛争の事。オビ=ワンの事。すべて急を要する。そして、時間がなかった。 評議会室を出たクワイ=ガンはアナキンを連れ、テンプルのゲストユニットへ向った。幼児の扱いに慣れたヒーラーにアナキンの世話を頼んでおいたのだ。オビ=ワンは無言で、二人の後に着いてきた。 「僕はどうなるの?」 ユニットの前で、アナキンが足を止め、不安気にクワイ=ガンを見上げた。 クワイ=ガンは屈んで、目を合わせる。笑顔でゆっくりと語りかけた。 「私達の今回の任務が終わってから、はっきりするだろう。だが、心配はいらない」 「うん……」 「私達は女王と共に明日ナブーへ行くが、ここで帰りを待っててくれ。それまでここで好きにしていいんだ。ヒーラーが世話をしてくれる」 「いっしょにいっちゃだめ?」 「アナキン」 「ねえ、クワイ=ガンは僕を弟子にしてくれるんでしょ。だったら、僕も連れてってよ」 「危険なのだ」 「大丈夫、言う事聞いて、危くないようにする」 「子供を連れていくわけにはいかない。聞き分けてくれ」 「クワイ=ガン」 初めて会った時は無邪気で不遜な子供とさえみえたアナキンが、不安を露わにして必死に大きな師にすがりついている様子をオビ=ワンはぼんやりと見ていた。 自分は傍観者のような気がしていた。出来れば無視したかった。アナキンの存在自体を。目の前に少年が現れた時から感じた不安が常に頭ももたげようとするのを、オビ=ワンは何とか押さえ込もうとした。それが出来ないなら、いっそ無視するしかない。 マスターのおっきな拾い物、オビ=ワンは自嘲気味に唇を歪めた。今回はご自分でかたをつけてください、マスター。 「オビ=ワン!」 クワイ=ガンに呼ばれ、ふいにオビ=ワンの思考は破られた。 「じゃあ、アナキン、元気で。私達はこれから用があるんだ」 大またでクワイ=ガンが近づいてくる。 「いくぞ」 ローブを翻し、オビ=ワンの横を通り抜けていく。 オビ=ワンはあわてて後を追う。振り返る前に、一瞬、ヒーラーと扉の前にたたずむ金髪の少年の頼りなげな姿が見えた。 あの少年には何の罪もない。すべてがフォースの意志なら、もう歩みを止めることは出来ないのだろうか? クワイ=ガンが向った先は居住スペースではなかった。反対方向へ目指し、ターボリフトに乗り込む。オビ=ワンは目的も場所も知らないまま続いてリフトにすべりこんだ。二人きりのリフトの中は無言だった。自分達の関係があの一瞬で決定的に変わってしまったことをオビ=ワンは感じていた。おそらく、クワイ=ガンも。狭いリフトの中に身体が触れ合うほどの近さにいても、心が見えない。オビ=ワンは、評議会室で師が自分も近づけないほどのシールドを築いていると察した時から、自分のシールドも完全に閉じていた。 リフトを降りたクワイ=ガンが向った方向で、オビ=ワンは目的地の見当がついた。 ジェダイテンプルの星座室。クワイ=ガンはここが好きだった。オビ=ワンも何度か共に訪れていた。大きなドーム型の天井を背景に、立体ポログラムが銀河系の星々を銀砂のような浮かびあがらせている。闇の中に散らばる星明かりの中で、自分達もまるで宇宙空間に浮かんでいるような錯覚におちいる。 クワイ=ガンが振り向いた。 「パダワン」 深い声音で呼びかけたその言葉はことさらゆっくりと響いた。 オビ=ワンの切望が叶って、クワイ=ガンが弟子にしてくれた時から、この言葉はオビ=ワンにだけ向けられるものだった。それは今だって紛れもない事実なのだけれど。 二人は見詰め合った。僅かな光りの中でも不思議と互いの瞳の色だけははっきりとわかった。 「お前は何を恐れているのだ?」 オビ=ワンの息が止まった。 続く |
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