The Blue Eyes 2      ※ 恋愛未満   
 数日後、任務を終えた師弟はテンプルに戻って来た。
オビ=ワンの身体はほとんど回復していたが、瞼や顎にまだうすく跡が残っていた。

「オビ=ワン!」
「バント!」
 久々にあった親友同士は、子供のようにはしゃいで抱き合い、滝を見下ろす場所の柔らかい草の上に座ってしゃべりだした。ここはバントのお気に入りの所だった。

「ずっと会えなくてごめん。昨日テンプルに戻って来たんだ」
「元気そうでうれしいわ。それに――、オビ=ワン、聞いたわよ」
バントは悪戯っぽく微笑んだ。
「何を?」
「あなたが夢中になった素適な女性の事」
「君までそんな。あれは任務だったし、もうすんだ事だよ」
「そうなの?」
バントはわざとらしく小首をかしげて聞いた。

「そりゃ、リナは気の毒で、その上狙われていたから、僕が信じて守ってやらなきゃいけないと思ったんだ」
「リナという名なのね。それで」
「マスターは最初リナを信じていなかったんだ。だから余計僕は彼女を助けたいと思ったかもしれない。マスターはあれ以来任務に就いていなかったし、最初もあまりやる気がなさそうに見えたんだ。僕のために仕方なく任務を受けたって気がしていた」

 話を聞いてバントは眉をひそめた。
「マスターは彼女にのぼせるなって言った」
でもね、とオビ=ワンは友人の表情を見て早口で話を続けた。

「今思うと、僕がリナに肩入れしたのは、夫を亡くしても気丈に遺志を継ごうとしている彼女を見て、クワイ=ガンが立ち直ってくれたらいいと願っていたんだと思う」
「あなたはクワイ=ガンを本当に心配していたのね」

 オビ=ワンは肯いた。
「マスターは途中から立ち直ってくれた。今度の任務も、前と同じに立派だったよ」
オビ=ワン、と名を呼んで、カラマリアンの少女は友人の手を握った。
「わたし、あなたの顔をみたときに、そう思った。もう、大丈夫なんだって」
「ありがとう、バント」

 今度はオビ=ワンがバントの薄い水かきのあるほっそりした手を握った。
「――君も、もう大丈夫なんだろう?」
「ええ、まだ評議会が発表してないから誰にも内緒だけど、もうすぐ新しいマスターが出来るわ」
「おめでとう!僕にも内緒?」
そうね、とバントはにっこりして親友にそっと耳打ちした。
「……本当!?」
バントが嬉しそうに肯く。
「君にぴったりじゃないか。良かった。本当に!」
オビ=ワンは腕を伸ばしてバントを抱きしめた。

 少年にきつく抱きしめられてバントが高い声を上げる。
「オビったら、痛いじゃない。もう、レディになんて事するの!」
あやまりながら身体を離したオビ=ワンをバントは優しい銀色の目で見つめた。
「私のマスターと、きっとあなたも友達になれると思うわ」
「僕も彼が好きだよ」
「ええ、私もクワイ=ガンが好きよ」

ふと、オビ=ワンが思いついたように言う。
「クワイ=ガンの目はすごく綺麗な青なんだ」
「そうよ。とても素適な濃い青い瞳。いつも側にいるくせに」
「もちろん、わかってたよ。けど、今度の任務中スコールで二人ともずぶぬれになって――」
「スコールでずぶ濡れ?オビ、詳しく聞かせてちょうだい」
久しぶりにあった二人の話はいつ果てるともなく続いた。


 クワイ=ガンからゆっくり話してこいと言われていたオビ=ワンは、バントと食堂で夕食をとった後、住いに戻って来た。しばらく外出を避けていたクワイ=ガンも、今日はメイス・ウィンドゥやアディ・ガリアと食事をしてくると言っていた。

 オビ=ワンがシャワーを浴びてリビングに出てくると、ちょうどクワイ=ガンが帰ってきた。
「おかえりなさい、マスター。食事はどうされました?」
「ああ、すませてきた。お前もか」
オビ=ワンが濡れた髪を拭きながら肯く
「マスターもバスを使われたらどうですか」

 クワイ=ガンは弟子の湯上りの姿に視線を落とした。オビ=ワンが手を伸ばして師の脱いだローブを受け取ると、クワイ=ガンはバスルームに向かった。

 シャワーを終えてリビングに行くと、オビ=ワンがお茶を入れたカップを運んできた。

「バントとゆっくり話したのか?」
「はい。――彼女の新しいマスターの事、ご存知ですか?」
「今日、メイスに聞いた」
「今度のことで、マスター・ヨーダやマスター・ウィンドゥにとても良くして頂いたと感謝してました」
「バントはいい子だ。辛かっただろうが、これで安心だな。お前も私も、――も……」
亡き人の名を口の中で呟くクワイ=ガンの視線が遠くを見る。

 それも僅かの間で、カップを取り上げ一口飲んだクワイ=ガンが話題を変えた。
「ところで、フレーゴ政府とリナ・コボレルから丁重な感謝が届いたとメイスが言っていたぞ」
「どういったものですか」
「ファミリーの勢力は衰え、すぐにとはいかないが良くなっているようだ。リナも元気で、当面は政府のサポートスタッフをするそうだ」
「良かったですね」
「なんだ、そっけないな。リナと連絡をとりたいなら――」
「任務を果たしただけですから。フレーゴとリナが良いほうに進んでるなら満足です」
「本当にいいのか?」
「はい。信用していただけないんですか?前みたいに任務後も引きずってあなたに逆らうとでも」
「もちろん、信じてるとも。弟子が成長しているのに私がついていけないとはな」
クワイ=ガンはいくぶん複雑な眼差しでオビ=ワンを見た。
「もうすぐ4年か。パダワン」
「13の誕生日の直前に弟子にしていただきましたから、そうです」

 ふいに、クワイ=ガンはほどけてまだ水気を含んだオビ=ワンのブレイドの先をつかんで軽く引いた。
「マスターっ!?」
「また背が伸びたな」
「そりゃ、成長期ですから」
ブレイドを引かれるまま、オビ=ワンの身体は椅子に腰掛けた格好でクワイ=ガンの身体につきそうなほど近づいていた。見上げるオビ=ワンの視線を受け止めたクワイ=ガンは優しい眼差しで見返した。

 弟子のみずみずしい肌に似合わず、薄く残る傷跡と痣はまだ顔に残っていた。
「痣が消えないな」
「すぐ無くなります。――なんだか、この前のスコールの時みたいですね。濡れたままで」
ああ、とクワイ=ガンは破願する。

「そうだな」
「マスターの目はとても青くて綺麗で――」
「元々こうだぞ」
「そうなんですけど、ええと、惑星ガイアの海か、御婦人のつける光る青い石みたいな」
「それは、お前にしては最高の賛辞らしいな」
「すみません。語彙が乏しくて」
「うれしいよ。ありがとう、パダワン」

 クワイ=ガンは笑みを含んだ表情で、オビ=ワンの薄く傷跡が残る額に軽く口づけを落とす。
「……!?」
ふいのことに、少年の目は大きく見開かれた。

「ではお返しに、私もお前の瞳は好ましく思っているよ」
オビ=ワンは瞬きし、金色の長い睫毛に縁取られた瞳をいっそう大きくして師を見返した。

「煌めく光を映してさざ波のように移り変わる蒼と翠の瞳、たとえるならこの上なく魅力的なオパール、変幻の世界に誘い、見る物を虜にする魔性の宝石――」

 弟子は瞬きも忘れ、あんぐりと口を開けたまま師を見上げている。
「――と、まあ口説くときはこれぐらい持ち上げれば効果的だ」
「なっ……マスターっ!」
「まだ、女性に告白した経験はなさそうだな」
「ありませんっ!」
クワイ=ガンは目元に笑いを滲ませて、身体を引いたオビ=ワンを見つめた。
予想通り、感情のままにくるくると変わる少年の表情と瞳の変化を見るのは楽しい。

「……まだ子供だって言うんですね。マスター」
「いいや。次のステップに進んでもいいと思っている。私の弟子は向上心があるからな」
クワイ=ガンが深青の瞳で楽しげに見返した。

不審気に見上げていたオビ=ワンの表情がなごんでいく。
「努力します。マスター」
ついで、その明るい瞳が輝いた。
「では、さっそく後学のために伺いたいんですが」
「なんだ」
「相手がですね、マスターのような濃い青い瞳だったら、何て讃えたらいいんでしょう?」
「何だって――!?」
思いがけない言葉に困惑気な師を見上げて、オビ=ワンはにっこりと微笑む。
「鏡を持ってきましょうか?」
「いや、いい。濃い青の目か」
軽く眉間を寄せ、思案する風だったクワイ=ガンが、顔をあげた。

「例えばお前がそうだったら――」

クワイ=ガンは手を伸ばしてオビ=ワンの顎をそっととらえた。
師のややこもった声が、低くゆっくりと、抑揚をもって詩のように囁かれる。

「神秘と寛容に満ちた底知れぬ紺碧の海、その耀きは内なる宇宙へいざなう魅惑のサファイヤ、決して忘れえぬ全てを包み込む青い宝石」

 オビ=ワンは師と目を合わせたまま、また、あの不思議な感覚がよみがえってくるのを感じた。身体が軽くとても心地良い。けれど、意識は目の前の瞳に集まる。吸い込まれるように、ただ深い海に呑み込まれる――。


「――どうだったかな。パダワン?」
師の声に我に帰る。

「……良かったです。あの、フォースを感じたような」
「フォース本来の使い方ではないが、感じたとすれば、お前が相手だからかな」
「そう、ですか。――とても参考になりました。マスターにはああ言えばいいんですね」

 うん、とクワイ=ガンの片眉と口元がゆっくりと上がる。
「お前が私を口説いてどうする」
「――ですね。では、いろいろ教えていただいてありがとうございました。マスター」
師は鷹揚にうなずく。

「ついでに、他の色のバージョンも教えようか?」
弟子は急いで首を振った。
「もう、充分です」
オビ=ワンは立ち上がり、それより、とクワイ=ガンを見た。
「明日から格闘技のトレーニングをお願いできますか。――どうも、口よりは体を動かす方が向いているみたいです」

 クワイ=ガンは一瞬目を見張ったが、すぐに楽しそうに肯いた。
「いいとも。お前がこの前使った足技は体格差をカバーするのによさそうだ。練習してみようか」
「マスター相手なら申し分ありません」
弟子は即座に同意した。



End


 あの紺碧の瞳を16歳のオビに語らせてもなぁ。オビ経験なさそうだし……。
やっぱりもっと大人に語っていただきたい。オビ、努力してね。
未だ体育会系の師弟。オビの黄金の脚力はこのきっかけで誕生したかも(笑)

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