The Blue Eyes 1      ※ 恋愛未満   
 「オビ=ワン!」
食堂に入っていくと、向こうの席からガレンが呼びかけてきた。
オビ=ワンが隣に座ると、興味津々といったふうで意味ありげに話しかける。

「聞いたよ。で、彼女どうだった?」
「彼女?」
「君が守った惑星フレーゴの女性。すっごい美人だって」
「リナ・コブラルのこと?美人かって言われても夫を亡くしたばかりだし――」
「誰が美人だって?」
口の端をちょっと上げ、シーリーがトレーを持ち立っていた。

 オビ=ワンは彼女のために隣の椅子を引きながら答えた。
「僕達は彼女を護衛しただけだし、そんなこと任務に関係ないだろう」
「でも、どうせなら若くてきれいな女性のほうがいいだろう?」
とガレン。
「そりゃあ」
「二人とも」
さえぎったシーリーの口調に二人の少年は瞬時に動きを止め、おそるおそる次の言葉を待つ。
「で、どうだった、オビ=ワン。彼女実際きれい。歳は。髪と目の色は?」
3人は一斉に吹きだした。


「髪も目も濃い茶色で、歳は僕より少し上かな。3年前に結婚したから大人だけど。感じがよくてやさしくて、でもしっかりしてて。――正装した時は、ずいぶん大人っぽくてきれいだった」
「正装?」
「惑星フレーゴの不正を正すために議会で証言した時」
「オビ、彼女の命を救ったんだって?」
「証言が成功した後、フレーゴから彼女を殺そうとする者がきてね」
オビ=ワンの顔が曇る。リナの命を救ったものの、相当衝撃を受けていた――。

「彼女怪我したの?」
「無事だった。昨日フレーゴに帰っていったよ」
「帰った!一人で」
「政府の人達と一緒に。僕もマスターと空港まで見送った」
「オビは付いていきたかったけど、マスターに反対されたんだ」
「まさか!なんでそう飛躍するんだよ」
「なぁんだ。すっかりクワイ=ガンとジェダイオーダーに忠実になっちゃったんだ」
「だから何でそうなるんだ。僕は任務を果たしただけだよ」
「大人になったね。オビ=ワン・ケノビ」
「たんに奥手なだけじゃない」

 友人達の遠慮のない物言いに苦笑しながら、オビ=ワンはごくりとカップのお茶を飲み干した。
「そりゃ、リナは素適な女性だけど、亡くなった夫を愛していたから、危険でも証言しようとしたんだ。それにマスターが最初はあまりやる気がなくて、彼女が気の毒だったし」

ガレンとシーリーは目を見合わせ、瞬時に神妙な顔つきになった。
「タールが亡くなって何ヶ月かったかな……」
「勿論、タールの事を聞いたときは、うちのマスター私も、皆、すごくショックだったよね」
「クワイ=ガンはタールの最後に立ち会ったって聞いたけど……」
オビ=ワンは肯いた。
「二人は幼馴染で特に絆が深かったから、マスターはもうすごく沈んで――。見ていられないくらいだった」
「――今は?それより君が大丈夫かい?オビ=ワン」

 オビ=ワンは顔を上げて友人達に笑顔を見せた。
「今はもう大丈夫。マスターも僕も」
「本当?」
「ありがとう。本当に立ち直ったんだ。すぐ次の任務も決ってるんだ」
「オビも苦労するね」
なぐさめられたオビ=ワンは軽く頭を降り、静かに応えた。
「マスターと僕は、前よりもっとわかりあえるようになったと思う。それより、今はバントが心配だけど、今日は見かけないね」
「少し前だけど、泉のところでマスター・ウィンドゥといたのを見たな」

ガレンに続き、シーリーが身を乗り出して言う。
「うちのマスターから聞いたんだけど、バントの新しいマスターのことで、評議会も心配してマスター・ヨーダとマスター・ウィンドゥが力になってくれるって」
「そうか。じゃあ安心だね」

 オビ=ワンはタールのパダワンだった親友のバントを案じていた。やさしいカラマリアンの少女は、苦しい時や悲しい時、いつもオビ=ワンの側にいてくれた。が、今回は愛するタールを失ったクワイ=ガンの悲嘆が深く、さらに、マスター・タールを失ったバントを見るのも辛かった。オビ=ワンの前では表に出さずけなげにふるまっていたが、バントの心中はきっと悲しみと不安でいっぱいのはずだった。

次の任務を終えて帰ってきたらゆっくり会おう。オビ=ワンは心に決めてマスターと共にコルサントを後にした。


 惑星エイジアンの平和会議の立会いが今回の任務だった。ジェダイは会議の監視役として共和国法に添った助言をすることになっていた。惑星政府は紛争地域代表者の過激な発言を抑制し、会議を成功させたいと望んでいた。しかし、テロや会議場を爆破する噂があり、警備は厳重だった。

 この惑星の主産業は農耕だが、最近は先端技術開発に力を入れていた。宇宙港近くの都会は高層ビルが立ち並び、乗物や人で溢れていたが、郊外はのどかな田園地帯が広がっていた。この付近は亜熱帯気候で湿度が高く、今は雨季だった。

 到着した日にホテルの窓からスコールを見たオビ=ワンは驚いてクワイ=ガンに告げた。
「まるで、空から一斉に強いシャワーが降ってきたみたいです」
クワイ=ガンに笑われたが、オビ=ワンはマスターの笑い声を聞いて嬉しかった。タールを失ってからのクワイ=ガンは、長い間ジョークを言う事も、笑顔を見せることもなかった。ようやく最近元に戻ってくれた。

「――そんなにおかしいですか。マスター」
「いや、そうだな。ためしに服を脱いで外にいってみるか。水の節約になりそうだ」
「ジェダイにあるまじき行動だって評議会に言われそうな気がします」
クワイ=ガンはそれを聞いてまた笑った。

 オビ=ワンはおおむねマスターと行動を共にしたが、本会議の間は会場周辺の警備にあたった。会場前は連日少人数のデモが行われていたが、過激ではなく害はなさそうだった。が、数日たってデモの先導者が、下調べ中にみた紛争地帯の知事の近くいた男に似ている事にオビ=ワンは気付いた。警察署のデータから、州のガード退職後に武器の密輸で摘発されていたことがわかった。

「明日あの男を尾行しようと思います。マスター」
クワイ=ガンは承諾の代わりに弟子の姿に視線を走らせた。
「その姿では目立ちすぎだ。どうする?」
この惑星の住民はヒューマノイドだが、体格も小柄で、ほとんどが黒髪と濃い色の瞳、訪問者の目には一見皆同じに見える。

「これでどうでしょう」
オビ=ワンは白っぽい布を取り出し、頭からすっぽりと被って、顔だけを僅かにのぞかせた。
「年配の婦人はけっこうこんな姿をしています。聞いたら昔風の習慣のようです」
「よかろう、だが」
検分するようにオビ=ワンの扮装姿を見ていたクワイ=ガンは、手を伸ばして弟子の頭を覆う布を少し引き下げた。

「外から目が見えないようもっと深くするように」
「こうですか?」
「お前の目。――そんな不思議な色をみたら、ここでは絶対余所者とわかる」
「え?」
「ブルーだが、時にグレーやグリーンになる。光や気分でも変わる。おかげで気分がよみやすい」
「……マスター」
「冗談だ。――扮装はこれでいいが、慎重に動くように」
「イエス、マスター」
オビ=ワンはマスターの目を見て肯いた。


 次の日、デモが解散した後、オビ=ワンは男の後をつけていった。会議場からそう遠くない下町の古びたビルに男は入っていった。オビ=ワンがしばらく外で様子を伺っていると、別な男がそのビルを訪れたが、その顔に見覚えがあった。例の知事の側近の一人だった。

 到着を待って、オビ=ワンは惑星警察と共にビルに乗り込んだ。否定していた男は警察の捜索で大量の爆薬や武器が発見されると、数人の仲間とともに激しく攻撃してきた。銃撃戦の末、逃亡を図った男をオビ=ワンは追った。

 街路に停車していたスピーダ―を盗もうとした男は追い付いたオビ=ワンと組み合いになった。プロガードとしてトレーニングされた男は手強かったが、オビ=ワンは一瞬の隙をついて蹴り上げ、やっと倒すことができた。駆けつけた警官に男を渡し、痛みと疲労でふらつく身体をこらえてクワイ=ガンに連絡を入れようとしたが、通信機が通じない。見ると、先ほどの格闘で壊れていた。

 溜め息をついて思わず空を見上げたオビ=ワンの目に映ったのは、今にもスコールが降りて来そうな暗灰色の空だった。オビ=ワンは足をひきずりながら警官のいる方へ歩き出した。
「オビ=ワン!」
背後からクワイ=ガンの声がし、オビ=ワンは振り返った。
よろけそうな少年を駆け寄った師の力強い腕がささえる。
「よくやったな。怪我はないか」
「マスター……」
その時、どしゃぶりの雨が二人を襲った。

 あっという間に路上の二人はずぶぬれになった。すでに周りに人影はなかった。クワイ=ガンは弟子をひきずるようにして側の建物の影に身を寄せた。
激しい雨は白い滝のように周りの視界を奪っている。

「待つしかなさそうだな」
クワイ=ガンは細身の少年の身体をささえながら、背を屈めてオビ=ワンの顔をのぞき込んだ。そっと弟子の短い髪のしずくを払い、血と汗と水滴で汚れた弟子の顔を指で慎重に探る。

「身体の骨折はなさそうだが、口の中が切れているな。顎と頬に痣。まぶたに擦り傷があるが、眼は無事だ」
弟子は抱き込むようにかかえられ、上を向かされていた。オビ=ワンの目に、自分を一身に見つめるクワイ=ガンの濃い青色の瞳が映る。
マスターの目はこんなに青かったっけ――。

 一瞬、オビ=ワンは全ての痛みが消え失せ、身体がふわりと軽くなったような感覚に襲われた。すごく気持ちのいいすべて包み込んでくれるような、これはマスターのフォース?

「……マスター、大したことないですよ」
「ああ、多分な。だが、このいまいましい雨が止んだらすぐもどるぞ」
「スコールのシャワーは快適じゃないことがわかりました」
「服を着たままではな。戻ったら熱いシャワーとバクタ液をたっぷり浴びさせてやるぞ」
「マスターもずぶぬれですよ」
「では、一緒に入ってよく洗ってやろう」
「子供じゃあるまいし――」
オビ=ワンの呟きにクワイ=ガンが笑みを含んで問う。
「何か言ったか。パダワン」
「い、いいえ」
低く笑い出したクワイ=ガンにつられて、オビ=ワンも笑顔になっていった。




続く


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