I'm back! 2 ― おかえりなさい ―   
 連絡があってから数日たった。あれ以来、何の音沙汰もなかった。
待つだけとわかっていても、いつ帰るのかわからず待つのは辛い。講義や訓練の最中にも師が到着しているのではないかと思う事もあるが、まさかコルサント間近になれば連絡してくるはずだと思う。

 それにクワイ=ガンが送っていった美女のラ・メールも気になった。まさか二人の間に万一にも関係など出来ないだろうが、せまい宇宙船で何日もいっしょにいれば、親しくもなるし、養父を無くした彼女をクワイ=ガンがなぐさめてるだろう。あの人は女性や子供にはいつも優しいから。

 頭を振って、こんな考えを振り払う。会えさえすれば、こんな不安、一度に無くなるのに。
マスターさえ帰ってくれれば、あの笑顔を見、大きな胸に抱きしめてくれさえすれば。
ここまで考えて、オビ=ワンは少し顔を赤らめた。はっと気付いて辺りを見渡した。
静かな一人きりのリビング、あらぬ妄想をしても、誰に見られるわけでもない。
それでもオビ=ワンは考えを振り切るように頭を振って、レポートに集中しようと努めた。


「オビ=ワン?私だ」
それは通信機を通して、突然耳に飛び込んできた。
訓練室に向かう途中でオビ=ワンは文字通り飛び上がった。

「マスター!帰ってらしたんですか。今どこですか!?」
「間も無くコルサントに着く。ようやく通信が正常にできるようになった」
「で、ではテンプルの発着ポートで待っています」
「落ち着け、あと数時間はかかる。お前は部屋か?」
「訓練室へ向かう途中です。あ、でも今日は早退しても」
「ではちょうど訓練が終わった頃に着きそうだな。着いたら又連絡を入れる」
「あの、マスター?」
「何だ?」
「その、一人ですか?」
「ああ、今回は土産も拾い物も無しだ」
「――いえ、そんなじゃなくて、わかりました」
「では、後で」
そこで通信は切れた。


 訓練中は上の空だったが、オビ=ワンはこんなにも時間が長く感じられたことは無いような気がした。漸く終えて発着ポートに急ぐと、すでに宇宙船は到着していた。見ると、メイス・ウィンドゥとアディ・ガリア、それにヨーダまでが到着口の所に立っていた。オビ=ワンは振り向いた三人に会釈して後ろに立った。考えてみれば、クワイ=ガンが評議会に連絡をするのは当然だ。

 扉が開き、長身のジェダイがゆっくりと降りてきた。出迎えた面々を見て、クワイ=ガンは僅かに片眉を上げた。それから上背のあるメイスの後ろに畏まって立っているオビ=ワンに笑いかけ、ついで静かにヨーダに歩み寄った。

「パルファは救えなかったが、遺言は果たしてきた。思ったより長くなってしまった」
「よくぞ、戻った」
「お前の留守の間は平穏だったぞ。クワイ=ガン」
メイスの言葉にクワイ=ガンは苦笑して今度はアディに話し掛けた。
「君のおかげで連絡がとれた」
「何の前触れもなく戻って皆を驚かせる楽しみをふいにしたかしら?」
「それもいいが、お歴々が揃って迎えてくれる気分を味わうことは出来なかった」
クワイ=ガンはアディに軽口を叩きながら顔をオビ=ワンに向けた。
「遅くなったな。パダワン」
「いいえ、いいえ、マスター」
オビ=ワンは胸が詰まって、そう言うのが精一杯だった。

 詳しい報告は明日、と評議員達に語り、師弟は回廊で三人と別れて部屋に向かった。オビ=ワンは長身の師の肩から僅かに遅れながら歩む。二人とも無言で、心なしか急ぎ足だった。時おりすれ違う顔見知りには軽く会釈してやり過ごす。もっとも師弟は任務でテンプルを離れることが多く、いまさら驚いたりする者も少ない。

 部屋にたどり着いた。
扉が開き、師に続いてオビ=ワンも中に入る。
が、クワイ=ガンはそこで立ち止まった。

「マスター?」
クワイ=ガンは無言で部屋の中を見ている。
「何か?」
「帰ってきたら、何故かお前が中で迎えてくれることをずっとイメージしていたんだがな」
「だってポートに迎えに行ったんですから」
そうだな、とクワイ=ガンは少し考えるように背後に立ったままのオビ=ワンを振り返った。
「前に回って、中から出迎えてくれないか」
「構いませんけど……」
オビ=ワンは師の気まぐれな思いつきに付き合うことにし、師の横をすり抜けて部屋の中に入った。

 向きを変えると入口に立ったままのクワイ=ガンと眼が合った。待ち焦がれた青い深い瞳。そして笑顔。
クワイ=ガンもオビ=ワンの輝く湖水色の瞳をみながら口を開く。
「今帰った。オビ=ワン」
「マスター」
オビ=ワンは待ち焦がれたクワイ=ガンの腕の中にいだかれた。

 大きな胸に抱かれ、師の肌のぬくもりと慣れ親しんだ暖かいフォースを身体中で感じる。オビ=ワンは、愛しい人の匂いを胸いっぱいに吸い込み、幸せそうに目を閉じた――。


 クワイ=ガンはいつまでたっても胸に顔を埋めている弟子に低い声で囁く。
「いつまでしがみついてるんだ?」
オビ=ワンが不思議に思って顔をあげると、クワイ=ガンが冗談めかして不服そうに言う。
「キスさせてくれないのか?」
一瞬、驚いた弟子ははにかみと嬉しさを滲ませて、口元がほころぶ。
見上げるオビ=ワンの上気した表情を見ながら、クワイ=ガンが首を傾けた。
二人の唇がまさに触れ合おうとした時、来訪を告げるノック音がした。
 
 他人の入室の気配を感じるやいなや、師弟は素早く身を離した。
「クワイ=ガン。戻ってきたとアディから聞いた」
黒いローブを翻してプロ・クーンが入って来た。
クワイ=ガンが何食わぬ表情で来訪者に顔を向ける。

「プロ、久しぶりだな」
「ああ、パルファは助からなかったんだな」
「私が到着した時は手遅れだった。何とかコンサルトに連れてきたかったが、途中で亡くなった。最後はラ・メールに見取られ安らかに逝った」
「今情報を集めているが、あの星はどうなる?」
「パルファは後継者を育てたと言っていた。今回は間に合わなかったが、間も無くテンプルに連絡がくるだろう」
「そんな事を言ったのか。では――」

 プロ・クーンはそこで、クワイ=ガンの後ろに控えるように黙って立っているオビ=ワンに気付いた。
「疲れているところをすまなかった。クワイ=ガン、では後で」
「ああ、近いうちに報告に行く」
軽く手を上げて、プロ・クーンは出て行った。


 クワイ=ガンがシャワーを使っている間、オビ=ワンは急いで食事の支度をした。
「食堂にいけばいいだろう」
「いつ帰られてもいいように、下ごしらえしてフリーザーに入れておきましたから、暖めればすぐ食べられます」
それに、やっと会えたのだから水入らずでゆっくり食事したかった、と口にはださずにオビ=ワンは思っていた。クワイ=ガンはその意を悟ったかどうか、黙ってシャワー室に入っていった。

 オビ=ワンの心づくしの料理で食事はなごやかに進んだ。クワイ=ガンは静かな口調であったことを弟子に話し、オビ=ワンも留守の間の事を師に話した。これまでの寂しさや不安が嘘のように消え、一月近く離れていた事が信じられない思いだった。

 それでも、オビ=ワンの胸の底に、師に聞いてみたい事がくすぶっていた。オビ=ワンは茶を入れたカップを持ってリビングに入っていった。

「お前の入れてくれた茶を飲むと、やっと帰ってきたという気がしてきた」
師の言葉を聞いて、オビ=ワンは微笑んだ。
「宇宙船の中にお茶はなかったんですか?」
「どうかな。もっぱら水を飲んでいたな。ラ・メールも食事以外は水しか飲まなかったし」
「食事の支度とかは」
「携帯食を暖めるだけだからな。慣れると彼女がしてくれた。パルファが亡くなった直後は元気がなくて心配したが、そのうち気丈に立ち直った。元々かしこくて勇気のある娘だ」
「――それに、とても美人だと聞きました」
「美人?誰から聞いた」
「マスター・プロ・クーンが数年前パルファから聞いたと」
クワイ=ガンの瞳が、一瞬おかしそうに光った。 

「あいつの美人の基準はわからんが、ラ・メールは若くて魅力的な娘だ」
「そうですか」
オビ=ワンの声が少し沈んでいる。
「もちろん、養父を亡くして悲しんでいる彼女にはできる限り親切にしてやったとも」
「彼女はマスターに、感謝したでしょうね……」
次第にその声が小さくなる。

「ああ、落ち着いたら連絡を寄越すと言った。できれば将来はオードワンに帰りたいとも言っていた。パルファが無事でコルサントに来ていたら、お前やバントともいい友達になれそうだったが、残念だったな」
「バントとも、ですか?」
「誰も知らなかったのか。オビ=ワン」
クワイ=ガンが片眉をあげて弟子を見た。
「ラ・メールはカラマリアンだ」
「え!?」

 突然、オビ=ワンはバントがオードパルにカラマリアンがけっこう住んでいるといったことを思い出した。
「ヒューマノイドならともかく、いくら美人でもカラマリアンではお前が心配することは何もおこらないさ」
「――本当に、パルファはカラマリアンを養女にしたんですか?」
「ああ」
オビ=ワンの表情は一瞬固まり、次いで赤くなった。そして師から目を逸らし、あらぬほうを向いた。

「オビ=ワン」
クワイ=ガンはまだ目を合わせようとしないオビ=ワンに腕を伸ばした。
再び師の胸に抱かれ、オビ=ワンはそれでもまだ師の眼を見ようとしない。
「帰りの船の中ではお前のことばかり考えていた」

 オビ=ワンの短い髪に頬を寄せ、クワイ=ガンが囁く。
「お前のことだ。心配しながらも、人前では顔に出さないようにしていただろう」
「マスター……」
「コンサルト近くでお前の声を聞いたときから、早くこうしたくてたまらなかった」

 オビ=ワンがそっと顔を上げた。
「あなたにあえて私がどんなにうれしいかわかりますか?」
「私がお前にあえてどんなに喜んでいるかわかるか?」
互いの眼を見交わし、笑顔を認め合う。

 オビ=ワンは師の首に両手を回した。
「お帰りなさい。私のマスター」
「ただいま。マイパダワン」
もう二人を妨げるものはなかった。



END


 やっと二人きりになれた二人、それからはまあ、いつものパターンで。 

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