I'm back! 1 | ― おかえりなさい ― | |
オビ=ワンの師、ジェダイマスター・クワイ=ガン・ジンが単独でテンプルを出発してから半月余りがたつ。 正式な任務ではなかった。十数年前、クワイ=ガンは他のジェダイと共に惑星オードワンの内乱を終息させ平和をもたらした。そのオードワンの当時のリーダーでその後統治者となり、今は引退していた人物から極秘に救援の依頼がテンプルに届いた。 政情不安は充分予想されたが、現在の惑星政府からは何の依頼もないため、正式にジェダイを派遣できない。クワイ=ガンはテンプルの支援なしで単独で行くという提案で評議会の許可をとりつけた。それでもオビ=ワンは師に付いていくつもりだったが、クワイ=ガンに止められた。 「今回はいわば私的なものだ。評議会からも一人で行くということで同意を取り付けた」 「でも、私はいつもマスターといっしょに――」 「彼を助けたら安全な場所まで送るだけだ。数日で済むし、私一人で充分だ」 「どうしても、連れて行ってはいただけないのですか?」 「オビ=ワン」 ブルーグレーの瞳をいっぱいに見開いて懇願する弟子の若々しい面を、クワイ=ガンは僅かに口元をあげて見下ろした。 指をのばし、青年の長いブレイドに指を絡めるようにして軽く引く。 「数日で戻る。心配はいらない」 「マスター……」 「おとなしく、待っていてくれ」 宥めるように、やさしく唇が降りてきた。 それ以来半月余り、未だ何の連絡もなかった。講義や訓練でスケジュールを埋め、忙しさで気を紛らせつつ表面はさりげなく振舞うよう努めていたが、オビ=ワンの内心は不安と焦りでいっぱいだった。 師とこんなに長い間離れたのは久方ぶりだった。無論、任務中に離れて事にあたる場合も多い。だが、何の消息もわからないまま、テンプルでクワイ=ガンの帰りを待つのは初めてかもしれない。 数日たっても何の連絡もないので、オビ=ワンは思い切って評議会に聞きに行った。マスター・メイス・ウィンドゥからはやはり何の消息もないという答えが返ってきた。 「連絡できない状況もいろいろ想定できる。お前のマスターのことだ。そう心配はいらないだろう」 オビ=ワンは落胆を顔に出さないよう努力しながら、評議会を退出しようとした。 「オビ=ワン。そう心配するでない」 ヨーダの声が掛かった。 「あれは、間も無くかえってこよう」 「――本当ですか?マスター・ヨーダ」 この偉大なマスターの予知がそう告げているのだろうか?オビ=ワンはすがる思いで振り返った。 「心を平安に保つがよかろう。瞑想を増やしてな」 「はい……」 「クワイ=ガンから連絡があればすぐ知らせよう。お前にも何かあったら報告するように」 メイスのなぐさめの言葉に、オビ=ワンは今度は気落ちを隠しもせず、肩を落として退出していった。 「オビ=ワン。オードワンを調べているの?」 アーカイブでバントがためらいがちに話し掛けてきた。親友の顔色を見ただけでバントはオビ=ワンの気持ちがわかる。 「何日になったの?」 「21日」 即座に返った答えで、オビ=ワンが毎日指折り数えて待っていると察せられる。 「――私も、前のマスターが一人で出かけたときは心配だったわ。出来るなら後を追いたかった。でも、まだパダワンになって間もなかったし、小さかったから」 「バント」 オビ=ワンは親友の前のマスター、タールを思い出した。 タールは単独で惑星ニューアプソロンへ出掛けたまま、それきりテンプルへも、パダワンの元へも帰る事無く逝ってしまった。オビ=ワンはタールを心配したクワイ=ガンと共にタールの後を追い、結局タールを救えず、死を看取ることになってしまった。オビ=ワンは急遽駆けつけたバントに、マスターを助けることも死に目にも会えなかったと嘆かれた。 「私あの時は、その、普通の心配以上に、何と言ったらいいか、とても怖かったの」 「怖かった?」 「毎日自分にマスターは大丈夫だって、思い込ませようとしてたんだけど。どうしようもない不安を感じてとても怖かった。胸が詰まるみたいで、暗くて寒くて、そんな恐怖がいつも付きまとっていた。だから、あなたがテンプルにマスターの死を知らせてきたとき、これだったんだって――」 「君、そんな事今まで言わなかった」 「ええ、あとでクワイ=ガンがタールに不安を感じていたと聞いたから、わたしも同じように感じていたなんてこと、タールが死んでから言っても仕方がないし」 オビ=ワンはいつも濡れているようなカラマリアンのバントの大きな銀色の瞳が、いつにも増して濡れているのに気付いた。 「君が一番辛かったかも知れないのに。僕は――」 「もう、いいのよ。オビ=ワン。今は大丈夫」 それより、とバントはオビ=ワンの眼を見て、声を潜めて言った。 「今あなたはその、そういった不安を感じている?」 オビ=ワンは少しの間、意識を集中させるよう息を詰めたが、やがて、ゆっくりと声に出した。 「ない、と思う」 バントはにっこりした。 「あなた達の絆は特別強いんだもの、それなら大丈夫。何か予想外のことで遅れて、連絡もできないだけよ」 「そう、かな」 「ええ、きっと大丈夫。クワイ=ガンだもの」 「ありがとう、バント。食堂に行かないか。おごるよ」 「あら、ありがとう」 並んで食堂に向かいながらバントが思いついたように言った。 「オードワンにはカラマリアンがけっこう住んでいるのよ」 「オードワン人はヒューマノイドだろ?」 「ええ、でもあの星は陸より海の面積が多いでしょ。新政府が大規模な海底資源の開発を進めたので、カラマリアンの技術者や家族が最近おおぜい移住したの。ずいぶん優遇されているそうよ」 「ふうん。そういえば新政府が出来てもオードワン人の知識階級と労働者階級の対立は無くならないし。そうか、それにカラマリアンが優遇されるので労働者の不満が高まって紛争が起こっているのか」 「そういうことでしょうね」 「マスターが又何か首をつっこんでいなきゃいいんだが」 「だって、正式な任務じゃないんだし、救援に行っただけでしょう」 「そうなんだけどね。マスターのことだから」 食堂に入っていくと、遠くから二人を見つけた、シーリー・タチが急いで寄ってきた。 「オビ=ワン。マスター・アディが捜してた。コムリンクが応答しないって」 「え、ああ。アーカイブにいたからオフにしてた。君のマスターが僕を?」 「クワイ=ガンからの通信をキャッチしたんだって。今評議会に報告に行ってる」 オビ=ワンはシーリーに礼を言うと、評議会室に飛んでいった。 逸る気持ちを押さえ、評議会室の大きな扉の前で息を整え、入室の許可を請う。 許されて中へ入ると、中の者達が一斉に振り向いた。 「きおったな。オビ=ワン」 「クワイ=ガンの通信をキャッチしたのはマスター・ガリアだ。彼女から話すほうが良いだろう」 メイスがオビ=ワンとも顔見知りの美貌の評議員に身振りで促した。 まず、とアディ・ガリアはオビ=ワンの緊張した顔を見て、微笑んだ。 「クワイ=ガンは無事です。怪我もしてないようだったわ」 「――ありがとうございます。マスター・ガリア。それで今マスターはどこにいるんですか?」 「おそらく、宇宙船で辺境のマリアナ星系のどこかへ向かっているんだけど、通信状況が悪くて聞き取れなかったの。でも。無事だったのは確かよ」 アディ・ガリアの話はこうだった。 クワイ=ガンはオードワンについてすぐ救援依頼の人物、元オードワンの統治者パルファとその養女に会えたが、彼は暗殺を企てられ重症を負っていた。 警備が厳しく脱出するまでに何日もかかり、ようやくオードワンから飛び立ってコンサルトに向かう途中、彼は息を引取った。 故人の遺言で、急遽コンサルトへは向かわず、養女を彼女の親戚が住む辺境の惑星へ届けることになった。 クワイ=ガンの宇宙船はオードワン脱出時に受けた攻撃で被害を受け、通信の具合も良くないし、ワープ飛行も不安定だという。それで予想外に日数もかかり、通信も繋がらなかった。 オビ=ワンは話を聞いて、ようやく安堵の息を付いた。マスターは無事だった。 「待つだけじゃ。後は」 ヨーダに言われ、オビ=ワンは顔を輝かせて評議員達に顔を向け、恭しく一礼した。 退出しようとすると、それまで発言する事無く黙って聞いていた評議員のプロ・クーンが思いついたように言った。 「ラ・メールだったかな。その養女は」 「知っているのか?」 メイスが名うての戦士で日頃は寡黙なケル・ドア人の男を見返す。 「惑星オードワンはクワイ=ガンと私が共同で任務に当たった」 「そうだったな」 「数年前、パルファと通信する機会があった。彼は家族に先立たれ、養女をとったんだが、たいそうな美人だそうだ」 「ほう」 「クワイ=ガンは養女の名前も歳も言わなかったけど。でも、美女との旅なら、今度のこともそう悪いわけじゃなさそうね」 アディ・ガリアが冗談めかして言う。 輝いていたオビ=ワンの顔が一瞬にして曇った。 食堂に戻ると、バントとシーリーが待っていた。オビ=ワンの表情をみながら、話すのを待っている。オビ=ワンは友人達の気遣いを感じて二人に笑い掛けた。 「マスターは無事だった。ちゃんと帰って来る」 「ああ、オビ=ワン。良かったわ」 「それにしちゃ。うかない顔じゃない。オビ=ワン」 「戻りがいつになるか、わからないんだ」 オビ=ワンの話が終わると、二人は申し合わせたように言い出した。 「どっちみちマスターが返るまでテンプルにいるんだし、皆で集まろうよ」 「どこがいい?この前、ミラーズ・カフェで新作メニューが出たって聞いたけど」 「僕はどこでもいいよ。そうだね、マスターが戻るまで次の任務はないし」 「これで安心して、羽を伸ばせる」 「提出しなきゃならないレポートが山ほどあるんだけど」 「マスターの世話をしなくていいんだから時間はあるでしょ」 「オビ=ワンはテンプルでもマスターべったりだから」 「シーリー!」 遠慮のない言葉にオビ=ワンは抗議するように声を上げた。 二人が、マスターの留守を待つオビ=ワンの気を紛らわすように誘ってくれたのがわかるので、オビ=ワンも遠慮のない物言いに苦笑しながら、誘いを受けた。 シーリーが連絡をとって、今テンプルにいる友人達を集めてくれた。 互いの近況などを話し合った後、クワイ=ガンの話題に移った。 「オビ=ワンのマスターは相変わらずだね」 久しぶりに会ったガレンが言う。 「どういうことだ」 「自分がすると決めたら評議会の言いなりにならないし、単独で出かけただろ」 「連れてってくれるよう頼んだけどだめだった」 「うちのマスターだってまあ、自分の思うとおりにするけど、クワイ=ガンは特別だよね」 うんうんと皆が一斉に肯く。 「だって、仕方ないじゃないか。パダワンはマスターに逆らえないんだから」 「そうだけど、オビ=ワンはテンプルにいてもマスター第一だからねぇ」 と、これはシーリー。 「でも、クワイ=ガンはテンプルにいる時は友人と会えって言ってくれるわよね」 「で、自分はマスター達と飲みにいくんだろ」 とリーフト。 「うちのマスターが言うには、男同士で偶には女性のいる店にも行ってるみたいだって」 「そうなの」 「そりゃきれいな女性がサービスしてくれるんだから」 「やっぱり、マスター達もそういうのが好きなのかな」 「――僕も連れていってもらったことがある」 小声でオビ=ワンが呟いた。 え、と皆がオビ=ワンを見た。 「何事も経験だからって」 「で、どうしたの?」 バントが目を丸くして聞く。 「いや、マスターは店の女の人と話してたけど、僕はドリンクを飲みながら話を聞いてただけ」 「クワイ=ガンってそこまでする、というかどこでもオビ=ワンを連れていくんだ!」 「変かな?」 友人達は答えずに、一様に頭を振った。 オビ=ワンはフォースを通じなくても、顔を見れば皆があきれているのがわかった。 別れ際、バントが言った。 「早くマスターが帰ってくると良いわね。オビ=ワン」 続く ほんと、早く帰ってきてマスター、でないと周りのほうこそオビが気になって困る――。 |
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