5th Anniversar 1 ―  5年目  ―      ※ 恋愛未満
 
 オビ=ワンは18歳の誕生日を惑星ウェスティンで任務中に迎えた。惑星議会議員の選挙の立会いということで政府の公邸に滞在していた。一日の仕事を追え部屋でくつろいでいると、クワイ=ガンが思いついたように言った。

「そういえば、今日はお前の誕生日だったな」
オビ=ワンは嬉しそうに微笑む。
「覚えていてくださったんですね」
「誕生日おめでとう。オビ=ワン。今は任務中だから何もできないが、コンサルトにもどったら食事に行こう。他に何か望みはあるか?」
「マスターのパダワンにしていただいてから5年ですか。あの時も任務中でした」
オビ=ワンは懐かしそうに言う。

「お前も18か、早いものだな。あの時は―」
「マスターからとてもいい贈り物を頂きました」
「そうだったな」
オビ=ワンはうれしそうに頷く。

 クワイ=ガンは弟子の心底うれしそうな様子に、少し気が咎めた。ジェダイの師弟はパダワンの13歳の誕生日に特別な贈り物をする慣わしがあるが、クワイ=ガンは始め拒否していたオビ=ワンを、13歳の誕生日の直前にパダワンにした為、贈り物など用意する暇もなかった。

 それで、自分が持っていた小さな石をオビ=ワンに贈ったのだった。オビ=ワンはそれを気に入ってくれた。今も大事に身に付けていることをクワイ=ガンは知っている。

 あの時の、ジェダイとして優れた資質を持ってはいたが、強情で無鉄砲だった小さな少年は、今は身体も成長し、勇敢で辛抱強い青年になり、互いに深い絆と信頼で結ばれている。無論、こうなるまでには師弟の間にいろいろな事があった。師弟の絆さえ壊れかけたこともある。それを乗り越えてようやく此処まできた。

 常になく、少しばかり感慨にとらわれたクワイ=ガンは、オビ=ワンに何か贈り物をしようと思った。弟子は普段食べることは好きだが、物を欲しがることがほとんどない。となると師の自分が考えるしかない。
 

 ここは豊かな惑星で街にも市場にも物が溢れている。任務が済んだら贈り物を探そうとクワイ=ガンは決めた。それに今回の任務はまず危険を伴なわない、何と言うかあっけにとられるものだった。

 コンサルトからさほど遠くない惑星ウェスティンは、温暖な気候と自然に恵まれ、商業も盛んだった。そのせいか強力な支配者は現れず、長い間住民の自治的な政治が行なわれていた。政治不安定でも危険でもない選挙にジェダイが派遣された訳は、あまりにも過熱する選挙運動にあった。

 師弟はこの地で初めて候補者達の運動を目の辺りにした時、言葉を失った。どの候補者も大型の貨物運搬用エアトレーラーを改造したらしい乗り物を使っていた。

 その荷台はまるで山車のように風船や造花などで華やかに飾り付けられていた。宇宙船風、宮殿風、ガーデン風など。候補者はその上で、回りにどう見てもダンサーにしか見えない、派手な衣装の運動員の若者に囲まれて選挙区間内を飛び回って演説していた。

「噂には聞いていたがこれほどとはな」
「まるでお祭りのようですね」
「これが10日間続くんだ。住民だってエキサイトする」

 事実、選挙のたびに候補者同士が近づき過ぎて双方の支持者の間で乱闘となり、負傷者が増えているという。惑星政府は選挙監視の名目でジェダイを招き、衝突が起きないよう牽制して欲しいというものだった。

 師弟は選挙監視本部の職員と共に小型スピーダーでおおよそのルートを決め、監視に回った。運動時間は日中と決められているため、夜は自由。部屋も食事もけっこうなものだったが、勿論任務が済むまでは、勝手に外出などはしない。
 

 二人は部屋でテンプルと連絡を取ったり、惑星放送の流す選挙の予想などを見たりしていた。
「経過報告をいれたものだから、この任務が楽だと見抜かれたようだぞ。パダワン」
「実際そうですけど。何か言ってきたんですか」
「皆、私信であれこれ買い物を頼んできた。酒、名物、織物、装飾品―」
「そんなクレジットないでしょう。それに装飾品などみてもわかりません」
「心配するな。テンプル名義口座のIDとパスワードを知らせてきた。品物は品番指定でパンフ映像付だ。断るとしばらくはテンプルに戻れそうに無いな」
師弟は顔を見合わせて溜息をついた。

「では、僕は荷物持ちに付いていきます」
次いで、何気なく放送モニターに目をやったオビ=ワンは裏返った声を上げた。
「マスターっ、僕達が出ています」
師弟が監視に回っている様子が映し出されていた。しかもその放送は二人に焦点を絞り数分間流された。
 

 翌日から、市民の反応が変わっていた。声を掛けられる。手を振られる。地面に降りると市民が寄って来て撮影される。師弟はそのたびにジェダイらしく礼儀正しく応対し、一緒に写ってくれという頼みは仕事中だからと丁寧に断った。
「パダワンになって5年ですが、こんなに忍耐を試されたのは始めてです」
「いい修業になったな。あと数日の辛抱だ」


 選挙運動の最終日になった。候補者達は首都の繁華街に続々と集まってきた。混乱が予想され、師弟は二手に別れて他の職員と共に監視に回ることにした。

 夕暮れ、選挙運動終了まであと数時間。候補者達を乗せた乗り物はいたるところで、回りに人垣を作って最後の演説をしていた。オビ=ワンは乗り物同士が近寄り過ぎないようにスピーダーを巧みに乗り物の前に寄せ、運動員に注意を与える。しばらくそれを繰り返すと、ようやく各候補者も最後の位置を決め、相変わらず騒動は続いているが、近寄りすぎて争乱になる危険はなくなった。

 残り時間は僅か。この任務でライトセーバーを使うことは無さそうだ、とオビ=ワンは辺りを見渡しながら思った。

 その時、通りの向うで、ある候補者の乗り物の上に組まれた塔が傾くのが目に入った。候補者は高い塔に登って身を乗り出すように演説していた。塔が揺れて傾き出し、候補者は柱にしがみ付き、周りの運動員や観衆は恐怖に慄きながら見上げている。あの高さから落ちれば、間違いなく死ぬか大怪我をする。

 オビ=ワンはとっさに立ち上がり、隣りの職員に運転を頼むと、身を屈めて足元にフォースを集中し跳躍した。最も近い選挙用乗り物に着地し、再び同じように次の乗り物に飛び移って、崩れそうな塔にしがみ付いている候補者を目指した。

オビ=ワンがその乗り物についた時とほぼ同時に塔が崩れてきた。回りから悲鳴が上がる。間に合わない!オビ=ワンはとっさに落ちてくる候補者に体当たりするように被さった。

 壊れた塔の一部分が地面にたたきつけられた。乗り物の縁すれすれの所で、候補者の男とオビ=ワンは崩れた建材の下敷きになって横たわっていた。男はうつ伏せで震えている。フォースで衝撃を抑えたため、どうやら無事らしい。オビ=ワンは安堵の息を付いてライトセーバーを取り上げた。

 上に被さっている建材を切断しながら立ちあがった。ローブの裾が何かに引っかかっている。ためらうことなく、裾をライトセーバーで切り落とす。まだ震えている男に声をかけ、手を添えて抱き起こすと、固唾を飲んで見ていた観衆から大きなどよめきが起こった。

 ライトセーバーを戻し、ローブを脱いで男の肩に掛け、ささえながら、乗り物の安全な場所に移動する。運動員達が駆け寄ってくる。オビ=ワンは男を渡し、病院の手配を頼むと、側に来ていた監視本部の乗り物に飛び移り、崩れて地面に落ちた危険物の処理の相談を始めた。


 他には何事もなく、選挙運動は終了した。公邸に戻り、離れていた師に報告する。幸い候補者はごく軽傷で、明日の投票にもいけそうだと連絡が入った。仕事は投票と開票の立会いもあるが、外を飛び回る仕事は終わった。

「ご苦労だったな」
クワイ=ガンはオビ=ワンを労った。
「すみません、ローブをだめにしました」
「消耗品のようなものだ」
師は機嫌よく弟子の肩を叩いた。


 一夜明けて、公邸の部屋で朝食を取っていた師弟は惑星放送のニュースを見て仰天した。候補者の命を救った勇敢な若いジェダイの行動が大々的に放送されていた。

「なるほど、お前の行動の一部始終がよくわかった」
「…何か、これを見て指導して下さることはありませんか」
「いや、多分私も同じ事をしていただろう。リーチの差で、下敷きになる前に救えたかもしれんが」
「何の訓練をしたらマスターの身長に近づけますか」
オビ=ワンは肩を落とした。

 早くマスターに追いつきたいと衣類もローブも大きめにしていたが、最近身長の伸びがごく僅かになっていた。
クワイ=ガンは弟子の気にしていることに触れたことに気付き、少し後悔し、微笑ましくもなった。

 自分が大きいのであって、オビ=ワンは充分ヒューマノイドの標準の身長はある。昨日の様に、もう一人で咄嗟の事もこなせる。口元に笑みが浮かぶ。無理に背伸びすることはない。そうだ、ちゃんと身体にあったローブをあつらえてやろう。


 その後の投票と開票の立会いは滞りなく進行し、新しい議員達が誕生した。只、投票所に行った時の人々の反応はすごかった。誰もがオビ=ワンの顔を知っていた。次々に賞賛の声を掛けられたり、握手を求められたりする。仕事にも支障が出そうな加熱ぶりに、監視本部に頼んで一般の人の前には現れないことにした。ともかく、二人の任務は無事終了した。


 翌日、オビ=ワンは公邸の部屋で、買い物に出かけたクワイ=ガンを待っていた。予定では任務終了後に一般のホテルに移り、二人で買い物や観光をするつもりでいた。それが、顔が知られた為、外に出られなくなってしまった。変装するという手もあるが、そこまで隠れて外出したくない。

 政府も公邸への滞在を引止め、買い物用にガイドや乗り物まで進んで提供してくれた。公私混同は出来ないと辞退したが、この惑星では、誰もそんなことは気にしないと笑われた。お祭りのような選挙をする住民の意識はジェダイとは随分異なるらしい。郷に入っては郷に従え、クワイ=ガンは申し出を受け入れた。

 オビ=ワンに来客があると告げられた。オビ=ワンが救った候補者、当選して新たに議員となった男がお礼に訪れたものだった。

夫人と共に現れた壮年の陽気な議員は、繰り返しオビ=ワンに礼を言った。当然の事だからと照れる青年に夫妻はいよいよ好感を持ったらしく、是非自宅に招待したいという。丁寧に断ると、いかにも残念そうにせめてものお礼と言って、ローブを差し出した。

「これは…」
「切った裾も拾って、同じ物を大急ぎで作らせました。ローブを駄目にしてしまったのでどうかこれを使ってください」
夫人も同様に懇願する。
「破れたローブは大事にとってありますのよ。命の恩人の着ていたローブですもの。家宝にいたしますわ」
夫妻に身を乗り出すように言われ、オビ=ワンは思わず肯いていた。

 買い物を済ませたクワイ=ガンがやれやれといった様子で戻ってくると、オビ=ワンはそれを師に見せた。
「これは、かなり上等だな。惑星パスミンの織物にも負けない最高の生地だ」
「職員の人に聞いたら、議員は繊維なども扱う会社の代表ということです。いただいていいんでしょうか」
「返すわけにもいくまい。せっかく同じ様に作ってくれたんだ」
オビ=ワンが着てみると、確かに驚くほど軽くしかも暖かかった。
そしてサイズはやはり少し大きめだ、とクワイ=ガンは心の中で思った。



  続く


  
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