A Gossip 2 | ― 噂(うわさ) ― | |
オビ=ワンは連絡を取り、食堂でクワイ=ガンを待っていた。間も無く、師が姿を現した。側へ行こうとしたが、クワイ=ガンが数名に声を掛けられ立ち止まる。マスター達の話に割り込むのも憚られ、オビ=ワンはじりじりして待っていた。だが、その間にも食堂にいた人々の目が自分達に向けられるのを感じる。 「マスターっ…」 弟子の切迫したフォースを感じたクワイ=ガンは、話を切り上げ近づいてきた。 「どうした。パダワン」 「二人だけで話したいんですが」 あたりを見回したクワイ=ガンも、ただならぬ弟子の様子と人々の好奇の視線に気付き眉を上げた。 隅の観葉植物の陰にオビ=ワンをいざなう。 声を顰めたオビ=ワンは、聞いたばかりの噂を師に訴える。 「―という事です」 ふむ、と眉間を寄せて何事か思案していたクワイ=ガンはすまなそうに弟子に囁いた。 「どうも、私の不用意な言葉を広められたらしい」 「えぇっ!」 「すまん。まあ、王候補が王になってる以外は本当のことだがな」 「そんな問題では…」 植物の陰に隠れたつもりでも、葉の隙間から師弟の姿は見える。長身のクワイ=ガンは身を屈めるようにオビ=ワンの肩に手を掛け、必死に何事が話している弟子の目を見ている。その姿は例の噂を知っている者には、見ようによっては年の離れた若い恋人を宥めているか、愛しそうに眺めているように見えた。 「どうしましょう」 弟子は途方に暮れ、師を見上げる。 「まあ、落ち着けパダワン。噂などそう長く続くものではない」 「そう言われても、それまでどんな顔で出歩けばいいのか」 しばし、オビ=ワンの表情を見ていたクワイ=ガンはとんでもない事を口にした。 「いっそ、私達の事を発表してしまおうか」 オビ=ワンは自分の耳を疑った。 「何と言われました―」 クワイ=ガンは瞬時に回りに視線を走らせ、今や多くの目が興味津々でこちらを見つめているのを認めた。 その顔がにやりと笑う。そして、高らかに宣言した。 「お前を愛している。マイラブ」 あんぐりと口を空けたオビ=ワンは、次の瞬間しっかりとクワイ=ガンに抱きしめられ口づけされていた。 頭が考えることを拒否している。眼さえ閉じられないまま、オビ=ワンは大きなクワイ=ガンにがっしりと抱きこまれ唇を押し付けられていた。 数秒の後、硬直していたオビ=ワンの身体は息苦しさにもがき始めた。 それを察したクワイ=ガンは、口の角度を変えてオビ=ワンの息を逃してやる。が、抱きしめる腕はそのままだ。 やっと息を吸い込んだオビ=ワンが考えたのは、何とかここから逃れたいという思いだけだった。腕を動かそうとしても、しっかりと押さえ込まれている。オビ=ワンはありったけの意識を足に集中した。 右足の膝を曲げて師の脛を蹴る。次いでオビ=ワンはすばやく身をかがめ、一瞬引かれたクワイ=ガンの胴体に向かって夢中で足を蹴り上げた。 その瞬間、クワイ=ガンの大きな身体は観葉植物をなぎ倒し数メートル後ろに吹っ飛んだ。そこにいたジェダイ達はすばやく身をかわして巻添えになるのを避けたので、クワイ=ガンは仰向けに倒れこんだ。 開放されたオビ=ワンは肩で大きく息をしながら立ち尽くしていた。思いがけなく遠くまで吹っ飛んだ師の姿に、思わず駆け寄ろうとして足を踏み出しかけた。が、思いとどまる。 上半身を起こし身体を擦るクワイ=ガンと目が合った。 「いいかげんに、して下さいっ!」 怒りに震えながら、真っ赤な顔でやっと言い切ったオビ=ワンは、大きな目でクワイ=ガンを睨みつけ、師に背を向けて足早に食堂を出て行った。 「立ったらどうだ」 側に来たメイスがクワイ=ガンを促す。その眼が言いたそうな事をクワイ=ガンはほぼ理解した。 ―お前ともあろうものが、パダワンに蹴り倒されるとはみっともない。 ―悪ふざけもたいがいにしろ。 ―真面目なパダワンをからかうとこんな間に合うんだ。 「ああ」 クワイ=ガンは起き上がり、ゆっくりと進んでテーブルの傍らの椅子に腰を下ろした。 目を細め口元を僅かに歪めて、一部始終を見ていた回りの面々を眺め渡す。 見られた人々はあわてて向きを変え、わざとらしく隣席の者と関係の無い事を話し始める。静まり返っていた食堂が、再びざわめき出した。 「メイス」 クワイ=ガンがのんびりした口調でいう。 「皆を楽しませすぎたかな」 「充分だ。語り草になるぞ」 クワイ=ガンが声無く笑い出し大きな肩がゆれる。 「何がおかしい」 「いや、どうしたらパダワンの機嫌を直せるかと思ってな」 肩を竦めるメイスの隣りで、クワイ=ガンは笑い続けた。 「オビ=ワン、少し話していい」 通信機からバントの声がする。 「うん」 「ごめんなさい。誰にも合いたくないのはわかるけど」 「いや、だいじょうぶだよ」 「すぐ済ますわ。あのねオビ=ワン。もう噂は気にしなくて大丈夫」 「え?」 「さっきクワイ=ガンが食堂でしたことで、前の噂なんて吹っ飛んじゃたの。 今では、型破りなマスターに苦労させられる真面目なパダワンって皆思ってる」 「…」 「あなたはむしろ同情されてるの。だから大丈夫」 「ありがとう。バント」 「あまり遅くならないうちに帰って、マスターと仲直りしてね」 「…そうする」 「じゃ、又ね」 オビ=ワンは塔の最上階に近い見晴らしの良い場所にいた。評議会室も近いこの辺りに好んで来る者など他にいない。窓に額を押し当て、遥かに続く景色を眺めていた。 バントの話を聞いて安心したものの、すぐには帰る気になれなかった。大体クワイ=ガンを怒ったら良いのか、自分が足を上げたことを謝ったらいいのかすら決められない。 どうしたものかと、考えあぐねていた。 「オビ=ワン、ケノービなんぞ用かの?」 「マスター・ヨーダ!あいえ、違います」 ふいに背後から聞こえたヨーダの声に、オビ=ワンはあわてて振り向いた。 「少し、景色をながめたくて」 しばしオビ=ワンの様子を見ていたヨーダはついてくるがよい、と歩き出した。青年も後を追う。 ヨーダが向かった先は、星図室だった。大きなドーム型の部屋の中に銀河星系のホログラムが浮かんでいる。濃紺の闇に瞬く星々の映像に触れれば、その惑星の情報を得られるようになっている。クワイ=ガンはここが好きだった。オビ=ワンも何度か師と訪れたことがあった。 銀河系の中心と言われるコルサントの位置はすぐわかった。 「今度の旅ではいくつ回ったかの」 「丁度10個です。惑星イング、ユーゴス―」 ヨーダが微かに杖を振った。オビ=ワンが名をあげると、闇の中からその星が青白い光を発し始めた。 「パダワンになってからどれだけ回ったか覚えておるかな」 「いいえ」 ヨーダ再び杖を振る。闇の中からぼうっと青い光が靄のように浮かんだ。 「およそ7年ですから、けっこういろんな地域に行ってますね。勿論、銀河系の中では極一部にすぎませんが」 「お前達二人が共に任務で行った星じゃな」 「マスター・ヨーダ…」 この、とぼけているようで何でも見通している偉大なマスターは何を言いたいのだろう。 「わしはクワイ=ガンがお前をパダワンにする前に言ったことがある。過去にとらわれず未来に生きろ、とな」 オビ=ワンが肯く。 「いらぬ世話だという顔をしておったが、その通りになったようじゃな」 「マスター・ヨーダ、オビ=ワン」 入口のほうからクワイ=ガンの声がした。大きな黒い影が近づく。 「私のパダワンに何か御用でしたか?」 「これまでのことを聞いておったのじゃよ」 クワイ=ガンが光っている惑星の位置を見て肯いた。 「私を呼ばれたのも、何か聞きたい事があったのですか?」 ヨーダはゆるゆると頭を振った。 「いやいや、わしは伝えたい事があっただけじゃ。お前と」 眼をオビ=ワンに向けた。 「オビ=ワンにもな」 「何ですか」 「未来は常に動いておる」 ヨーダの姿がフッと消え、一瞬後に入口に現れた。 「それだけじゃ」 次の瞬間、見えなくなった。部屋の中から気配も消えた。 クワイ=ガンはやれやれといった風に振り返った。 「相変わらず、もって回った言い方をする」 オビ=ワンが小さく笑った。 「何がおかしい」 「マスター・ヨーダはいつまでもマスターの事が心配のようですね」 老練のジェダイマスターはふんと鼻をならした。 「ヨーダにしてみれば、私などいつまでも小僧っ子に見えるんだろう」 拗ねたような言い方がおかしくてオビ=ワンは又笑ってしまう。クワイ=ガンもつられて笑い出した。 ひとしきり笑った後、クワイ=ガンはやさしい眼でオビ=ワンを見た。 「悪かったな」 「いいえ、私こそマスターを…」 弟子は申し訳なさそうに身を竦めた。 「あの蹴りは素晴らしかったぞ。パダワン」 「それは、言わないでください」 「ヨーク公爵もあれぐらい、いや、股間を蹴り上げてやればよかったんだ」 「もう、いいです」 クワイ=ガンは、背を向けて離れようとする弟子の手をつかんで引き止めた。 「オビ=ワン」 振り向いたオビ=ワンの身体をゆっくりと引き寄せ、慎重に背に腕を回す。すらりとした弟子の身体は、抵抗せずにおとなしく腕の中におさまった。 オビ=ワンは前を向いた姿勢のまま、顔を師の肩口につけたままじっとしている。クワイ=ガンはオビ=ワンの髪に頬を擦り寄せながら囁いた。 「私の未来はお前だ、オビ=ワン。何があっても私は―」 その時、オビ=ワンが師を見上げ、そっと人差し指で師の口を封じた。 「その先は、部屋に戻ってから伺います」 クワイ=ガンの肩の力が抜け、安堵の息が漏れる。 「そうだな、外では誰に聞かれるかわからない。私達の住まいに戻ろう」 「イエス、マスター」 そうして、師弟は星図室を後にし、二人だけの部屋に帰っていった。 End 一時なりをひそめていたものの、問題児(?)マスター復活しました。したい放題って感じなので、オビもマスターが好きじゃなければ付いていけないでしょうね。(オイ!) |
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