A Gossip 1 | ― 噂(うわさ) ― | |
銀河系の中心に位置するという惑星コルサント、そこに聳え立つジェダイ聖堂の最高機関・評議会に呼び出されるということは、経験を積んだジェダイナイトにとっても緊張する出来事である。が、ジェダイマスター、クワイ=ガン・ジンにとっては毎度の事であり、単に煩わしい程度のものらしい。弟子にとってはそうでもないが。 メイス・ウィンドゥが、十二人の評議員の前に腕を組んで堂々と立つ長身のマスターに張りのある声で質問する。 「惑星イングの内乱を収拾するはずが、何故新たな王まで立つことになったのだ」 「何十年もヨーク家とランカスター家が王位争いをしていた。調停と言う事だったが、会ってみると、双方ともろくなやつがいない。傍系のチュダー家に見込みのある若者がいたので新たな王になって内乱は集結した」 「何をしたのだ」 「皆に承知させただけだ」 師の後ろに控えていた弟子が遠慮がちに声を出した。 「私から補足させていただいてよろしいでしょうか」 「パダワン、ケノービの発言を許可しよう」 「マスターが両家に、私がチュダー家に赴いて説得し、惑星元老院及び議会で正式に認められました。国民も内乱が集結し、新たな王が即位して喜んでいます」 クワイ=ガンが弟子を見て、その通りというように肯く。その姿をみて、オビ=ワンの説得はともかく、クワイ=ガンの説得というのは、ひょっとしてライトセーバーをほのめかすようなものだったのではと、いう想像が評議員全員の脳裏によぎる。 「―なるほど、この件は了解した。では惑星ユーゴスの暴動を鎮圧しにいったはずが、お前達が任務終了報告をしてユーゴスを出た1週間後に、無血クーデターが起こって大統領が追放されたとはどういうことだ」 「追放されても当然のことをしていた」 「私から補足させていただきます」 こんどは、許可を待たずに弟子が口を挟んだ。 「大統領は、新しい大統領宮殿の建築に一般の住民を使役していたのです。資金がないというのが理由でした。マスターが交渉して他から援助を取り付けると約束し、建設は一旦中止となり暴動は収まりました」 「どこから援助を取り付けたのだ」 「惑星ベガスだ」 評議員から一斉に驚きがあがる。ギャンブルで有名な一大歓楽地だ。 「何とか資金援助を取り付けたので、ユーゴスの若手官僚に知らせてやった」 「新政府のメンバーは若手官僚中心ということだ」 「そうか、大統領さえいなければあの星もこれからはよくなるだろう」 「クワイ=ガン…」 二人のやりとりを聞いていたヨーダが、大きな目をぐるぐるさせながら愉快そうに口をはさんだ。 「いくらもうけた。いや、いくら調達できたのじゃ」 「そうだな。およそ―」 「ユーゴスの年間予算の1割くらいでしょうか。もちろんベガスでは、私達はあくまで一般観光客として振舞いました」 またもや、早口で弟子が言い添えた。 「凄腕じゃな」 「マスター、ヨーダ!」 メイスが固い顔でヨーダを見返す。 「まあ、この件はいいじゃろう。他に何かあったかの」 「いや、もう充分だ。パダワン、ケノービ」 弟子は既に察したかのように、神妙な顔でメイスを見た。 「すべての任務について、報告書に詳細を追加しておくように」 「イエス。マスター、ウィンドゥ」 師弟は礼をとり、悠然と去るマスターに続いてパダワンも評議会室を退出していった。 見送る誰もが、相変わらずオビ=ワンのローブは背丈に比べて長いと思う。気が付かないのか、マスターの考えなのか。が、誰も余計なことを言ってクワイ=ガンの不興を買う気などサラサラ無かった 二人の気配がしなくなると、評議員から一斉に溜息ともつかない声があがる。 「三ヶ月ぶりにテンプルに戻って来たと思ったら」 「相変わらずですな。クワイ=ガンは」 「オビ=ワンもフォローが板についてること」 「そういえば、最近聞いた話では―」 二人に関する評議員達の話は、久しぶりに面白い事に出会ったと、賑やかに続いている。 ヨーダに続いて部屋を出たメイスに偉大なジェダイマスターは話し掛けた。 「どうじゃな。メイス」 「3ヶ月前は、二人は何も問題はないと言うことでしたな」 「お前がクワイ=ガンらしくない等と気を回すからじゃ」 「二人が任務に出る前はどうも妙だとは思いましたが、戻ってきたら」 「元通りじゃの」 「あいつが何時までもおとなしい訳がない」 「オビ=ワンのフォローも磨きが掛かっておったな」 「とにかく」 いかにも癪だと言う口調でメイスは首の後ろをなでた。 「あの師弟には困難な任務をまかせて大丈夫でしょう」 「まあ、少しテンプルで休ませてやるがよかろう」 「承知しています。さもなければ、言うことを聞かないのは目に見えてますからな」 その夜、二人はそれぞれの友人達に誘われ出かけた。クワイ=ガンはメイス・ウィンドゥ、アディ・ガリア、デパ・ビラバと食事を共にしていた。仕事を離れれば、ジェダイマスターから気の置けない仲間同士の顔になり、パダワン達にはとても聞かせられないオフレコの話も出る。 クワイ=ガンの最近の任務話が話題をさらう。興味深けに聞いていたアディ・ガリアがそういえば、とアルコールも程よく回って上機嫌のクワイ=ガンに話しかけた。 「惑星イングでオビ=ワンが危ない目にあったんですって?」 とたんに、クワイ=ガンの片眉があがる。 「君の情報網はどこからそんな話を拾ってくるんだ。確かに、ろくでなしのヨーク公爵に襲われそうになった」 「報告書にはなかったぞ。命をねらわれたのか」 「いや、寝室に閉じ込められ押し倒された」 苦々しそうな声に、三人の目が丸くなる。 「一度はマインドトリックで切り抜けたが、記憶が無いのをいいことに、又同じ事をしようとした。あんな色気違いを王位に就かせる訳にいかん」 三人の、クワイ=ガンがライトセーバーをほのめかして説得したという想像は、つきつけて承諾させたという確信にかわった。 「わたしのオビ=ワンに手を出そうとしたのだから当然の報いだ」 断固として言い切るクワイ=ガンに、メイスも仕方なく相槌を打つ。 だが、二人の女性は聞き逃しはしなかった。 「クワイ=ガンはわたしのオビ=ワン、と言ったのよ」 翌朝、アディ・ガリアは自分の弟子シーリィに話していた。 「どうしてオビ=ワンが男に襲われたからって、クワイ=ガンがそんなに怒るんですか」 「あの様子はただ事じゃなかったわ」 「過保護か親ばかじゃないんですか」 「あの二人は本当に仲が良いし、師弟というよりはむしろ…」 「オビ=ワンだって何かと言うとすぐクワイ=ガンの話になりますよ。あの年でいいかげんマスター離れしたらって思います」 「シーリィ、あなたにはそう見えるかもしれないけど、私には」 アディ・ガリアは意味ありげに声を顰めてパダワンに言う。 「恋人に手を出されて怒り狂った男に見えたわね」 数時間後、シーリーは女友達に話す。 「うちのマスターが言うには―」 女性のうわさ話というものは瞬く間に伝わる。まして出所がアディ・ガリアとデパ・ビラバの2箇所ともなるとその速さは何倍速にもなり、その上さらに尾ひれがつく。 こうして数日のうちには、―国王がクワイ=ガンの恋人のオビ=ワンに手を出そうとして、怒ったマスターが王を位から引き摺り下ろした―、というとんでもない噂がテンプル中に広まった。 「おはよう。オビ=ワン」 「ああ、おはよう。バント」 「何だか眠そうね。夜更かしでもしたの」 やさしい友人は心配そうに聞く。 「課題が片付かなくてね」 まさか、昨晩マスターがベッドの中で中々眠らせてくれなかったとは、口が裂けても言えない。最近になって漸く、オビ=ワンは友人に何気なさを装えるようになった。 「久しぶりだから追い付くのが大変だ」 講義室に向かう途中、オビ=ワンはすれ違う人々の視線に気付く。始め気のせいかと思ったが、明らかにオビ=ワンを見ている。この視線は前にも何度かあった。あまり有り難い状況の時ではない、むしろ思い出したくなかった。 講義室に入ると、中にいたパダワン達が一斉にオビ=ワンを振り返った。間違いない。 「バント」 オビ=ワンはそっと友人を指でつついた。 「僕が何で見られるか。君、何か知ってるかい」 「後で教えるわ」 バントは気の毒そうに囁いた。 午前の講義の後、人気の無い場所でバントから例の噂を聞いたオビ=ワンは、青ざめ言葉を失った。 「テンプルに戻ったばかりなのに、どこからこんなひどい話が出たのかしら。でも、そのうち皆忘れるわ」 なぐさめられて、オビ=ワンは力無く頷いた。出所はともかく、半分はあたっているのだから。 「君は、噂を信じてないんだろ」 「もちろんよ。オビ=ワン」 親友にさえ言えない秘密を持つオビ=ワンは、バントのやさしさに気が咎めた。 ともあれ、一刻も早くマスターに知らせる必要があった。 続く |
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