Cleaning | ― 大掃除 ― |
食後、調べ物があると言って早々に自室へこもったクワイ=ガンの部屋で、なにやら物音がする。と思ったら、何か崩れ落ちたような派手な音が聞こえた。 「マスター、どうされました?」 ドアを開けたオビ=ワンが見たのは、上の本棚から落下したらしい書物や資料が床にちらばった様と、立ち込める埃を避けて、ドアの脇に憮然とした表情で立ち尽くす師の姿だった。 「探し物をして棚の本をちょっと引いたら、この有様だ」 オビ=ワンは壁一面に並んだ、本や資料や何やら雑多なものが詰め込まれた本棚を見て溜息を吐く。 「この棚は詰め込みすぎです。とっくに限界を超えてます。手伝いますから、少し整理されたらいかがですか」 「―そうするしか、なさそうだな」 オビ=ワンはてきぱきと作業を開始する。 「まず、処分するものと、残して置く物を分けてください。 これはマスターご自身が判断していただきます。もう、不要な物もけっこうあるでしょう」 「だが、用が済んでも辺境の惑星から持ち帰った貴重な資料は捨てられん」 「それが物が増える一因ですね。アーカイブに寄付するわけにはいきませんか?」 「ふむ」 聞いてみようと言って、クワイ=ガンは連絡をとる。 「―実物を見ないと断言できないそうだが、引き取ってくれそうだ。珍しいのも多いからな。あちらのほうが保管も万全だし」 「よかったですね。ではアーカイブ用はここにまとめて下さい」 クワイ=ガンが仕分けしている間に、弟子は棚を掃除し、雑然と並べてあった物をきちんと並べ替えていく。見る見るうちに棚の中は整然と埋まり、余裕のスペースさえ出来た。 「パダワンの講座にハウスキーピングがあったか?」 「それはありませんが、情報処理と図書館学の基礎はあります」 「どっちにしろ、我パダワンが優秀であることに変わりはない」 「―それは、長年マスターの側にいる所為で、必要にせまられて。辺境を何ヶ月も回るとすぐ物が増えますから」 「現地に行かないと手に入らない貴重なものだぞ」 「マスターにとってはそうですよね。さて、次は机の回りも片付けますか」 あっさりとかわされて、クワイ=ガンは苦笑する。 床に積んだままになっていた物が整理されると、部屋は見違えるようになった。 「ずいぶんとスペースが空いたな」 「これが本来の姿ですが。マスタ―は―」 オビ=ワンはしみじみと言う。 「飾り物や置物はほとんど関心がないのに、本や資料は些細なものでも集めるんですよね。それも任務に役立つというより、趣味の方が多いです」 「まあ、誰でもそういう傾向はあるんじゃないか」 「マスター・ウィンドゥのお部屋はいつも整然としてらっしゃいますよね。インテリアも趣味がいいし…」 クワイ=ガンの眉が上がる。 「パダワン、私がいつもメイスと真剣に話し合ってる時に、そんなことを考えているのか?」 「あ、いえ、ちょっと思い出しただけです。ところで、机の上を片付けたら出てきたんですが。これはどこの物ですか?」 オビ=ワンは大きめの本程の箱を指した。表面にびっしりと細かい彫刻が施されている。 「確か―、惑星インディだったかな。この彫り物は神話をあらわしている。もとは、儀式に使う品物を入れたものだそうだ」 クワイ=ガンが蓋を開けると、中にはカードやフォトが入っていた。 オビ=ワンは好奇心にかられて、大きな師の背の横から覗き込むように顔を出した。 親交のある人から送られたカードやフォト。オビ=ワンの見知らぬ顔も多かった。 だが、不思議はことにクワイ=ガンのものがない。 「マスターの写ったものはないんですか?」 「これは人からもらったものを入れておいたから、何時の間にか貯まったな」 中を見ていたクワイ=ガンの手が止まり、1枚のフォトを見つめている。ゆっくりと口元がほころんで行く。 「最近のものだ」 オビ=ワンに示した。 それは、椅子に座ったマスター・ヨーダを囲んで、左右にオビ=ワンとマスター・ウィンドゥ、後ろにクワイ=ガンの四人で移っているものだった。クワイ=ガンは二人の肩に手を回し、いかにも、記念撮影という風情で収まっている。 「この前、マスター・ヨーダのところに見えた、どこかの大臣が撮影したうちの1枚ですね」 「マスター・ヨーダやメイスとは長いが、こんなフォトは始めてだ」 オビ=ワンはこのフォトを先日、マスター・ウィンドゥの部屋で見かけたことを思い出した。 クワイ=ガンは、おそらく気が付かなかった。 「マスター、よければこのフォトいただけませんか」 「こんなものを、いいのか?」 「私の机の上に置きます」 物好きな、といいたげな師の口調にオビ=ワンは微笑んでそれを受け取ると、大事そうに両手で抱えた。 「さて、部屋はだいぶさっぱりしたが、こっちは埃だらけだな。シャワーを浴びて、アーカイブに行くとするか。そのあと、食事にいこう」 「いいですね。では仕分けしたものをまとめてしまいます。お腹も減りました」 「何でも好きな物を頼んでいいぞ。お前のおかげで片付いた」 クワイ=ガンはオビ=ワンのブレイドの先を手でつまんで引き寄せる。 「マスター、今は埃だらけですから…」 困った表情のブルーグリーンの瞳を見ていたが、人差し指の先でそっとオビ=ワンのまつげに触れた。 「――?」 「確かに今は埃だらけだ」 驚いて瞬きする弟子を見ながら、クワイ=ガンは可笑しそうに言う。 「では、シャワーの後で」 End これを書いているのは年末大掃除の時期です。やらなきゃと思ってもついつい他の事で現実逃避…。 例の写真はアメリカのSW公式サイトを除いた時に見つけた物。撮影合間の取材用らしいのですが、いか〜にもな記念写真風がツボにはまってしまいました。 |
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