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「マスター、少しカードの相手をしていただけますか?」 ある晩、夕食の後オビ=ワンはクワイ=ガンに言った。 「かまわんが」 クワイ=ガンは、先日、弟子が友達とのカードゲームに負けて、お菓子をごっそり取られたと口惜しがっていたのを思い出した。 オビ=ワンが持ってきたトランプで、クワイ=ガンが親になり開始した。 始めは対して差もなかったが、次第にオビ=ワンの負けが込んできた。 オビ=ワンの頼みで親を変えてやってみたが、やはり回数が増えるとクワイ=ガンの勝ちが続く。 「どうしてマスターばかり勝つんですか?」 「お前が弱すぎるんだ」 「この前も―」 オビ=ワンは口惜しそうに続ける。 「始めは私も結構勝ってたんですよ。勿論、カードは心理ゲームだから、訓練に役立つって、皆しっかりとシールドを張ってやったんですけどね。読めるはずはないんですよ。」 「私だってお前のシールドは破れんよ」 「じゃあどうしてこんなに勝てないんだろう」 「心は読めないが、顔色は読みやすい」 「え?」 「お前は動揺がすぐ顔に出る」 一瞬動きを止めたオビ=ワンはそういえば、と語り出した。 「それまで負けてたシーリーが、突然、私の昔の事を色々言い出したんですよ。 始めは聞き流そうと思ったんですが、何かフェアじゃないと思って。 その内だんだん負けが続いて、他の友達もいろいろ言い出すし、結局私もやり返しました…」 「泥仕合だな」 「最後には互いのマスターのことまで言い出しそうになって、思わずライトセーバーに手が掛かるところでした」 「修行が足りんな、パダワン。さて、私はこれでいいぞ」 広げられた師のカードを見たオビ=ワンは自分のカードを投げ出した。 「完敗です」 一休みしましょうと言って、オビ=ワンはお茶を入れた。 カップを口に運びながら、尋ねる。 「私はそんなに顔に出ますか、そういえばマスターは全然変わりませんね」 「シーリーの作戦だな。痛いところを突けば、動揺するとわかってたんだ。その時、彼女の持ち札は良くなかった」 「そうなんですか?」 「だから、わざと仕掛けて来て、お前はまんまとひっくり返された。で、他の者もお前の動揺に乗じた。」 「最後は私一人が負けたようなもんです…。確かに修行が足りません」 オビ=ワンは溜息を吐いた。 「まあ、これから気を付けるんだな。だが、パダワン、相手が知り合いでなければ弱点を突く手は使えない。通常はこのほうがずっと多い」 「そうですね。ではどうしたら」 「細心の注意を払って、だがさりげなく相手の顔色を伺う。そして、自分はわざと表情を作って、相手を都合のいいように誘導する」 「高等技術ですね」 「金が掛かると誰でも気合が入る」 「―では、何か賭けて勝負しますか?」 再開された勝負は賭けてやることになった。無論、師弟間で金銭や菓子を使うわけにはいかない。 何かすること、を賭けのカタにすることにした。 食事の支度と皿洗いに始まって、部屋の掃除、宇宙船の操縦、任務報告書の作成、など等。 いくら顔に出さないように気を付けても、クワイ=ガンには到底適わない。 だが、評議会の呼び出しに一人で弁明する事と言われた時は、オビ=ワンも必死になった。 「冗談じゃないですよ。出来る訳ありません」 「勝負は勝負だ。いやなら勝ってみるんだな」 ―オビ=ワンは漸く1勝をあげた。 「やれば、出切るじゃないか」 「おかげさまで、今日は本当に勉強させていただきました」 「これで終わりにするか」 「最後に、一勝負しませんか?」 「では、私はこれまでの勝ちをご破算にして、ついでに絶対負けない方法を教えよう」 「本当ですか?!では、私は―」 オビ=ワンは少し考えてから、言い切った。 「私から、キス10回!」 クワイ=ガンは一瞬ぽかんとしたが、すぐに口元を上げてにやりと笑った。 「いいだろう」 オビ=ワンはブルーグレーの目をいっぱいに見開いて、師のどんな表情も見逃さないとばかりに見つめた。だが、クワイ=ガンからはこれまで通り、何の動きも読み取る事はできなかった。 何回か持ち札を変え、満足できる札が揃った時にオビ=ワンは勝負を賭けた。クワイ=ガンはオビ=ワンの札を一瞥すると、表情を変えずに、自分の札を伏せたままテーブルに載せた。 「私の負けだ。―寝るから、後は片付けてくれ」 オビ=ワンは師の突然の態度にあっけにとられたが、勝利の嬉しさに顔がほころぶ。 クワイ=ガンが寝室へ去った後、伏せられたカードを返してみた。 ―揃ったカードはオビ=ワンのものより強かった。 「マスター、よろしいですか」 片付けを終えたオビ=ワンは、クワイ=ガンの部屋に入っていった。 クワイ=ガンは呼んでいた本をベッドサイドのテーブルに置く。 「先ほどの勝負は、マスターの勝ちでした」 「私から降りたんだ。結果はお前の勝ちだ」 「でも…」 納得しかねる、という様子のオビ=ワンの手を取って引き寄せる。 「そういうこともある。どういう結末にして後につなげるかも駆け引きの内だ」 「そうなんですか。奥が深いですね」 クワイ=ガンはブルーグレーの目を見ながら、オビ=ワンの顎に手を掛けた。 「お前のキス10回は、魅力的な申し出だったが」 はにかむオビ=ワンの唇を、親指の腹で優しくなぞる。 「キスしてくれるのを待ってるほど、私は気が長くない」 そうして、クワイ=ガンの唇が降りて来た。 End SW旧三部作の最初の巻、ファルコン号でハン・ソロとベン・ケノービがカードゲームをする場面がありましたね。いかにも老賢人という風情のオビでしたが、"絶対負けない方法"というのがとっても気になりました。やっぱり、マスター直伝だよなぁと。努力家オビの修行の成果のようです。 |
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