Hotpot Party  ― 鍋パーティしよう! ―
 非公式に元老院から依頼されたちょっとした仕事、と終えた師弟は派遣先のコルサントの惑星から客船で宇宙港に帰還した。時間は早朝、これから通勤ラッシュがはじまる少し前だった。

 エアタクシーのポートに向かいながら、ジェダイの見習はおずおずと師に切り出した。
「――あのすみません、マスター。もしさしつかえなければ、少し寄り道してよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわんぞ。どこまでだ」
オビ=ワンの顔がぱっと輝く。年齢は大人だが、こんな時はなんとも無邪気な少年のような表情をみせる。
「ちょうど通り道なんです。ベーカリーの「ラ・ベラ・フルール」まで」

――ほどなくして、両手に大きなパンの包みを抱えたオビ=ワンは満面の笑顔で店を出た。
「すごい量だな」
「さすがこの時間だと品がそろってますね。ついあれこれ買ってしまいました」
「ひとつ持ってやろう」
とんでもない、とオビ=ワンはあわてて荷物を抱えなおした。
「かさばっても軽いから大丈夫です」
「そうか、ところで今日の食事はそれできまりか?」
「今晩、友達とチーズフォンデュパーティをするんです」

 場所はガレンの部屋、マスターのクリー・ラーラは単独任務で不在だった。メンバーは他におなじみのバントとシーリー。皆大人になり中々会えなくなったので、偶々コルサントにいるときは食事をしながら語りあうのを楽しみしていた。

「シーリーのところで山ほどチーズをもらったそうで、材料持ち寄りでフォンデュをすることになりました」
「お前はパンか?」
「はい、ガレンがワインでバントはその他の具」

 テンプルの自室に戻った師弟は焼きたてパンの香ばしい匂いにつつまれ朝食をとっていた。
「普通はフランスパンですけど、せっかくだからいろんなパンも試してみようかと」
「前にレストランで食べたとき、チーズの中にパンを落としたことがあったな」
「そういえば慣れてなくて。あれは少し恥ずかしかったですね」
クワイ=ガンはゆっくりとティーカップを口に運んだ後、おもむろに弟子に告げた。
「おおぜいでフォンデュをするときは決まり事がある」


「すっごーいっ!」
巨大なチーズの塊を持って最後にガレンの住いに現れたシーリーは歓声をあげた。
リビングのテーブルにはところせましと食材が並べられていた。
オビ=ワンの持ってきた数種類のパンに、バントが用意した魚介、ハム、茹で野菜等など。

「たまたま「ラ・ベラ・フルール」に寄れたんでね」
受け取ったチーズの塊を削りながらオビ=ワンがうれしそうに言う。
「パンだけでも半端な量じゃないな」
これまたずらりとワインの瓶を並べたガレンが満足そうに言う。
「大丈夫、皆食べ盛りだから。ね、オビ=ワン」
バントが楽しそうに食器を配りつつ話しかけた。


 テーブルを囲んでオビ=ワンの隣りにバント、その隣りはシーリー、そうしてその隣りはガレンだった。食べつつ、飲みつつ、しゃべりつつと皆の手も口も忙しく動く。いつしかオビ=ワンはせっせとチーズを削り、減った鍋にチーズを足しワインを注ぐ役になっていた。

「さ、ちょうどいい具合になったからいいよ」
「ありがと、オビ=ワン」
だいぶいい顔色になったシーリーがフォークで刺したパンを鍋に入れ、溶けたチーズに絡ませる。
「このナッツの入ったパンおいしい」
ところが、持ち上げようとしたフォークに刺したパンが重みに堪えかねたか、先をはずれ、ぼとりと鍋に落ちてしまった。
あー、と一斉に視線が集る。

「ごめん、ちょっと酔ったかな」
シーリーが恥ずかしそうに再びフォークを鍋につっこみ落ちたパンを取りあげようとした。
「――こんな時は、罰則だな」
え?と今度は皆の目がガレンに注がれる。
「具を鍋に落とした人はお詫びに隣りの人にワインを注ぐこと。異性の場合はキス」
「本当、ガレンが思いついたんじゃない?」
疑わしそうな目でシーリーが言う。
「嘘じゃない。マスターに聞いた大人のルールさ。なんだったら誰かに確かめてもいいよ」
オビ=ワンがためらいがちに口をはさんだ。
「――うちのマスターも言ってた」
バントとシーリーがオビ=ワンが見る。
「オビ=ワンがそういうんじゃあ」
「嘘じゃなさそうね」
とバント。
「おいおい。まあ、無理にとはいわないけど、どうする。このルールでやってみるかい?」
「わかった」
軽くガレンをにらみ、シーリーは素早くその頬に口づけた。ついでワインを取り上げバントのグラスに注いだ。
「これでいいんでしょ」
「結構、キスは好きなところでいいよ」
「相手がガレンじゃねえ」
「ひっどいなー」
おおげさなガレンの口調に笑い声があがり、再び皆のフォークを持つ手が動き出した。

 ワインの瓶が数本空になり、山盛りだった具も残り少なくなったころには、だいぶ酔いもまわってきた。互いに手元があやしくなり、何度かとりそこねた具が鍋に落っこちる。

「あらっ!」
「わたしそのロゼがいいな」
シーリーがにんまりとグラスをバントに向けて差し出す。
バントはワインを注いだ後、少しはにかみながらオビ=ワンのほうを向き。小さく音を立ててオビ=ワンの頬に口づけた。

「おっと!」
「やったな、ガレン」

「――わざとじゃないでしょうね」
「そんなことしないさ。オビ、どのワインがいい?」
オビ=ワンが示した瓶を取り上げ、ガレンは並々とグラスに注ぐ。
ついでガレンはシーリの頬にうやうやしく口づけた。


「あぁお腹いっぱい。もう入らない!」
「私も」
「え、まだ残ってるよ」
「二人にまかせるー」
女性二人は残った皿を男性二人のほうに押しやった。
それでももう入らないといいながら、カットフルーツをフォークで摘む。

「食べちゃっても文句いわないね」
オビ=ワンの念押しに、どうぞ、と二人は仕草で示した。
「オビ=ワンは一度も落としてないでしょ」
「ほんと、一番食べて飲んでるくせに顔色もほとんどかわらない」
「オビ、僕もそろそろいっぱいだな」
「でも、少しばかり残してもね」
ガレンはワイングラスを手に抱えた。
「ワインならもう少しいけるけど、あとは食べてくれよ」
「うーん……」

オビ=ワンはパンを刺したフォークで鍋底をかきまぜチーズを絡ませた。
フォークをすくいあげると、チーズの先に茶色っぽいスライスのようなものが付いている。何だろう?口に入れるのをオビ=ワンがためらっていると、ふいに、あ、とガレンが声を上げた。
「マスターが帰ってきた、――ような気がする」
椅子に反り返っていた女性達が座りなおす。
「今日は留守のはずでしょ?」
「そのはずだけど、近づいて来るんだよ」
どのパダワンもマスターのフォースは姿を見ずともわかる。

ガレンがそう言うならと、皆の目が自然と出入り口のドアを向く。
と、シュッと軽い開閉音がして、まぎれもなくガレンのマスター、赤毛の小柄な女性が姿を見せた。
「帰ったわよ、ガレン!」
声を上げたクリー・ラーラは自分の弟子の他に居住いを正したパダワン達に迎えられ、一瞬目を見開いたが、すぐににっこりと微笑んだ。


 住いに戻ったオビ=ワンがリビングにはいると、クワイ=ガンに名を呼ばれた。
師の部屋に入り、アームチェアで本を読んでいたクワイ=ガンに近づく。
「ただいま戻りました、マスター」
「楽しかったか」
「はい、あ、ワイン臭いですか?」
「少しな」
「クリーが帰ってきたのでおひらきになったのか?」
「はい。でもどうしてご存知なんですか?」
「ついさっき連絡があってな」

クワイ=ガンは本を閉じた。
「任務を終えた後にひと悶着あったらしくて、一緒にいった議員を残してさっさと帰ってきたそうだ」
オビ=ワンは気性のはっきりしたガレンのマスターを思い浮かべた。
「彼女の任務地はいいワインがあるんだが、そんなわけで買えなかったと連絡してきた」
「残念でしたね」
「そうでもないさ」
クワイ=ガンはオビ=ワンのブレイドを引き寄せた。
「手に入ったらそのワインとアディのチーズでフォンデュをやろうとか言っていたからな」
「あの決まり事付きで?」
「誰が言い出したんだがろくでもない決まり事だ。ガレンにキスでもされたか?」
「――のマスターにされそうになりました」
クワイ=ガンの片眉が上がった。

「いえ、その、食べ切れなかったぶんをマスター・ラーラにすすめて、食べていただいていたらパンが落っこちて」
「クリーはお前の隣りにいたのか」
「ガレンと私の間にいたんです。でガレンとはふざけながら口の端あたりにキスして、次に彼女がこちらを向いたら、どうも口許に視線を感じて――」
言葉を切った弟子に、師は無言で目で先を促す。
「――何だか照れくさくて、その時、さっき自分がすくったチーズの先に付いていたのはガーリックスライスだって気が付いたんです!」
「王様の印を見つけたのか。何と命令したんだ?」
「あ、あの私からキスすることにしたんです」
「うん?どこに」
「マスター・ラーラの手に。それと、残ったフォンデュとワインを出来るだけ食べていただくよう、命令というかお願いしました」
クワイ=ガンが声を立てて笑い出した。
「クリーの押しをはね退けたのか。よくやったパダワン」
大きな手でオビ=ワンの肩をたたく。
「――今度会ったら、人のものに手出しするなと言ってやろうかとおもったが」
冗談めかして、低い声で言う。

「でもマスター」
オビ=ワンは笑みをうかべてクワイ=ガンの口許に自分の頬を寄せた。
「フォンデュの時にキスしても、チーズとワインの味しかしませんよ」
「試してみよう」
クワイ=ガンは手を伸ばしての弟子の背を引き寄せた。
柔らかく唇が重なる。
「ワインだけだな」
低い囁きに応えるようにオビ=ワンが口を開き、両腕を師の首に回す。
と、クワイ=ガンの舌が深く忍び込んできた。



End

先日聞いた、本場でフォンデュパーティをするときの決まり事、だそうですよ。ガセかも知れませんが。この二人でフォンデュをしたら、――考えるものあほらしいので止めときます(笑)
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