10th Anniversary ― 10年目 ―

 オビ=ワンは23歳の誕生日をある辺境の惑星で、任務中に迎えた。
ジェダイとわからない扮装をして、雑多な人種がごったがえす市場で情報を集めていた。
夜、泊まった場末のホテルでデータを整理していると、クワイ=ガンが思いついたように言った。

「そういえば、今日はお前の誕生日だったな」
オビ=ワンは控えめに微笑む。
「覚えていてくださったんですね」
「誕生日おめでとう。オビ=ワン。今は任務中だから何もできないが、コルサントにもどったらレストランに食事に行こう。他に何か望みはあるか?」
「ちょうど10年ですね。あなたのパダワンにしていただいて、あの時も任務中でした」
オビ=ワンは懐かしそうに言う。
「あの時は―」
クワイ=ガンも記憶を手繰る。

「マスターからとてもいい贈り物を頂きました」
「お前をパダワンにしてから間もなかったかし、よく分からなかったから、私が持っていた石をやったのだったな」
オビ=ワンはうれしそうに頷く。
クワイ=ガンは己の言い訳めいた言葉にも関らず、弟子の心底うれしそうな様子に、少し気が咎めた。

 ジェダイの師弟はパダワンの13歳の誕生日にマスターから特別な贈り物をする習慣がある。
マスターはパダワンの性格や欲しがっている物を考えて、前々からその贈り物の準備をする。
クワイ=ガンは始め拒否していたオビ=ワンを、13歳の誕生日の直前にパダワンにした為、贈り物など用意する暇もなかった。

 それで、自分が持っていた小さな石、― 人によっては何の価値も無い、へんてつもないただの石ころ― 故郷の川で拾ったフォースを集中できる石をオビ=ワンに贈ったのだった。

 オビ=ワンはそれを気に入ってくれた。今も大事に身に付けていることをクワイ=ガンは知っている。オビ=ワンは食べることは好きだが、幸いというべきかジェダイにふさわしく、物欲がほとんどない。身に付けるものも衣類も、宛がわれた物で特に不満を言うこともなく、物をねだったこともほとんどない。

「物でも、望みでも何でもいい。私ができる限りは何でもしてやろう」
師のいつになく力のこもった声を聞いて、オビ=ワンは少し驚いたが、小首を傾げて、考える仕草をする。
「では、テンプルにもどったら、私のお願いすることをしていただけますか?」
「何だ」
「その時に言いますから。何も準備はしていただかなくてけっこうです」
「休みをとるか。それともベッドでできることか?」
オビ=ワンは赤くなって立ち上がった。
「どちらも、必要ありません。私は、お先に失礼します」
怒ったように言い放ち、狭い室内の奥のベッドに横になって、毛布を被ってしまった。


 任務を終え二人がテンプルに戻ったのは、オビ=ワンの誕生日から数日後だった。
次の日、予約しておいた高級レストランに出かけ、二人でお祝いした。
豪勢な食事をいかにも美味そうに平らげていくオビ=ワンの笑顔は、10年前とあまり変わらないように思えて、クワイ=ガンは目を細めた。

 あまり遅くない時間に住まいに戻った。とっておきのワインを開けるかというクワイ=ガンにオビ=ワンは首を横に振る。
「先日約束した事、覚えておられますか?」
「もちろん、で、何をすればいいんだ?」
オビ=ワンは微笑んで、では、とクワイ=ガンにリビングのいつもの椅子に腰掛けてくれるよう促す。
そして自分も向かいの自分の席に腰を下ろす。

 少し居住まいを正して、膝の上で手を組み、ブルーグレーの瞳をクワイ=ガンに向けて、ゆっくりと話し出す。
「憧れだった、ジェダイマスター、クワイ=ガン・ジンのパダワンにしていただけたことは、私の生涯の大きな喜びです。今も、この気持ちは少しも変わっていません。
未熟で強情でマスターに逆らったことさえある私を受け入れ、今日まで導いてくださったことに、本当に感謝しています。」
オビ=ワンの口から紡がれる言葉を聞いて、クワイ=ガンは喜びと照れ臭さに包まれる。

「マスターと共に過ごした10年は私の最良の時間です。けれど、たった一つ、心残りがあります」
「心残り?」
オビ=ワンが頷く。
「今となっては、どうでもいいことかもしれませんが、マスターから言って欲しかった言葉があります」
オビ=ワンは言葉を切って、クワイ=ガンを見つめる。

 クワイ=ガンは見つめられて、記憶を総動員させた。
言って欲しかった言葉。愛しているとは確かに言った。身体も重ねる度に何度も囁いた。
弟子を誉める、いや、最近はオビ=ワンの仕事ぶりに満足して誉めることも多くなった。
容姿についてか、吸い込まれそうな湖水色の瞳は何にも替え難い程魅力的だ。
むしろ自分の容姿に無頓着なのは弟子のほうだ。

 クワイ=ガンは静かに待っているオビ=ワンに手を上げて言う。
「パダワン、降参だ。何と言って欲しい?」
オビ=ワンは師の言葉を聞いて、小さく息を吐いた。そして、顔を上げクワイ=ガンの目を見ていった。
「喜んで、パダワンに迎える、と、そして、抱きしめてください」
「オビ=ワン……」
期待と少し不安が混じった弟子の目の色、この目は前に見た事がある。
10年前の小さな少年。

「僕をパダワンにしてくれないの」
クワイ=ガンの拒絶に合い、絶望して見上げた瞳の色。
「あなたは僕をパダワンと呼んでくれたでしょう?」
ようやく見えた希望を胸に抱きながら、そっと見上げてきた不安そうなまなざし。

 あの時はオビ=ワンを弟子すると決めていたが、はっきりと告げなかっただろうか?
そのまま荷物を持たせて一緒に連れていったのだが。オビ=ワンは後ろから必死で付いて来た。
パダワンにしてくれたことはわかったが、あの時、クワイ=ガンの口からはっきり告げられるのを待っていたのだ――。

 オビ=ワンは黙ってしまったクワイ=ガンを見上げながら、待っている。
クワイ=ガンは椅子から立ち上がり、腕を広げ弟子に向かって言う。
「オビ=ワン・ケノービを、心から、喜んで、私のパダワンに迎える」
「マスター…」
オビ=ワンも立ち上がった。
「おいで。マイパダワン」

 オビ=ワンが胸に飛び込む。クワイ=ガンの背に手を回して、大きい体に抱きこまれる。
「マスター、マスター」
「遅くなってすまなかったな。あの時、とっくにパダワンにすると決めていたのに」
「いいえ、今更、私の我ままです」
オビ=ワンは顔を埋めて少しくぐもった声で言う。
「身体は大きくなっても、こうするとあの頃の子供のようだ」
「マスターは大きくて変わりません。少しだけ、白髪が増えましたが」
「何だって」
クワイ=ガンはオビ=ワンのブレイドを引っ張った。
「取り消します。こんなところは全然変わりません」
二人は同時に吹きだした。


 ひとしきり顔を見合わせて笑った後、ふと合った目を逸らして、オビ=ワンはお茶を入れます、と照れながらクワイ=ガンの腕から出て行った。

 やがて、オビ=ワンがお茶を入れたカップを運んできてクワイ=ガンの前に置いた。
それから自分のカップを持ち、椅子にすわった。カップを両手でかかえ、少し背を丸めて、湯気の立つ茶を慎重に口に含む。一口飲み込むと、茶の入れ具合に満足したのか、口元に笑みが浮かぶ。

 クワイ=ガンはそんなオビ=ワンの様子 ―胃も心も満たされて、いかにもリラックスした― をほほえましく見ていた。が、つい口に出た。
「10年たっても、顔はあまり…変わらないな」
「童顔、とおっしゃりたいのでしょう。仕方ありません」
オビ=ワンはブレイドの先を指に絡めながら言う。
「ナイトになって、髪を伸ばしたら、少しは変わるかも。いっそマスターのように髭を伸ばそうかな」
「お前が髭を」
クワイ=ガンの大きな背が笑っている。
「あ、ひどい。そりゃ、マスターは髭が似合ってますよ。―ナイトになってから髭も髪も伸ばされたんですか?」
「当たり前だろう」
「マスターの髭の無い顔なんて想像できませんね。生れた時から、いえ。とにかく身体も昔から大きかったような気がするし」
「背は子供の頃から他より大きかったな」
「大人になったらマスターに追い付けると思ってたんですが」
残念そうに呟く。
「背が高くても良い事はたいしてないし、お前だって小さくないんだからいいじゃないか」
「―そう、ですかね」
「抱きしめるのに丁度良い。お前が私より大きかったら、具合が悪い」
「又、そんなことを」
「誤解してるようだが、可愛いパダワンを励まし、慰めるのに、時にはいいんじゃないか」
「子供の頃はあまり抱きしめてもらった覚えはありませんが」
「おや、そうだったかな」

 オビ=ワンは溜息を吐く。
「マスターのそういう所、話題を自分の都合のいいように転化させる業は、とても私の及ぶところではありません」
「―貶されたような気がするが」
「いいえ、私も見習って交渉事に長ける様、努力したいと思います」
「お前の、皮肉も相当なものだぞ」
「お褒めに預り光栄です」
オビ=ワンは礼をする仕草をする。
「口の減らないやつだ」
「マスターの教えがいいものですから。―もう一杯お茶をいかがですか?」
オビ=ワンは近づこうとするクワイ=ガンの気配を察し、すばやく椅子から飛びのいた。

「カンのいいやつだ」
クワイ=ガンは椅子から立ち上がり、敵に対峙する時のようにわずかに腰を落として、間合いを取る。
「これから格闘の訓練を始めるわけじゃないでしょうね」
オビ=ワンも目で距離を測りながら、油断無く師を見返した
「いやか」
「いやですよ。せっかくいい思い出に浸っていたのに。それに、捕まったら私に勝ち目はありませんから」
「パダワン、戦う前から諦めるとはジェダイとして有るまじき行為だぞ」
「敵だったら、絶対引きませんよ。あなた相手では部が悪すぎます」
「ナイトを目指すなら、マスターを超える気迫を持って欲しいものだな。最後まで諦めてはいけない」
互いに目で相手を牽制しながら、それでもクワイ=ガンはオビ=ワンを少しずつ壁際に追い詰めていく。
「まったく、あなたは巧妙で、おまけに粘り強い。ウェイトだって全然敵わない」
「降参か」
クワイ=ガンは大きな上体を屈め、覗き込むようにオビ=ワンの目前に立つ。一瞬でも気を抜けば、オビ=ワンは伸ばした腕に捕まれる。
だが、追い詰められた弟子は思いがけない言葉を吐く。

「―拾い物」
「は?」
「マスターは私に黙って時々拾い物をしますよね」
「急に何を言い出すんだ」
オビ=ワンの言葉に虚を突かれ、クワイ=ガンは屈めていた上体を起こした。
「拾った当座は熱中して、私のことなど眼中に無くなるし、文句をいうと怒るし、むしろ邪魔くさそうにしますからね」
「最近はしてないだろう」
「いつだって突然だからわかりません」
「どうしろというんだ。拾い物をしないと誓えと言うのか」
「ご自分の都合で私を振り回していますから、偶にはこちらの言い分も聞いていただきたいといったら」
「何を」
「そうですね。私から言い出すまで、夜はほおって置いて頂いてけっこうですよ」
オビ=ワンの以外な言葉にクワイ=ガンは眉を顰め、一拍の後、弟子の真意を探ろうとするかのように口にする。
「本気か?」
「―一矢報えましたか?」
オビ=ワンは師の反応に、してやったりと笑みを浮かべた。
「……」
「うわっ、マスター?!」

 突然、まったく何の気配もなく、オビ=ワンの身体は横になって宙に浮いたかと思うと、クワイ=ガンの胸にかかえ上げられていた。
まさかフォースで、と思ったが、しっかりと両手で抱きこまれて逃れられない。
「我パダワンの舌も鋭くなったものだ」
クワイ=ガンはそのまま歩き出す。
「弱点を突くのは常套手段です。だから、ちょっと」
止めてください、と言いながら手足を動かしてもがくが、よけいに力をこめられる。
ふいに立ち止まったクワイ=ガンが人の悪い笑みを浮かべる。
「なるほど、私はお前の弱いところを攻めればいいわけだ」
オビ=ワンの感じやすい首筋に軽く口付ける。
「主旨が違うし、ウェイトでは敵わないって何度も、だから、マスター」
手足をばたつかせるオビ=ワンを横抱きにして、そのまま、寝室に入っていった。


 寝室のベッドにオビ=ワンはゆっくりと下ろされた。
一方的に連れ込まれた不本意さにとっさに身を起こして、挑むようにクワイ=ガンを見上げる。
しかし、クワイ=ガンは身体を動かすことなく、ただ見詰めているだけだった。
「―」
「マスター?」
憤りから戸惑いと、オビ=ワンの大きく見開かれた明るいグレーの瞳は感情の変化に伴ない、ブルーとグリーンの微妙な色合いを帯びて揺れる。

「この目だ」
クワイ=ガンの手が優しくオビ=ワンの頬にかかる。
「初めて見た時、強情そうな子供だと思ったが、お前の目が忘れられなかった。パダワンをとらないと決めていたが、ずっと気にかかっていた。いっそ、お前が誰かのパダワンになれば、気にせずにすむと思った。バンドメアで拒絶したのは、―多分、最後の抵抗だった。」
オビ=ワンを見つめる瞳の色は深い海の青。

「マスター…」
「マイパダワンと呼んでしまったのは思わず気持ちが出てしまったからだ。
お前にはっきり告げなかったのは―意地だ。」
絞り出すように放たれたその言葉にオビ=ワンは息を呑む。

「お前が、浚われたり、命を捨てようとしたり、私を離れようとしたとき、私が感じたのは、パダワンにした後悔でなく、自分への後悔だった。お前を守ってやれなかった。苦しめた。離れた事を後悔した。そんな時自分自身を責めた。お前が無事に戻ってきたら、二度と手放すまいと誓った。」
緊張していたオビ=ワンの表情がゆるみ、自らも手を伸ばしてそっとクワイ=ガンの顔に触れる。

「お前が私に気持ちを告げる前から、弟子として愛しいと思っていた。
だが告げられた時、どうしようもなくお前を愛していることに気付いた」
クワイ=ガンはオビワンの手を取り、指先にそっと口付ける。
「私はとっくにお前に落とされていたのだよ。マイパダワン」
 
 ―クワイ=ガンの告白を聞いたオビ=ワンは少しの間、その言葉を心の中で反芻するかのように沈黙した。やがて、オビ=ワンは、クワイ=ガンが目を見張った輝くばかりの笑み―今までの全ての想いが一つに溶けて溢れ出し、身体の中心から煌く光が射すような―を浮かべた。

 そうして、愛情のこもった目でクワイ=ガンを見上げる。
「でも、きっと私のほうが先ですよ。あなたの姿を始めて見たときから。あ…」
「どうした」
「後姿がアリ・アランに似ていたから―かな?」
オビ=ワンは幼いパダワン候補の面倒をみているやさしいジェダイの名を口にした。

 片眉を上げたクワイ=ガンを見て、オビワンは師の首に腕を回しながら言う。
「いいえ。多分、初めてあなたの目を見た時に」
「ということはお互いに一目惚れという訳か」
クワイ=ガンはオビ=ワンの背を引き寄せる。
「ええ、そしてあれからずっと―」

二人に言葉のいらない時が訪れた。


End


 映画EP1以前のお話JAシリーズ(師弟の出会いから5年間)をあるサイト様であらすじ&さわりを見ましたら、ほんっとマスターは最初オビに冷たい!しかもオビ少年の人生は波乱万丈、あちこちからいじめられまくってる。それを天性の明るさでカバー、してるわけではなく、耐え忍んで打たれ強くなって成長していく。
苦労人オビ、かわいそう…。やっぱりオビはかばってあげたくなる。マスターお願い。オビを幸せにしてあげて!!
 ―というわけで、マスターに、思い出して過去のことを告白していただきました。

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