A Flower Darden's Dream
 肌をくすぐる心地良い風と、柔らかな草いきれの匂いに包まれ、オビ=ワンは目覚めた。澄んだ青空に掛かる太陽はほぼ真上にあった。

「眼が覚めたか」
上から低い声が降ってきた。クワイ=ガンの穏やかな深青の瞳が見下ろしている。
「――眠り込んでしまったようですね」
オビ=ワンは草の上に横たわったまま、師と眼を合わせて照れ臭げに笑った。

「ずいぶんと気持ち良さそうに寝ていたぞ」
「ここは、瞑想よりは昼寝向けの場所と思いませんか?」
「ああ、確かに。実を言うと私も少しうたたねしてしまった」
それを聞いたオビ=ワンは、いっそう顔をほころばせて身軽に身体を起こした。

 師弟はさる惑星の王族の護衛を依頼され、王家の離宮に滞在していた。特に危険がない場合でもジェダイに要人警護を依頼するのは、いわばテンプルとの繋がりを誇示する惑星のステイタスだった。

 ときたま持ち込まれるこんな依頼は、休暇を要請するジェダイ達の不満を抑える為、評議会が割り当てていた。護衛といっても王族が外出しなければ護衛の必要がない。実質は待遇のいい休暇のようなものだった。

 二人は湖のほとりに建つ離宮を眺める、対岸の草原にいた。侍従から瞑想に適した静かな場所と勧められやってきたのだった。人工的に整えられた離宮の庭園と異なり、野生の草花が生い茂り、所々木立もある気持ちのよいところだった。
 

「もう、戻ったほうがいいでしょうか?」
「いや、まだいいだろう。この星は日暮れが遅い」

 そうですね、と小声で答えたオビ=ワンは額に手を当て、何か考える仕種をした。次いで、目を閉じて眉間に軽く皺を寄せ、何事か思い出すような様子になった。
クワイ=ガンはそんな弟子の様子を黙って見守る。

 ややあって、OKと口の中で呟き、オビ=ワンが手を離し目を開けた。
眼で問うクワイ=ガンの視線を受け止め、オビ=ワンが口を開く。
「実は、夢を見ていたんですが、忘れないうちに記憶しておこうと思いまして。これで、大丈夫です」
「さっきの寝顔からすると、いい夢だったんだろうな」
「そんな顔してました?」
クワイ=ガンが肯く。
「いい夢というよりは、不思議な事ばっかりで。すごく楽しかったですけどね」
オビ=ワンはクワイ=ガンを見上げてにっこりと笑う。

「もちろん、マスターも出てきましたよ。私達二人とも、ムービーに出演してるんですよ」
「ムービー!?」
「ええ、まったくなんでこんな夢を見たのか、思いあたる事もないんですけど」
オビ=ワンは話し出した――。


 どういうわけか私は新人の俳優で、どこかの映画スタジオへやって来たんですけど、着てるのは勿論ジェダイの服装でなくて、そうですね。シティのダウンタウンにたむろしている若者みたいな、気軽というか、くだけた服装で。ブルーデニムのステッチのある、ジャケットと似たようなパンツ。

 言葉使いもすごくくだけてて、他人の前でもせいぜい僕、普通は俺。事あるたびにイェーとかチッキショーとか、あ、失礼とにかくそんな調子。

 なに笑ってるんですか、マスター。そんなにおかしいですか。え、さっき記憶したんなら、いいからそのまま話してみろって。そのほうが感じがよくわかる。マスターがそう言われるなら……。


 俺は今売出し中の有望な新人俳優、これでも何本か主演してるんだぜ。代表作は薬中とか、けっこうエキセントリックな役で知られてるけど、もちろんまともな役だってちゃんとやってる。このスタジオにはカメラテストに呼ばれたんだけど、役がもらえるかどうかは、まだわかんない。

 とにかく今まで見たこともない桁外れにでっかい場所だ、スタッフだって、すっごくごろごろいる。オォ、スゲェってなもんだ。

 何の映画かって、そりゃ勿論、大宇宙戦争のスペクタクル冒険ものだ。子供の時見た、お気に入り映画の続編だっていうんだから、想像しただけでわくわくしちまう。
 
 前作に登場したお馴染みのドロイドを見つけた時は、もう、興奮の絶頂!やつは何気なくその辺をゴロゴロ走っていたんだけど、俺は飛んで行ってヨォッて声を掛けたね。俺ばっかりじゃなくて、回りを俳優が取り囲んで皆声を掛けていた。とにかく人気ものさ。実際、超有名人か女王陛下に会えたようなもんだ。光栄の至りってとこだね。

 すっかり、田舎物をさらしていたところに、誰かに呼ばれて行った場所に、ボスがいたんだ。とにかくこの映画を作ってる一番えらい人なんだけど、髭を生やしてて、くたびれたシャツ着てて、けど、何か雰囲気がワクワクしてる子供みたいで、俺はすぐリラックスしてボスが好きになった。

 で、次に連れていかれた所に、やけに背の高いおっさんがいたんだ。ちょっと髭生やしてて、ボスより格段に似合ってたから、俳優だと思った。
(その、マスターなんですけど、夢に見たまま話せっておっしゃるから、勘弁してくださいね。でも、短い髪型もよく似合ってましたよ)

 そこでカメラテストなんだけど、まあ、オーディションだったみたいで、俺たちを並ばせたり、ポーズを取らせたり、ちょっとしたシチュエーションを演じたりしたんだ。多分、何人もこのおっさん相手に演じたんだろうなって思った。

 ところがいつの間にか、役をもらえることが決って、それもジェダイの役!役名はわからなかったけど、のっぽのおっさんは『ミスター』、おれは『ヤング』って呼ばれた。初めてライトセーバーを渡された時はわくわくした。つい、くるくる回しちまった。慣れるためいつも持ち歩いて、回してたもんだから、本番の撮影でもそれをやることになっちまった。

 ジェダイってのは最高にかっこいい役。昔どっかの惑星の封建時代にいた『サムライ』という文化的な戦士みたいだってミスターが教えてくれた。俺たちは師弟役なんだけど、ミスターはすごい俳優だよ。高潔と力強さ、それでもって落ち着きはらってる人物を完璧に演じる。けど、一番感心したのは、眉のひそめ方が絶品なんだ。ミスターも俺のひそめ方がうまいって誉めてくれた。クールな師弟の一丁上がりってわけさ!
 

 衣装が出来た時はうれしかったな。なんたって見た目がかっこいいしさ。けど、動きにくさは別問題さ。何でこんなに大きいんだって思った。すぐつまずいちまうんだぜ。着て戦ってると、剣が袖やローブの下にすぐ入っちまう。ミスターは何気ないふうに着こなしてたけどさ。このときばかりは俺達の身長差を呪ったね!

 この映画は特殊効果をいっぱい使ってるんで、撮影も不思議なことがいっぱいあった。山のようなケーブルやらパソコンやら、最新機器がところせましとあった。後で合成するからって、俳優はブルースクリーン上で、実際には見えない敵と戦ってる演技をしなきゃならない。慣れるまでは大変だった。

 俺たちが初めてライトセイバー戦の撮影をしたときは、ミスターとライトセイバーの音を口で真似し始めたんだけど、すぐにちょっとばかりばかばかしく思えてきた。ふと立ち止まって、なんとなくお互いの顔を見合い、ミスターが言ったんだ。
「ちょっと待てよ。オレたちはプロの俳優だぜ、こんなことやってられるか!」ってね。

 そこに存在しないものを相手に演技するのはちょっと難しかった。カメラがこっちの方を向いているとき、ぼんやりとした視線にならずに、何かに視点を合わせるのは本当に骨が折れたね。

 けど、スタッフともいろいろ話し合って工夫し、いろんな、テクニカルなトリックを使った。いつの間にか、自然とイメージを想像できるようになったしね。その域に達すると演技もすごく開放的で楽しくなった。

 他には、『ボーイ』と呼ばれてた子役がいたな。金髪で可愛い顔してるんだけど、たまげた子供、いや俳優だね。俺がくたびれて文句を言っても、ふとボーイを見ると、俺は自分が恥ずかしくなったな。やつは一切文句なんか言わないんだな。ジョークを言って笑わせてくれるし、頭もいい、将来は、いや今だってボーイは大物だね。

 あと、ヒロインっていうか『クィーン』がいたな。ハイティーンで小柄な可愛い娘。クィーンよりはプリンセスって柄だね。強くって気品ある若い女王様の役。俺の好みって訳じゃないけど、楽しかったぜ。からかうと真っ赤になるか、吹き出すのを必死にがまんするかどっちかでさ。

 撮影中はアクシデントがあったりして、順調ってばかりじゃなかったけど、とにかく、エキサイトしたすっごい体験だった――。

(どんな、ストーリーだったかっておっしゃるんですか。大筋はわかるんですけどね、でも、マスター、夢の中になりきって話すのはもういいですか。どうも、だんだん、気恥ずかしくなって)


 オビ=ワンはここまで話し終えると、ふう、と息を吐き出した。いかにもおもしろがっている師を見て、照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「確かにとても楽しくて、わくわくしましたよ。けど、夢の中のミスターと現実のマスターはそう違わないような気がするんですけど、ヤングと私では隔たりが大きくて、目が覚めた時は自分でもびっくりしました」

 ふむ、とクワイ=ガンは顎髭を擦った。
「お前はシティの今どきの若者のこともよく通じているようだな。付き合いがあるのか?」
「ありません。一般的な知識だけです」
「夢の中でヤングはプロの俳優として、自分と正反対のジェダイを演じたわけだな」
「彼からすれは、そういう事になります」
「へたなジェダイよりはずっと有能そうだな」
「マスター、何が言いたいんです?」
「いや、ところで肝心のストーリーはどうだった?」
「困っているクィーンを助ける為、ジェダイが次々と現われる敵と戦うというものです」
「ラストはハッピーエンドか?」
「それが、マスターと私が最後に強敵と戦うまではわかったんですが、そこで眼が覚めたので、ラストはわかりません、惜しいことに」
「わからないほうが、楽しみだろう。予め結果がわかったらおもしろくもなんともない」
「そうですね。映画の最終的なテーマは悲劇と再生だそうですが」
「悲劇と再生?」
「ええ」
「戦いの絶えない世界では、いつも悲劇と再生の繰り返しだ。この宇宙ではむしろそれが現実だ」
オビ=ワンはそこで口をつぐんだ師を見つめた。ジェダイとして、自分達はいやというほどそれを見てきた――。


 オビ=ワン、とクワイ=ガンは黙りこんだ弟子の顎に手を掛け、上を向かせた。気を引き立てるように、軽い口調で話し掛ける。

「この惑星では、近くでムービーを見られるかな」
「さあ、一般的な娯楽は盛んのようですが。あ、離宮にシアタールームがあったような気がします」
「偶には、ムービーも良さそうだ」
「マスターは何が好みですか」
「そうだな、アドベンチャーとかアクションがいいかな」
「それと、動物ものでしょう」
「まあ、大してうるさい好みは無いが、ラブロマンスだけは勘弁してくれ」
「駄目ですか?」

 だってお前、とクワイ=ガンはオビ=ワンの僅かに開いた口元を、指先で軽くなぞりながら囁く。
「ああいうものは、現実のほうがずっといいに決っている」
「え?」
「証明しようか」
クワイ=ガンはオビ=ワンの背を抱き寄せ、ゆっくりと草の上に押し倒した。

まだ日は高く、野生の花々が心地良い風にゆれている、のどかな昼下がり。



End

 何気なく検索していたらひっかかったEP1時の関係者インタビュー翻訳。ユアンのくだけぶりにびっくり。ときどきF用語も使ってたみたいで。歯に衣きせぬとは聞いていたけど。でも34才になってもあの笑顔のチャーミングな事。ホント何しても許されるわ。リアムは学者のような、教養ある紳士って感じでした。映画のキャラと反対、さすが二人ともプロだ〜。
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