Mother
 
 辺境の惑星カベルネは自然に恵まれた美しい星だが、長く王制が続いた為に貧富の差が激しく、身分制の弊害で政治も経済もいきづまり、民主化を求める者が立ち上がって革命を起こした。

 革命軍は次第に勢いを増し、ついに国王は退位に追い込まれた。新政府は共和国連合に加盟を表明し、ジェダイに新政府発足の立会いを依頼してきた。

 クワイ=ガンとオビ=ワンは新政府の発足式を明日に控え、会場になる建物の点検をしていた。大学だったという広大な敷地は、一帯の激しい爆撃にもかかわらず、大方焼け残っていた。

 建物を出、スピーダ―に戻ろうとしたオビ=ワンは、前を歩いていたクワイ=ガンが立ち止まって、何かを確かめるように周りを見渡したのに、足を止めた。
「マスター?」
クワイ=ガンはしばしそうしていたが、やがてある方向を目指して、大股で歩き出した。後を追うオビ=ワンに言う。
「感じないか?」
そのまま歩き続け、やがて恐らく教職員の宿舎だったと思われる、集合住宅の一角にでた。そのころにはオビ=ワンも感じていた。確かにこの付近でフォースが感じられる。

 ひとつの入口の前で立ち止まり、開けようとすると、鍵が掛かっていた。
「誰か、いますか?」
――奥で、確かに身を潜めている気配がする。
「危害は加えません。どうか返事をしてください」
ドアを破って開けるのは造作もないが、恐怖を与えるだけだ。オビ=ワンはドアに手を掛け、フォースを注いだ。カチャリと錠が外れる音がする。

 声をかけながら、静かに中に入っていく。寝室とおぼしきドアの前までくると、子供の声がする。
「大丈夫、何もしないから、開けてください。怪我をしていませんか?」
穏やかに語りかけながら、又、先程と同じようにフォースで錠を開けた。用心深く扉を開け、中をのぞくと、蒼白な顔色の若い女性が小さな子供を抱きしめ、こちらに銃を向けていた。


「近寄らないで」
「我々は、危害は加えません。それよりあなた方はどうしたのですか?」
「革命軍では、ないようね」
「国王は退位された。明日、正式に革命軍が新政府を発足する。我々はコンサルトから立会いに来た者だ。」
オビ=ワンの背後にいたクワイ=ガンが声を出した。
「マミー、この小父さんの言うこと本当だよ」
それまで、抱かれていた男の子供が突然、しゃべりだした。
「ユーリ!」
「だいじょうぶ、悪いことしないよ」
女性は子供の顔を見、二人に向き直ると、ゆっくりと銃を握った手を下ろした。


 リビーというその女性は爆撃で家を失い、子供と二人でここに潜んでいたという。歳のころは二十代の半ば、面長で品のある美しい顔立ち、口調や物腰も育ちの良さを感じさせる。
「国王一家はどうされましたか?」
「退位してからは、離宮に移った。監視はつくが、危害を加えられることはない」
「それより、貴方はどうして非難命令が出たのに、二人きりで残ったのですか?」
「―この子が病気になりました」
「父親は?」
「国王軍でしたが、戦死しました…」
「とにかく、非難所か、病院に行きましょう」
するとリビーは突然、立ち上がって、オビ=ワンが差し出しかけた手を振り払った。
「いいえ!出て行ったら、――私達は、国王派は、奴隷にされます」

 クワイ=ガンは静かに語りかける。
「新政府は共和国連邦に加盟する。奴隷制度は認められない。私たちは、これからこの星が身分制を廃止することや、戦後の復興は全ての住人に等しく行なう条例を定めることを見届けにきた」
リビーは子供を抱きしめた。

「この子と、離されることはありませんか?」
クワイ=ガンは静かに男の子の頭に手を置いた。
「賢そうな子だ。ユーリ、年はいくつだ?」
「三歳」
「君は、おかあさんが好きだろう?」
「大好き。ダディーも大好きだけど、遠くに行ってしまったから、僕はずっとマミーと二人でいるんだ」
そうか、と言って手を伸ばすと、ユーリは警戒もせずにクワイ=ガンに抱き上げられた。

「ユーリ!」
「マダム、心配いりません。まず、病院にいってユーリを診て貰おう。その後避難所に行くことになっても、当面、食事や生活物資は支給される。そのあとは、そうだな、健康で働く意欲のある者は、仕事を与えられる。働く気はありますか?」
「もちろんです。この子のためなら何でもします」
「立派な心がまえです」
クワイ=ガンはユーリの栗色の巻き毛をなでた。

「お前もおかあさんを手伝えるか?」
「うん」
「――ユーリは察しがいい」
「ええ、とてもカンが良いし、さっきもあなた方見て、大丈夫と言ったので、わたしも信じました。
大人顔負けですわ。夫も将来が楽しみだと言っていました」
聞きながら、クワイ=ガンは穏やかに頷いた。


 親子を病院に送り届けた。リビーは丁寧に礼を述べ、別れ際、親子は寄り添って二人に手を振った。宿舎に戻ると、明日までに条例をチェックする仕事が待っていた。細部まで、なめるようにチェックし、疑問を新政府の担当者と詰める。

 貴族も奴隷もない完全な平等化。国王軍の戦犯の公正な裁判。復興や援助を差別なく実施することを、深夜にわたって確認した。

 翌日、新政府の発足はジェダイの立会いのもと、滞りなく行なわれ、二人の任務は終了した。
 

 明日はこの星を出発する。宿舎に戻ったオビ=ワンは師に声をかけた。
「マスター、あの子のことはどうするつもりですか?」
「ふむ」
「三歳にしては充分なフォースです。検査すれはミディ・クロリアン値もきっと高い。
テンプルに報告するのですか?」
「私達の任務外だ」
「しかし」
「オビ=ワン、テンプルとこの星とどちらがあの子を必要とすると思う?仮にテンプルに迎えられても、長い修行が続く。それでもジェダイになれるとは限らない。二人きりの親子を引き離すより、復興の中でたくましく成長すれば、きっとそれなりの人物になってカベルネに尽くすだろう、ユーリの父があの子に託したように」

「―実は、調べてみたのですが、ユーリの家は由緒ある貴族で、父親は国王派の中でも、高潔な人柄で知られていました。リビーも貴族で、父親は大学の教授でした。新政府メンバーでも、親交のあった人や知り合いがいます。わかれば、おそらく保護してくれます」
「どうするかは、彼女の気持ち次第だが、あの親子なら大丈夫だろう」
「そう思います。正直、マスターが二人をこのままにしておくと言ったので、ホッとしました。私は母親の思い出が少ないので――」
オビ=ワンは少し遠い目をした。

「母親があんなに我子を慈しみ、我が子の為に強くなれるのを目にして、感動したし、うらやましかったですね」
「オビ=ワン」
クワイ=ガンは後ろから柔らかくオビ=ワンを抱きしめた。
「もちろん、私には師であり、父親代わりのマスターがいます」
抱きしめられた手を取って、そっと口づけた。

 それから、ゆっくりと腕の中で向きをかえ、煌くブルーグレーの瞳でクワイ=ガンを見上げた。
「それに、ユーリは成長してから愛する女性を見つけるんでしょうが、私にはただ一人のあなたがいますから」
見つめ合って、どちらともなく重ねられた唇はとてもやさしかった。



End


 マスターは女性や子供にはやさしい、のはいいんですが、どうも何かありそうなんですね。
オビもおちおちしていられなかったのでは。今回のパダワン候補スカウト、はとりあえず未遂に終わりました。
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