Sleepy   ― 眠い! ―
 
 何か鳴っている。通信機だ。起きて取らなくてはと思うが、体が動かない。隣りのベッドで人の起きる気配がし、音が途切れた。マスターの通信機だ。
「―ああ、そうだ。症状は予想通りだ。わかった。出発は明日の午後だ。了解。」
通信が終わった。と思った瞬間、又眠りに落ちた。

 クワイ=ガンとオビ=ワンの今回の任務は、ある惑星で情報を集めることだった。政府の高官との癒着が囁かれる大規模な密輸団へ、腕っ節と脅しで潜入し、必要な情報を集め、抜け出るときに少々ライトセーバをふるったが、無事終了した。宇宙航近くのホテルにとまり、明日はコンサルトに戻る予定になっていた。

 背に手を添えられて上半身を起こされた。何だろう。瞼は開かない。
「オビ=ワン。眠いだろうが、これを飲んでくれ。」
言われてることがよくわからない。
「いい子だから、口を開けて。」
指が口に差し込まれ、口中にカプセルを落とされた。

 そのまま、口を開けていると、マスターの手が頭の後ろに回り、顔が近づいてきた。口づけされた、と思ったら水が口に流れ込んできた。喉を鳴らして飲み込む。もう一度、口伝えで水を飲まされた。

 クワイ=ガンは眠りから覚めない弟子の口からこぼれた水を手で拭き、次いで、ゆっくり横たえた。オビ=ワンは枕が頭につくやいなや再び眠りについた。


「いいかげんにしろっ!」
怒号が眠りを遮った。
マスターが怒っている。何かあったんですかと聞こうとしたが、頭が重く起き上がれない。
「言い訳などいい。この状態を何とかしろと言っているんだ。黙って見ていろと言うつもりか。―ああ、ある。わかった。これで効果がなければ、お前達の無能さがテンプルじゅうにすぐ広まることになるな。」
脅しのような捨て台詞を残して通信は切れた。

「マスター…」
オビ=ワンは掠れた声で呼びかけた。
クワイ=ガンは眉をひそめて弟子を見た。近づいて、そっと弟子の髪をなでる。
「ちょっと出かけてくる。すぐ戻るから、心配はいらない。いいな。」
はい、と答えてオビ=ワンはまた眠りに落ちた。
 

 何か匂いがする。オレンジに似た、柑橘系のさわやかな香り。何のにおいだろう。目を開けた。
「オビ=ワン、ああ、起きたか」
マスターがほっとしたような顔で見ている。体を起こそうとすると、マスターが支えてくれた。
ずいぶん眠ったはずなのに、頭がすっきりしない。体が重い。
「何の、香りですか?」
「特産のハーブティーのようなものだ。飲めるか。」

 両手でカップを持って口に運ぶ。少しぬるいが、喉がかわいていたのでうまい。味は、あまりなく、後味がやや苦い。飲み終わって息を吐くと、少し頭がはっきりしたような気がする。
「起き掛けですまんが、間もなく出発の時間だ。着替えられるか?」
イエス、マスターと答えて、ふとある疑問に気付く。
「私はずっと寝ていたんですか?」


 手足がいつものように動かないのがもどかしかったが、オビ=ワンは何とか着替えて、ホテルを出、空港に向かった。どうやら、四十時間近く眠り続けていたらしい。その間、師の話し声を何度か聞いたはずだが、よく覚えていない。

 客船に乗り込む。あとは帰るだけだ。クワイ=ガンに長い睡眠の訳を聞いてみた。他から来た者がかかる風土病だ、と言う。
「神経が麻痺し、猛烈に眠くなる。数日で覚め、後遺症もない。一度かかったら、もう罹らない。私は以前来た時に済んでいる。」
「でも、任務中は症状が出ませんでしたね。」
「十日前後の潜伏期間がある。」
「任務が済んでから発症してよかったですね。潜入中でしたら大変でした。」
それを聞いたクワイ=ガンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 出航してから間もなく、またもオビ=ワンに眠気が襲ってきた。おかしいと思ってクワイ=ガンに言うと、溜息を吐きながら、何もすることはないから、寝ていろという。報告書の作成は、と言うと、私がやっておくから、お前は起きた後でいいと言われた。


 一昼夜眠って目覚めた。いまひとつ頭がすっきりしないが、着替えて食事をした。クワイ=ガンがほとんど作製した報告書を補った。前ほどの眠気はないが、何かしていないと、うとうとしてしまいそうだ。コンサルトへ戻ったらしゃんとしなくてはと思っていると、到着の少し前、クワイ=ガンがこの前と同じハーブティーを煎れてくれた。おかげで、空港に到着してから、その後の報告や処理はすっきりした頭で、通常通りに済んだ。

 報告の後、クワイ=ガンはオビ=ワンを医務室に連れて行った。精密な検査を施された。スタッフは異様に緊張しており、師も眉を寄せて、じっと結果を待っている。
「血液中に微量な残留数値は見られますが、支障はありません。今夜一晩充分な水分を採れば、消えるでしょう。オビ=ワン、明日もう一回検査にきてもらえますか。他は、何も問題ありません。」
「わかった」
クワイ=ガンは愁眉を開いた。

 その晩、オビ=ワンは、バスを使った後リビングに行くと、額におやすみと軽く口づけされ、よく休めと自室に追いやられた。どうも釈然としないが、風土病にかかった弟子の体を案じているのはわかる。いつもなら帰った夜は一緒のベッドで眠るのに、と少し恨めしく思った。


 オビ=ワンは翌日、医務室から戻ってきた。もう何の影響もないと言われ、早くクワイ=ガンに報告したかったが、師は出かけていなかった。所在なげに部屋を見渡して、任務に使った荷の整理を思いつく。いつも任務の後で点検整理し、次の任務が決まれば、それに合わせた準備をしなければならない。基本的な荷造りはオビ=ワンがしていた。

 二人分のバッグを持ち出し、中身を取り出しながら、作業をすすめていく。クワイ=ガンの荷の中から、小さな包みが出てきた。あのハーブティの匂いがする。香りが良くて、頭がすっきりしたお茶。あの苦味もなぜか癖になりそうな味だった。クワイ=ガンが戻ったら煎れようと、包みをテーブルに置いた。

 荷物の片付けが済んでも、師は帰ってこない。オビ=ワンは小さく吐息をついて部屋を見渡すと、ハーブティーの包みが目に入る。しばらくそれを見て、お茶の支度をしに立ち上がった。

 お湯を注ぐと、部屋中に柑橘系の香りが広がっていった。色は淡いグリーン。カップを顔に近づけて、香りを深く吸い込む。一口飲んで、ちょっと熱かったので、少しだけ口に含む。かすかな苦味がある。この味は癖になりそうだな、と思いながら飲んだ。

「オビ=ワン!」
「お帰りなさいマスタ―」
「この匂いは?」
「マスターがこの前煎れてくれたハーブティです。荷物に入っていたので、勝手に煎れましたが、いけなかったでしょうか」
「いや、かまわんが、それより、お前何ともないか?」
何だか、クワイ=ガンの様子がおかしい。

「医務室の検査で影響はすっかりないと言われました」
「ああ、そうだな。それより、このお茶を飲んでからはどうだ?」
「べつに、この前は頭がすっきりしましたが、今は―」
なにかあるのか、と思って、ふと気付く。
「マスター、服についたこの香りは、マスター・ウィンドゥ好みのお茶ですね。それと、アーカイブの古書書庫の匂いがします」
「その通りだ。パダワン。それを飲むと、いつもより、ずっと感覚が鋭くなる。―いわば、麻薬に近い。」

 何故、そんなものをと不審気に見上げる弟子に、まず、座れと椅子を示す。
「―お前がかかった風土病にきく処方箋がある。予想していたので、任務中に発症が出た時のために、実は医務室で調合した薬を持っていった。」
「効かなかったのですか?」
「医務室の調合ミスで、逆に症状を促進するようになっていた」
「え!?」
「さいわい任務後に発症した。帰る前日に薬を飲ませたが、全然きかない。それどころか、ひどくなる。医務室に問い合わせて、ミスが発覚した。何とかしろと言ったら、そのハーブに神経を刺激する作用があると知らされ、市場で手に入れた。」
オビ=ワンは唖然と師を見上げる。

「お前は治ったからいいが、医務室を問い詰めたら、元老院議員の紹介で入った新人がこれまでもミスをしていたことが発覚した。場合によっては命に関ると文句を言いに行った。」
誰に?と心で思ったが、答えは聞かなくてもわかる。採用を承認した評議員、それにセンターの責任者だ。
「他言しない代わりに、今後私が要求した薬は、若干非合法であっても無条件で提供する事。それと」
「まだあるのですか?」
「お前の体調を回復するための休暇」
オビ=ワンは額に手を当てた。この人を怒らせたら、倍になって返ってくるのだ。
「大事なパダワンが酷い目に合ったのだから当然だ。」
マスターやり過ぎではと言ってはみたが、もう後の祭だった。

「ところで、このハーブが気になってアーカイブで調べてきたのだが―」
それで、と頭痛がしてきた弟子は言う。
「感覚が鋭く、感じやすくなるので、誘淫剤、媚薬として使うのがそもそもらしい。」
「なんですって!」
「試しに、黙ってもう一度飲ませてみようかと思ったが、すすんで飲んでくれたとは好都合だ。」
マスター、とオビ=ワンは悲鳴をあげる。
「冗談でしょう。私は、絶対、絶対いやです。」
「五日も待たされたのだ。無理はさせないから、観念しなさい。」
「絶対、いやです…」
その言葉は、クワイ=ガンの口づけに呑み込まれた。


End


 寒くなると、布団から離れるのが辛いです。で、眠くてたまらないオビのお話。
テンプルに調剤薬局さんがあるかどうかは不明。都合で捏造しまくりです。
 ―やっぱり、マスターやりすぎでしょう。 いろいろと…。

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