Bewitched 5
− 奥様は元ジェダイ5 −
みんなでお茶を Tea in everyone


 ルークは13歳の誕生日を迎えた。といっても特別なお祝いなどなく、今までは伯母が好物を作ってくれたり、伯父がちょっとした物、大人が使う機械の扱いを教えてくれたり、欲しかった工具のお古を譲ってくれたりだが、それでも充分嬉しかった。

 朝食の時、伯父は急に思いついたようにモス・エスパへルークも連れていくと伯母に告げた。そればかりか街につくと、用事の間、市場でも見ていろといって小遣いをくれたのだ。ルークにとってこれまでで最高の誕生日になった。

 わくわくしながら雑多な露天が並ぶ通りを歩いていると、地鳴りのような音とともに辺りがにわかに暗くなった。砂嵐だ!店は一斉に畳み始め、皆すばやく避難し始めた。

 ルークも砂嵐には慣れているが、知らない土地では避難する場所もわからない。辺りを見渡すと路地の奥に細くあいた古い扉が見えた。とにかく頼んで入らせてもらおう。走って隙間から中にはいり込み、背中で扉を閉める。ホッとして中を見ると、暗くシンとしている。どうやら無人のようだった。明かりもなく何より空気が淀んで湿っぽい。

 目が慣れてくると薄暗い室内の様子がぼんやりうかびあがる。がらんとして何もなさそうだ。その時、奥でかすかに何か揺らめいたのが目に入った。

光だ!
小さな部屋と思ったのに奥に何かあるらしい。そこから光が漏れているのだ。と思った瞬間、ルークはその扉の前に立っていた。

 不思議な事に、扉の前にいるはずなのに中の様子がすっかりわかる。タトゥイーンに多い石造りでなく見たことのない造りだった。壁や家具はシンプルな色使いで広くはないが居心地がよさそうで多分リビングなのだろう。そこにヒューマノイドが二人いた。

 似たような白っぽい服を着て、一人はテーブルの向こうの椅子に背筋を伸ばしてゆったりと座り、もう一人は立ってテーブルの上のカップにポットから湯気の立つお茶を注いでいる。金色の髪、すらりとした立ち姿、柔らかそうなチュニック姿、その男性はふと手を止め、うつむいていた顔をあげてこちらを見た。

 いつの間にかルークは中に入って戸口に立っていた。その男性はやや長めのゆるく波うつ金色の髪に鼻筋の通った顔立ち、澄んだ青とも緑ともつかない、初めてみる不思議な色の瞳を見開いてルークを見つめ、それから口許に笑みを浮かべとても綺麗に笑った。

 ルークは一瞬、似た色の髪の人を知ってると思った。荒野の魔法使い、頭がおかしいと噂され伯父がきらっているよそ者の男だ。けれどそのベンはルークを助けてくれたことがあった。けどこの男性はずっと若く、タトゥイーンでは見かけない白い肌でとても澄んだ瞳をしている。

 青年は、もう一人の栗色の長髪に口と顎に髭をたくわえた年かさの男に顔を向け何事か話したようだが、ルークは聞き取れなかった。

 金色の髪の青年は、ルークには伯父や叔母よりとても若く見えた。その青年はルークの目を見てかすれ気味の心地よい声で話しかけた。
「やあ、今お茶をいれたんだが良ければどうだい?」

「あっ、あのっ!」
話しかけられて我にかえったルークはつい声を張りあげた。
「砂嵐でとっさにこの建物に入ったんだ。伯父さんもきっとどっかで嵐が止むのを待ってる。僕、戻らないと」
「心配はいらない」
低く宥めるような声がテーブル越しにした。

 男は青年よりはずっと年上みたいだが、老人ではない。鷹揚な物言いや態度はすごく説得力があった。威圧する雰囲気はまったくないのに。
「嵐が納まるまで待つといい。ちょうど茶をいれたところだ」

「そうだね、さあ遠慮しないで」
青年に手を差し伸べて椅子をすすめられると誘われるようにルークはクッションのきいたソファに腰を下ろした。

「私はオビ=ワン。こちらはクワイ=ガン。君は?」
「――ルーク・スカイウォーカー」
「良い名だね」
名を聞いてオビ=ワンは小さく肯いた。
「熱いからひと口目はゆっくりのんで。砂糖はそのあと好みで。ビスケットとエッグマフィンを焼いたから味見してってくれないか?」

 テーブルクロスをかけた小ぶりなテーブルにはカップとポットしかないと思ったのに、いつの間にか、人数分のカップとソーサーに取り皿、砂糖入れ、お菓子を盛った皿などが並んでいた。お茶の香りと焼きたての菓子の良い匂いも漂っている。

 それでも初めて見るお茶やお菓子にためらうルークの心中を察したかのように、オビ=ワンは笑って自分のカップを取り上げた。
「――私達はここの生れではないので、ちょっと変ってると見えるかも知れない。けど、長年の暮らしぶりが身についてるんでね」

 匂いをかいで小さくお茶をすすったルークは顔をほころばせた。
「熱いけど美味い。すごく良い匂い」
「良かった」
にっこりするオビ=ワンの声に低い声がかぶさる。

「入れ方がいいんだ。湯加減とタイミングで茶の特徴を巧く引き出している」
「ありがとうございます。けど元はと言えばあたなが教えてくださったんですよ」
オビ=ワンはにかみながら嬉しそうにクワイ=ガンと目を見合わせた。そうして優しい笑顔でルークにお菓子を勧めてくれた。

 手づくりらしいお菓子もびっくりするほど美味かった。ルークは叔母から躾られていたので、他所でご馳走になるときがつがつすることはなかった。それで飲食の合間に少しづつ話をするのだが、二人とも決して急がせるようなことはぜず、はじめはポツポツと短い返答だった少年から自然に話を引き出していく。いつの間にかルークはこれまでにないくらい色々な事を話していた。
 

「大人になったら――」
ルークは金髪を振り立て、こぶしを握りしめた。
「銀河を飛び回るパイロットになりたいんだ!」
つい力は入って、数個残ったビスケットの皿が揺れる。
「素晴らしい夢だ」
「お前の子供の時の夢と同じだな」
「え!?」
オビ=ワンがクワイ=ガンを振り向く。
「何故知ってるんですか。話した事ありましたっけ?」
「わかるさ、お前、部屋にずっと模型を飾ってただろう」
「ああ――そんな昔のこと自分でも忘れてました」
オビ=ワンは照れくさそうに椅子から立ち上がった。
「ジャムが減ったね。持ってこよう。それとお湯も」

 取りにいったのはリビングのすぐ隣りで、空いたドアからキッチンの様子が見え、俯き加減でこちらに背を向けている。
「クリームをとってこよう」
す、とクワイ=ガンが立ち上がる。ルークはその長身に驚いた。オビ=ワンより、いやヒューマノイドでは見たことないくらい背が高い。

 クワイ=ガンは数歩でキッチンの入り口に行き、長身を屈め低い声で話しているらしいがルークには聞こえない。クワイ=ガンの陰になって表情はよく見えないが、オビ=ワンの横顔が小さく綻んだのがわかった。

 クワイ=ガンはクリーム入れとジャム瓶を受け取り、ゆっくり戻ってきた。すぐにオビ=ワンも湯のポットを手に戻ってきた。こちらを向いた時、さっきより少し前髪が下がって微かに目許が色づいているような気がした。


 結局、ルークはビスケットもマフィンもきれいに平らげた。不思議と時間も気にならなかった。いやお茶の間中、嵐も伯父のことも考えなかった。部屋は明るく、静かで心地よかった。タトゥイーンの強い日中の陽射しや吹きすさぶ砂嵐もどこかへいったようだった。


「すごく美味かった。どうもごちそうさまでした」
心底そう思っているルークの飾り気のないお礼に二人は優しい眼差しで肯いた。

 扉を開け、オビ=ワンはルークの背丈に逢わせて屈み、彼方を指差した。
「ここは普段私達しか通らないから、暗いんだ。ほら遠くに光がみえるだろ」
「うん」
「あれ目指して走っていけば始めの家にでる」
扉で見送る二人に挨拶しようとルークは再び振り向いた。
二人は寄り添い、背の高い男は青年の腰に手を回していた。

「来てくれてありがとう。元気でね、ルーク」
大きく肯いて、いわれた通りルークは背を向けて走った。
『フォースが共にあるように』
クワイ=ガンらしい低くこもった声が頭の中に降ってきたような気がした。


 足元が慣れた砂利の感触になり、たどりつくとすぐに戸が開きさっきの通りに出た。嵐は収まり人々が前と同じく通り過ぎていく。

「ルーク!」
「伯父さん、嵐すごかったね!用事済んだ?」
「ああ、ちょうどいい隠れ場所を見つけたもんだ」
伯父が寄ってきてルークの背後の戸の透き間から中を覗きこんだ。
「長い事空き家のようだな」
ひと通り中を眺めると興味もなさそうに伯父は背を向け通りに戻った。ルークも振り返って中をみると、薄暗い室内はがらんとしてごく小さかった。


 この空き家の奥に別の家があって住人にお茶をごちそうになった、とは伯父にも誰にも言わないでおこうとルークは思った。何より言っても信じてもらえそうにない。

 タトゥイーンとはまるで違う不思議な場所だった。前にいた星のままの暮らしをしているといっていた二人。いつか本当にパイロットになって銀河を駆けまわればあんな場所を見つけられるだろうか。
『フォースが共にあるように』
意味はわからないが、ルークの胸の奥で不思議な高鳴りがした。


「まさかと思ったけど、本当にきてくれましたね」
「いったろう、ルークなら大丈夫だって」 
「フォースが強いことは承知してましたけど、あなたが少し力を貸しただけで、フォースの私達の家に自然に入ってこられたんですよ」
「13歳ならテンプルではマスターについて修行をしている歳だ。あの子も少し導けばフォースを使えるようになる」
「そうですね、父親の血を引いてますから。なによりあなたのような優れた導き手がいれば」
「――お前がのぞめば又お茶に呼ぼうか?」
「ええありがとうございます」
「けどお前、全然気付かれなかったな。ベンの時は外見構わなさ過ぎじゃないか」
「別に気にしてないですけど。構ったほうがいいですか?」
「いや、私だって気にならないさ。家ではこうしてテンプルの時の姿にしてくれてるし」
「だってマスターが昔と同じですから、私ばかり歳とるのも変ですし」
「偶にパダワンの時の姿になってくれたらこの上ない喜びだが」
クワイ=ガンの唇がやさしくこめかみをすべるのを感じ、オビ=ワンははにかみながら囁いた。

「……考えときます」



End

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