Summer Christmas

「うっかりしてました」
空港のカウンターから足早に戻ってきたオビ=ワンは眉を寄せてクワイ=ガンに詫びた。

 辺境での任務を終えてコルサントに戻るジェダイの師弟は、乗換えの為、大きな宇宙港のある惑星に立ち寄った。
「まさか真夏なのにクリスマスシーズンでどこも満席なんて」
「そういえば今日は12月22日だったな」
「コルサント直行便は何とか25日の予約がとれました。それまではキャンセル待ちです。望みうすですが」
「仕方あるまい。それより泊る場所を探す必要があるな」

 クリスマス休暇の人々でごったがえす空港をでるとたちまち真夏の日差しが照りつける。
周辺のホテルも空きがなく、このさいだからとエアバスで街の中心部に出た。何とか、空調が壊れているがそれで構わないという条件でホテルの一室を確保した。けれどジェダイといえど任務抜きで蒸し風呂のような部屋に長居する気もせず、軽装に着替えて出かけることにした。

 抜けるような青空を背景に、艶やかな緑の葉を広げた木々が繁る通りには華やかなクリスマス飾りがされ、広場には巨大なクリスマスツリーがそびえ立つ。半袖にサンダル姿の人々が楽しそうにさざめき、サンタ帽の店員が声を張り上げている。

「不思議な感じですね。冬のクリスマスしかイメージがないので」
成人して日頃は冷静なオビ=ワンが少年に戻ったように顔を輝かせ、あたりを見渡している。
「ここは南半球だから北半球とは季節が逆だ。私も初めて見る」
「日が長いから夜の9時まで明るいそうです。野外カフェも多いですね」
「野外レストランで食事といくか?空きがあればだが」
「みつけます、マスター」
弟子はおまかせくださいというように胸を張った。

 任務の時の情報収集能力を発揮すればわけもない。間もなくオビ=ワンは評判のレストランを聞き出してきた。
「予約がとれました。少し歩きますがおすすめ料理はハーブ鶏のグリル、今だけ限定のデザートは苺ティラミス。あ、もちろんマスターには良いワインもあるそうです」
「けっこうな情報だな、パダワン」
長身のクワイ=ガンは頭ひとつ背が低い弟子の金褐色のブレイドの先を掴んで、ちょっとばかり引っぱってやった。
オビ=ワンは任務以外のとき美味いものやお菓子に目が無く、さらに童顔なのでうれしそうな表情だとより少年のように見える。
「案内してくれ」
「イエス、マスター」

 大きなレストランの野外席は森のように緑豊かで、テーブル同士の目隠しに植物が置かれている。テーブルについてオーダーを済ませた時、オビ=ワンが落ちつかなげにを視線を走らせた。

「……微かですけどフォースを感じます」
「危険を感じなければ構うことは無かろう。フォースセンシティブは案外いるもんだ」
「はい。けどジェダイのフォースに近いです」
「おまえが意識すればこんどはそのフォースで相手に気付かれる。必要なければ気にしなくていい。料理がきたぞ、こっちに集中したらどうだ」
「マスターがそう言われるなら」
オビ=ワンはクワイ=ガンに笑いかけ料理に目を落とした。

 ゆっくり食事を楽しみ、クワイ=ガンが勘定を済ませて出ると待っていたオビ=ワンが再び落ちつかない様子であたりをうかがっている。

「やっぱり間違いない。近くにいます」
「――こういう時の対処の仕方を覚えたほうがよさそうだな、お互い」
「え?」
いぶかしげに見上げてくる瞳に小さく肩をすくませ、クワイ=ガンは弟子の肩をおして繁った木の方へ振り向かせた。

すると、同時に椅子を立った巻き毛の若い女性と目が合った。
相手も目を見開いてオビ=ワンを見、それからクワイ=ガンへと視線を移す。
「……エマ?!」
「オビ=ワン――」
その時、オビ=ワンは同じテーブルにもう一人ジェダイがいるのに気付いた。
 豊かな黒髪をきちんとなで付けた壮年の男性はおどろくふうでもたく席を立ち、涼しげなワンピース姿のエマの手をとって静かに近づいてきた。

「休暇ですか、クワイ=ガン?」
「いや乗換え便待ちだ。クリスマスホリデーとは思いがけなかった。だが南国のクリスマスも良いもんだ」
「そうでしょう。コルサントでは知られてませんがここは穴場ですよ」
「せっかくの休暇を邪魔するつもりはない。楽しんでくれコリン」
「ありがとう、クワイ=ガン。ではエマ?」
「え、ええ。こんにちは、クワイ=ガン。オビ=ワン」
「良い休暇を、エマ」
「ありがとう」
クワイ=ガンに優しく微笑まれ、ナイト、エマ・ソーンは表情を和ませた。

「やあ、オビ=ワン」
「あ、こんにちは――ここの料理、美味かったです」
「そうだね。ところで北半球の宇宙港、ローカル便ならここから数時間だが。そこなら小型船のコルサント行きがあるかもしれませんよ」
「聞いてみます!ありがとうございます」
「クワイ=ガン、ではいずれまた」
「ああ、またコリン」


 師弟と別れたコリンとエマはくつろいだ様子で親しげに語らいながら、漸く暮れてきた街の雑踏へ姿を消した。

「マスター、コリン・フォールとナイト、エマ・ソーンが一緒に休暇中だったんですね、マスター」
「そのようだな」
「……余計な詮索、とかしない方がいいんでしょうね」

 クワイ=ガンより下の世代で共和国の法律や条令に詳しいマスター、フォールは法学の講師も務め、端正な顔で日頃はにこりともぜすパダワン達は近寄りがたい。
ナイト、ソーンは一見穏やかで愛想がいいが、ジェダイの女性の例にもれず任務となれば目を見張る強さ、しぶとさをはっきする。

 オビ=ワンはエマはともかく、コリンとは挨拶しかしたことがない。この二人が密かに旅行する仲とはこの目で見た後も信じられない、という思いがそのまま顔に表れている弟子を見てクワイ=ガンは軽く片眉をあげた。

「詮索など勝手だが、プライベートはお互い見て見ぬふりをするもんだ、と覚えておくといい」
「――イエス、マスター」
「慣れたジェダイなら休暇中はフォースを消す。お前が僅かなエマのフォースを察知したのは評価できるが、反面かえってエマにお前のフォースを知られたわけだ」
「つまり――マスターは私より先にわかっていたけど知らないふりをしてたんですね。エマが感じたのは私のフォースだけで。マスター、フォールも私達が気付くまで知らないふりですか。まだまだ修行が足りません」
「コリンは一見堅物だが案外面倒見がいい。各地へ旅行して良い場所を知ってる」
「以外でした」
「それより、北半球の空港へ問い合わせてみるか?」
「はいっ、すぐします」


 幸い明日のコルサント便の予約がとれ、早朝、ここから北半球の空港へ向かうことになった。
「だいぶ涼しくなってきましたが、締め切っては熱いですね」
ホテルに戻ったオビ=ワンは開け放しておいた窓を細めに残して閉め、クワイ=ガンが長い脚を伸ばしてくつろいでいるベッドに浅く腰掛けた。

「この部屋で2日間足止めされるところでした。マスター、フォールのおかげです」
「邪魔者を追い払ってしかも感謝されるなぞ、コリンにとっては容易なもんだ」
「え?」
「交渉に慣れたジェダイなら誰でも出来る。お前も経験を積めば自然にそうなる」
「――ハードルは高そうですが、努力します。マスター」
「素直な弟子だ」
肘を突いたクワイ=ガンはもう一方の手を伸ばして、オビ=ワンの若々しい頬を包み込んだ。
「暑くて壁も薄い部屋では、これが限度だな」
弟子の頬を這ったクワイ=ガンの唇が優しくオビ=ワンの唇を覆った。
「ん……」
「朝早い。南国のクリスマスも今日だけだ、お休み」


 翌朝、師弟はローカルの飛行艇で北を目ざした。数時間の移動中も風景は移り変わり、遠くに白い山なみを望む内陸の宇宙港は低い雲に覆われていた。降り立ったとたん、身をすくめるような風が肌を刺す。

 ローカル便が多くて少しばかり惑星間の飛行船が飛ぶ空港は規模も小さく、客もずっと少ない。それでも建物の中や辺りはクリスマスの飾りで明るく、冬支度の人々が行きかっている。
「このほうがおなじみのクリスマスらしいですね」
オビ=ワンはフードの前を寄せ、予約の確認をしにカウンターに向かった。

 手続きをすませてロビーに戻ると師の姿がない。オビ=ワンの眉間が寄る。どうも悪い予感がする。今に始まったことではないが、自分の師はこんな場合、好ましくない物事というかトラブルを呼び寄せる名人だ。

 通信機の呼び出し音が鳴った。通信を終えたオビ=ワンは、クワイ=ガンに指示された空港の倉庫目指して急いだ。

「――未熟な私ごときが差し出がましい事を申し上げますが、あと3時間で直行便でコルサントへ帰れるんですマスター。ただ乗ってるで!」
弟子は乗ってるだけで、を強調した。

 目の前にはどうみても年代物の薄汚れた小型宇宙船。クワイ=ガンによれば偶然あった昔なじみがコルサントへの物資を積んだ船のパイロットが急病で困っているという。

「どうせコルサントへ行くなら、乗ってるだけも自分で操縦するも同じだろう」
「乗物が違います。――これ、本当にハイパースペース飛行できるんですか?途中で空中分解するとか。トライしてみたけどだめで、結局1週間かかるとか」
「二人で気をつけて操縦すれば何とか大丈夫だ」
弟子は一瞬を眼を閉じ、それから息を吐き出した。
「わかりました。――あちらをキャンセルしてきます」
「点検が済み次第、出発する」

 改めて念入りに点検してみると、古いがエンジンや装備はしっかりしていた。だが依頼通り最速で飛ぶためには目がはなせない走行になりそうだ。

 オビ=ワンはかじかんだ手をこすりながら機体の下から這い出して、タラップの上にいたクワイ=ガンに声をかえた。あたりはすでに薄暗くなっている。
「すべてOKですマスター。スターターエンジンを入れてください」
「よし、乗ってくれ」
はい、答えて乗り込もうとしたオビ=ワンの足が止まり、空をあおぐ。
「どうした?」
「雪です――」
暗い空から、ゆっくりと白い花びらのような一片が舞い降りてきた。

 コックピットで出発の準備をしながら窓の外をみると、雪はみるみる量を増していった。
「冷えると思ったらやはり降り出したな」
「ホワイトクリスマスですね。出発直前にみられてなんだかラッキーです」
前を向いたクワイ=ガンの横顔が笑った気配がしたので、オビ=ワンも計器をチェックしつつ話す。
「おかしいですか?コルサントは季節がないから、ここみたいに季節がはっきりしてるのは嬉しくなるんです。任務じゃないときは、ですけど」
「そうだな。離陸するぞパダワン」
「はい!」

 ジェダイの操縦技術をもってハイパーレーンをスリリングに通り抜け、高速を保ちつつ安定走行に入った。画期的な速さでコルサントに着く見込みがついたが到着まで目が離せない。師弟は交互に操縦を続けていた。

「熱いぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたコーヒーカップを受け取ってオビ=ワンは一口飲んだ。

「代わろう。何か食べてきたらどうだ?」
「大丈夫です」
「ひと休みしてこい。ずっと仕事させっぱなしだからな」
ちらと師の横顔をみて、オビ=ワンは操縦席からゆっくり立ち上がった。

「仕事?」
「任務ではないが私がさせたからな」
「でもけっこう楽しかったですよ。南国のクリスマスにホワイトクリスマス。おまけにジェットコースター付きです」
「帰ったらどこでも好きなレストランに連れていく」
「楽しみにしてます」
オビ=ワンは笑顔で背を屈め、クワイ=ガンの髪に軽く口づけた。

「プレゼントはいらないか?」
「キリスト教徒ではないし、ジェダイは贈り物の習慣はありませんから。ところで積荷はクリスマス用の荷物って言ってましたね?」
「高級食材もある。お前の好きそうな――」
「それとマスターのお気に入りのワインも」
「無事着いたら謝礼に欲しいだけもらえるぞ」
「では豪華なディナーが楽しめそうですね。いっそ友だちを読んでパーティしますか?」
「そのうちな」

 クワイ=ガンは弟子のうなじの淡い金色の後れ毛に指を差し入れてそっとなで、そのまま自分のほうへ引き寄せた。
「まずはお前と二人だ」
「ええ二人きりで……」
同様にささやき返したオビ=ワンは、笑顔でクワイ=ガンに唇を重ねた。



End

 まったく落ち着きの無い師弟、というかマスターです(笑)。地球だって(?)南半球は今夏まっさかり、不思議ですね。
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