Bewitched 4 − 奥様は元ジェダイ4 −

 タトゥイーンの二つの太陽が沈んで闇が深くなった頃、いつもより遅い時間にオビ=ワンは仕事ならぬ現実世界からクワイ=ガンの待つフォースの世界に帰ってきた。

「ただいま、クワイ=ガン!すみません、ちょっと遅くなりました。すぐご飯の用意しますからっ!」
「別にかまわんぞ――腹が減ってるわけじゃなし」
クワイ=ガンは急な残業で遅くなり、あせって帰宅したワーキングミセスさながらの元弟子で今はパートナーのオビ=ワンに言う。
「何やら忙しかったようだな」
「やっぱり、さっき一瞬あなたの気配がしたと思ったんですが、様子を見にいらしたんですか?」
「まあな。書き物をしてたのか?」
「ええ、じゃあ今日は手抜きさせてもらいますね。明日はいつも通り帰ってきますから」

 オビ=ワンが軽く手を降るとテーブルに二人分の食事が現れた。魔法じゃなくて―フォースだけど―すべてバーチャルなので想像すれば何でも思いのままなのだが、オビ=ワンは気分転換になるからと普段は料理の手造りを楽しんでいる。

 食事をしながら、オビ=ワンが語りだした。
「――実はルークの将来のためにライトセーバーの作り方を記録していたんです」
「ライトセーバーの造り方?」
「ルークはフォースセンシティブでもジェダイのトレーニングはしてないでしょう。だからライトセーバーさえ知らないんです。いつか必要になった時、一から材料を揃えて造れるように書いてみました。あの子は機械いじりが得意だからきっと一人でも大丈夫でしょう」
「テンプルでは子供の時から使い方も造り方も教えていたからな」
「始めは手入れで、そのうち分解と組み立てを覚えて、パダワンのころには皆自分で造りましたね」
「一本ではすまないから予備は必要だしな。趣味でコレクションしてる者もけっこういた」
「惑星イラムでライトセーバーを造ったんでしたね。マスターのパダワンになって始めて」
「そうだったな」

 惑星イラムは氷の惑星で古くから良質のクリスタルが採取され、ジェダイの聖地とされていた。オビ=ワンは手を止め、懐かしむ眼差しになった。
「パダワンになってマスターといっしょにイラムのクリスタルでライトセーバーを造るのはずっと憧れでしたから」
クワイ=ガンもそんなオビ=ワンの様子に思い出をたぐり寄せた。
「確か弟子にしてから1年ぐらい経ってからだったか?」
「そうですね。私がテンプルへ戻って、それから惑星ティロスの後でマスターがカウンシルへ申請してイラム行きが許可されたんです。すごく嬉しかった――」

 オビ=ワンはクワイ=ガンの弟子になってから一度ジェダイオーダーに逆らってテンプルを離れた過去があった。戻った後もすぐに元の鞘に納まれたのでなく、ダークサイドに堕ちたクワイ=ガンの元弟子ザナトスが企んだテンプルの危機をクワイ=ガンと協力して救ったのでようやく許され、新たに師弟の絆を深めたのだった。其の後、師弟は故郷のティロスへ逃げ帰ったザナトスと対決して決着をつけたのだった。

「あれから何度かライトセーバーを造ったけど、あの時ほど嬉しくって一番緊張したことはないですね」
髭を蓄えたオビ=ワンがまるで少年のように青い瞳を輝かせる。
「マスターが側で見守ってくれていて、もう、最高の気分でした」
確かに、少年だったオビ=ワンの表情は誇らしげに輝き、この上なく可愛かった――クワイ=ガンも昔を思い出しつい頬がゆるむ。

「けどたったひとつ――今でも忘れられないんですが」
「うん?」
「マスターが」
「私がどうかしたのか?」
「覚えてないんですか?」
「いや、う――その」
クワイ=ガンは悪い予感がした。たった今まで嬉しげに思い出を語ったオビ=ワンの瞳が翳っている。
「ライトセーバーが完成した時マスターが祝福を唱えてくださったんですが、その時私が声掛けるまで上の空そらでしたね」
「――記憶にないが、年のせいか物忘れがひどいんだ」

 さっきよりもさらに厭な予感をクワイ=ガンのリビングフォースが告げる。
そんな元師を元弟子はちらと上目遣いみた。
「もしや何か間違えたかと恐る恐る聞くとマスターは――前に一緒にきたザナトスのことを考えていたとおっしゃったんです」
「あ――お――お、覚えてないぞ、本当だ。フォースに誓って」
「ふーん」
「本当だ、そんな昔のこと!言ったろう、年のせいか物忘れが」
「ああはいはい、わかりました」
 軽く頭を振ってオビ=ワンは溜息を吐いた。その様子から信じてないことは明らか、だがここでさらに否定したら逆効果、とさすがにクワイ=ガンも感じた。何とか話題をそらそうと試みる。

「そういえば、あの時すぐ急な任務で呼び出されてお前のライトセーバーの初披露になったんだったな」
「ええ、アウター・リムの惑星オード・シガット。その時デクスターに初めて逢ったんでしたね」
友人で情報通のコルサントのデクスターズ・ダイナのオーナーとはそれ以来の長い付き合いになった。

「出来立てのライトセーバーを試して見る間もなくいきなりですよ。話を中断されてコムリンクで呼び出されたんです。あの前は――確かマスターがすぐ謝って、私が許したら今度は彼のことを自分の責任と思っている、それに以前は親友だったとか言ってたような」
「何でそんなに細かい事ことまで覚えてるんだ!?」
「特別な時だから忘れません。それに、あれ以来聞く機会がなかったですから、あの時ザナトスのどんなことを思い出してたんです、クワイ=ガン?」
「……案外執念深いんだな」
「何か言いました?」
「い、いや、それより今更ザナトスのことなんかどうでもいいだろう!」
「まあそうなんですが――あなたが亡くなった後もザナトスの息子のグランタ・オメガにはさんざん悩まされましたからね」
「オビ=ワン……」
 オビ=ワンの口許は微笑んでいるような柔らいカーブを描いているが、目が笑っていない。クワイ=ガンは透明にでもなって姿を消してしまいたくなった。今更無理だけど。

 その時、空中からフォッ、フォッ、フォッ、フォッ、と聞き覚えのある声が響いてきた。
「この声は!?」
「マスター・ヨーダ!」
テーブルの上に緑色の小柄な姿が現れた。
「ちと早かったかの?食事が終わった頃かと思ったんじゃが」
「今日は少し遅かったので。もう済みました、どうぞ」
オビ=ワンが急いで手を振ってテーブルに並んだものを一瞬で消す。
「よければお茶を淹れましょう。ご希望はありますか?」
「ふむ、ギアナ高地産が良いかの。初摘みがあれば尚良い」
「わかりました。どうかお掛けください」

 ヨーダは危機を脱し心底ホッとして黙って座っているクワイ=ガンに大きな目を向けた。
「変わりないようじゃの」
「おかげさまで」
「オビ=ワンとルークのことじゃよ」
「もちろん。オビ=ワンは昼も現実世界でちゃんとやっています」
「あれはまったく真面目じゃからの。誰に似たのか」
「――今日は何か御用ですか?」
「いやいや、偶にはルークとお前さんたちを訪ねたいと思うての」
「歓迎します」
「そうじゃろうとも」
 普段はともかく今日みたいな時に現れてくれるのは助かる、というクワイ=ガンの心の声をお見通しとばかりにヨーダは肯く。さっきの話しはどこまで聞かれたのかとクワイ=ガンは眉を寄せた。

「お待たせしました」
オビ=ワンがトレーに茶器を並べて表れた。
「食事は手抜きすることもありますが、お茶だけはちゃんと淹れたほうが美味いですから」
それはつまり、昼仕事している奥さんが偶には夕食をテイクアウトや冷凍食品で済ませることがあっても、飲み物だけはこだわってるみたいなもので、ふむふむとヨーダは頭を振っている。
「家事全般よくやっていたからのう。昔からオビ=ワンは」
「良い気分転換になります。どうぞ」

 オビ=ワンがティーポットから注ぐとヨーダ好みの渋くて特徴ある香りが立ち込める。
「良い匂いじゃ」
ヨーダは鼻をひくひくさせて目を細め、一口すすった。
「美味い。腕を上げたのオビ=ワン。茶の淹れ方というかフォースがの」
「それはありがとうございます。ここには良い師匠がいますから」
隣りのクワイ=ガンにちらと視線を送って微笑むオビ=ワンにクワイ=ガンの顔も綻ぶ。
いつも自分を立ててくれるオビ=ワンは何ていい妻だろうと改めて思うクワイ=ガンだが、其の直後にオビ=ワンが爆弾を落とした。

「今ルークにライトセーバーの造り方を書き残しているんです。機会いじりが好きそうだし、テンプルではあの年頃でとっくに使い方とかメンテナンスを教えてましたから」
「ほうほう良いことじゃ」
「何度も弟子を連れてイラムでライトセーバーを作られたでしょうね、ヨーダ?」
クワイ=ガンの動きが止まり、表情が固まった。
「そうじゃのぅ、おやどうした?猫舌じゃったか、クワイ=ガン」
「いえ」
「わしも歳だから物忘れが多くてな。いちいち覚えておらんのぅ」
「そうでしょうね、でも私にとっては一度きりでしたから始めてイラムへ行ったのは良く覚えてます」
「……」
「弟子としては一度でも、師として訪れたことがあったじゃろ?」
「そうでした、アナ、キンと――」
ダークサイドに堕ちシスの僕となってジェダイを滅ばした元弟子を思い出すのはまだ辛い。オビ=ワンの語尾が細くなる。 

「ドゥークーのことなら覚えておる。あれが10くらいじゃった」
「――想像つきませんな」
グランドマスター、ヨーダの元弟子でクワイ=ガンの元師、そしてやはりシスになり最後はアナキンに殺されたジェダイマスター。
「お前さんと同じで10歳から壁みたいだったわけでないぞ。せいぜいわしより大きいくらいじゃわい」
「そうでしょうね」
敵対して命懸けで戦ったドゥークー伯爵だが、ヨーダの物言いが可笑しくてオビ=ワンはついくすりとする。
「まあ、あれは小さいころから綿密じゃったから始めてのライトセーバーはどんな物を作るかと黙って見ておった」
「――それで?」
 確かにダークサイドに堕ちる前のドゥークー伯爵はフォースの強さもさることながら、教養の高さと趣味の良さで名高いマスターだった。そのドゥークーが子供といえどんなライトセーバーを造ったのだろう。

「それは見事に――」
聞く方もつい身を乗り出す。
「手本と寸分違わない規定通りのライトセーバーだった。技術部のマスターがサンプルに欲しいと言ったくらいじゃ」
「は?」
「というと――」
「何の意匠もない見本型があるじゃろ、あれじゃよ。まずは基本に忠実にと考えたのじゃ」
「私のマスターがそれを造ったんですか、10歳の時?」
「実に真剣にのう。今でもあの時の様子は覚えておるわい。何故こうしたか聞いてみるとしごく真面目な顔での、わしの物ではサイズが参考にならんので、まず規定通り作ってから次に改良すると言いおった」
「はあ――それはまた、尤というか」
 何と続けていいかわからないオビ=ワンの横で、急にクワイ=ガンが手で口を覆ったかと思うと堪えきれず吹き出した。そうして大声を立てはしなかったがしばらく肩を震わせて愉快そうに笑い続けた。


 ヨーダは礼を云って二人の住まいから姿を消した。
「又来てくださるといいですね」
「云わなくても来るだろう」
「話が弾みます。いろいろ懐かしい事もきけるし」
「歳だからな」
「クワイ=ガン、ライトセーバーの事ですけど――」
「な、なんだ?」
「そんな顔しなくても、もうあなたを困らせたりしません」
「オビ=ワン?」
「ヨーダの話を聞いて思ったんです」
オビ=ワンは向き直ってそっとクワイ=ガンの頬に手を当てた。

「アナ、キンの事はまだ普通に話せないけど、ヨーダにはドゥークー、あなたにとってザナトスが、最後には敵になってしまったけど、可愛い弟子で信頼しあった仲間で親友だったことに変わりないですから」
「お前――」
「立場を変えれば、あの時マスターがザナトスの事を思い出すのも無理はないと思えるようになりました。すみません、クワイ=ガン」
「いや私こそ、本当にすまなかった」
優しく抱き寄せるとオビ=ワンはすっぽりとクワイ=ガンの腕の中に納まった。

「……今思い出した、あの時何を思っていたか」
「え?あの、話したくないなら結構です」
「いや差支えないだろう。お前が最後の仕上げに集中してる様子をみて、ザナトスとはずいぶん違うと思ったんだ。つまりあれは――」
クワイ=ガンは誤解されたくないとばかり早口で続けた。

「ティロスの名門出身が誇りだったからライトセーバーも他と違うものにしたがった。良い材料、凝った彫刻、上品なデザイン。出来る範囲で希望を叶えてやった。だがお前はデザインや品質などにはこだわらなかった。むしろ私とイラムでライトセーバーを造れるだけで本当に嬉しそうだった」
「実際そうでしたから」
「だから私は初めてのライトセーバーにあれほど真剣にとりくむお前をみて驚き、新鮮で、ザナトスとの違いをしみじみと感じていたんだ」
「そんなこと思ってたんですか、あなた」
「フォースに誓って本当だ」
クワイ=ガンは真剣な顔でひたと元弟子見つめる。その大好きな濃い青の瞳にオビ=ワンは微笑み、はにかみながら囁いた。
「あなたって人は――」
クワイ=ガンがたまらず抱きしめて口づけるとオビ=ワンも優しく返してくれる。

 幸せを噛みしめるクワイ=ガンの脳裏にヨーダの良かったのぅという声が一瞬聞こえたような気がした。だが此処から先は邪魔されたくなかったので、クワイ=ガンは気のせいだと思うことにした。



End

 ――プロポーズした相手が普通の指輪でもすっごく喜んでくれたので、お嬢様だった元彼(女)が高価な指輪を欲しがったことを思い出して、こんどこそ良かったなぁとつい思い出したところを、恋人につっこまれた、と(笑) へたれでほんと、すみません。
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