History of the Jedi

 ジェダイテンプルの大食堂はランチタイムでにぎわっていた。足取り軽く入ってきた二人のパダワンの少女、というには大人びてきた16歳のシーリーと15歳のバント。

 好きなメニューを選んだ後、トレーを持って空いている席を探す。と小柄なカラマリアンのバントがサーモンピンクの頬を輝かせて伸びをし大きく手を振った。その様子に先に気付いたガレンが肘で押したので、オビ=ワンも振り返って笑顔で手を振った。

「こんにちは、オビ=ワン、ガレン。ここいい?」
「もちろん!」
「ハイ、久しぶり」
「やあシーリー」
18歳同士のオビ=ワンとガレンはそれぞれ女性達の為に隣りの椅子を引いてやった。
「ありがとうオビ」
「ありがと、さすが上級パダワンともなると違う」
「これだけは年齢順だからね」

 年下のシーリーは優秀で負けず嫌い、訓練や共同任務ではオビ=ワンもやりこめられることがある。それを知っているガレンがにやりとしたが、シーリーは笑顔で受け流して料理を一口食べ、辺りに視線を走らせてふと気付いたように言った。

「それ例のテキスト、でしょ?」
スープを口に運んでいたバントの手が止まった。
「あら、それ」
ジェダイパダワンの講義の中でも一定の年齢と単位を取得した後に受講する必須科目。
革張りの表紙には金色の文字で『ジェダイの歴史』とある。

「聞いたことあるけど、今時本当に紙の本なのね」
「クラシック〜」
「そ、ジェダイオーダーの伝統にのっとってね」
「講師もまさに絵に描いたようなクラシックな風貌のマスター・トゥリアン」
「200歳超えてるってホント?」
「さあ、確かに年寄りだけどわかんないな。普通のヒューマノイドはそんなに長生きできないだろ」
「ふうん、あっオビ、良かったらこのムース食べない。多めに持ってきちゃった」
「ありがと」
「マスター・トゥリアンの講義ってどう?ね、ちょっと本見ていい?」
返事を待たずに本に手を伸ばしたシーリーに同時に男子二人の声があがった。

「あー!」
「あのシーリー――」
シーリーが何?というように軽く眉を寄せたが、かまわずそのまま本を手に取り、開こうとして目を見開いた。
「開かない?!これ、鍵でもかかってる?」
「鍵じゃないけど君には開けられない」
「どうして!?」
「睨むと可愛い顔がだいなしだよ、シーリー」
「ガレン!シーリーそうじゃなくって、その本持ち主しか見られないんだ」
「まあ、どうやって?」
バンドも銀色の大きな瞳で聞いてくる。

「マスター・トゥリアンが呪文を唱えてって、じゃなくて。つまり、始めに本を配った時、生徒一人一人のフォースでロックを掛ける方法を教えてくれたんだ」
「へーえ」
「それに本は自分一人で見ることとか、どこででも開いてはいけないとか言われた」
「噂にはきいてたけど本当なんだ」
「いろいろ規則があるのね。どうしてかしら?」
「どうしてって――」
「つまりね。大人にならないと知っちゃいけない事があるんだよ」
「何それ、成人限定のあぶない本みたいじゃない」
「そんなわけないけど――つまりこの本の前にジェダイの歴史って大まかに習ってきただろ?」
シーリーとバンドが肯く。

「あれよりは事実もより詳しく書いてあるんだ。だからある程度大人じゃないと理解しにくいんだと思うよ」
「オビ=ワン、もうちょっと具体的に話してくれない?」
「具体的って言われてもー」
「では好奇心旺盛な、もとい向学心に燃えるお二人の為にさわりを少々――」
「ガレン!」
「ちょっとだけだよ」
とオビ=ワンに目くばせし、テーブルに肘を付いてガレンは身を乗り出し声を落とした。

「シス大戦からしばらく続いた内乱は知ってるよね」
「もちろん!」
「4000年ぐらい前でしょ」
「そう。シスとジェダイの戦いから内乱が続いたんだけど、有名なウリック・ケル=ドローマとケイ・ケル=ドローマやノーミ・サンライダーとヴィマ・サンライダーの時代」
「ドローマは勇敢に戦って光に還ったジェダイでサンライダーは偉大な指導者になったナイトでしょ?」
「初級編はそうだけどね」
「その外に何かあるの?」
「実はウリックはダークサイドに堕ちて弟のケイと戦って致命傷を負わせた」
「えええっ!?」
「シーッ!」
目を丸くしたシーリーとバントは口に手をあて周りを見渡す。

「そのウリックと戦って勝ったのがノーミだけど、実は二人は――」
「ガレン!」
「とまあ、いろいろと一口には言えない事がずいぶんある」
「それで上級にならないと駄目なんだ」
「そういう事」
「わかった。今まで歴史なんて退屈だと思ったけど、俄然楽しみになってきた」
「そりゃ良かった。あ、ついでにノーミとヴィマは姉妹じゃなくて親子だよ」
「親子?!」
「子供を生んだの?ジェダイが」
「古代のジェダイオーダーは今と違うから、弟子も同時に何人もいたり、結婚したナイトもいたんだ」
「ノーミは誰と結婚したの?」
「ジェダイのアンデュア、夫の遺言でジェダイの訓練を受けたんだ」
「結婚した時はジェダイじゃなかったの?!」
「どうやって知り合ったかはわかんないみたいだよ」
「う〜ん、ますます楽しみ!」
「そういう大人の事情がわかる歳になってから受講できる科目だからね」
「ガレン、皆17,8才になれば受けられるだろ」
「O.K..、だてに年上じゃないってことね」
「わかってくれればよろしい」

 少しばかり得意そうにガレンがしめくくったので、オビ=ワンは苦笑しシーリーとバントは可笑しそうに顔を見合わせた。


「兄弟や親子はともかく、ウリックとノーミが恋人だったなんてまだ教えなくてもいいだろ。わかったらあの二人講義まで待ちきれなくてアーカイブ飛んでいきそうじゃないか」
「女の子はそういう話好きだからなぁ。他の訓練は絶対男女差ないって頑張ってても」

 食堂を出て、二人は午後の課題の場所へ移動していた。

「そりゃあ恋人だったウリックがダークサイドへ堕ちてジェダイを裏切って実の弟を死なせたなんてノーミには大ショックだ。僕は人間関係よりメカや乗物に興味あるけど、彼らのエピソードはびっくりだね」
「ジェダイも感情が絡むと難しいんだな」
「気になる人でもいるのか?オビ=ワン」
「そんなことないよ!ジェダイ全般の話」
「オビ=ワンは真面目だからな。うちのマスターはどんどん付き合ってスマートな遊び方覚えなさいっていうぜ」
ガレンのマスター、クリー・ラーラは確かに社交的でさばけた女性だ。

「そんな時間ないし」
「クワイ=ガンは男同士で教えてくれそうだけど案外ないんだ」
「うちのマスターは――側で見ていて覚えろって感じかな」
何だかジェダイの歴史から話がずれてきてると思いながらオビ=ワンは応えた。


 その夜、自室で調べ物を終えたクワイ=ガンが寝る支度をしていると、いつもなら寝る時間を過ぎても弟子が起きているとわかった。
ジェダイの師弟はトレーニングボンドを通じて見えない場所にいても互いの存在や気持ちを感じ取ることができる。

「オビ=ワン、入っていいか?」
「マスター、あ、はいどうぞ」
見るとクワイ=ガン同様、寝るときの薄手のチュニック姿のオビ=ワンが勉強机の前に座っている。整頓された机の上には本だけが広げられていた。

「課題が終わらないのか?」
「すみません、明日の分は終わってます。これ読んでたら止められなくなって」
「歴史の講義に紙の本を使うのは昔と同じだな。講師も同じだ」
「マスターもマスター・トゥリアンに!実際は幾つなんですか?」
「さあ詳しい事はわからん。ヨーダほどじゃないらしいがニューマノイドでは珍しい長命種族だし見た目も前と変わらんな」

 クワイ=ガンは椅子に掛けたオビ=ワンの横に立ち、手を伸ばして開かれていた本を閉じてから手にとった。
「本の体裁も同じだ。フォースでロックを掛けたんだな?」
「はい、だから僕しか――マスターッ!」
クワイ=ガンは左手に本を持ち、右手で表紙を開けた。そして目次をめくり、ついでぱらぱらと開いて見ている。 
「――あの、ロック掛かってなかったですか?」
「弟子のロックぐらいどのマスターでも開けられる。ほう、半分以上読んだのか。それで夜更かしか」
「マスター……」
「どうしてわかるかって?この本は持ち主のフォースを反映するようになっている。初級で習う一般的歴史から本格的なジェダイの歴史を知ると驚くことが多い」
「はい、特にシスやダークサイドとの戦いがこんなにあったなんて思いませんでした。何千年もジェダイはシスと戦ってきて数百年前にやっとシスを滅ばしたんですね。だから今でも常にダークサイドへの戒めは守られてる」
「――シスは滅びたといわるが、ダークサイドへ堕ちるジェダイは今も絶えない」
師の低い声音にこめられた意味にオビ=ワンもすぐ気付いた。

 ザナトス、ダークサイドに堕ちたクワイ=ガンの前の弟子、はクワイ=ガンを憎みオビ=ワンさえも殺そうとした。決着が着くまでに長い時がかかり、師と一緒に戦ったオビ=ワンもダークサイドの憎しみの大きさや恨みの深さがどれほど恐ろしいか身を持って知った。

「けどこの本ではジェダイによってダークサイドから引き戻された人もいるし、フォースは失ったけど」
「そうだな。だが彼らはダークサイドに堕ちる前はジェダイの中でも特にフォースが強く能力がある者だった。パダワン、ダークサイドに堕ちた者に共通するのは何だと思う?」
「それは――慢心と野心だと思います」
長身のジェダイマスターは口許をほころばせた。
「私の弟子はよく学んでいるようだ」

 それまで立っていたクワイ=ガンは本を持ったまま数歩すすみ、オビ=ワンのベッドに腰をおろした。
「彼らはジェダイとして優れた功績を上げ、人々から賞賛された。そうして傲慢になりオーダーを離れれば大きな権力を手中に出来ると思った。だが私が思うに、慢心と野心とさらに弱さがあった」
「弱さ?」
「能力やフォース以外の心の弱さだ。ダークサイドはそこに付け入ってくる」
「心の弱さ――」
「歴史に興味を持つのはいいが急ぐことはない。よく考えて自分なりの考えを見つけることだ」
「イエス、マスター」
「マスター・トゥリアンの評価はユニークでな。いわゆるテストはない」
「え?」
「ジェダイの歴史を学んで何を考えたかを問われる。答えが良ければ、さらに詳しい内容のテキスト頁が追加される」
クワイ=ガンは本を閉じて背表紙を指で挟んだ。

「始めがこの厚さ。さらに詳しい内容の頁が別々に追加されるから、本の厚みが変わってくる。次第に生徒達の本の厚さの差がでてくる」
「厚いほど評価されたって見てすぐわかるんですね。もちろんマスターにも」
「そういうことだな、せいぜい頑張ってくれ」
「――ちなみにマスターはどれぐらい」
「枕にちょうどいいくらいだったか」
「はあ、枕、ですか……」
はたしてクワイ=ガン好みの枕の厚みはどのぐらいのものか、それに本は硬いだろうしオビ=ワンには見当がつかない。

「興味のあるテクノロジーや瞑想体系は進んでアーカイブで調べたが、それ以外の名前を覚えるのは熱心ではなかった。それに、ジェダイオーダーは時代によって変化している」
「それは驚きました。古代のジェダイは血縁者が多いし、弟子のトレーニングも今とはずいぶん違います。ガレンがシーリーやバントに少し話したら驚いてたし俄然興味が湧いたみたいで」
「いにしえの偉大なジェダイは家族のいる者も多く、それゆえ強力なフォースの源になることも、情にかられて過ちを犯すこともあった」

「だから、今のオーダーは例外を除いて結婚も子供も認めないんですね」
「血縁者は執着につながりやすい。現在認められているトレーニングボンドの他にパートナーボンドもあるがそれは解消もできる」
「確かにドローマ兄弟やサンライダー母娘も血が繋がっていたからより悲劇だったと思います」
「ノーミ・サンライダーは偉大なジェダイだが、意外な事に訓練を始めたのは夫が死んでその遺言に従ったからだ。始めは未熟で心も弱かったが、娘を守る為に思わぬ力を出してから訓練を積んでいった」
「稀なケースですね。普通の人がジェダイと結婚して子供がいるなんて」
「そうだな。もっと詳しい記録がないか調べてみたが結局わからずマスター・トゥリアンに聞いてみた。それによると二人の出会いは――」
師が言葉を切ったので、弟子はつい身を乗り出した。

「フォースの導き、だそうだ」
真面目な表情で話を聞いていた弟子が、なぁんだという顔で息を吐いたのでクワイ=ガンは小さく笑った。
「だが、めったに人前に出さないノーミのポートレートを見せてくれた」

「どうでした?」
「確かに伝説通りの美人だった。アンデュアはノーミに強いフォースが有ると知って訓練を受けさせたがっていたがノーミは家事や育児に専念して家庭を守りたいと思っていた。もし夫が死ななければ、もしくはジェダイになるよう遺言しなければどうなっていたかわからん。あくまで仮定だが」
「フォースの導き、ですか、マスター」
「さあ――いつの間にか話し込んでかえって遅くしたな」
「あ、明日の訓練は午後からです。午前中は余裕があるのでアーカイブへ行こうと思います」
「それで髪を解いていたのか?」

 クワイ=ガンはベッドに腰掛けたまま、若い弟子のゆるやかに流れる一筋の金色の髪の先をつかんだ。
「意志の強さを表す何よりも澄んだ青い瞳、野生の百合のごとき薄紅色の唇、沈む夕日を集めて赤褐色に輝く長い髪。艶やかな象牙色の肌、しなやかな若木のような身体――」

「マスター……?」
「ノーミ・サンライダーは回りからそう謳われた。確かなことはわからんが二人が出逢った時ノーミはごく若かった。アンデュアはノーミがフォースセンシティブとわかったが彼女が訓練を始める前に結婚した。一説によれば――自分が長く生きられないのを予感し早く結婚して子供を設けたそうだ」
「予知能力があったんですか?」
「かもしれん、が――」
クワイ=ガンは弟子のブレイドの先を持ったまま、静かに立ち上がった。

「アンデュアはノーミに逢ったとたん運命を感じたかもしれん」
「運命?」
こんどはオビ=ワンが長身のクワイ=ガンを見あげる。
「――つまり、ひと目惚れだ」
「はあっ?!」
青緑の瞳を見開いてオビ=ワンが見返してくる。

「お休み、オビ=ワン」
クワイ=ガンは微かに笑ってブレイドを放し、弟子の短い髪に軽く口付けして出て行った。



End

   ※  サイト:スターウォーズの鉄人、キャラクターガイド
      書籍:「スター・ウォーズ全史上」ソニー・マガジンズ
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      以上を参考にしましたが、私の妄想も含まれてます(笑)
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