Nobody knows ※AU(クワイ=ガン生存&オビはナイト昇進)

 とっぷりと日が暮れ巨大都市コルサント・シティが煌く灯りに包まれる時刻、ジェダイナイト、オビ=ワン・ケノービはテンプルの自室に戻ってきた。

 音もたてずにリビングに入り、ローブのままソファに腰をおろしてほっと一息ついた。身体の疲労はさほどでもないが、ようやく愁眉をといた表情からは今日一日の心労から開放された安堵が表れていた。

 懐から取り出したのはライトセーバーより細身の光沢ある金属の筒状のケース。中には共和国元老院から託された極秘の書類が入ってきた。オビ=ワンは朝から元老院につめ、ようやっとこの書類を手に入れたのだった。

 立ち上がって通信ユニットを起動させコードを入力する。遠距離の為、何度か試みてやっとつながった。立体画像が途切れがちで通信状態は良くなかったが、見違えるはずのない長身のローブ姿が浮かび上がった。

「オビ=ワンです。聞こえますか?」
『――かる。どうだった?』
「仰せのとおり、了解を取り付け承認書を預かってきました」
『良くやってくれたナイト・ケノービ。お前なら今日中に出来ると信じていた』
「――それはありがとうございます。アドバイスに従ったまでです。これを届けるにはカウンシルから他のジェダイを派遣していただこうと思います」
『お前はこられないのか?』
「それは前に言ったとおり、私は明日以前から決まっていた任務に出発するので無理です。届けるだけなら他のジェダイで充分でしょう。カウンシルにも知らせておきましたから」
『……仕方あるまい』
「いくら秘密裏に進めたくても、私が元老院に働きかける場合カウンシルに報告しない訳にはいきません」
『わかった。お前の働きに感謝する。ところで出発時刻はいつだ?』
「早朝です。マスターの任務が速やかに進む事を願ってますよ。極秘通信なのでアナキンとは話せませんが宜しく伝えてください」
『そうしよう。お前も――――#$%&?$%&¥』
画像が乱れ、通信が途切れた。間をおいてやってみたが無駄だった。とにかく連絡はとれたので、オビ=ワンはあきらめて他を呼び出した。


『――了解した。ご苦労だったな、ナイト・ケノービ。今日中に派遣する者を決めておく。明日出発の前にこちらへ来てくれ』
「わかりました。感謝します、マスターウィンドゥ」
『ところで、あの男はいつまでたっても元弟子をこき使うんだな、オビ=ワン。もっとも君を信じているからと思うが――普通なら審議委員会を開くだけでも数日かかるところだが、よくやった』
「ありがとうございます。カウンシルからの力添えも効果がありました」
『これでやっとあの惑星の和平調停も進むというものだ。さすがにクワイ=ガンも痺れをきらしたようだな』
「あの性分ですから――では失礼します」
オビ=ワンはそっと微笑んで通信を終えた。


 書類を厳重にしまい、食堂は閉まっていたのでオビ=ワンは冷凍してあったパスタを取り出して遅い食事をした。任務の荷造りは出来ていたが、もう一度確認してからバスルームに向かった。

 明日からの任務を思い、バスタブにつかって身体を伸ばした。今日は長い一日だった。思えば明け方、任務先のクワイ=ガンからの通信で起こされた。遅々として進まない交渉に業を煮やした老練のジェダイマスターは、調停のネックになっていた妥協案の承認を元老院から取り付けるようオビ=ワンに依頼してきたのだ。

「ってそんな、時間がかかります、マスター!?」
『無理は承知だ。いいか、これから名をあげる議員にあたってくれ。私の名をだせば多少は協力してくれるはずだ』
「わかりました……やってみますが今日中に済まない場合はカウンシルに引き継ぐしか有りません」
『お前なら今日中にできるはずだ、決してあきらめるな』
そんな無茶な、という元弟子の心中はわかっているはずだが、元師はこうと決めたら何があろうと幾多の困難を克服してきた。そんなクワイ=ガンを知っているオビ=ワンは瞳に決意をみなぎらせて応えた。
「やってみましょう、クワイ=ガン、マスター」


 卒業してから数年たつのに、今だ二人の絆は強い。もっとも師弟の時とは異なる絆だが。無茶な事を頼むのは元弟子ということもだが、己のジェダイとしての力量を信じてくれているのだと嬉しくもある。だが、クワイ=ガンの名を出した途端、尻込みしていた議員の態度が変わったのは、経験が違うと若いジェダイはつくづく感じさせられた。

 バスルームを出て寝間着に着替えオビ=ワンは、昨日作ったスィーツを思い出しキッチンに向かった。
今年の2月14日、愛しい人は任務で逢う事は出来ない。そのクワイ=ガンと弟子のアナキンの為にオビ=ワンは手作りの品を帰ったら食べてもらおうと考えていた。

 冷蔵庫を開けると、バッドにいくつか行儀良く並んだ小さなココット型の容器が姿を表わした。一つ手にとって出すと、ひんやりと冷たい。薄い陶器の型の表面は鏡のように平らな光沢あるココア色。そう、今年オビ=ワンが作ったのはムース・オ・ショコラだった。

 甘いものは得意でないクワイ=ガンの為に甘さを控えめに、それでいてチョコレートの香りとコクが充分味わえる、絹のようになめらかな舌触りのムース。トッピングもいっさい無し、繊細な風味を充分に引き出した渾身の品。一口すくって味わったオビ=ワンは満足そうに肯く。趣味が料理のオビ=ワンの腕もだが、実は吟味した極上の材料を使っている。当然費用もかかっている。

 もっとも、オビ=ワンが上等のチョコレートの味がわかるようになったのもクワイ=ガンのおかげだった。
弟子になって間もなくの頃、クワイ=ガンは少年のオビ=ワンに頂き物のチョコレートを土産にやった。高級チョコレートとして有名なそれは、一口食べたオビ=ワンが驚いて目を丸くするほど美味かった。

 すると次の年、バレンタインにコルサントにいたクワイ=ガンに山ほどのチョコレートが届いた。それも身内のテンプル内部より、議員や政治家や財界関係の女性達からが圧倒的に多かった。しかも、競い合うかのように、どれもシックで凝ったラッピング、そして中身も多彩で高級品ばかりだった。

「マスター、これどうするんですか?」
ふむ、と顎に手をあて、クワイ=ガンはテーブルに積まれた包みの山を眺めた。
「いささか効きすぎたか――」
「え?」
「いや、私は甘い物は苦手だからお前食べるといい」
「い、いいんでしょうか?」
「健康をそこねないよう、少しづつほどほどにな」
「イエス、マスター。ありがとうございますっ!」

 流石に一人では食べ切れなくて友達にも分けたが、あんなことは後にも先にも一度きりだった。次の年のバレンタインは任務で留守にしたし、その後そういったこともなく、やがて、オビ=ワンからクワイ=ガンに贈るようになった。

 大きくなってから気付いたのだが、あの年、クワイ=ガンは普段めったにいかない新年のパーティや晩餐会などに出席していた。子供のオビ=ワンは夜は留守番だったが、一度お供したパーティで、クワイ=ガンが着飾った女性達に囲まれ熱い視線で見つめられていたのを目撃した。

 長身に加え優雅な挙措、巧みな会話、何より深青の瞳で優しく微笑まれるとどんな女性も一斉に頬を赤らめた。弟子は自分の師が必要と有ればいくらでも魅力的に振る舞えるのを知った。今では一人前になったオビ=ワンも任務でたまに師を見習うこともあるが。


 少しばかり思い出に浸っていたオビ=ワンは食べかけのムースを持ったまま、ふと手を止めた。何か、普段と違う気配を感じる。

 集中させ、注意深くフォースを集め、音を消してキッチンからリビングに移動する。何も変わったことはない。だが、近くに確かに何かいる気配がする。危険は感じないが、習性で、いつでも手に出来るよう傍らに置いたライトセーバーに視線を移す。その時、寝室のドアが開いた。


「マスターっ!?」
さっき通信したばかりのクワイ=ガンがオビ=ワンのベッドに腰掛け、元老院から預かった書類を広げて見ていた。
「間違いなく、あなた、ですよね!?」
「ああ」
同時に懐かしいフォースがオビ=ワンを取り巻き、今までクワイ=ガンが気配を隠していたのだと知った。
「いったい……」

 呆然として、それでもいるはずのないクワイ=ガンが目の前にいる事実を自分に納得させようとしている元弟子にジェダイマスターは眉尻を下げた。
「おどかしてすまんな」
「さっきは何処にいたんですっ!?それにいつ任地を発たれたんですかっ!?」
「最短のハイパースペースで2日、宇宙船に乗ってからお前に連絡した」
「何ですって!では通信は全部こちらに向かう途中!?」
「そういうことだ。往復でも最低4日かかる、時間を無駄にはできんからな」
「最初からそのつもりで、いえ、私がだめでもご自分で元老院を説得するつもりだったんですか?」
「いやお前なら一日で出来る。言ったろう、時間を無駄にはできんと。ただ私自身がきたほうが間違いなく書類を持って帰れる」

 あ、とオビ=ワンは声をあげた。
「私にまで内緒にしたってことは黙って向こうを抜け出してきたんですね。アナキン一人残して!」
「心配するな。向こうも会議休みを入れたし、その間は宿舎で休んでいることになってる」
「――昔ありましたね。あなたが交渉中に抜け出し、私が食事を二人分たいらげて時間かせぎしたこと」
「そんなこともあったか。アナキンは今回、部屋にこもって食事を平らげる役と通信係をしてもらっている」
「ということは、あの通信は――」
「一旦、向こうで受信して私へ中継してもらっていた」
「さっきのはコルサント、いえテンプルですか?」
「テンプルの地下倉庫だ」
「――そういうことでしたか。ところで書類が手に入ったんだからとんぼ帰りですか?」
「そうしようかと思ったが、宇宙船の燃料の補給とエンジンの冷却に数時間かかる。私の事はお前以外知らせるつもりはない。少しいさせてくれ」
平然というクワイ=ガンにオビ=ワンは溜息を付いた。

「つまり、あなたはテンプルいない事になってるんですね」
「そういうことだ」
「わかりました。食事は?何か食べます?」
「いや、朝まで休ませてくれるか」
「どうぞ」
クワイ=ガンは書類をしまい、ブーツと衣類を脱ぎ、アンダーウェア姿で当然のようにオビ=ワンのベッドカバーをめくって横になった。

「お前も朝早いんだろう、まだ何かすることがあるのか?」
「いえ、あ、朝書類をカウンシルに届けることになっています。マスター、ウィンドゥが持参するジェダイを手配してます」
「その必要がなくなったと言ってくれ。そうだな元老院の誰かが行ってくれるとでも」
「クワイ=ガン……」
「私はいない事になってるんだ、オビ=ワン」
「――わかりました」

 片手で肘枕し、クワイ=ガンは空いた手を誘うように伸ばしてきた。ベッドの側にいたオビ=ワンは後ろに下がり、さりげなくその手を避ける。
「片付けものをしてきます」
背を向けて部屋を出ようとすると、クワイ=ガンは黙って頷いた。

 腹が立った、というほどではないが、まんまと一杯食わされた気がする。もっともオビ=ワンの元師は元々何をしてくれるか分らない人だった。だが、自分を勝手に巻き込んでカウンシルにも話せない秘密を持つことがどうも納得いかない。

 気を静めに水でも飲もうとキッチンへいくと食べかけのムースが目に入った。残りを食べようと取りあげた時ある事が閃いた。オビ=ワンは楽しそうに瞳を輝かせた。


「日付が変わりましたね、14日です」
「んん……」
オビ=ワンの甘い声にクワイ=ガンは伏せていた瞼を開けた。
「今年は逢えないと思っていたんですが、ちょうど良かった」
オビ=ワンは斜めにベッドに腰掛けた。
「何だ?」
「後で食べていただこうと思ってあなたの為に作ったんです。いかがですか」
「チョコレートか?」
「食べてみませんか?一口でも」
微かに眉をよせたが、クワイ=ガンは黙って口を開けた。
オビ=ワンはスプーンにたっぷりとすくってクワイ=ガンの口に入れた
「……」
「いかがです?」
「――良く出来てる。カカオはマダガスカル産か?」
「そうです。もっといかがです?」
「充分だ。ありがとう」
「ではアナキンの分ももう一口、あの子にも後で上げようと思ってますから」
逆らわずに口を開けているクワイ=ガンにオビ=ワンは大盛のムースを押し込む。
「美味いが、甘いな。」
「最後の一口です」
「いや充分だ」
オビ=ワンはちょっと肩をすくめ、スプーンを自分の口に運んだ。

 そうして空容器とスプーンをベッドサイドのテーブルに置き、黙ってベッドに上がった。クワイ=ガンが脇を空けようと少し下がる。オビ=ワンは口を閉じたまま頭をかがめ、クワイ=ガンの口に口付けし、誘うように唇を開いた。

「……?!」
絡めた舌の甘さに、クワイ=ガンもわざとされたことに気付いた。オビ=ワンは放さないとばかり、両手を首に回している。
『オビ=ワン』
宥めるように囁かれても、若い恋人はせがむ様に深く口を合わせてくる。


『一目でも逢いたかった、マイスウィートハート……』
『マスターッ!?』
驚いて身を引こうとしたオビ=ワンを今度はクワイ=ガンが両手でしっかりと抱き寄せる。
「2日間ほとんど寝てない。歳だしこんな短い時間でどうしようとも思わない。久しぶりに元気な顔をみられたらと思った」
「――お疲れのようですね。すみません、まだ時間がありますからお休みになってください」


 クワイ=ガンが腕の力を抜いたので、オビ=ワンは手を伸ばして灯りをおとし、静かに隣りに横たわった。薄闇の中、瞼を閉じたクワイ=ガンの横顔が見える。
「お休みなさい、クワイ=ガン」
「……」
返事はなく、よほど疲れていたのだろうとオビ=ワンはクワイ=ガンの長い髪に指を絡め、口元に運んでそうっと口づけた。

 横に伸ばされた逞しい腕に頭を寄せ、クワイ=ガンの腕が重くないように枕もあてがってオビ=ワンは目を閉じた。と、かすかな振るえが伝わり、目を開いてクワイ=ガンの顔をみると目は閉じたまま、低い笑い声がする。
「寝てなかったんですか!?」

「せっかくチョコレートをくれたんだ。このまま引き下がるわけにはいかないだろう?」
「もういいです、ちゃんと休んでください」
「ああ、お前の機嫌を直してからな」
「直ってます、だから――」
 暖かく大きな手が寝巻きの裾から差し込まれ、オビ=ワンのしなやかな身体をクワイ=ガンは背後からしっかりと抱きしめた。金色の髪の項に顔を寄せ、柔らかな耳元をそっと噛む。

 長い指で愛しげに胸を弄られ、オビ=ワンの息も荒くなっていく。ぴたりとおし当てられた温もりの脚の間に、薄い布越しに硬く熱をもった存在を感じる。
「……服、脱ぎませんか」
クワイ=ガンは手を止め、優しく笑った。
「同じことを思っていた」


 翌朝、オビ=ワンはカウンシルを訪れ、書類は元老院の職員が直々に届けてくれる事を告げ、メイス・ウィンドゥに手を煩わせた謝罪と感謝を述べ、任務出発のあいさつをしていった。

 昨日の多忙が尾を引いているのか、うっすら隈のできたオビ=ワンが礼儀正しく金色の頭を垂れたとき、首筋にちらりと薄紅の痣が見えたような気がした。だが詮索するのは悪い予感がしたので、見なかったことにしようとメイスは自分に言い聞かせた。



End

  クワイ=ガンの行動パターンってはたから見たら予想しにくいけど、身近にいると何されても納得、というかあきらめ入ると思います(笑)
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