The Spring Trip 2 | |||||
師弟はスピーダーに戻り、本格的に解読を始めた。資金源や関係先のリストは新発見だが、緊急ではない。ジェダイが捜しているのは、組織が計画している大掛かりな犯罪計画だった。 「末尾の記号が暗号だな」 「そうですね。この場所を割り出した方式でやってみます」 現われたのは、何桁かの数字。それを地図の位置を示す座標に置き換える。 「大陸の南、海岸にも近い場所です」 「精度をあげて絞り込んでくれ。場所が特定できる」 「この一帯は農業地帯、ですね」 「農地!?持ち主は?」 「共和国――フォーム、公営の施設のようです」 「詳しいデータを、それと管轄はどこだ?」 データによるとそこは政府直営の試験場を兼ねた農場で広大な敷地にさまざまな施設があり、新種の作物が栽培されていた。 「これだけでは捜しようがない。まずあの組織と農場の接点がないか考えてみよう」 「そうですね。組織が密かに繋がっていた企業のリストから当ってみます。――ひとつ、薬品会社というか肥料を提供している企業がありますね」 「試作品と称して格安で肥料を提供して、見返りに許可と独占契約を結ぶんだな」 「殺された男は、最近、この地方へ行っていたと聞きました」 「可能性は高いな。農場へいって実際に接触した者がいないか調べよう」 「イエス、マスター。出発しますか?」 「いや、着いても夜は人がいないだろう。翌朝出発で今夜はここでキャンプだ」 簡単な夕食を済ませた後、二人はそっと湖へ鳥たちの様子を見に行った。 闇を透かしてみると、湖の向うの一角だけ点々と白い塊がみえる。鳥たちは他の生き物が近づきにくい湿地の草の間で身体を丸めて眠っていた。 「――何もなさそうですね」 「白鳥が可憐な美女に変ると期待しかた?」 「そうではなくて、危険がないかです」 「現実は悪魔より人間のほうが危険だろうな」 「そうですね」 「戻るぞ」 名を呼ばれ、返事をして振り向いたオビ=ワンは軽く肩を引き寄せられ、つい前屈みになった。そのままふわりとクワイ=ガンの胸に抱き寄せられる。 「マスター……?」 「冷えてきたな」 はい、と弟子が暖かい身体に身を寄せるとクワイ=ガンは大きなローブで二人の身体を包みこんだ。 師弟は湖の近くに止めたスピーダーの側にキャンプして夜を明かした。翌朝、ざわめく気配に湖を見ると、白鳥たちが羽を羽ばたかせて鳴き交わしている。 「出発のようだな」 見ていると、先頭役の一羽が助走を付けて飛び上がり、飛びながら鳴くと、次々と他の白鳥も後に続く。 見守っていると、やはり怪我していたレディは最後だった。それでも、遠くから助走を付け、大きく羽を広げて優雅に空に舞い上がった。ナイトが援護するように隣りを飛んでいる。 「脚は、大丈夫みたいですね」 下から見上げていたオビ=ワンがマイクロスコープを覘いたまま言う。 「翼は傷んでいなかったからな。脚の傷もすぐ治るだろう」 白鳥の群れがとびたってから少しすると鴨達も続いて群れをなして同じ方向へ飛び立っていった。賑やかだった小さな湖は静けさがもどった。 「急に寂しくなりましたね」 「次の冬まではな。さて私たちも行くぞ」 「イエス、マスター。目的地の座標をセットします」 師弟を乗せたスピーダーは山地から次第に人家がみえる平野へと近づいていった。春先の今はまばらな森林と枯れ草色の荒野がしばらく続き、目的地が近くなるに連れよく手入れされた緑地が目に入ってきた。 「どうやらこの一帯がその農場みたいですね」 スピーダーから見下ろすと、えんえん緑の畝が続いている。その先にいくつかの建物がある。 「かなりの規模だな」 「資料では中央管理棟、大型ドーム、試験場、作業棟、倉庫、温室などとなってます」 「政府主導で惑星の未来を担う農場だからな」 「――似ていると思いませんか、マスター?」 「うん?」 「バンドメアの農場に」 惑星バンドメアの農場、それは師弟にとって忘れがたい所だった。 13歳の誕生日までに誰かの弟子にならなければジェダイの道が閉ざされてしまうオビ=ワンと、かつての弟子に裏切られ、二度と弟子を持たないと決めたクワイ=ガンが期せずしてバンドメアに派遣された。 オビ=ワンを気に掛けながらも別行動をとっていたクワイ=ガン。しかし、かつての師を恨んだザナトスが農場からオビ=ワンを拉致したことで、クワイ=ガンは全力でオビ=ワンの救出に乗り出した。 「ザナトスは農場支援の名目で密かに爆薬や装置を持ち込んでいたんだったな」 「はい、かなり巧妙に何回も、セキュリティもすっかり信用させていました」 「表向きの商売の他に、今回のやつらの組織の狙いは何だと思う?」 「よくある手口だと、違法行為の隠れ蓑、あとは何かを握って脅迫するとかでしょうか」 「マイクロチップに計画の全容が入ってるんだろうな。まず、詳細に足取りを追う」 「イエス、マスター。まず初めは穏やかにですね」 「そう願いたい」 農場の責任者はジェダイの訪問に仰天したが、政府からの連絡もあって捜査を受け入れた。 ところが師弟が園内の捜索を始めると、ふいにドロイドの銃撃に襲われた。あっさり撃退して操っていた者を突き詰めると、買収されていた農場の職員がいもづる式に判明した。 口を割れば組織から狙われるとだんまりを通そうとする者には、ジェダイもそれなりの態度をとる。 「では、交渉方法を切替えようか、パダワン」 「過激にですね。イエス、マスター」 長身で厳しい態度のジェダイマスターに低い声でしかも巧みに誘導され、大方の者は白状する。それでも何とか切り抜けようと口をとざしていると、弟子だという若い綺麗な顔立ちの青年が青く輝く刃を突きつけにっこりする。 「ライトセーバーは防御用だから大した威力はありませんよ。バトルドロイドを溶かせるくらいです。試してみますか?」 かえって怖い。 裏組織は表向きの民会会社を装って、農業用薬品や肥料を提供していた。その中に密かに毒薬を混ぜておき、時期を見計らって農場を脅迫する計画だった。毒薬を使用した箇所はごく一部でも、これが知られたら、農場全体を閉鎖するしかなくなる。マイクロチップにはその混入箇所が示してあったのだ。 ジェダイマスターは、捉えた罪人の尋問を終えて警察に引き渡した後、一刻の猶予もないと告げた。 青くなった農場の責任者は全面協力を申し出た。そうはいっても、まず広大な敷地と建物から情報を元に絞り込まないと、とても手に負えない。買収されていた者と組織の接点は限られる。 「最近は会議室とか、建物周辺でしか逢ってないんだな」 「チップ捜索は探査機の精度いっぱいにすれば、何とか引っかかりそうです」 「私が室内を、お前は建物周りの歩き廻れそうな範囲を頼む」 「農場で働くのは経験がありますから任せてください」 オビ=ワンはややおどけて言った後、それに、と続けた。 「こんなに新鮮で美味しそうな野菜を育てているのに、安全に食べられないなんで許しがたい事です」 捜索を始めて数時間、そう簡単には見つからない。師弟は農場のゲストハウスの食堂で打ち合わせも兼ねて遅い昼食をとっていた。 「通常の作業は6時まで、事務所も当直と警備意外は6時で閉まります」 「室内の捜索は夜も続けられるが、外はどうだ?」 「暗くなってきたら照明が無い場所はやりにくくなりますね。移動式ライトがあるか聞いて見ます。その前に見つかるのが一番ですが」 オビ=ワンは飲み終えたカップを置き、小籠に盛られた黄金色に熟れた果物をひとつ手に取った。 「甘い!」 こぶし大の艶やかな果実を一口齧った弟子は、うれしそうに顔を綻ばせ、籠をクワイ=ガンの前に押してすすめた。 「それに酸味もあって、何ともいえない爽やかな歯ごたえです。マスターもどうぞ」 「これは何という果物だ?」 「何だったかな。あちこちにあります。実もなるし見映えが良いので、庭木にも植えられてます。これは奥の果樹園で出荷用に栽培された物でしょうね」 「確かに甘いな」 美味しそうにひとつをぺろりと平らげたオビ=ワンはもうひとつと手を伸ばした。 「ああでも、庭木の完熟したのをもいで齧るのが一番新鮮かも――」 手が止まり、何か思いついたようにオビ=ワンは立ち上がった。 「まさか、いや、でも……」 「どうした?」 「中庭は見学者用に栽培植物のサンプルがあってネームプレートも付いてましたね、マスター」 「パダワン!?」 「外部の者が近づいてよく眺めても不思議ではないし、美味い果物をそっと失敬しても大目に見てくれたんじゃないでしょうか」 オビ=ワンはもう速足で歩き出していた。クワイ=ガンも後に続く。 たわわに黄金色の実がなっている果樹の下でオビ=ワンは止まり、地面に差し込んであるネームプレートの前で片膝を付き、手に持った探査機を作動させた。 「微かですが、反応しました」 一見なにもなさそうなネームプレートを眉を寄せて調べていたオビ=ワンは、プレートの脚を地面から引き抜き、開いた穴の中に指を突っ込んで中を探り始めた。 「……」 「――ありました、マスター」 ゆっくりと土のついた指を引き揚げたオビ=ワンの掌には、湖で見つけたのと同じ、透明のワイヤーの先に付けられたマイクロチップがあった。 急ぎ中身を確認し、毒薬が混ぜられた箇所が判明すると、今まで静かだった農園中が大騒ぎになった。手分けしてその場所の土を掘ってみると序々に溶け出すタイプの新型肥料が出てきた。それと周りの土や野菜を採取して検査に回す。ジェダイと共に検査係員が総動員された。 夜も更けた頃、残って不安そうに結果を待っていた全従業員に農場の責任者は発表した。 「毒薬はすべて回収した。幸い早かったので土にも野菜にも毒成分は影響していない!!」 その後もマイクロチップの解析をしていた師弟は仕事を済ませ、ようやくゲストハウスの宿泊室のベッドに入ろうとする時、となりでベッドメーキングをしている弟子にクワイ=ガンが聞いた。 「よくやった、パダワン。しかし良く果物の樹を思いついたもんだ」 「食いしん坊のおかげとおっしゃりたいんですか、マスター?」 弟子は小さく微笑む。 「思い出したんです。バンドメアで果物をつまみ食いした事」 「つまみ食いだって!?」 「ええ、それまで樹から直にとって食べるなんてした事なかったし、あんな美味い果物初めて食べました」 「……お前を一人で農場へやったばかりに浚われ、気の毒な目にあわせたと思っていた」 「ザナトスにもそこで会ったし、悪いことばかりじゃありません。そんなふうに思っていたんですか?」 「その上、もう少しで命を落とすところだった」 「あなたは助けにきてくださいました。まだ弟子でもなんでもない私を」 「あの時お前を失ったら決して自分を許せなかったろう」 「マスター」 「自分の心に迷いがあったばかりに受け入れるのを拒んでいた。お前のせいでなく」 「マスターは頑固ですから。あの時はわかりませんでしたけどね」 「お前だって強情だ。子供の時も今も」 「似たもの同士ですから――」 クワイ=ガンは上目遣いで見上げてくる弟子の首筋に、両手を輪のように回した。 「その上命知らずだ。爆弾入りのネックリングを付けられて、自爆するなんて言い出したんだからな」 「あなたにだけは言われたくないですね」 クワイ=ガンは愛しげな眼差しを弟子に注いだ。 「お休み、パダワン。明日になれば任務は終わりだ」 「お休みなさい、マスター」 クワイ=ガンは弟子の頬を両手で包み込み、そっと額に口付けた。 翌朝、師弟が食堂へいくと、農場の責任者が厚く礼を述べに来た。お礼にテンプルへ野菜を提供したいと言い出したのをクワイ=ガンがやんわりと断ると、自慢の作物をそんぶんに味見してくれと言う。 笑顔の係りが運んできた料理に師弟は目を瞠った。巨大なボウルにあふれんばかりに盛られたサラダや大皿の野菜料理、果物などがずらりと並べられた。 「すごいですね!」 「おかげで、どの作物も安全が確かめられました。お望み通り、どうかお好きなだけお上がりください」 クワイ=ガンは眉尻を下げ、鷹揚に礼を述べ、弟子を向いた。 「――せっかくだ。心置きなくごちそうになるとしよう、パダワン」 「はい」 満腹になってもまだまだ減らない料理を前にして、クワイ=ガンはフォークの手を緩めた。後は弟子が平らげてくれるだろう。 満面の笑みでほおぼり続けるオビ=ワンを目の当たりにしてクワイ=ガンはふと疑問を覚えた。 「ところで、お望み通りとか言ってたな」 「ええまあ、ちょっとした提案を」 「なんだ?」 「検査して安全だった野菜でも普通は処分するそうですが、もったいないから味見してみたいって」 「なるほど……」 「マスター野菜苦手じゃないでしょう。それに野菜はけっこう量食べられますし」 「像の餌ぐらいあるんじゃないか」 「大丈夫です。それに春はこう新鮮な野菜を思いっきり食べたくなりません? 玉葱、水菜、セロリ、人参、大根、ラディッシュ、レタス、きゅうり、セロリ、クレソン、アスパラガス、ルッコラ、かいわれ、トマト、オクラ、パプリカ、ブロッコリー、インゲン、キヌサヤ。 ドレッシングも何種類もあって、生産地ならではですね」 旺盛な食欲をみせる若い弟子を眺め、クワイ=ガンは呟いた。 「−−確かに、お前がバンドメアに行ったのも悪くなかったようだな」 End 只の食いしん坊話になってしまいました…… |
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