Afresh 1    ※AU(クワイ=ガン生存&オビはナイト昇進

 遠いところから響く音がオビ=ワンを目覚めさせた。うるさいと思ったがその音は鳴り止まずに続いている。
コムリンクだっ!
一瞬で意識が覚醒し、反射的に伸ばした腕でベッドサイドテーブル上の通信機をつかんだ。

「――こちらオビ=ワン、ケノービ」
「起きたのか?」
「マスターッ!?」
思わずオビ=ワンはベッドで身体を起した。クロノメーターを見ると朝というには遅い時刻。
「任務明けで疲れてるところすまんな」
「いえ……」
「よければ昼めしでも、都合はどうだ?」
「ああ、大丈夫です」
「では後で」
ぷつりと通信は途切れた。
相変わらずだ――。
余計なことは一切言わない元師の簡潔さに、オビ=ワンは薄く笑みをうかべ、大きく伸びをしてベッドを出た。


 オビ=ワンがジェダイナイトとして独り立ちして1年以上たった。惑星ナブーで命に関わる怪我をおったクワイ=ガンは脅威の回復をみせ、今は正式に弟子にしたアナキン・スカイウォーカーを訓練していた。オビ=ワンはナイトに昇格した後、クワイ=ガンが治療中にアナキンを預かったが、その後は新米のナイトとして、忙しく任務に明け暮れていた。テンプルに戻ってきたのも久方ぶりだった。

 任務でテンプルを離れるのは以前とそう変わらないが、大きく変わったのは個室を持ったことだった。今クワイ=ガンは新たな弟子アナキンと同じ住まいで、オビ=ワンが弟子だった頃同様に暮らしている。オビ=ワンの新たな住まいは前とけっこう離れた、主に一人住まいのナイトの居住区だった。

 シャワーを出て下着のまま、一人暮らしの気楽さで室内を歩き回る。最低の家具と設備のみの部屋はがらんとしており、衣類やジェダイの持ち物の他はほとんどなかった。テンプルに帰還したのは昨日の早朝だった。雑務処理の後、食堂で朝昼兼用の食事をし、評議員への報告や医療室など結構時間がかかり、再び食堂で遅い夕食をとって、自室にもどり留守の間の連絡チェックなどして、寝たのは深夜だった。

 クワイ=ガンがテンプルにいるのは知っていたが、昨日は連絡しなかった。実際、自室に戻る間もほとんどなかった。一人で夕食をとっていた時、顔見知りのナイトに声をかけられ、食後の茶を飲みながら話した。代りを取りに席を立ったとき、ふいにクワイ=ガンのフォースを感じた。食堂では見かけなかったはずと再度見渡してもやはりいない。急いで入り口を出てみると遠くの回廊にちらと長身の姿が遠ざかっていくのが見えたが、誰かと一緒だった。弟子の少年ではなく大人の背丈だった。もっともこの時間に子供のアナキンは部屋を出ないだろう。

 クワイ=ガンがいつから食堂にいたのか、はなして食堂にいたのかさえも定かではなかった。向こうも知っていたら声をかけるはずだが、元弟子が一人でないとみてそうしなかったのか。

――これではまるで只の知人と同じだ、とオビ=ワンは思う。
誰よりも身近で、互いに唯一な存在だったはずなのに、卒業して1年ほどで、これほど遠くに感じられたことはなかった。
通信機を取り出してボタンに手を掛け、そして止め、オビ=ワンはそれをしまって食堂に戻った。

 
 クワイ=ガンの声に起されたことで沈んでいた気持ちが浮上したようだった。我ながら現金と思いながら、小さなキッチンで茶を入れる。食材はほとんどないので食堂へ行くつもりだったが、昼には早かった。朝食をとってずっと食堂でねばるのも時間がもったいないし、一旦戻ってまた昼に行くのも面倒だった。

 まったく、あの人はいつまで自分がいざ食べようとする時、邪魔をしてくれるんだろう。そう考えると可笑しかった。弟子になりたての頃はいつも腹をすかしていたような気がする。クワイ=ガンは一旦任務に没頭すると寝食を忘れた。少年のオビ=ワンは師についていくのが精一杯で育ち盛りの胃がいくら存在を主張しても、必死に我慢していた。偶にクワイ=ガンが任務の合間にそれに気づき、現地の食べ物を買ってくれたりしたときはこのうえなく美味しく思えたものだった。


 そんな師弟になって間もない時、任務を終えテンプルに夜遅く帰還したことがあった。とうに食堂は閉まっており、手持ちの食料は何もなかった。クワイ=ガンはそれなりに少年の弟子を気遣い、今晩は何もしなくていいから先にシャワーを使って寝なさいと言ってくれた。

 帰りの宇宙船で少し寝たのでオビ=ワンはそれほど眠くなかったし、何より半日以上何も口にしていないので腹ペコだった。けれどやっと弟子にしてくれたクワイ=ガンにそんなことを言い出して、うるさくてその上食い意地がはってると思われたくなくて言い出せなかった。それに明日の朝になればちゃんとテンプルの食堂に行ける!思う存分好きなだけ食べられる。いや、マスターと一緒ではがっつく姿を見せられないが、静かに食べるなら熱々のシチューをおかわりしたって、香ばしいマフィンをいつもより大目に食べてもいいだろう。マスターがもういくぞ、とかいって席をたたなければ。

 シャワーを出て寝巻きに着替えながら、オビ=ワンは腹に手を当て、静かにしろと言い聞かせながら自分に暗示をかけた。

 リビングにいくとクワイ=ガンはテーブルにデータパッドを置いて何やら作業をしていた。
「マスター、先に使わせていただきました」
クワイ=ガンは顔を上げ、少年特有の丸みを帯びた頬の線が少し削げた弟子を見た。
「何か、お手伝いすることはありますか?」
「いやいい。疲れただろう。今日はいいから休みなさい」
「はい」
クワイ=ガンは又視線をデータパッドに戻し、作業を再開した。
「おやすみなさい、マスター」
「おやすみ」


 ベッドに入ってもオビ=ワンはなかなか寝付けなかった。瞑想して空腹を忘れようとするほど、すきっぱらは存在を主張する。何か入れてくれとくうくう鳴いて、そうするまでおさまりそうもなかった。僕はジェダイの見習いだ。偉大なマスターの弟子だ、これぐらい我慢できなくてどうする、任務中は我慢できたじゃないか、と瞑想に戻ろうとしても無駄だった。ついにあきらめてオビ=ワンはベッドを出た。水でもいっぱい飲んで腹を満たそうと考えた。とにかく明日になれば本物の食事ができるんだから一晩それで我慢しよう。

 そっとリビングに出るとマスターの姿はなく、データパッドも閉じてあった。微かに水音がするので、シャワーを使ってるらしい。オビ=ワンはキッチンにいって大きめのグラスで何杯も水を飲んだ。しまいに押せばぽちゃぽちゃ音がしそうな腹をさすって息を吐き出した。

 簡素なキッチンには狭いながらも調理台、電磁加熱機、フリーザーなどが組み込まれてあったし、充分な量の収納戸棚もあった。オビ=ワンがクワイ=ガンの弟子として始めてこの住まいに移ってきた時、クワイ=ガンは中を案内してくれ、共有スペースは自由に使っていいと言った。

 テンプル育ちのオビ=ワンは幼い時から身の回りの整頓や掃除を仕付けられていたので、弟子になった以上、マスターの分もふくめて掃除や雑用をこなすのは当然と思っていた。ただ食事はいつも仲間と食堂でとっていたので料理などはしたことがなかった。

 もの珍しそうにキッチンを見つめる弟子に、クワイ=ガンはざっと器具の使用法や茶を入れる手順を説明してくれた。
「私も簡単なものは作れるし、気が向けば食事もつくる」
「マスターがですか?」
「サバイバル訓練では材料から調達して食事をつくるし、ジェダイでも調理の訓練は必須だ」

 あの時一通り戸棚や収納庫を開けて見せてくれたが、ほとんどからっぱだった。クワイ=ガンもさすがに、最近はテンプルにいなかったからと苦笑していた。時間があればいろいろとお前のものも一緒に揃えねばならんな、と言ってくれた。もっとも、あれ以来時間があったためしがなくそのままだった。

 クワイ=ガンは前の弟子ザナトスが卒業寸前で自分を裏切って去って以来、長年単独で任務をこなしテンプルにもめったに帰らなかった。住まいは元のままだが、弟子の部屋は備え付け意外の物はすべて処分され、扉も閉ざされたままだった。オビ=ワンはその部屋を使うよう言われた。新たに支給された簡素な寝具の他、少しの衣類とジェダイの装備やテキストが入った、手に持てるバッグひとつがオビ=ワンの持ち物のすべてだった。

 それはクワイ=ガンの弟子として任務に赴いて無事戻ってきた今でも同じだった。増えたものといえば13歳の誕生日にマスターからパダワンに贈られた小石があったが、それは小さな布袋、――これも意を決した新米弟子が始めてマスターに頼んで買ってもらった――に大事に入れて内ポケットにしまってある。


 オビ=ワンはちらと収納戸棚の扉を見た。何種類かの茶葉と砂糖が入っていた他は何もなかったし、何も増えていないはずだった。オビ=ワンの手の届かない高い場所にも収納庫があったが、他がからっぱ同然なのだからそこもからっぱの筈だ。

 水を飲んだグラスをすすいで戻し、目の前の戸棚の扉に手を掛けてみる。そっと開けてみると、前に見たとおりの茶葉と砂糖が並んでいた。
これでは水と変わらない。オビ=ワンは肩を落とし振り向いて戻ろうとした。
「どうした?」
目の前にクワイ=ガンが立っていた。

 オビ=ワンは固まった。まったく気配を感じなかった。オビ=ワンの倍くらい大きいのにどうしてクワイ=ガンは音もたてずに移動するのか不思議で、今だ慣れなかった。
弟子がその大きな青い瞳を見開いて声も出せずに突っ立っているのを見て、クワイ=ガンはこの少年がまだマスターへの緊張を解けないとみて目許をなごませ、何も言わず、言葉を促すよう微かに顎を上げた。

「あ、あの、咽喉が渇いたので水を――」
その時、膨らんだはずの胃が大きく鳴いた。
一瞬、オビ=ワンは目をさらに見開いたが、口を結び、深く俯いた。
かっと血が昇るのがわかる。マスターに聞かれ、ただただ恥ずかしくてたまらなかった。
「すみません。失礼しますっ――」
やっとのことで侘びを搾り出し、オビ=ワンはマスターの脇をすり抜け部屋へ戻ろうとした。が、どういうわけか大きな身体が壁のように立ちふさがって前にいけない。

「そういえば腹が減ったな」
顔をあげられないオビ=ワンの耳に、上からのんびりしたクワイ=ガンの声が聞こえてきた。
「パダワン」
「は、はいっ」
「あまり期待できないことはわかるが、ジェダイらしくあきらめないで探索してみようか」
オビ=ワンは顔をあげてマスターを見上げた。クワイ=ガンは手を伸ばし、そのままの位置からでも届く戸棚を開け始めた。
「マスター……」
「見事に何もないな。腹のたしになるようなのは」
「――はい」
「心配するな。手段はいくらもある」
「え?」
「食べ物がありそうなところを叩き起こし、いや連絡してもいいし。シティに出ればいくらでもやってる店がある」
オビ=ワンが受けてきた躾からはおよそ非常識だが、己のマスターなら本当にやりかねないと思った。
「いえ、あの、僕は大丈夫です。朝まで我慢――」
「あったぞっ!」
クワイ=ガンが長い手を伸ばし、高い戸棚の奥から箱を取り出した。

「保存食のポリッジだ」
「おかゆ、ですか?」
「フリーズドライだから湯で溶くだけで食べられる。だいぶ前見本で至急されたのを入れっぱなしだった」
「……いつのことです?」
「日付は――年前だが、未開封だから開けて変わってないなら大丈夫だろう」
やや心配げな瞳で見上げてくる弟子にクワイ=ガンは笑いかけた。
「これまでのところ、私の弟子の胃腸が多少のことにびくともしないのはわかってる。師とおなじにな」
オビ=ワンの瞳が嬉しそうに輝いた。
「湯を沸かしてくれ。味つけはと、お前は砂糖を好きなだけいれればいい」
「イエス、マスターッ!」


 あのときほど美味いお粥を食べたことはない。湯気の立つあつあつが冷めるのを待ちきれず、一口食べて飛び上がってマスターに笑われ、それでもふうふう吹きながらボウルいっぱい食べた。マスターの前だからと行儀良く振舞うことも忘れた。いや、クワイ=ガンはそんなこと気にさせてくれなかった。

 二人でかなりあったお粥を平らげ、オビ=ワンはぽかぽかするお腹を抱え幸せな気持ちでぐっすり眠った。任務では厳しかったクワイ=ガンが見せた心遣いが嬉しく、これまでずっと溶けなかった緊張も和らいだ。

クワイ=ガンも今まで一人で過ごしてきた生活から、弟子をもったマスターの自覚を思い出すきっかけとなった。テンプルで時間のある時は弟子と相談して物を揃えたり、料理の基礎を手ほどきしてくれた。 

 成長するにつれ、オビ=ワンはジェダイの修行の他に、クワイ=ガンの身の回りの世話や住まいのいっさいの雑用や料理なども上達した。オビ=ワンにしてみれば当然と思っていたが、どうも他人はそうでもない、むしろ自分が稀と気づいたのは後からだった。もっとも、自分達師弟は初めから何かと型破りと言われたのでたいして気に留めもしなかったが。



続く

 本筋にはほとんど影響ない昔話(汗) お腹をすかした少年オビを書いてみたかった……
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