Jack-in-the-box※ |
− 皆のお楽しみ − ※ビックリ箱 |
いくつかの任務を終えて無事コルサントに帰還した師弟は、さまざまな後処理やら雑務を終え、漸くテンプルの食堂で遅めの昼食をとっていた。 オビ=ワンはおなじみのオレンジとブラックに飾り付けされた室内を見渡して言う。 「今日はハロウィーンなんですね、マスター」 「ああ、そうだったな」 「任務中は忘れてますからね。いないことも多いし」 「弟子になる前はお前も出たんだろう?」 「ええベアクランの時は毎年楽しみでした」 甘いもの好きのオビ=ワンがにっこりする。 仮装して家々というかテンプルは住まいのドアだが、を回ってお菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!といってごっそり甘いものをゲットするのは、子ども達の楽しみ。日頃栄養も管理され、お菓子も制限されている子供達にとっては大目にみてもらえる嬉しい機会。 参加する年齢はほとんどの子がパダワンになる13くらいまで。早めにマスターを持ったパダワンも13まではマスターの許可をえて参加できた。 毎年世話係として大人のジェダイが数名手伝いに借り出され、グループごとに分かれた子供を引率して回る。 「おまえは何の扮装をしたんだ?」 「え〜と、魔法使い、ねずみや、トランプとか、マスターはいかがでした?」 「子供ときは覚えていないが、卒業間近のパダワンの時マスター・ドゥークーが世話役で手伝いに借り出されたことがある」 「マスター・ドゥークーも扮装されたんですか?」 「ああ」 「やっぱりあれですか?」 クワイ=ガンは肯く。 「ドラキュラだ」 「じゃあ、マスターは?」 「囚人」 「はあ……?」 オビ=ワンの頭に赤いバラを持ったマスター・ドゥークーが浮かんだ。さぞかしエレガントな吸血鬼だったろう。そして若き日のクワイ=ガンは縞模様の服を着た、多分ふてくされた囚人。 「オビ=ワン」 「はっ、はい」 「お前の想像通りだ。ちなみに私の師は完璧主義だから私は囚人帽を被り、手足に鎖をひきずらされた」 思わず似合う!と思ったのがすぐ顔に出たようでクワイ=ガンにクイとブレイドの先をひっぱられた。 「すみません、マスター」 「まあいい。そろそろ戻るか」 「はい」 その時、大声が降ってきた。 「いた!あそこ、オビ=ワーン」 「オビー、ちょっと待ってー」 何事かと入り口をみると、魔女と尼僧が二人とも長い衣装の裾を手でたくし上げ、こちらに突進してくる。 師弟のテーブルの前で急停止した二人はクワイ=ガンに笑顔で挨拶する。 「こんにちは、マスター、ジン」 「やあ、お嬢さん方、今日は手伝いか?」 「はいっ!!」 魔女はシーリー、尼僧はバント。 「実によく似合ってる。そうだろ、オビ=ワン?」 「あ、そうですね」 「ありがとうございますっ!ところで人手が足りないんです。オビ=ワンを引率に貸していただけます?」 「――それはかまわんが」 「やったっ!さ、オビ、いくわよ」 「はっぁあ!?ってマスター」 クワイ=ガンが苦笑して肩をすくめる 「クワイ=ガンが許可したんだから文句いわない、ほら立って!」 否応無しに引きずられていく弟子を師は手を振って見送った。 「放してくれよ。ちゃんと自分で歩くから」 「そうそうジェダイは諦めが肝心」 「シーリー!」 「悪いわね、オビ。でも助かるわ」 「で、何処向かってるの」 「控え室借りてあるの、あなたもそこで着替えて」 「大人用の衣装あるんだろうね」 「大丈夫、好きなの選んで」 「今年の世話役の責任者はうちのマスターだから新しいのもいろいろあるのよ」 「キット!?」 そういや、とオビ=ワンは並んで急ぎながら、改めて二人を見る。 バントは尼僧、黒の長い服に頭にも黒い被り物、十字架を下げた小柄な可愛いシスターだ。 シーリーは魔女、には違いないだろうがとんがり帽子と黒いマントではない。お伽話のお姫様を虐める意地悪な魔女といったところか。目元を黒く強調した凄みのあるメイク、爪も黒。ウェストを搾った身体にぴったりする黒の長い衣装は襟ぐりに黒い鳥の羽が付いている。 「なるほど、でキットは何の扮装」 ぶふっとシーリーが吹き出した。 「シーリー」 「ごめん、バンド。だって――」 「すぐ逢えるけど……スーパーマンなの」 うつむき加減のバントが早口で言う。 「は?!ああ――」 一瞬絶句したオビ=ワンにシーリーの笑い声が被さった。 トレーニングエリアの更衣室の側に控え室があった。 荷物や衣装が散乱していたが、皆着替えをすませたようで誰もいなかった。 「もうあんまり残ってないね、えーと」 「何でもいい。普通のやつ」 「それがね、キットの趣味だから――あ、動物はどう?」 「何あるんだ?」 「くまは特大サイズだからパス。うさぎとねこどっちがいい?」 「ねこがいいかな」 「はい、じゃこれ」 「ありがとう」 「着替えたら隣りにきてね、あと30分で出発だから」 「早い子はもう来てるわ。魔女にゴーストにドラキュラと――あれはNINJAかな」 「わかった」 一抱えもある箱をオビ=ワンに押し付け、二人は忙しそうに出て行った。 やっと解放され、オビ=ワンはほっと息を付く。 とりあえず、とライトセーバーとベルトをはずし、きちんとテーブルに置く。 箱の蓋を開け、取り出そうと頭を近づけて中を見たオビ=ワンの眉がん?とばかりに寄った。 艶やかな長い黒猫のしっぽ。同じく黒の三角耳が付いたヘアバンド。肉球がついたふわふわの手袋が2個。 んんん?とオビ=ワンはもっと顔を近づけて覗き込んだ。 黒猫の本体がない。他には女性用の水着みたいな、ずいぶん生地を節約した黒い服と一本ラインが入った黒のパンティストッキング。 何かの間違い、と箱のラベルを見ると、『ラブリィキティセット(黒) サイズM』とある。 「嘘だろー!?」 あわてて、バントが見ていた棚に飛んでいって他の箱を引きずり出す。 『ラブリィバニーセット サイズM』 一縷の望みをたくして蓋をあけてみれば、柔らかな長い耳、ふわふわの丸い尾。そして同じ黒い小さな衣装。 「オビ=ワ〜ン、着替えすんだー?」 ドアをノックする音がする。 「ちょっと待って〜」 ねこかうさぎか、クロノメーターを見ると残された時間はあとわずか――。 夕食をすませ住まいに戻ってドアを開けたクワイ=ガンの耳に、キッチンから耳慣れない音が聞こえてきた。 ダンッ!ドンッ!硬くて重い物をたたきつけるような音。 「オビ=ワン?」 声を掛けると、音が止んだ。 「おかえりなさい、マスター。失礼しました」 チュニックとレギンスのくつろいだ姿にエプロンを付けたオビ=ワンが出てきた。 「帰ってたのか?遅いと思ったから食事してきた」 「私の受け持ちは一番小さい子だから、全部は回らずに早く済みました」 「皆で食事してくれば良かったのに」 「誘われたんですが疲れてるし、お先に帰ってきました」 任務から帰ったばかりの弟子を手伝いに借り出す許可を与えたのはクワイ=ガンだ。 「……ご苦労だったな。ところで何をしてたんだ?」 「余ったかぼちゃをもらったんで料理してました」 「これから!?お前まだ食べてないのか?」 「出かけるのおっくうだし、かぼちゃ料理はいろいろありますから。煮付け、スープ、コロッケ、パイ、茶巾しぼり――それに、子ども達から戦利品のお菓子を分けてもらいました」 確かに、リビングのテーブルの上にカラフルな包みのキャンディやクッキーの山。 「――では、よく働いた弟子に褒美をやらねばな」 クワイ=ガンはローブから包みを取り出してオビ=ワンに渡した。 「まさか!?」 とたんに疲れが見えていたオビ=ワンの顔がぱっと輝く。 開くと、中には半ホールほどのパンプキンパイ! 「アディがお前に食べさせてくれと」 「ありがとうございますっ!」 「料理は明日にしたらどうだ?」 「はい、お茶をいれてきます」 クワイ=ガンがいらないといったので、パンプキンパイはめでたくオビ=ワンの胃に納まった。 ようやく人心地がついた弟子の姿をほほえましそうに見ていたクワイ=ガンが口を開いた。 「あちこちで子供達を見かけたがお前はいなかったな」 「それほどたくさん行かなかったので」 「お前、何の仮装をしたんだ?」 オビ=ワンの動きがピタリと止まる。 「――多分、マスターのころには無かった扮装です」 「ほお、どんな?」 「――NINJAです」 「ニンジャ、か?」 オビ=ワンは頷く。 「黒装束の傭兵のスペシャリストです」 「昔はなかったな。それでアンダーウェアは自前だったのか?」 エプロンをはずしたチュニックの合わせ目からちらりと黒の布地が覘いている。レギンスもオビ=ワンには珍しい黒色を着ていた。 「……サイズが合わなかったので。以前任務で使ったのがあったと思い急いで取りに戻りました」 「忙しかったな」 少し眉尻を下げ、労わるような師の言葉に、オビ=ワンは微笑んだ。 「とにかく、無事すみましたから」 今日は互いの部屋で休む事にし、クワイ=ガンは先にバスを使って自室に入った。寝る前にふと任務報告書用のデータメモリーを弟子に預けていたことを思い出した。 リビングに出ると、シャワーの水音がする。 「オビ=ワン、すまんな。あのメモリーはどこにあるんだ?」 「確か、データパッドと一緒に専用ケースの中です。今行きます」 「いや、とってこよう。急がなくていいぞ」 弟子の部屋に入り、デスクの上にあった目的の物を見つけた。と側に置かれたものに気付き片眉が上げる。オビ=ワンのライトセーバーはすっぽりと黒い布に包まれ、ほどけない様黒い接着テープで止めてある。その上、柄の一方に黒い楕円形の紙が張り付けてあった。 ――ここに刃があればニンジャのカタナになるが―― クワイ=ガンはクローゼットの前に置かれた大きな箱に目をやった。 表面にレンタルドレスショップのロゴがある。 「マスターッ!」 急いできたらしく、バスローブをひっかけ、解けた金褐色の長い髪から雫をしたたらせたオビ=ワンが後ろに立っていた。 「データメモリーはいただいていく。ところで――」 「はい?」 「お前、時間がないのにそんなに扮装に凝ったのか?」 ん、とクワイ=ガンは黒布に包まれたライトセーバーを持ち上げた。 「すみません、こういう使い方が良くないのはわかっていたんですが、何とか有る物で間に合わせる必要があって」 「小物も一式揃っていなかったのか?」 「……」 オビ=ワンは答えなかったが、意を決したように箱を取り上げ、ベッドに置いて蓋を取った。 猫耳、長い尻尾、猫の手型の手袋、黒の衣装、ストッキング――黒一色の装束の中に一点鮮やかな真紅の長いリボン、何故か中央に小さな金の鈴がついている。 「……!?」 「これしかなかったんです」 「着たのか?」 「着ませんよ!こんなの着て歩いたらテンプル中の笑いものです!!」 「なるほど、いや笑いものというよりは――とにかく、着たくないのは無理ないな」 「とっさに思いついたのが、小さい子が着ていたニンジャ。黒なら手持ちで何とかなると思って大急ぎで用意したんです」 言い切って口をつぐんだ弟子の表情を見ていたクワイ=ガンの頬が序々に緩んだかと思ったら、弾けるように笑い出した。 「マスターッ!!」 オビ=ワンが上目遣いに睨む。 「いや、すまん。お前には大変な思いをさせたな」 クワイ=ガンはまだ肩を震わせて笑っている。 「済んだから、もう、いいです」 「私はお前の黒猫も見たかったが」 「もう」 まだ拗ねた瞳で見上げてくる弟子の金褐色の長い髪をそっと持ち上げて口付ける。 「が、他人に見せるつもりはない。賢明な判断だ、パダワン」 「本当ですか」 「ああ」 髪を放し、その手を伸ばして箱からリボンを持ち上げる。 「これはなんですか?」 「チョーカー、仔猫の首輪代りだ」 答えながらクワイ=ガンはオビ=ワンのうなじに優しく両手をまわし、首の後ろでリボンを結んだ。ついで、黒い耳のついたヘアバンドを弟子の短い金褐色の頭にのせた。 「なかなか似合うぞ」 「マスター……」 「今日は一人で寝るつもりだったが、可愛い仔猫がベッドを温めてくれるなら大歓迎だ」 「ニャン」 爪先立ちしたオビ=ワンがすばやくクワイ=ガンの口を舌先で舐める。 「承知してくれるのか」 「――猫は大きいベッドのほうが好きみたいです」 「わかっているさ」 クワイ=ガンは軽々と仔猫を抱き上げた。 End ――ということで、オビのコスプレは猫耳と首輪だけでした(爆!) 首輪の仕様は猫大好きな T様のお言葉を参考にさせていただきました。 |
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