Chameleon 1

 その日、ジェダイパダワン、オビ=ワン・ケノービは評議会室を訪れていた。用向きは上級パダワン向けの特別集中トレーニングの終了報告の為だった。個別に課題を与えられるので期間は人によって違う。猶予一ヶ月をオビ=ワンは僅か1週間ほどでクリアし、その報告と承認を受けに来たのだった。

「けっこうだ、パダワン・ケノービ」
褐色の肌の謹言な評議員は満足そうに肯いた。
「担当のマスター達もすべて良以上の評価をつけている。明日よりは通常に戻り、マスターの指導の元、訓練に励んでくれ」
「イエス、マスター。ウィンドウ」
オビ=ワンは顔を輝かせ、深々とお辞儀をした。次いで最長老のマスター・ヨーダや他の面々にも礼をする。
「クワイ=ガンは任務中だったかの?」
「はい。マスター・ゲッティとマスター・ブランと共に惑星イズラへ入っています」
「イズラは紛争が絶えん地じゃ、あの3人なら何とか納めるじゃろうが。連絡を待つがよい、オビ=ワン」
ヨーダの言葉にオビ=ワンは黙って肯き、静かに退出しようとしたその時、通信を告げる電子音が響いた。

「今時なにかしら。緊急コールではないわね」
駆け寄ったアディ・ガリアが機器を操作する。
「暗号通信だわ。ベーシックに解読します。発信先は惑星イズラ、発信人はゲッティ。皆様お手元のモニターをご覧になって」
たった今話題にした地からの通信に、皆一斉にモニターを見る。オビ=ワンは近くのモニターを凝視した。
「任務予定通り継続中。これより最終段階の為、定時連絡は無し。終了後に通信」
「これだけか、アディ?」
「テキストはこれだけです」
「ゲッティらしいというか、相変わらず秘密主義だ」
「今回は彼が指揮してクワイ=ガンがサポートにあたってるとか」
「そうだ。珍しいことに、ゲッティがクワイ=ガンを名指しで共同任務を依頼した」
「ゲッティと元弟子のブランも潜入が得意だし、難しい任務にはうってつけね」
「ではクワイ=ガンも――」
ふいにモニターに静止画像が現れた。

「マスター……?」
それは並んで肩を寄せ合う二人の男性。髪と髭を黒く染めたクワイ=ガンが、同じ黒髪の若い男に顔を近づけ、左手で青年の肩を抱き、青年のほうも手もクワイ=ガンの背に回して胴を抱いている。身長差があるせいか、クワイ=ガンはやや下向きに横顔を近づけ、今にも触れんばかりだ。青年のほうも笑顔でクワイ=ガンに応えている。合わせた眼差しと微笑んだ口元から親しげな会話が聞こえてきそうだ。服装は、二人とも現地の装束らしい広い袖と長い丈の、刺繍が施された濃い色のローブ。

「クワイ=ガンと、これは誰だ?」
「ゲッティ?いや、彼はクワイ=ガンとたいして違わん歳のはずだが――」
「ブランじゃないのか?」
「ブランとは顔立ちが違う」
「どうやらクワイ=ガンも変装してるらしいな。おそらく青年は現地の者だろう」
「何か説明はないのか、アディ?」
「ええ、さっきのテキストとこの画像のみです」
「つまりは経過報告と、潜入中らしいと言う事だな」


 評議会室を辞したオビ=ワンはアーカイブに向かった。オビ=ワンは二人の顔を知らなかった。オビ=ワンの特別集中トレーニングが決まった時、師弟にマスター・ゲッティから共同任務の申し出があった。
「私は構わないが弟子は行けないといったら、お前の代わりを探すから私は来て欲しいとのことだ。ゲッティとはしばらく会ってないから若い時以来の共同任務だ」
「テンプルにはあまりおられませんね。話したことはありません」
「10年も前にブランを卒業させてから殆ど人前には出んしな。見た目もこれという特徴はない。――特にテンプルではな」

 結局、マスター・ゲッティは元弟子のマスター・ブランを呼び寄せ、オビ=ワンがトレーニングに入った翌日、3人で任地に発っていった。

 オビ=ワンはマスター・ゲッティとマスター・ブランのデータを呼び出した。
マスター・ブランはコルサント出身で年齢はクワイ=ガンとほぼ同年。ニューマノイドの男性、茶色の髪、灰青の瞳。白い歯を見せ、眉尻を下げ気味に笑む顔立ちは知性的で温厚は感じを受ける。只、どうも己のマスターに近い年齢とは思えない、というか年齢不詳。アーカイブデータは最新のはずだが、いつごろ撮ったものか。

 マスター・ブランもヒューマノイドでコレリア出身。濃茶の髪、濃い灰色の瞳。年齢はオビ=ワンより10程上で、数年前マスターに昇格したが、まだ弟子はいない。鼻筋の通った引き締まった表情は若さと自信がほどよく合わさって、働き盛りのジェダイと思える。何年か前トレーニングルームで見たときは、マスター達と互角にセーバー訓練をしていた。たしかにクワイ=ガンと一緒の青年には似ていなかった。

 惑星イズラはほとんどの住民が2つの異なる宗教を信仰しており、両方の聖地とされる地を巡って長年争いが絶えなかった。マスター・ゲッティは以前にも紛争解決にかかわってきた。今回平和主義者だった一方の王が死亡し、小競り合いが始まっていた。拡大すれば惑星中を巻き込んだ戦争の恐れもある。

 聖地付近は砂漠が多く、女性は強い陽射しを防ぐベールを被り、男性はゆったりした長着をまとう。宗教上の戒律でもあるのか男性は若者も髭を蓄える。先ほどのマスターと青年もその通りの姿だった。

 確かに現地の住民なのだろうが、オビ=ワンには、あの二人に漂う雰囲気がなんとも不思議に思えた。クワイ=ガンもオビ=ワンも、任務に必要と有れば変装も潜入捜査もするし、役柄を装った演技もする。クワイ=ガンがもっともらしい態度ではったりをかましたり、オビ=ワンは純朴を装って情報を集めたりする。

 が、あれはマスターらしくない。オビ=ワンの直感はそう告げていた。
情報によればイズラの習慣で同性同士でも互いの肩を抱き合うのは珍しくない。ハグもキスもする。けれど、青年の一見屈託投げに見える微笑と、横顔のクワイ=ガンの微かな眉の潜め具合。何より不自然なのは青年の肩におかれた手。それが指を伸ばさずに不自然に指関節が曲がっている。クワイ=ガン・ジンのタッチは、どんな美男美女だろうと高貴な女性だろうと、常に、まことに自然に肩や腕に伸ばされるはずなのに。そしてちらりと覘く青年の指は逃さないというようにしっかりクワイ=ガンの胴を掴んでいる。あれはどうも――

 オビ=ワンはジェダイのトレーニングで身につけた、一瞬で脳裏に焼き付けたさっきの画面を思い出し、再び考え、結論を出した。
マスターが押されてる。びびってる。腰が引けている。オビ=ワンが弟子になってからこんな事は初めてだった。常に毅然とし、何時も揺るがないクワイ=ガン・ジンが!それまで決して敵に背を見せなかったのが、オビ=ワンを助ける為、生涯で初めて敵のザナトスに背を向けて駆け出したという伝説のジェダイが!

 しかも相手は到底強敵には見えない、マスターより小柄の甘い面差しの若い男。いったい何があったのだろう?!共同任務のマスター・ゲッティとマスター・ブランがオビ=ワンの知らない人物な為、どうにも推測の仕様が無かった。

 オビ=ワンはデータパッドを閉じた。ずっと自室でアーカイブから得た情報を見ていたのだが、今回はお手上げだった。腕利きのマスター3人で赴いた任務が無事達成できればいいだけの事だ。容易ではないだろうが、今回はマスター・ゲッティが計画したものだからきっとうまくいくだろう。帰ってきたら、クワイ=ガンに聞けばいいだけのことだ。自分達の師弟の絆は、遠く離れている師の危険を感じてはいない。
オビ=ワンは灯りを消して目を閉じた。


 クワイ=ガンから評議会に連絡があったのはそれから数日後のことだった。任務は達成し、3人とも無事、できるだけ早く帰還するという。オビ=ワンへの伝言はなかった。もしかすると、未だ特別訓練中と思っているかもしれない。オビ=ワンは到着の予定にそって計画を立てた。その当日、宇宙船から間もなく到着と連絡があったとカウンシルから知らされたオビ=ワンはポートで待っていた。但し、出迎え無用とあったと聞いて目立たないようフードを被って端に控えていた。と、小型の宇宙船が姿を現し、みるみる近づいてポートの中心にぴたりと止まった。

 オビ=ワンはその場で静かに待っていた。ようやくハッチが開き、長身のクワイ=ガンを先頭に3人が姿を現した。クワイ=ガンに続く2名はフードを被っていて顔が見えない。

『マスター、おかえりなさい』
「オビ=ワン!」
弟子の無言の呼びかけにクワイ=ガンが気付かぬはずが無い。目を細め、ローブを翻して大またで近づいてくる。オビ=ワンも歩き出した。
「今、帰った。オビ=ワン」
「任務の達成と無事の帰還、何よりです、マスター」
「ああ。お前は特別訓練中じゃないのか?」
「済みました」
「そうか」
向かい合って話していたオビ=ワンにクワイ=ガンの手が伸び、柔らかく肩を抱いた。
二人は見詰め合って笑みをかわす。

「マスター、ジン」
背後から声がした。
「ああ、ティーノ、私の弟子のオビ=ワンだ。こちらはマスター・ティーノ・ブラン」 
「任務の達成と無事の帰還、お喜び申し上げます。マスター、ブラン」
オビ=ワンはフードをとり、礼をする。
「ありがとう。よろしく、オビ=ワン」
ティーノは気さくに手を差し出した。
「マスター・ジンからさんざん弟子自慢を聞かされた」
いぶかしげにクワイ=ガンを見上げる弟子にティーノは笑った。
整った冷静そうな顔立ちなのに、ティーノは笑うと人懐こい雰囲気になった。さらにオビ=ワンが驚いたことに、データで見たのとだいぶ印象が違う。日焼けして厳しい表情が一瞬にして変る態は見事なほどだ。
「マスター・ゲッティはクワイ=ガンと一緒に君も来て欲しがっていたが残念だった。おかげで私は久々に共同任務に誘われたが、別行動が多くてね」
「ティーノ」
「そうですね。話しは中でゆっくりすればいい。では後で」

 それまで3人の背後でじっと立ったままのフード姿に近づき、ティーノは何事か囁き、フードの頭が揺れた。

「マスター・ゲッティ、ですよね?」
「ああ」
「挨拶したいと思いますが――それとも、お加減でも良くないのですか?」
「心配ない。あいつはテンプルへ来ると人見知りするんだ」
「人見知り?」
「そのうち、お前にも紹介しよう。ああティーノ、後で」
クワイ=ガンは並んで去っていく二人のジェダイに手を挙げて挨拶し、オビ=ワンは頭を下げた。ティーノは会釈を返したが、フードを深く下ろしたマスター・ゲッティはそのままだった。


 住まいにたどり着き、扉が閉まるやいなや、オビ=ワンは大きな身体にかたく抱きしめられた。
「おかえりな――」
その言葉さえ言い終らないうちに口は塞がれ、貪るように息を奪われる。酸欠になりそうなオビ=ワンが長い髪の先をひっぱったので、やっとクワイ=ガンは恋人を開放した。


 オビ=ワンの心づくしの食事をしながら、くつろいだクワイ=ガンが問われるままに任務の話をはじめた。
「中央政府以外のイズラの古くからの国々はおよそジェダイに耳を傾けなかった」
「宗教が絡むと他は一切認めないから難しいですね」
「ゲッティはよくわかっているから、交渉には取引でのぞんだ」
「どういう設定にしたんですか?」
「亡くなった平和主義の先王に信頼された騎士と後継ぎの息子、一人は敵国の王の側近になった」
「マスターはその騎士だったんですね?」
「ああ、ゲッティはお前に息子をやって欲しがっていた」
「それでマスター・ブランを呼ばれたんですか?」
「そのつもりだったんだが――」
その時、クワイ=ガンの通信幾が鳴った。



続く

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